車椅子ユーザーの結婚・子育てから見る「当たり前」の問い直し
- 共同執筆
- ココカラー編集部
左:伊是名夏子(撮影:佐藤健介) 右:木戸奏江
動く自由もあれば、動かない自由もある。「モビリティ」を能力や可能性を拡張するものという視点で見つめて考える本連載企画「MOBILITY MORE BILITY」の最初の記事は、車椅子ユーザー同士の対談記事です。
筆者である私は、筋力が衰える「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」という難病で電動車椅子を使用しながら生活しています。今回、同じ車椅子ユーザーであり、「骨形成不全症」という骨の折れやすい障害を持つコラムニストとして活躍される二児の母・伊是名夏子さんにお話を伺いました。
「障害者と結婚するパートナーは人格者」なのか?
メディアを通じて障害者を目にする機会は増えてきています。障害者に対する理解が進むことは社会の前進であり、ポジティブな変化である一方、「障害のないパートナーが、パートナーの障害をどう受け入れるか」の過程が描かれることが多く、障害のないパートナーが献身的に障害者を支える描写がほとんどです。
私自身は昨年結婚したばかり。パートナーと対等な関係を築きたいと思っていたのですが、そのようなモデルケースが少ないのが現状でした。
これに対して、伊是名さんは、
そもそもこのような献身的なパートナー像のイメージが定着している理由の一つとして、
「“障害者の介助は基本的に同居をしている家族がすべき”という姿勢が強く、それが公的な制度にも反映されている」
という問題を指摘されています。
例えば、ヘルパー制度は、障害者が一人暮らしの場合は利用できるのに、同居人がいる場合は使えないケースがあるのです。
実際、私も夫と同居するにあたり、「同居人がいる場合は、ヘルパーが入れないし、その前例もないので、できないことは旦那さんにやってもらってください」とヘルパー派遣を断られており、伊是名さんの周りでも、このような事情から「同棲しない」「婚姻届けは出さない」という方法を選ばざるを得ないカップルも多いと言います。
家の中で、健常者のパートナーも使う場所(例えば、トイレやお風呂やリビング)はヘルパーが掃除してはいけないルールになっていることで、家事援助(≠身体介護*)で問題が生じることも少なくありません。
伊是名さんも育児や家事をヘルパーさんにサポートしてもらうにあたり、健常者のパートナーも利用するリビングやトイレの掃除はできないと当初言われたそうです。しかし、汚しながら学んでいく子どもがいる中、生活に不可欠な場所の掃除は子どもの健康を守る上でも必要であり、 区役所と話し合いを重ね、「パートナーがほとんど家にいない」ことを認めてもらうことで「例外」として、ヘルパーを利用できるようになっています。
けれど本来ならば同居人が家にいようがいまいが、家族の一員として、家族にしたいことが障害のせいでできないとき、「ヘルパーと一緒にやる」という障害者の生き方や、夫婦の形は尊重されるべきであり、それができないのは自分のことを自分で決める尊厳が脅かされていると思います。
これは、家族の支援を前提とする介護制度の形にも見られる課題なのかもしれません。
*直接体に触れる介護のこと
「例外」を作り続けること
障害者の自立した暮らしや、その先の結婚、仕事、子育てなどのライフステージを進めていく上で、必要なサポートを得るために、自らアクションを起こすこと、声を上げていくことが必要であると伊是名さんは語ります。
例えば、数年前の制度改正により、障害者のある親が子育てをするとき、ヘルパー利用が可能なのですが、役所の職員さんが把握していない、また事業所が育児を認めないことで、断られてしまうこともしばしば。
「なかなか市区町村の窓口が制度の変化に追いつききらないことはよくあるということを前提に、必要とする当事者自身が制度について調べ、正しい知識を持つことが大切です」
これは今回のコロナ禍にも通じるものがあると感じます。
ちなみに、私たちの生活に欠かせない車椅子についても、制度上は1人1台しか持てないことになっているのをご存知でしたか?
伊是名さんも私も普段、電動の車椅子を使っており、自分の意志で操作できることや、重い荷物を運べることなどメリットもある一方、乗用車を利用する時、電動車椅子は折り畳みができないので、載せることが難しいです。移動のときには折りたためる手動の車椅子の方が便利だったり、電車に乗る場合にも手動の方が簡単だったり、洋服や靴と同じように、その日の予定によって使い分けたいタイミングがあります。また、外に出かけたままの車椅子で家に入るのは衛生的に気になるという声もあります。
「選べる、ということが大事」という伊是名さんの言葉が心に残りました。
選択肢が多ければ障害は障害ではない
伊是名さんは、現在10人のヘルパーさんと共に、家事や育児をされています。(通常はボランティアさんも含め、15人いるのですが、今はコロナの感染予防のために人数を減らしているとのこと。)
私自身も、一人暮らしのときに4人のヘルパーさんにローテーションで来てもらっていたのですが、それぞれに家事のやり方が違い、都度、要望を伝えるのは大変でもあります。
伊是名さんのお話でとても分かりやすかったのが、おにぎりの例え。
「のりたまのふりかけで、おにぎり作ってください」って言われたとき、あなただったらどう握りますか?
― ラップにふりかけをふって、ご飯を乗せて丸く握る。
― お茶碗にご飯をよそって、ふりかけを混ぜ込んで、三角に握る。
― 白い三角おにぎりを作って、ふりかけをまぶす
おにぎり一つでも人によって作り方は様々。自分の食べたいおにぎりがあるなら、細かく伝える必要があります。さらに、どのタイミングで、どんな風に伝えれば、相手が気持ちよく受け止めてくれるか、理解してもらえるかにも苦心します。それを、お願いするヘルパーさんの数だけ、行う必要がある。
それでも伊是名さんが、なるべくたくさんのヘルパーさんにお願いするのは、1人への依存度を低くして頼り先を増やすためです。
1人の人に集中して依存すると求めてしまうものが多いし、うまくいかない時にしんどくなります。また依存先が多ければ何かアクシデントがあったときに、補填ができるのです。
これは、「自立は、依存先を増やすこと」という東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎さんの言葉にも通ずるものがあると思います。
私自身も結婚生活において、夫に依存先が集中しないように意識しており、便利な生活家電は惜しまず取り入れたり、ヘルパーさんを含めた様々なサポートを積極的に利用したりするようにしています。
これは夫のためだけでなく、私たち夫婦のためであり、自分のためでもあります。今後、病気の進行で、今までできたことができなくなった場合にも、誰かの善意を前提にするのではなく、自分でできることの範囲を担保し、自分の生活の主導権を自分で持つ意識を失わないことが、共同生活の中でお互いに必要だと感じています。
人間には「慣れ」がある
私の病気は進行性なので病状によって生活を変えていかなければなりません。やはり長い目で見たときの結婚生活を不安に思うこともあり、同じ病気の女性と結婚して長いパートナーの方に結婚生活について聞いてみたことがあります。
「一気に摂取したら死ぬ毒物であっても、毎日少しずつ摂ったら耐性ができてなかなか死なないという話がある。」
「それと一緒で、病気の進行によって生活スタイルを変えていくことは必要だけど、それは本当に小さい変化の繰り返しで、それに対応していくことは簡単なこと。車椅子ユーザーと一緒に暮らすっていうことだけ聞くと大変だと思われるけど、小さい変化を積み上げてきた結果だから全然大変に思わない。」
「それよりも純粋に車椅子であることは関係なく、一緒にいる時間を楽しくすることを考えた方がいいんじゃない?」
毒物の例えには面食らいましたが、現実味のある説明に納得感と感激を覚えました。
伊是名さんも、同様な体験としてご本人の妊娠出産があったと言います。
「私の身長は100cmしかなく、大きくなっていくお腹の赤ちゃんに、どこまで体が耐えられるか不安でお医者さんに相談したのです。お医者さんは「赤ちゃんは一気に大きくなるわけではなく、少しずつだから、そんなに心配することはない」と一言。その言葉通り、私の体は少しずつの変化に慣れていきました。 」
誰もが持つマイノリティ性
障害のある人を前にしたとき、「私は障害がないから分かり合うのは難しい」と壁を作ってしまうこともあるかもしれません。伊是名さんとの対談の中で「人は誰でもマイノリティの部分を持っている」という言葉が印象的でした。
障害者にも、障害者ではない顔がある。
障害者でも同じ学生かもしれないし、同じ子育てママかもしれない。
いろんな顔を持っていることで、人はたくさん繋がれるポイントを持っている。
コロナ禍により、「外出したいけどできない」「公共交通機関を使うことに躊躇いを感じる」といった状況が全国に広がり、「今後の出社はどうなる?」「修学旅行は?」「受験はどうする?」など、これまでの通例や型が通用しない状況は、障害者の日常の困りごとにも近いかもしれません。
—
伊是名夏子さん
著書「ママは身長100cm(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」。コラムニスト、1982年生。沖縄生まれ、沖縄育ち、神奈川県在住。東京新聞・中日新聞「障害者は四つ葉のクローバー」を連載中。 骨の弱い障害「骨形成不全症」で電動車いすを使用。身長100cm、体重20kgとコンパクト。右耳が聞こえない。7歳と5歳の子育てを、総勢15人のヘルパーやボランティア、地域の人、ママ友に支えながらこなす。 早稲田大学卒業、香川大学大学院修了。アメリカ、デンマークに留学。那覇市小学校英語指導員を経て結婚。 「助け合う」をテーマに16歳からの講演は100回以上。ファッションショーや舞台、映画でも活躍中。 好きなことは、パンダ、体と環境にいいこと、性教育。
執筆 木戸奏江
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