グローカルとは~子どもと外国人の国際交流を地域から生み出す多文化共生社会
- コミュニケーションプランナー
- 駒井涼
みなさんはGlocal(グローカル)とう言葉を知っていますか?
Global(地球規模、世界規模)とLocal(地域の、地方の)をかけ合わせた造語で、「地球規模の視野で考え、地域で行動をする」という意味があり、それが示す規模は大小様々です。
今回は私の地元兵庫県神戸市でGlocalな活動を実践している、TIE※1代表の松尾さんにお話を伺いました。
※1:Tamondai International Exchange(多聞台地域国際交流)
TIE代表 松尾 惠里さん
TIE(多聞台地域国際交流)とは
―TIEってどんなことをしているんですか?
神戸市垂水区多聞台地区で、毎月第4土曜日に、10歳未満の子どもを対象とした外国人先生との英語交流会を開いています。先生たちが中心となって考えた「季節のイベントをテーマにしたレクリエーション」や、先生の自己紹介、英語絵本の読み聞かせ、フォニックス※2という発音のレッスンなどを実践しています。
※2:英語の綴り字と発音との間に規則性を明示し、正しい読み方の学習を容易にさせる方法の一つ。英語圏の子供や外国人に英語の読み方を教える方法として用いられている。
活動の様子がよく分かるTIEのインスタグラムはコチラ
発音のレッスン
「目に見えない壁」を持たずに育ってほしい
―TIEの活動をはじめようと思われたきっかけを教えてください。
海外留学をして以来、英語や外国の異文化が大好きでした。そんな中、数年前から近所で外国人をよく見かけるようになり、そのたびに「あの人たちと地域の子どもたちが交流できる何かをしたいなぁ。」と漠然と考えていました。
―なぜ、ご自身や周囲の大人ではなく、子どもたちだったのでしょうか?
子どもの時から異文化に触れていれば、大人になったときに「目に見えない壁」を持たずに育つのでは、と思っていたからです。
「英語が話せないから、外国人とは交流できない。」といった「目に見えない壁」を持つと、文化を超えたお互いの理解を深めることはできません。それらが原因で過去の戦争のような悲惨な事態が起きたのであれば、二度とそれらを起こさない平和な世の中にしていくためにも、「目に見えない壁」をなくすことが必要になります。
「目に見えない壁」がなければ、どんな国の人たちとも通じ合え、その国のことをよく理解し、文化を超えた思いやりが持てると思います。TIEを経験した1人でも多くの子どもに、そうやって異文化という違いを理解していてほしい。そういう思いがとても強かったんです。
英語絵本の読み聞かせ
あのおじいさんがいなければ今もくすぶっていた
―最初、外国人の方にはどのように声をかけたんですか?
実は声をかけたのは私ではなく、地域のおじいさんでした(笑)
多聞台では、高齢化した地域を活性化させる取り組みとしてカフェが作られています。そこにいつもいる外国人グループのことが、カフェで見かけるたびに気になっていました。
彼らはJETプログラム※3で神戸市の小中学校の英語教諭をしていて、多聞台にはその先生が多く住んでいたんです。
※3:The Japan Exchange and Teaching Programmeの略。外国青年を招致して地方自治体等で任用し、外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る事業のこと。
ある日カフェで、地域のおじいさんが「あんた英語でなんかやりたいんやろ?僕があの人たちに言っといたから。英語喋れるんやろ?あとはよろしく。」と声をかけてきたんです。「えーっ!?」ってなって(笑)
私が「外国人と何かをやりたい」と地域のお母さんたちに言い続けながら2年間もくすぶっていたのを聞きつけて、おじいさんがその外国人たちに伝えてくれたみたいです。
―まさかの展開ですね(笑)
それを期に、自身の留学のことや、それまで考えていたことを話し、地域の子どもたちのための活動を手伝ってほしいことも伝えました。その時のことは今でも忘れられません。
今考えるとTIEの先導役はそのおじいさんだったわけです。あの方がいなければ今もくすぶっていたかもしれません。
毎回季節に合わせたテーマで交流会を実施
今でも変わらない思い
―活動をはじめた当初のことは覚えていますか?
あまりに必死だったのか、第1回目のことはあまり覚えていません(笑)
しかし最初の1~2年はもがき苦しみました。
外国人たちとの関係をゼロから築き、プログラムを考え、参加者を集める。そもそもその先生たちも会に来てくれるのか、と。いろんな不安と緊張感を抱えながら、試行錯誤していました。
いろいろ形態を変えながらやっていますが、第1回目のとき「私がTIEを始めたのは英語を教えるためではなく、英語を通した異文化交流を行うためです。これらは子どもたちが大人になったときにとても大切なものになると信じています。」と参加してくださった保護者の方々に話していて、その思いは今も変わっていません。それはTIEの理念でもあります。
外国人コミュニティが生まれた
―活動を続けるなかで、何か変化はありましたか?
ある日外国人メンバーの1人から、TIEのおかげで多聞台は外国人コミュニティがしっかりできていると聞きました。
私は当初、TIEは「子どもたちが外国人と異文化交流をする」ということばかり考えていましたが、私の意図しないところで外国人たちのためにもなっていたようです。
―すごい!思ってもみなかったコミュニティが地域に生まれていたんですね。
実は彼らはもっとアクセスの良い場所に引っ越しても良いんです。それにも関わらず多聞台で暮らしている。TIE発足以前より多聞台を離れる先生が減ったとも聞きました。
外国人コミュニティが生まれたことで、孤立する外国人を1人でも減らせているのかもしれません。
神戸市北区にも同じように、外国人先生が多く住んでいますが、同じようなコミュニティはないそうで、彼らにもTIEへの参加を呼びかけています。
毎回多くの子どもたちが参加
お母さんの「目に見えない壁」
―参加している子どもたちはみんな楽しそうですね。
外国人に対する子どもたちの反応は様々ですが、保護者の方々には「この子、英語の習い事は嫌がるのにTIEは大好きなんです。」とよく言われます。
子どもたちがそう感じるのは、英語を教えていないからだと思います。英語で遊んでいる感覚です。そしてメンバーが本当に子供が好きな人たちばかりで愛に溢れていて、子どもたちにも伝わっているのだと思います。
―たしかに子どもたちだけでなく、大人も心から楽しんでいるように見えます!
TIEの活動を続ける中で、中国出身のある保護者の方からメールをいただいたことがあります。
「夏休みに小学生になる息子達と初めて中国へ帰省すると決めた時、不安でした。息子達が、どのように異文化を受け入れるか見当もつきませんでしたが、実際には二人とも親戚家族に人見知りすることなく打ち解けていた姿を見て、TIEで沢山の外国人の先生達と触れ合って来たことで、文化の違いを自然と受け入れる力を得ていたんだと、感動しました。」
まさに子どもたちが「目に見えない壁」を超えるというTIEの活動理念が体現されたような嬉しい出来事でした。
そしてこのことは、お母さん自身も不安という「目に見えない壁」を超えたという意味でも、素敵なことだと思っています。
TIEの活動は子どもたちだけでなく保護者のみなさんにも影響があったようです。
TIEのメンバーのみなさん
求ム、第二の私!
―TIEがこれから目指していきたいことを教えてください。
第二の私に出てきてほしいです(笑)
外国人の先生はこれからも集まってくれると思いますが、TIEの理念を理解し、運営を共にしてくれる方が現れてくれるといいなと切実に思っています…!日本人でなくてもいいんです。
また、TIEの参加者(子どもたち、外国人先生、保護者、ボランティアスタッフ)が、将来世界中のどこにいてもこの活動を思い出し、いろんなところで「目に見えない壁」を超えて異文化交流を実践してくれることを願っています。
インタビューを終えて
筆者は松尾さんと元々知り合いで、TIEの活動そのものは知っていました。
しかし詳しく聞いていくと、Globalな視点から芽生えた子どもたちへの願いや、それを叶えるべく小さくてもLocalで動き出しているその姿勢、そしてそこから思いがけず生まれた外国人コミュニティなど、興味深いお話がたくさん聞けました。
きっかけとなったおじいさんのお話から、多聞台という地域には共生の考え方がそもそもあったんだなと感じ、それが今、TIEや松尾さんを中心によりいっそう強まっているんだと思います。
未来を担う子どもたちに、Glocalな可能性を感じられたひと時でした。
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