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2 Oct. 2018

アートを通じて多様な才能を社会へ!―仙台発祥のインクルーシブデザインモデル開発―

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

アートを通じて多様な才能を社会に届けるチャレンジ

8月下旬、仙台にて「SHIRO Lab. 48時間デザインマラソン~東北楽天ゴールデンイーグルス編」が開催された。

本プロジェクトでは、障害をもつアーティストと仙台市在住のデザイナーがチームを組み、東北楽天ゴールデンイーグルス グッズショップ各店で販売される商品開発を実施。プロジェクトは今年で3回目、楽天野球団の参画は2回目となった。

発起人であるNPO法人エイブル・アート・ジャパン代表の柴崎さんは、かねてより、障害をもつアーティストがユニークな視点をもって作品づくりをする一方で、その能力をアウトプットする場が限られていることに課題を感じていた。そこで、彼らの作品と才能を社会に届けるため、3年前からプロジェクトを開始した。

 

楽天野球団の強力なサポートを礎に

楽天野球団の地域連携部の松野さんに昨年から参画していることについて話を聞くと、商品を購入したお客様からの評判が高く、活動自体についても予想以上にポジティブなご意見をいただいているからと言う。昨年商品化したグッズは、すぐに売り切れた商品もあったとのことだ。

 これまでも「東北の復興」をCSRの中心に据え、地域の人々とともに様々な活動を展開していた楽天野球団。「部署のあり方は年々変化し当初”地域密着部”という名称だった組織も今は”地域連携部”と変わった。地域に寄り添うだけではなく、自分たちから仕掛けていくフェーズになっている」と松野さんは語る。

楽天野球団ならではのプロジェクトサポートのあり方として、アーティストとデザイナーの初顔合わせの際に楽天イーグルスの試合観戦という機会を提供している。スポーツ観戦を通じて互いの緊張を解き、体験と感動をデザイン反映の意図として、その後数日間に渡るセッションに向けコミュニケーションの土台を形成させる狙いだ。また、セッション期間中もスタジアム内のスマイルグリコパークで遊ぶ時間を設けてアーティストのやる気を引き出すなど、企業の資産を効果的に提供してくれている。

 

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バックグラウンドの事情を超えたコミュニケーションが生まれていく現場

今年は、アイデア出し、企画の練り上げ、制作、プレゼンテーションという工程を6チームに分かれて実施。筆者が取材に入った日は開始からわずか2日目だというのに、既にアーティストたちは大量のデッサンや描画を作成。その勢いに、デザイナーたちも驚きを隠せない様子だった。

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各チームを総括するファシリテーターとしてグラフィックデザイナーのライラ・カセムさん(東京大学先端科学技術研究センター特任助教)が担当。期間中も各チームをまわってアドバイスを求められたり、議論を交わしたりしていた。

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いよいよプレゼンテーションの時。プレゼンテーションはその場での評価のみならず、楽天野球団の商品開発部門にも動画として展開し審査がなされる。評価・審査ポイントは、商品のコンセプト、コンセプトに至る思考、商品の内容など多岐に渡り、これらを限られた時間内でチーム一丸となって伝えきらなければならなかった。すべてが商品化されるとは限らず、熱がこもったプレゼンが実施され、終わりには、ライラさんから「デザイン&コンセプト賞」や「チームワーク賞」など4つの賞が人・チームに授与された。

 取材を通して、非常に印象的だったのは、参加者の距離感の変化だ。一緒に過ごす時間が長くなるにつれ、チーム内に留まらない交流が生まれ、アーティストの描くアイデアに対して会場全体をインクルージョンしながら企画化を進めるデザイナーの姿も目にした。アートという手法を使い、”商品開発”という大きなゴールを掲げることで、そこには参加者が持つ様々なバックグラウンドの事情を超えたコミュニケーションが生まれていた。

地方都市におけるインクルーシブデザインモデルのひとつとして

そして、本プロジェクトは、イベント後も参加アーティストがアート活動を通した社会参加を継続していける仕組みを生み出している。それには、楽天野球団の支えが不可欠だ。例えば、楽天野球団の参画によって大きく下記のような効果が出ている。

1)アーティストがプロ意識や自信を持ち、仕事への意欲が高まる

2)アーティストが、才能やアイデアに対する妥当な対価を受け取ることができる

3)楽天野球団という注目度の高い組織と組むことでの社会への派生、影響力がある

 タッグを組むメリットは球団側にもある。新規ファン層の獲得や、商品開発の視点が拡張していくことに加えて、最も大きいのは企業が地域全体をインクルージョンしながら行政・公益団体との協業モデルを開発・実装できていることである。なお、楽天野球団へのオファーに際しては、仙台市が調整役として大きな役割を果たしている。

これについて前出の柴崎さんは、「東京であれば、巨大な市場や企業の力、オリンピックパラリンピックといった大義名分があり実施できるのかもしれないが、地方都市では地域コミュニティを巻き込むことが重要」と言う。まさにこれは、仙台という地方都市で実現したインクルーシブデザインの一つの形ということだ。

プロジェクトの実施は仙台に留まらず、今後は、愛媛と岡山でも展開される。仙台で培ったノウハウが地方都市のコミュニティに派生し、その地域ならではの社会課題と解決手法を掛け合わせ、活動が広がりはじめている。今後の活動にも注目して、障害者も巻き込んだ社会全体の多様な働き方を見つめていきたい。

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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