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2018

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15 Aug. 2018

高水準の給料支給を目指す社会福祉法人担当者が語る、福祉的就労から考えるダイバーシティ&インクルージョン

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東京都昭島市。中央線・南武線の立川駅で青梅線に乗り換えて4駅、中神駅という目の前に住宅街が広がる駅から車で5分ちょっとのところに、「社会福祉法人きょうされん リサイクル洗びんセンター」(以下、センターと言います。)があります。
ここは、1994年に小規模作業所の全国連絡会「きょうされん」と「東都生活協同組合」(以下、東都生協と言います。)の提携事業として、生協で取り扱っているビンの洗浄作業を、障害のある方の仕事として行うことを目的に開設されました。設立当時から障害の種別に関わらず一緒に作業を行うことを理念とし、さらに障害がある方が地域で不自由なく生活していけるように高い給料を実現することを目標にされています。
この理念と目標のため、現在では、洗びん事業に留まらず、リユースカップ洗浄事業、行政コンテナ洗浄事業、チラシセットの作成等の軽作業、健康食品製造、おとうふ製造販売など多様な事業を行われています。

まさに、理念も目標もダイバーシティ&インクルージョンな場所です。

私は、一般企業でハラスメント事案、社員同士のトラブル等の対応をしています。今後社員のダイバーシティ&インクルージョンが進む上で、どうすればみんなが気持ちよく、トラブル等を極力少なくして企業活動を行っていけるのだろうと考えているときに、このリサイクル洗びんセンターの存在を知りました。
そこで、リサイクル洗びんセンターのセンター長 川村民枝さん、第1事業部長 小笠原良さん、第1事業部課長 須藤ゆりさんから、リサイクル洗びんセンターについてお話を伺い、実際の作業現場を見学させていただくことで、福祉的就労という観点からダイバーシティ&インクルージョンについて考えていきたいと思います。

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左から小笠原さん、川村さん、須藤さん

■インタビュー
社会福祉法人 きょうされん の現状

Q. 現在、こちらで作業をされている方(以下、メンバーと言います。)は、どういった障害がある方が、どのくらいいらっしゃるのでしょうか?
A. 変動はありますが、85、6名程度の方がメンバーとして在籍されています。5月1日現在で、メンバーはトータル85名。そのうち知的障害の方が47名、精神障害の方が31名、その他(身体障害、高次脳機能障害、発達障害、難病等)が7名です。ただ、みなさんが毎日センターにいらっしゃるわけではなく、平均すると月の出勤率が7~8割ぐらいです。

Q. 洗びん事業からスタートされ、現在は洗びん事業以外にも様々な事業をなさっていますが、新たにはじめる事業を決める際、障害のある方が行いやすい事業内容など、判断の基準にしていることはありますか?
A. 当センターは、もともと東都生協が環境問題への問題意識から、生協で使ったビンのリユースのために洗びん業務行う場所を作るという目的からスタートしています。つまり、障害に合わせて何か事業を選んだのではなく、行う必要のある事業ありきの事業所です。当初は、重労働で大型機械も使う洗びん作業自体、障害のある方にできるのか?という声もあったのですが、実際やってみるとできているという状況です。そのため、途中から始めた事業に関しても、何らかの障害に合わせて事業を選ぶということはなかったですね。
当センターの理念にもあるのですが、「高い給料を目指す」というのが大きく、とにかく収益を上げて、高い給料を目指せるようにするために、事業を増やしている状況です。
発足から20年が経ちますが、正直、設立当初に行っていた洗びん事業と健康食品の下請け事業が、途中で業務量的にも収益的にも厳しい局面に陥り、その中でびん以外の洗浄事業や、下請けではなく自分たちで作って販売できるおとうふの製造・販売事業を始めたという経緯です。

Q. たしかに、おとうふの製造・販売というのは、他の事業とは一線を画しているように思いますが、この事業を行って、良かった点はどのような点でしょうか。
A. きょうされんの他の事業所は、「障害のある子どもたちが大人になったときの就職受け入れ先を作ろう」といった観点で、障害のあるお子さんを持つ親御さんや関係者の方々が地域に密着して設立・運営する」ことが比較的多いのに対し、当センターは「必要のある事業がまずあり、その事業のための作業所を作る」という観点でこの場所(昭島市)に落下傘的に設立されました。また、周辺が工場等に囲まれていることもあり、地域とのつながりがほとんどありませんでした。そんな中、おとうふの事業は「販売」があるため、その中で地域の方とのつながりができたのは良かったと思います。また、販売という人とコミュニケーションを取る業務が増えたことで成長した人もいますし、そこで能力を発揮してくれている人もいます。

Q. 他の事業所との違いというお話が出ましたが、設立経緯以外にはどのような点が違うと思われますか。
A. 設立経緯とも関わってくる部分ではありますが、「仕事をしにきている」という思いは他の作業所よりも強いのかなと思います。メンバーの方が家族から自立して「仕事」をできるという面で、いいところかなと。ご家族の方も、センターで作業をしている姿を見て「こんなにちゃんとやっているんだ」とびっくりされる方も多いです。ただ、その一方で、ついていけずに辞める方もいらっしゃいます。

Q. メンバーとして受け入れるにあたっての基準や受け入れてからの研修などをどのようにされているか教えてください。
A. 基本的には、障害福祉サービスの受給者証をお持ちの方で、ここで働きたいと言われる方については、障害の種類等は関係なく受け入れています。障害の種類と言っても本当に1人1人それぞれなので、そこで区切ることはないです。ここで働きたいと言われる方には、作業内容等をご説明したうえで、ご見学いただき、その後それぞれの作業場所でトータル2週間程実習をしていただきます。その中で、作業が可能なのかを職員とともに、お互いに確認していき、可能であれば働いて頂くかたちです。

Q. 基本的には1日6時間、週5日勤務とのことですが、人によってはこれにはまらない方もいらっしゃるのでしょうか。
A. メンバーがいないと事業が行えず、その日やるべきことができなくなるので、できる限り勤務してもらうように調整をしています。ただ、無理をして継続的な勤務ができなくなるのは本末転倒なので、それぞれのメンバーに応じて話をして、勤務開始時間をずらしたり、中抜けをして少し休んでから仕事に戻る人もいます。

Q. 賞与を除くと、毎月の平均給料が4万円程度と伺いました。作業所での作業には、最低賃金料等の考え方は適用されないのでしょうか。
A. 当センターを含め、障害者の方の作業所に関しては、労働契約を結んでおらず、いわゆる福祉的就労と呼ばれているものとなります。福祉的就労に関しては、作業所などで支援を受けながら働くため、一般の就労と違い雇用契約もありませんし、最低賃金も適用されないのが現状です。逆に、福祉サービスの利用料を払わないといけないのです。

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働きがいと高い給料

Q. 給料が労働に対する対価と捉えられていないのですね、その中で高水準の支給を目指されるのはなぜでしょうか。
A. 当センターの設立の目的に、障害のある方の働く場所の保障という点が含まれていたこともあり、メンバーの方々が十分な給料を求めている、というのが大きいと思います。センターの理念として掲げているというのもあります。働いてそれに見合った給料をもらうというのを大事にしていきたいですね。作業しているところを見てもらうと分かるのですが、夏は暑くて、冬は寒いですし、結構大変な作業です。そのため、できるだけ高い給料を払いたいという思いはあります。

Q. 給料を決めるにあたって評価制度を導入されているとうかがいました。この評価制度の運用等を教えてください。
A. 今見直しすべく議論、検討を進めているのですが、現在は以下の評価項目で評価を行っています。

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このよう評価表をもとに、年に1回職員で評価を行い、給料を決めています。

Q. 一般企業でも評価について納得がいかないという状況が起きますが、こちらでもそういった声が上がるような場面はありますか?
A. なんでこの評価なんですか?という声が上がることはあります。ただ、日ごろから職員が状況を把握していますし、メンバーとコミュニケーションを取りながら支援計画(福祉的就労にあたって、法律上で作成が義務付けられているもの)も作成していますので、「これとこれはできているけど、これとこれはできていなかった」というのをきちんと説明すれば納得はしてくれます。センター長も面談を行っているので、そこでの説明も行いますね。とはいえ、今の評価表は作成されてから時間が経過しており、評価の上限に来ている人がいたり、自己評価が入っていなかったりするので、今、見直すべく議論を進めているところです。

Q. 理念の中に「働きがい」という点もありますが、この点はどのように捉えられていますか?
A. 行っている作業をきちんと評価して、できるだけ高い給料を払うことで働きがいに繋がる部分が多いと思っています。また、いろんなことはできないけれど、この部分はこの人がいないと業務が回らない!というような専門職のような方もいるので、そのあたりもきちんと評価していくことが大事かなと思っています。それから、利用者の方々で構成する自治会(にじの会)の活動も行っており、その中で自分たちのことは自分たちで決めるということを行ってもらっており、それも働きがいに繋がる部分かと思います。

Q. 今後、注力される予定の事業はありますか?
A. リユースカップ洗浄事業を拡大していければなと思っています。一部、大手企業のオフィスでリユース可能なプラスチックコップが使われており、そのプラスチックコップやフェス等のイベントで大量に使われたプラスチックコップなどの洗浄業務を行っています。もっと取り扱える数が増えれば、収益源にもなると思っており、拡大していきたいなと思っています。

トラブルの解決方法とは
Q. メンバー同士でのトラブルは多いのでしょうか。また、それに対してどのように対応されているのでしょうか。
A. トラブルはあります。障害の有る無しに関わらず、どうしても人間同士、合う、合わないが出てくる場面はあります。ただ、仕事ですので、「嫌だから」では済まないので、トラブルが起きたときにはお互いの話を聞いて、時にはすこし冷却期間をおいて、話をして、仕事に戻れるようにします。それでも、どうしても上手くいかない場合は、配置を変える等の対応をしています。それは、生産性というか、行わなければいけない事業に支障が出るからです。こういった点は、一般企業でも同じなのかなと思っています。

Q. トラブルが起きないように事前に対応されていることはありますか?
A. レクリエーションや旅行等のイベントも行っているのですが、これが、メンバー同士がお互いを理解する機会にもなっていると思います。最初はぶつかり合っていた人同士が、「あの人は大きな音が苦手だから」など、それぞれの人間性を理解して、その上で関係性を作り、また程よい距離感が作れている印象です。
それから休憩時間になると、事務所にメンバーがいろんな話をしにきます。それを聞くというのも一つ大事なことかなと思っています。
また、障害の関係もあって「あの人がきちんと作業をしない」といってクレームが出ることもあるのですが、そういう部分については、給料評価があるので、評価に反映されているという説明をしています。
さらに、メンバーの方とは別に通常のパート従業員の方もいらっしゃるのですが、その方々もそれぞれのメンバーをみて対応をしてくれているなと思います。パート従業員の方々は、専門的な福祉や障害に関する知識があるわけではなく、この作業所ではじめて障害のある方と関わるという方もいらっしゃいます。それでも、一人ひとりのメンバーをよく見て対応していただいています。この前は、「この人は、この部分が目に入っていないから、ここにホースがあったら危ない」と移動させてくれていました。

Q. お互いを理解して上手く付き合うというのは、一般企業でも難しく、それができずにハラスメント等の問題が起こることも多いのですが、それがこちらの作業所でできているのは、なぜだと思われますか?
A. うちのセンターでも問題が無いわけではありません。小さな問題や小さなぶつかり合いを放置してしまうと、すぐに大きな問題になってしまうことが多いです。人間関係や作業でうまくいかないと悩んだり苦しんだり、辞めたいという方も出てきます。私たちは障害のある方が自信をもって働くこと、安心して生活できることをめざしているので、ここでつらい思いをしてしまうと本末転倒になってしまいます。それぞれ苦手なことや弱いところがあるのはみんな同じなので、助け合い、力を合わせて日々の業務に取り組もうということは、メンバーの自治会などでもいつも確認するようにしています。また、職員が一人ひとりの支援をするために、成育歴や家族関係、得意なことや苦手なことを把握し共有しているので、それぞれに合った対応ができるように心がけています。

■業務の現場を見学して


健康食品関連作業・おとうふづくり現場
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健康食品関連のパッケージにラベルを張る作業中。黙々と作業されています。

006おとうふ関連商品を作られている厨房。
残念ながら見学させていただいた日は、作業がお休みの日でした。
おとうふプリンがおいしいそうです。

洗びん作業現場
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様々な場所から洗って再度使うためのビンが、ケースに入って運搬されるため、
ここで、びんとケースに分けられます。

008大型機械にびんが投入されます。水しぶきはあるものの、なかなかの暑さです。

009機械に通した後、人の手で落ちていない汚れやラベルをはがします。
その後、ここでひび割れや汚れの残りが無いか光にあてながらチェックします。

セットなんだかジブリの世界に迷い込んだような既視感があります。
フォークリフトも行き来しており、すごく活気があります。とはいえ、この日は猛暑日。汗が止まりませんでした。

リユースカップ洗浄作業場
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今は、作業場の隅で作業をしています。
空調設備もないのですごく暑いですが、たくさんのカップの洗浄がされていました。

■まとめ
今回、一番印象的だったのは、「リサイクル洗びんセンター」がどの場面においても人を、「集団」でとらえるのではなく、一人ひとりに合った働き方や一人ひとりの評価など、「個人」でとらえられている点でした。そして、お話を伺っていると、それが「リサイクル洗びんセンター」ではごく当たり前のこととして受け入れられていました。これはおそらく、福祉的な要素を含んでいる事業所であることと、特定の障害に特化するのではなく様々な方が一緒に働かれているため、自然と取り入れられている観点だと思います。
経済活動を追及する一般企業では、ある程度画一的なルールが決められ、その中で組織が作られ、働き方、仕事の割り振り、評価などがなされているのが現状だと思います。

また、現場では、みなさん同じ格好をされており、誰がメンバーで、誰がパートの方、誰が職員なのかがわかりませんでした。にもかかわらず、「福祉的就労」になると給料が一気に下がります。もちろん、全面的にサポートを受けながら就労を行いたいという方もいらっしゃると思いますし、この制度のいい面もたくさんあると思います。ただ、一般企業においても、お互いにサポートしながら業務を行っており、上司は部下がどうすれば業務をしっかり行えるか考え支援しているはずです。そう考えると、今後「一般就労」において働き方改革が進み、超短時間勤務の「ショートタイムワーク」や二重就労など一人ひとりに合った働き方ができるようになれば、その中で障害のある方々も一緒に仕事ができるようになるのではないかなと感じました。
まさに、ダイバーシティ&インクルージョンです。

それに向けて、一般企業でも「リサイクル洗びんセンター」に学び、制度の改革を含めてさまざまな検討をしていくと同時に、私達一人ひとりの考え方もシフトチェンジしていくことが必要になってくると思います。現状の人を「集団」でとらえた画一的な対応ではなく、一人ひとりを「個人」としてとらえなおしていくことで、ダイバーシティ&インクルージョンによる効果を最大限に享受できるのではないでしょうか。

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor
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