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Oct.

2018

interview
9 Aug. 2018

全ての人の「働きたい!」を応援する『超短時間』という働き方

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多様な個性を活かす「IDEAモデル」とは?

本格始動した『働き方改革』が様々な議論を呼んでいます。
バブル景気崩壊やリーマンショックによる不況を受け、年功序列や終身雇用といった従来の働き方が見直され、成果主義や実力主義を重視する企業が増加してきました。また待機児童の増加や介護人材不足により仕事中心の生活からプライベート時間を軸にした働き方のニーズが増えつつあります。これからさらに働き方の多様化が加速していく中で、多様な人々が個々の特性を活かしながら参加できる働き方モデル「IDEA(Inclusive and Diverse Employment with Accommodation)モデル」を提言・推進している東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野の近藤武夫准教授にお話しを伺いました。

Q. ライフスタイルや価値観の多様化が進み、定年退職後から人生が何十年と続く時代に、「働く」ことに関して今の日本型の雇用の障壁となっているのは何でしょうか?

A. 大きく二つあります。一つ目は長時間労働です。週40時間(障害者は30時間または20時間)以上、年間を通じて働くことが雇用の前提となっていることです。二つ目は、職務定義があいまいだということで、終身雇用制であるがゆえ、どの部署に異動させても働けるような人材を求めています。つまり、ロイヤリティ、柔軟性、コミュニケーション、タフネスといった、いわゆる「なんでもできる人」が求められます。

Q. 「長時間労働ができる人・会社に忠実でなんでもできる人」だけが今の雇用システムにはまるということですね。より多くの選択肢があると、働く側も企業側も大きなメリットがあるのではと思います。その一つの選択肢としてあるのが近藤先生が提唱しているIDEAモデルなのですね。

A. IDEAモデルは、新たな雇用の考え方で、業務集中が起きている特定部署で必要な業務について、その業務内容と必要な時間をまず詳しく定義します。次にその業務が遂行でき、その時間数であれば働くことができる労働者に割り当てることにより、従来の雇用形態では就労困難であった労働者への雇用創出を目的としています。

具体的には、社員の職務を分析し「その人の本来の業務」と「本来業務とは異なる周辺的な業務」に仕分けします。例えば営業部門で、商材の説明をして契約を取ることが、ある社員の本来業務であったとします。そして週に数時間程度しかない契約書を電子化して管理する仕事が、周辺業務として位置づけられたとします。電子化して管理する仕事の内容や手続きを明確に定義できれば、障害があっても、その定義された職務だけはしっかりとこなせて、短い時間であれば働くことができる人であれば対応できることになります。このような週当たり数時間程度の仕事のある場所を多数生み出して、これまでの雇用の仕組みでは働く機会が得られなかった人とマッチングする仕組みを作ることで、新たな雇用につなげます。結果的に業務を効率化し生産性を高める利点も大きいのです。

日本企業で実証が始まる「ショートタイムワーク制度」

Q. IDEAモデルの実証状況について教えてください。

A. ソフトバンク(株)では、2015年から先端研と連携し、障害によって長時間勤務が困難な人が週20時間未満で就業できるようにする「ショートタイムワーク制度」を立ち上げ、2016年から本格導入しています。現在、この制度を利用して約15の部署で19人の障害のある人が様々な仕事に携わっています(2018年8月時点)。この「ショートタイムワーク制度」を導入している法人はソフトバンク(株)以外に、4つあります。また、政令指定都市の川崎市、神戸市とも共同研究契約を結び、地域モデルを構築するノウハウなどを提供しており、昨年度3月末時点までで,延べ33企業62部署においてIDEAモデルでの雇用を実施しています。

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出典:ソフトバンク株式会社(https://www.softbank.jp/corp/csr/special/stwa/)

Q.IDEAモデルで大切にしていることはありますか?

A.通常の職場の中で超短時間労働者が一緒に働くことです。障害害による理由で、何かできないことがある人がいたとして、果たしてそれは「仕事をする上では不適切な人だ」と考える必要があるでしょうか?多様な人がお互い納得して働くことができる場所やしくみを作ることの大切さを、多くの人たちと共有できたらと考えています。重いものを持つことが難しいとか、あいさつができない、身だしなみが多少悪いとか、なんでもいいですが、「職業人とはこうあるべき」というステレオタイプ的な考え方から出発するのではなく、何かできないことがあるその背景には、障害など何か特別な事情があるのかもしれないと想像を働かせることに人々が慣れていくことが必要です。障害のある同僚に助けられることで、「何らかの困難があるけれど、その人は特定の仕事をしっかり担ってくれているのだから、その障害はこの職務を遂行する上では問題ではない」という考え方が腑に落ちるような経験もしてほしいと思います。職場に多様性があることとコンフリクトが起こることはいつも隣り合わせだけれど、それをどう解決していくかを一緒に考えて、背景にあるリアリティを共有しようという態度がある環境には、大きな価値があります。コンフリクトを超えることができれば、障害があったり、病気にかかったり、何か不利益が集中してしまうような状況にやがて自分自身がなったとしても、誰もが安易に絶望しなくてすむような、そんな社会がやってくるのではないかと思っています。

超短時間雇用の拡大に向けた地域の可能性

Q.日本企業が実践する上でどのような取り組みが期待されますか?

A.将来的に目指すのは、障害の有無や年齢の枠を超え、一人の超短時間労働者が、個々のスキルや特性に合わせた形で複数の会社に雇用されるといった、社会参加ができる地域モデルの構築です。ワークシェアではなく、安心してワーカーがシェアできる地域のしくみをつくっていきたいですね。そうした意味では、まさしく汐留のような地域が企業間協力の上でこのモデルを導入し、専門性の有無、障害の有無に関わらずいろいろな人が複数の企業間を行き来することができたら、間違いなくイノベーションが生まれるに違いないと思います。是非汐留の企業の皆さんには頑張って頂きたいです。

今回の取材は、企業の枠を越えたアクションを生んでいく「越境ワーカー」の取り組みの一環としてお伺いしました。近藤先生の話を伺い、私たちの「越境ワーカー」としての取組事例が、多くの国内企業にとって新しい働き方を模索・実践していくときに重要なひとつの事例になるのではないかと考えさせられました。

人生100年時代を迎えるにあたり、新しいこれからの働き方の具体的かつ実践的な方法として今後も注目していくとともに、私たちもチャレンジをし続けていきたいと思います。

取材・文: 梅原みどり
Reporting and Statement: midori-umehara
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