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16

Apr.

2024

column
16 Jun. 2020

[やさしい日本語]#1 「母語」と「第二言語」はお互いさま

吉開章
やさしい日本語プロデューサー
吉開章

やさしい日本語、という言葉を聞いたことはありますか?

やさしい日本語とは、外国人など日本語を母語としない人にもわかりやすいように、日本人側が語彙や文法、表現を調整した日本語のことです。
※なお、ここでいう「日本人」「外国人」は日本語を母語とする・しないで区別したものであり、日本国籍の有無と関係ありません。

やさしい日本語は、1995年阪神淡路大震災のとき日本人より外国人の罹災率の方が高かった反省から、大災害直後どのように避難情報を伝えるかという研究から生まれました。その後、平時における多言語対応の一つとしても研究と実践が進められています。

やさしい日本語では、敬語を省略し、できるだけ平易な言葉や文法を使います。また漢字にルビを振ったり、言葉の区切りに空白を入れる分かち書きをしたりします。

厚生労働省「会社で働いている外国人のみなさま(やさしい日本語版)

厚生労働省「会社で働いている外国人のみなさま(やさしい日本語版)

やさしい日本語は、元は外国人向けに発展したやさしい日本語領域ですが、最近では障害者や高齢者とのコミュニケーションにも役立つと評価されています。これから数回に分けて、やさしい日本語の基本的な情報をご紹介していきます。

やさしい日本語を考える上では、まず「外国語(第二言語)としての日本語を学ぶ人たち」について思いを馳せる必要があります。初回は「母語」と「第二言語」をテーマについて考えてみます。

 

母語とはなにか

生まれて最初に身につく言葉を、「母語」といいます。母語は「母」の言葉、すなわち親や家族が話している言葉のことです。母語は誰にも文法を教えられることなく、家族が語りかけることによって自然に「身につく」もので、基本的に一生にひとつだけのものです。

母語を話す人は、文法の仕組みを知らなくても自在に使いこなし、自然な言葉の組み合わせを選びます。例えば、「風邪」「頭痛」「虫歯」などは名詞です。でも動詞と組み合わせると「風邪を引く」、「頭痛がする」、「虫歯になる」のような表現になります。「頭痛を引く」「虫歯がする」は間違いです。

「頭痛を引く」「虫歯がする」がなぜ間違いか、日本語の母語話者にとっては当たり前すぎてなかなか説明できません。そのような理屈を知らなくても言葉の選び方は間違わないのが「母語話者」の能力です。

 

第二言語とはなにか

一方、多くの日本人にとっての英語のように、後から学ぶ言葉を「第二言語」と言います。第二言語は、学ぶことによって「身につける」ものです。第二言語はいくつも身につけることができます。

みなさんは中学の英語の授業などで「自動詞・他動詞」という文法を聞いたことがあると思いますが、これは動作の対象となるもの(目的語)を必要とするかどうかで区別します。自動詞の「降る」は、「雨が降ります。」のように動作の対象がありません。一方、他動詞の「見る」では、「私は昨日映画を見ました。」のように、「〜を」と言う形式で目的語を入れなければいけません

ここで「結婚する」が自動詞か他動詞か、考えてみましょう。結婚はその対象となる人がいます。しかし「結婚する」は自動詞です。なぜなら「私は花子さん結婚した。」とは言わないからです。ある動詞が自動詞か他動詞かは、それが使われる形式で決まりますが、そんなことを考えなくても日本人は自然に使い分けます。

日本人が日本語の文法をどう認識しているかは、英語を書くときの間違いの中に現れます。「私は花子さんと結婚した。」を英語にすると、日本人の多くは

I married with Hanako-san. (間違い)

と書きます。「〜と」は ”with 〜”と覚えているからです。しかし、英語の”marry(結婚する)”はそもそも他動詞です。英語では他動詞の目的語は動詞のすぐ後に置かれます。

I married Hanako-san. (正しい)

英作文の問題で “married with” と書いて減点されたことがある人は、「花子さんを結婚するっておかしいじゃないか」と憤慨したことがあるでしょう。同様の間違いを減らすことができず、英語の勉強が嫌になった人もいると思います。

このように、第二言語を身につけていく際、母語の仕組みに影響された間違いをよくします。これを「誤用」といいます。第二言語を習得する上で、誤用とどう向き合うかはとても重要なポイントとなります。

 

外国人が日本語を間違う理由は、自分の母語があるから

視点を変えて、日本語を学んでいる外国人のことを考えてみましょう。

英語話者の日本語学習者は”I attended the party” を、そのまま日本語にして「昨日パーティを参加しました。」のように言うことがあります。英語で”attend(参加する)”は他動詞なので、単純に「〜を」の形を当てはめて「〜を参加する」と言うのです。逆に「ドアにノックする(knock on the doorからの誤用)」のように日本語では他動詞であるところを英語の自動詞に当てはめることもあります。このような間違いは、第二言語として日本語を学ぶ人たちの誤用の代表例です。

日本に暮らす外国人が日本語の文法の間違いをすると、内心バカにしたりする人がいます。そのような態度は相手をどのような気持ちにさせるでしょうか。きっと中学の時に”married with”と書いて減点され、英語の学習意欲を失った時の気持ちと同じではないでしょうか。

 

言葉の間違いは、お互いさまの気持ちで

日本で生活している外国人にとって日本語は実用的なコミュニケーションのツールです。文法の正確さを評価してもらうために話しているのではありません。

日本人が日本語を「母語」ではなく「言語の一つ」として客観的にとらえ、外国人の日本語学習の苦労は自分の英語学習の苦労と同じだと認識するだけでも、日本語を学ぶ外国人への態度が変わるはずです。外国人が日本語を間違えても、自分の英語学習の苦労を思い出し、お互いさまの気持ちで接してみませんか

—アートディレクション: 三宅優輝—

取材・文: 吉開章
Reporting and Statement: akirayoshikai

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