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26

Mar.

2019

interview
14 Dec. 2018

「違いはあって当たり前。お茶の水女子大学に根付くダイバーシティ・インクルージョン」

左から半澤、室伏きみ子学長、中井

日本でも経営理念のひとつとして“ダイバーシティ&インクルージョン”を掲げる企業が増えつつある中、日本の女子大学で初めてトランスジェンダー女性を受け入れる表明をしたお茶の水女子大学が教育機関として大きな注目を集めました。今回は、1875年の創設以来、「多様性の存在は当たり前」であるというお茶の水女子大学の室伏きみ子学長にお話を伺いました。

日本の女子大学として史上初の決断

Q:トランスジェンダー女性の受け入れに対し、当初から学内は好意的だったのでしょうか?

実はこれまでもお茶の水女子大学には、トランスジェンダーの方から入学の問い合わせが何度かありました。学生募集要項では戸籍上の女性のみ受け入れると記載していましたので残念ながらお断りしていたのですが、2014年から2015年にかけてアメリカの女子大学が相次いでトランスジェンダー女性を受け入る表明をされていましたので、2016年から、お茶の水女子大学でも真剣にトランスジェンダーの女性を受け入れることについて議論がなされるようになりました。2017年にはワーキンググループを作り、様々な識者を招いて意見交換を重ね、私たちお茶の水女子大学はトランスジェンダー女性の受け入れについて踏みとどまる必要は無いという考えに至りました。本学ではずっと昔から、学生も教職員も、人種・年齢・性別・国籍で人を差別することは恥ずかしいことであると学ぶ機会があり、この流れはとても自然なものでした。トランスジェンダー女性を受け入れることを表明するにあたって、驚くことに学生や教職員から全く反対が無く、むしろ歓迎の声の方が多かったのです。「お茶の水女子大学にいることを誇りに思う」という声もありました。実は他の女子大学ともトランスジェンダー女性の受け入れについて情報交換を重ねていましたが、本校では速やかに学内のコンセンサスが得られましたので、まずは本校からトランスジェンダー女性の受け入れを表明して、自然な流れを創りたいと思い、2018年7月10日の公表に至ったのです。記者会見には、想像を超える数の報道機関からの申し込みがあってびっくりしました(笑)。

 

Q:トランスジェンダー女性の受け入れを表明するにはあたって、国立大学としての困難はありましたか?

文部科学省(以下、文科省)は、私たちがトランスジェンダー女性の受け入れを表明するとことをお伝えした際、「お茶の水女子大学の決定を支援する」と背中を押してくれました。実は文科省も、LGBTの人たちに対する偏見や差別を無くそうとする努力を続けていました。現状では、女子大学は戸籍上の女性のみを受け入れていますが、「性」というものが戸籍上の「男・女」のようにはっきりと分けられないことが、近年の生物学的、医学的な様々な研究から分かってきています。胎児期のヒトは「女性型の身体」として出発しています。そしてY染色体を持っているヒトでは、Y染色体上にある遺伝子の働きで男性へと創り変えられます。そして、同じタイミングで遺伝子の発現が起こらないこともあり、生物学的には、個人の性の形成に様々な多様性があることは当たり前のことなのです。

 

お茶の水女子大学の決定が与えた様々な影響

Q:今回のお茶の水女子大学の決定に対する世の中の反応はいかがでしたか?

今回の表明は様々な報道機関で報道されましたが、どれも好意的なもので、私たちもとても驚きました。その中で、トランスジェンダーを含むLGBT当事者の方々が、今回のお茶の水女子大学の決定を喜んで下さったことは嬉しかったです。それに加えまして、お茶の水女子大学に関わる様々な方々からエールを頂き、「お茶の水らしい決定である」という声もあって、本当に嬉しく思いました。

 

Q:本件は、LGBT当事者の間でも大変な話題になっていましたがいかがですか

私は40年近く前、ニューヨークに2年半ほど留学していました。そのときに、ニューヨークにはトランスジェンダーの人はもちろん、様々なLGBTの方々がいました。最初は少々驚きましたが、皆さんとても良い人ばかりで、当然のようにお友達にもなれました。これってニューヨークでは「当たり前」のことなんですよね。肌の色も違うし文化も違う、色々な違いがあるのは当たり前、性もあくまで多様性の一部。違和感はありませんでした。

それに、ニューヨークに留学をしたときに、遺伝カウンセリングという仕事を初めて知りました。遺伝性疾患を持つ方々や将来そういった疾患になる可能性がある方々へのカウンセリングを行う仕事なのですが、私は日本に帰ってきて、約16年前に本学の大学院に遺伝カウンセリングを専攻する課程を設置しました。遺伝性疾患は誰にでも起こり得る、決して特別な疾患ではないのです。細胞が分裂する際に遺伝子が倍増するのですが、そのときに間違いが起こったり、何らかの原因で遺伝子が傷付いたりすることはすべての人にとって普通に起こることなのです。それが外に出るか出ないかだけの違いだけ。色々なことが違うのは当たり前なのです。たまたま外に出てきたことで、病気を背負うようになることもあれば、一生健康で過ごせる場合もある。自分で好んで病気になったわけではありません。ですから、そういったことに対して、差別をしたり、偏見を持ったり、相手に悲しい想いをさせたり、ということは、してはいけないことだと思うのです。幸いなことに、お茶の水女子大学の学生や教職員は、皆さん差別や偏見のない人たちです。「お茶の水女子大学は素敵なところでしょ?」と誇らしく思います(笑)。

 

Q:他の女子大学に与える影響はどうお考えですか?

毎年1年に1回、28の女子大学が加盟している女子大学連盟の総会があります。そこでは、2017年も2018年も1番の議題にあがったのは、「トランスジェンダー」についてでした。各大学で学内でのコンセンサスの取り方が違います。例えば、宗教が基盤の女子大学と、お茶の水のような女子大学ではコンセンサスのとり方はかなり違うようです。ただ、どの大学でも、本当に前向きに考えていらっしゃいます。お茶の水女子大学の決定によって、恐らく、これから多くの女子大学が同様の決定をされるのではないかと予想しています。

 

Q:企業からも大きな注目を集めているのではないですか?

企業からそれほど多くのお問い合わせを頂くことはありませんが、企業の皆さまにお会いする様々な機会に今回の表明について尋ねられることが多いです。企業としても今を見直し、もっと良い方法は無いかと考えていらっしゃるのでしょう。ただ、私たちとしては、当たり前のことを実行しただけなので、ここまで注目を集めると思っていませんでした。ですが、公表をした後に、トランスジェンダー女性を受け入れるという表明は「日本の社会にとってはまだ当たり前のことではなかった」と感じました。

 

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お茶の水女子大学の考えるダイバーシティ・インクルージョン

Q:ダイバーシティ・インクルージョンを推し進めるにあたり、御校では具体的にどのような取り組みをしていらっしゃいますか?

特別なことはやっていないと思います。国籍や年齢、宗教、文化的背景で人を差別したり、思い込みや偏見で人を判断しないという風土がすでにお茶の水女子大学には創られています。お茶の水女子大学には、障がいを持った学生や教職員ももちろんいますが、そういった人たちは特別な存在ではありません。手助けが必要な場合は手助けすることは当然ですが、普通に学内で生活をしています。その人たちが自分自身を特別だと思わない、思わずに済む環境作りをしようと常に心がけています。

 

Q:御校は多様性が当たり前である風土が既に出来上がっているようですが、大勢を巻き込むにあたり、どういった工夫をされていますか?

お茶の水女子大学は小さい大学なので、全学集会を定期的に行っています。学生に集まってもらうことも、全教職員に集まってもらうこともありますが、そのときに課題になっていることを話し合います。もちろんトランスジェンダーの件についても学生たちとは3回、教職員とは10回以上話し合いました。それに限らず、卒業生や学生の保護者との話し合いの機会も作りましたし、学内でコミュニケーションを図る機会が多いのです。やはり、コミュニケーションを密にして、みんなで情報共有をしていかないといけないと思うのです。全然知らないことが急に出てきたら、誰しも二の足を踏みますよね。みんなで情報を共有し、意見交換をして、きちんとコミュニケーションを重ねることで、多少のことでは動じない考えを持つことも出来るでしょう。私たちは、そういった機会を積極的に持つようにしています。本当はもっと頻繁に集まる機会が欲しいのですが、学長の仕事がとても忙しいために、なかなか思うようにはいきませんが、機会づくりはとても重要であると考えています。

 

Q:改めて、室伏学長のお考えになる「多様性を包摂することの重要性」を教えて頂けますか?

「多様性を包摂する女子大学」という環境が存在することは、そこで学ぶ学生たちにとって、大変良いことだと思うのです。学生たちがそのような環境で学び、それが「当たり前」という感覚をもつことで、これから社会の多様な場へ出ていったときに、彼女たちがその中で困難な課題に出会ったとしても、きちんと自分自身の考え方を持ち、立ち向かっていけるようになるはずです。お茶の水女子大学で培った力が、社会に出たときに、強く生きていくための助けになると確信しています。社会では、大学での経験を遥かに超えた多様な人々や課題が存在します。その中で、彼女たちが強く、たくましく自分の道を進み、社会のため、世界の人々の幸せや平和のために努力できる人になってほしいと願っています。ですから、「多様性を包摂する女子大学」の存在は大変重要なことだと考えています。将来に向けて、地球環境や、人類の存在が持続的に維持されるためにも必要なことだと思っています。どんな人も仲間なんです。各々がちょっとした違いのある仲間だと思えば、喧嘩なんてしませんよね。戦争などにはならないはずです。なぜ小さな違いにこだわって喧嘩などをするのでしょうね(笑)。

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お茶の水女子大学 室伏きみ子 学長

室伏きみ子学長、ありがとうございました。

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor
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