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8 Jan. 2020

「共有できる服」ファッションショー

大妻女子大学千代田キャンパスで行われた文化祭にて、2019年10月26日(土)・27日(日)家政学部被服学科 大網美代子准教授のファッション造形学研究室による、ファッションショーが開催された。ファッションショーのテーマは「共有できる服」。誰もがおしゃれを楽しむことができる環境を目指し、さまざまな人と共有できるユニバーサルファッションの制作・研究を行うゼミ生によるこのファッションショーは今年で7年目の開催となった。

ファッションショーの前には、研究代表の大網准教授による服についてのプレゼンが行われた。

共有できる服づくりのはじまり

はじまりは2013年3月。埼玉県総合リハビリテーションセンターの義足装具士の意見交換を通して、障害の有無に関わらず、おしゃれを楽しむための服作りがはじまった。研究を進める中で、身体に障害がある人にとって、機能性は不可欠であることから洋服の選択の幅が限られるため、ファッション・デザイン性への不満の声が多くあることが分かった。一方で日本のアパレル業界では、生産システム等の理由から一人一人固有の身体に合わせた服作りは高額となり、消費者と企業の間に課題があった。その障害のある生活者と企業との間の課題を解決する方法として、「障害のある人に必要な機能をデザインした服を健常者に向けて展開する」つまり、障害の有無で分けて服作りを考えるのではなく、障害のある人と健常者が共有できる服つくりを目指すこととなった。
デザインは、障害のある人25名による聞き取り調査・スポーツ服・アーカイブデータ・資料を参考に設計。サンプルは、障害者と大学生による試着を通して、デザイン性・機能性の検証を繰り返し行った。対象者は、片麻痺・両麻痺・上肢・下肢・体幹の障害により、日常生活において、義足・装具・車いすを使用している障害のある人たち。着脱のしやすさや上肢や下肢の可動域・車いすの座位姿勢への対応がメイン要件となった。
プレゼンでは車いすの座位姿勢に対応したエプロンスカート。股義足の可動域に対応した男女兼用のパンツ。肩義手の可動域に対応したワンピースをはじめ、トップス・ボトムス・ワンピースといった多くのサンプルが紹介された。

大網准教授へのインタビュー

―共有できる服の研究を始めたきっかけは?

研究室では研究と教育をリンクさせて、現代ファッションの問題点に対して、課題設定を行い、それらを解決する方法を提案してきました。7年前に社会のニーズに合わせて、障害のある人や高齢者の方に対して貢献をしたい。という思いがあり、そんな中、リハビリセンターの装具士さんのお話の中で「障害者の方がモデルになるファッションショーをしたい」という思いを聞いたことが「共有できる服」の始まりです。実際に試着してくださる方や、どういった要望があるかを知ることはリアリティがあり、学生にとってもとても良い機会となりました。初めの3年間は要望に合わせたデザイン設計をしてきましたが、4年目からは、共有する為にはどうすべきかということを考え、学生が着たいデザインに対して、身体の障害に必要な機能性を加えていく方向で行いました。作成したサンプルの中から、障害のある人に「どれが着たいか」を選んでもらい、試着・修正を行いファッションショーでプレゼンを行っています。

―2019年のショーの特徴は?

コンセプトは、「障害のある人もない人も共有できる」ということです。「共有できる服」を健常者に展開するという提案をアパレル業界に向けて行ったファッションショーです。これまでの過去6年間のショーの中から、特徴的な作品を選抜し商品サンプルを作成したことがこれまでのショーとの違いです。今回は、実際にアパレル企業の方に見ていただいて、共感を広めていきたいという主旨があります。そのために商品化の実現を望んでいます。将来はどこのブランドでも「障害のある人もない人も誰もがおしゃれを楽しむことができる」ということが当たり前になってほしいと思います。

―商品化についての今後の展望は?

商品化については、今回のショーをきっかけに具体的になっていけばと思います。去年から授業で接点のあるアパレル企業の方々が来場します。既に事前にサンプルを見ていただき、コンセプトも企業内で共有していただいています。

具体的な商品化を意識したショーは今回が初とのこと。

―今後さらに様々な身体の障害や特徴に対応した「共有できる服」を作る可能性は?

はい、あります。まずは、さまざまな障害のある方とお話をさせていただき、身体の状況や衣服への不満を伺い、そこからニーズを救い上げていきたいと考えています。

車いすの座位姿勢に対応したワンピース。後ろ身頃の切り替え部分で重なりの構造になっおり、縦方向の長さに対応させてからだへの負荷を軽減している。スカートは、装飾を使用して見た目の綺麗さだけでなく、車輪の巻き込みを回避することができる。

着脱のしやすさがポイントのワンピ―ス。袖ぐりと腕繰りが広めのデザイン。また、ウェスト切替えはリボンで調整が自在。

肩義手の可動域に対応したワンピ―ス。身頃が重なりの構造となっており、下から上へ袖となる部分を上げて着脱可能。肩を上げる必要がない。

 

自信と明るい気持ちを持たせてくれる洋服

本ショーで紹介された作品について障害がある当事者としてはどう感じたのか。今回モデルとしてショーに参加された一人、小澤 綾子さんにお話を伺った。小澤さんは、普段車椅子で生活をされている。

今回取材を伺った小澤綾子さん。

―車椅子生活になった以降で洋服選びなどに変化はあったか。

はい。お気に入りのロングコートがあったのですが、車椅子に座った状態だと、足元部分が横に広がり全体的にダボっとしたシルエットとなってしまい見栄えが悪いので着るのをあきらめたことがありました。コート以外にもロングスカートなど足回りが長い作りとなっている服は、車椅子だと車輪に巻き込んでしまう心配などもあります。そのため、着やすさや座位姿勢での見栄えなど車椅子を前提とした要素に服選びの幅を狭められてしまい残念に感じる事が多くあります。

―今回のショーや登場した作品(服)についてはどうであったか。
とても素晴らしい企画だと思います。実際にモデルとして作品(服)も身に着けましたが、機能面での心配も解消され且つ、デザインの幅も楽しめる作品に出合えてとても嬉しかったです。「おしゃれを楽しみ、お気に入りの服を着て出かける」、とてもシンプルな事ですが、これができるとできないとでは大違いなんです。ネガティブな思考に陥ってしまった自分に、自信と明るい気持ちを持たせてくれるんですよ。ユニバーサルデザインという考え方や今回登場したような作品(服)が、商品として店頭に並ぶ日を心待ちにしています。

 

企業視点

今回の企画を企業側はどのように捉えたのか。見学に来られていたアパレル企業の方にも少し話を伺うことができた。

ショーが終わったあとは、サンプルが展開された。サンプルはすべて試着可能。

―大網准教授は最終ゴールを「共有できる服」のコンセプトを広めること。そのための商品化と位置付けているが、実現に向けてのお考えや課題などあるか。
日本のファッション市場は、飽和状態にあり新たな領域を模索しています。そういった意味で今回の企画はとても興味深い上、紹介された作品の品質もとても高く関心しています。ただ企業としては、多くのお客様が購入いただける価格設定をした上で利益も上げていかなければなりません。一見同じような服でも、縫い方や生地の使い方などにより、品質だけでなく制作に必要なコストが上下します。今回登場した作品の多くは、機能性を担保するための様々な工夫や細かい作業が制作コストを上げてしまっています。このままでは、商品として店頭に並んだ時には、とても高額な商品になってしまいます。商品としての価格を抑えていくためには、制作工程だけでなく売り方にも工夫が必要だと考えています。
今は売り方ひとつとっても多様なビジネスモデルがありますので、この辺りの課題をどう解決していくかは、企業側の力の見せ所だと思っています。何にしろ商品化も踏まえて前向きに検討していきたいです。

 

ユニバーサルファッションが作る未来

ショーに参加された方々全員による集合写真。

普段、何不自由なく洋服を選び買いに行ける人にとって、共有できる服の意味はすぐにはイメ―ジがつきづらいかもしれない。そんな人は一度想像してみてほしい。例えば、自分自身が義足となったとき、これまで通り友人とショッピングを楽しめるだろうか。ファッションとは、おしゃれを楽しむということはもちろん、生きていく上で欠かせない行動の一つなのではないだろうか。自分自身や身近な人が、人目をはばからず、家族や友人と同じお店で、同じ会話をし、洋服を買いに行くといった生活する中の当たり前の行為が制限される現実は誰しも起こりうるかもあるかもしれない。服を共有するということは、障害の有無、年齢、体型問わず様々な人間が、同じ時間、同じ感覚、同じ感動を共有することに繋がると考える。
共有できる服の課題は、誰と誰が共有できる服なのかを、多くの生活者に浸透させることである。その課題を解決するためには、企業が個々で取り組むのではなく、ファッション業界全体がユニバ―サルファッションという考え方を一つのジャンルとして一般化させていく必要があるのではないだろうか。是非、業界全体がこの取り組みに共感し、多くの企業を動かすトリガ―をひいてほしい。この先、ファッションショ―には人種や性別だけでなく、障害の有無関わらず様々な人が一緒にランウェイを歩き、誰もが知るようなアパレルショップに入れば、ユニバ―サルファッションのコ―ナ―があることが普通になる。そんな未来になることを願いたい。

 

共同取材・執筆:栗田 陽介、澤田 有花理

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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