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Apr.

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column
17 May. 2019

アウトサイド-インな、日常への眼差し。

伊藤亜実
cococolor編集員 / ライター
伊藤亜実

東京ドームシティ Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)にて、「櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展」が開催中(2019年5月19日まで)だ。

日本唯一のアウトサイダーアートキュレーターであり、主に広島で活動されている、櫛野さんキュレーションよる、東京初の大規模展覧会である。

キャッチコピーは「こんな表現があったのか!」。アウトサイドならではの視点と表現を観に行ってもらいたい。

さらに、多くの方にとって野球のイメージが強いと思われる東京ドーム。その東京ドーム一体の「街」における、文化発信拠点「Gallery AaMo」が、今展覧会を主催している。アウトサイダーアートと、街・文化づくり。注目の掛け合わせを実現した、Gallery AaMo支配人の西見敬一郎氏に、お話を伺った。

 

株式会社東京ドーム ミュージアム部 Gallery AaMo支配人

西見敬一郎氏

 

ー「アウトサイド・ジャパン展」開催の思い

2018年秋に出版された、櫛野展正さんの新著「アウトサイド・ジャパン」をテーマに、70組以上のアーティストの作品を展示しました。

Gallery AaMoは、「大人のための遊べるギャラリー」というコンセプトで、体験型のものや、従来のアート文脈とは異なるもの、まだ知られていないものなど、他のギャラリーとは少し違うテーマの展覧会を開催しています。

櫛野さんは、福祉施設での経験もお持ちでありながら、美術手帖での連載を持たれるなど、アート界をはじめ様々な文化人にも一目置かれている、注目のキュレーターです。今回、東京初の大規模展を、Gallery AaMoで開催できて光栄に思います。

 

ー開催までに困難がなかったか

本展の実施は、これまでに他ギャラリーがやっていなかったこともあり、様々な関係者から「思い切りましたね」と声をかけられました。

私たちGallery AaMoは、「東京ドームシティ」という街づくりの中で、文化やアートの発信拠点としての役割を担っており、新しい潮流をとらえたり、他で扱われないテーマを取り上げたりしていくことにも、積極的です。そのため、東京ドーム社内での決定も、思いのほかスムーズに行うことができました。

 

ー来場者の反応は

じっくりと、時間をかけてみる方が多いようです。これまでの来場者数は10,000人に満たないほどですが、体験型のイベントやトークも多数行われました。

来場者の満足度も高く、アンケートでも熱いコメントを多く寄せていただいており、数で見える以上の反応を感じ、熱量が非常に高い展覧会になっています。

 

ー今回アウトサイダーアートを扱ってみて

アウトサイダーアートは、やはり作品を目の前にしたときのパワーが非常に強いことを、改めて感じました。そして、お客様の反応からもそれをひしひしと感じています。
我々は今回、あえてこの展覧会を「障がい者の社会参画のため」、という形には結びつけず、会場での寄付募集なども行っていません。

今回、このように、アウトサイダーアートを、ひとつのエンターテインメントやサブカルチャーとして扱うことができ、来場者にも楽しんでいただく機会となったことが、大変良かったと思っています。

海外では、障害者アートをポップに扱っていくことも多くあります。

今後も、ファインアートだけではなく、これから流行るもの、まだ注目されていないけれど、目の付け所が面白いものを取り上げていこうと思っていますので、アウトサイダーアートにも、引き続き期待をしています。

 

 

 

アウトサイダーとは、様々な理由により「生きづらさ」に直面する人、と定義されることが多い。今展覧会の作品群は、日常を切り取った、個人的な作品たちが多かったが、その中には、ことさらにその生きづらさを強調するようなものよりも、むしろ日常への愛を感じるような作品が多かったように思う。

 

毎日の食事を精緻に描写する人、(時にはおかずをそのまま貼っている)

センスあふれる空想の芸人コンビを毎日生み出している人、(もちろん定番ネタまで考えて、ときには自演する)

掃除をした後の固く絞った雑巾をリアルに描く人。(変化がないはずなのに、やっぱり毎日、表情が違う)

 

食事をし、テレビを見て、掃除をする。そこに描かれているのは、私たちも過ごしているはずの、同じ日常なのにもかかわらず、私たちが見落としがちな、小さな美しい瞬間をとらえて、徹底的に向き合っている。生きることのシンプルな喜びを、このアーティストたちは、私以上に知っていると感じた。

アウトサイドでありながら、生きることを謳歌している、むしろ、アウトサイドであることを誇り、楽しんでいる人いる、ということを鮮烈に感じると当時に、もしかして、この社会で生きづらさを感じているのはむしろ、「アウトサイドではない私たち」なのではないか、とすら思ったのだった。

 

「櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展」は、人生の小さな美しい瞬間に目を向ける楽しさ、視点を与えてくれた。私たちはこれから、アウトサイドから、どれほど多くのことに、気付かされるのだろう。

 

 

 

——————–イベント概要——————–

タイトル:櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展

主催:株式会社東京ドーム

会期:2019年4月12日(金)~5月19日(日)【38日間】

会場:Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)

ウェブサイト:https://www.tokyo-dome.co.jp/aamo/

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取材・文: 伊藤亜実
Reporting and Statement: atimo

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