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Apr.

2024

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13 Dec. 2021

「パラスポーツを見に行く文化」をつくりたい~パラ卓球・岩渕幸洋選手~

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来 ~パラスポーツ連続インタビュー~」を始めます。第1回目は、パラ卓球界のエース・岩渕幸洋選手に聞きました。

 

 

パラ卓球 岩渕幸洋選手

東京都練馬区出身/リオデジャネイロ大会に続き東京2020パラリンピックに出場し、日本代表選手団の旗手を務める。先天性の両下肢機能障害があり、中学1年の時に部活動で卓球を始め、高校3年からパラ卓球の国際大会に出場。2018年の世界選手権で3位に。協和キリンに所属し日本卓球リーグでもプレーする。

 

■東京2020パラリンピックを振り返って

 

勝負をするところまではできた、東京2020大会
パラリンピックの魅力を改めて感じるきっかけになった

リオパラリンピックは出場することだけが目標でしたが、東京2020パラリンピックでは「どのように勝つことができるか」を目指してやってきました。結果は1次リーグ敗退でしたが、勝負をするところまではできたと思っています。


©フォート・キシモト

 

ただ、試合中に勝敗を分けるターニングポイントがあり、その1本をどのようにとっていくかが自分には足りなかった。自分をどうコントロールするか、自分のイメージとのギャップをどう埋めていくのかが、今後も課題になると感じています。

次のパラリンピックでの金メダルに向けたロードマップもいま考えているところで、そこに至る小さなステップは、次のシーズンが始まる来年3月までには、自分の中でクリアにしたいと思っています。

 

大会中に選手村で特に感じたのは、みんな生き生きしているな、ということです。どんな国の選手でも、どんな障がいのある選手でも、それぞれのクラスで自分のパフォーマンスを真剣に追い求めている姿を見て、「誰でも前向きに過ごせる社会は必ずある」と、強く思いました講演依頼を受けた時には、この思いをメッセージとして必ず発信しています。

 

開会式では旗手として入場行進をしましたが、このお話をいただいた時は、すごく嬉しかったですね。開会式、閉会式に出られて、パラリンピックをより大きな範囲で感じることができました。自分の試合は苦しかったのですが、パラリンピックの魅力を改めて感じました。


©フォート・キシモト

 

東京2020パラリンピックで目標としたのは「金メダル以上」
大切なのはメダルだけでなく、「パラ卓球」の普及

インタビューなどでよく東京2020パラリンピックの目標を話す機会があったのですが、「金メダル」だけだと、「頑張ってください」で終わってしまいますが、「金メダル以上」と言うと、もう一回話すチャンスがまわってくる。メダルだけではなく、その先の「パラ卓球の魅力を発信し、普及していくこと」を伝えるきっかけとして、この言葉を大切にしてきました。

 

今回のパラリンピックでは、いろいろな人に見ていただけたし、卓球以外にもたとえばボッチャなどパラリンピックならではの競技のことも、さまざまな場で話題に上りました。多くの人にそれぞれがどのような競技なのかを知ってもらえたことは、本当に大きなことだと思っています。

 

 

■パラ卓球の魅力を伝えたい

 

コートに立てば、障がい者扱いされない
「見て面白い」パラ卓球の魅力をもっと知ってもらいたい

 

コートに立てば、どこに障がいがあるかに関係なく、ひとつの技術として、できる部分、できない部分を選手それぞれが判断してプレーをします。選手同士もそこをリスペクトし合ったうえで作戦を組み立てていく。たとえば車いすの選手なら、ネット際のボールは届かない。そこを容赦なく狙っていきます。そういった障がいをめぐる駆け引きというか、いい意味で障がい者扱いされずにプレーできるところがパラ卓球の魅力かなと思います。

 

あそこを狙っているなとか、ここを狙われて嫌そうだなという駆け引きまで見てもらえると、パラ卓球を「面白い!」と思っていただけるきっかけにもなるでしょうね。

 

見てもらう場を自身で作った「IWABUCHI OPEN」の開催
試合のライブ配信もしていきたい

2020年11月に自分が企画して開催したパラ卓球大会「IWABUCHI OPEN」は、実際に見に来ていただいた方から多くのメッセージをもらえて、と思えました。パラリンピックを経たことで、次はより競技を知ったうえで見ていただけると思うので、今後も続けていきますし、そこでどういう反応があるか、とても楽しみにしています。

 


IWABUCHI OPENで挨拶する岩渕選手。この大会ではパラ卓球トップクラスの試合だけでなく、健常者の卓球選手VSパラ卓球選手のエキシビジョンマッチも行った。

 

今後は試合をライブ配信したい。自分の試合を見てもらうプラットフォームを作って、そこから配信してパラ卓球の面白さを伝えていきたいと思っています。ライブで見ていただくのが、試合の駆け引きや面白さが一番伝わるので、試合をどんどん配信できるようなものにしていきたいですね。

 

ほかにも、リオパラリンピックの後から、小学校に伺って授業をさせてもらっていたのですが、東京2020大会が近づくにつれて、子どもたちの反応が変わってきた。授業の始めから子どもたちが盛り上がっているのが伝わってきて、パラリンピックがどのようなものなのか、子どもたちにも浸透しているんだなと感じられました。

 

 

■日本のパラスポーツに必要なこと

 

選手としての活動と並行して
日本にパラスポーツを定着させる活動を考えていく

たとえば、ロンドンレガシーと言われるように、イギリスがすごいのは、パラリンピックの2年後の大会でも競技場が満員になるということです。東京2020パラリンピックも、最初はロンドンに匹敵するぐらいチケットが売れたというニュースは耳にしていたので、これから大会があった時に、そこにどれだけ関わってくださる人が増えていくか。そういった中でパラスポーツの位置づけが変わっていくと嬉しいですね。それは、これからわかることではないでしょうか。

 

また、パラ卓球をしてみたいがどこに行ったらできますか、という質問をもらった時に、自分に近い障がいのレベルならアドバイスできますが、車いすの選手であったり、もっと障がいが重い選手の場合は、選手それぞれの身の回りの環境に左右されてしまうので、アドバイスができない。この点が、海外に比べると弱いのかなと感じています。

 

自分のイメージとしては、パラ卓球を「見て楽しめるスポーツ」にしたり、「パラスポーツを見に行く文化」をつくれるような活動をしていきたい。自分はまだ選手として活動したいのですが、並行して大会をつくったり、それをどのように面白く見てもらうかということも、考えながらやっていきたいと思っています。

 

パラ卓球選手の強化に必要なことは、選手の自覚とプレー数
そして健常者とともに練習すること

 

自分も含めて、パラ卓球の選手たちは、応援していただいたとか、見に来てくださった方々の前で試合をすることの自覚を、もっと持つ必要があると感じています。そのためには、いろいろな場所で試合をさせていただいたり、少しでも多くの人に見に来てもらってその緊張感の中で試合をする。試合の場数を踏むことが必要。その点では、国内での試合数が少ないというのも、今後の課題だと思っています。

 

また、日本ではパラ卓球の選手数は多いのですが、その中でパラリンピックに出られる選手は他の国に比べてすごく少ないんです。海外の選手たちを見ていると、車いすの選手でも健常者の選手と同じような練習メニューをこなしています。車いすの選手だからネット前に落とす練習ばかりということではない。日本も強くなるには、パラアスリートだけで練習するよりは、健常者の選手と一緒にやらせてもらうことが大切だと思います。

 

健常者も障がい者も一緒になった団体戦や
ミニパラリンピックのようなな大会ができれば

 いま、パラリンピックは障がいがある人しか出場できないんですが、そうしたことを取っ払って、健常者も一緒になってできるものにしていきたいですね。たとえば、団体戦。1つのチームの中に、健常者の男性と女性、パラアスリート、というMIXがあったら、一気に自分たちも入っていけるのではないかと感じます。

 

また、卓球だけの大会ではなく、体育館でできる競技を集め、ミニパラリンピックのような大会を開催するとか。障がいがありスポーツをしたい人たちがそこに来ることで、卓球もできるし他の競技もできるようになれば、自分の可能性を広げることができると思うんです。

 

さらに、選手自身もそれぞれのサポートの母体となっている地域で試合を開催し、それが全国規模になって交流が始まれば、選手のモチベーションも大きく高まるのではないでしょうか。

 

■これからの目標

 

スポーツで楽しい瞬間を共有する
そのような場をどんどん増やしていくことが、自分のテーマ

自分もパラリンピックに出場させていただく中で、社会にはいろいろな人がいると感じることができたので、いままで障がいを持っている方との接点がない方でも、きっかけがあれば意識できるようになると思いますし、自分もそこのかけ橋のような存在になれたら嬉しいですね。


楽しい瞬間を共有できるのはスポーツならではの良さだと思います。自分は、試合中ガッツポーズをすることが多いんですが、海外の選手とかはそういったところの表現が個性的で面白くて、見ていてワクワクします。そのようなことをどんどんアピールして、みんなに楽しんでもらえたらと思っています。「パラスポーツを見に行こう!」という文化が生まれたら最高ですね。

 

――――

インタビューを通して、世界の頂点を目指しながら、パラスポーツを日本に定着させるためのさまざまなアクションを試みる、岩渕選手の視野の広さに圧倒されました。また、試合のオンライン配信を拡大することや、競技・障害の有無などを越え新しいスタイルの大会をつくっていくことが、今後のパラスポーツの発展の鍵であり、企業などがサポートする価値にもなるでしょう。

岩渕選手が生み出していく、「金メダル以上」のものに今後も目が離せません。

 

 

《参考情報》

・岩渕幸洋選手 公式SNS

Twitter:https://twitter.com/i_koyo

YouTube:https://t.co/h2DkOKLa1C

 

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:田中陽太郎、八木まどか

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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