cococolor cococolor

16

Oct.

2024

interview
5 Mar. 2020

「全員が先駆者」パラアスリートを撮り続けた20年~越智貴雄さんインタビュー~

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

 パラスポーツの発信者として、写真家・越智貴雄さんの存在は欠かせません。なぜなら、かつてメディアで取り上げられることが少なかったパラアスリートの「勇姿」を、写真を通して社会に伝えてきた先駆者だからです。2000年から約20年間パラアスリートを撮り続けてきた越智さん。自ら立ち上げたメディア「カンパラプレス」での発信はもちろんのこと、今では、主要新聞社やWEBメディアなど、パラスポーツの報道にて、彼の写真を目にしない日はありません。さらに、その活動領域は写真家の枠を超え、「切断ヴィーナスショー」など様々な障害をもつ方が輝くステージの企画まで及んでいます。その、多岐に渡る活動への、道のりと思いを伺いました。

 

撮る喜びから、「伝えたい」へ

 越智さんは幼い頃、写真を撮られるのが嫌いだったそうです。そこで自分が撮る側に回り、撮った写真を友人たちが喜んでくれたのがカメラとの出会いでした。

 高校1年生の冬に初めて自分の一眼レフを持ち、各地を旅して風景や人物を撮ったりして公募に送り受賞するようになります。また、その頃から新聞社に写真を送ることもしていました。

 大阪芸術大学の写真学科入学後、「報道写真」に興味を持ち始めました。報道カメラマンを志望する同級生と親しくするうちに、一緒に「報道ゼミ」に入ることにしたのです。

 このゼミの先生が「オリンピックはとにかくすごい。世の中を変える力を持っている」と熱く教えてくださったのをきっかけに、越智さんも「オリンピックを観に行きたい」と思うようになり、2000年に休学し、シドニー大会でフリーカメラマンとして赴きました。先生が語っていたようにオリンピックのパワーに圧倒され、大会や選手村などとにかく撮っては写真を新聞社に送り、実際に紙面で使われたりしたそうです。あっという間にオリンピックが終わり帰国しようとしたら、ある新聞社から「パラリンピックも撮らないか?」と誘われました。越智さんはオファーをもらったことが嬉しくて快諾しました。

 しかしこの時、越智さんはパラリンピックのことをほとんど知りませんでした。オリンピックの期間中に聞いたパラスポーツの話題は、当時エキシビションで行われていた車いす1500m走で土田和歌子選手が金メダルを取り、海外の人から「日本おめでとう!」と言われたくらい。また、パラスポーツに関する情報が収集しづらく、開会式が近づくにつれて「そもそも撮っていいのか」と不安が募っていきました。実際、その頃の日本において人々のパラスポーツ・障害者への印象は、「支援しなくてはいけない存在」「じろじろ見てはいけないもの」というのが多かったかもしれません。

車いすレース写真/シドニーパラリンピック(越智貴雄/カンパラプレス)

 

 ところが、パラリンピック開会式に笑顔で入場行進する選手たちを見て、越智さんの印象は180度変わります。そして、競技を見てさらに引き込まれ「人間ってすごい!」と感動しながら夢中で撮り続けました。越智さんはパラスポーツの世界を新しく知ってとても楽しかったと言います。

 また、観客はまだオリンピックより少なかったものの、現地の子どもたちが観戦に来ており、義足の選手の競技を見ながら「かっこいい、将来あんなふうになりたい」という声を聞いたりし、パラスポーツに魅了される人々のことも目の当たりにしました。

 

何も伝わっていなかった

 シドニーから帰国後、自分が知ったパラリンピックの楽しさを伝えようと、2001年5月に東京で写真展を開きました。41点もの写真を一週間展示しましたが、来場者の声は「障害者にスポーツをやらせるなんて」といった、自分の感動とは真逆のものばかりでした。越智さんはこの時、自らの写真が「伝わっていない」ことにショックを受けたのと同時に、「アスリートたちに申し訳ない」と思いました。

 この時の悔しさが忘れられず、その後、パラスポーツの各大会を回るようになりました。

 越智さんがパラアスリートを撮り始めた頃、大会でカメラマンは一人だけのことがほとんどでした。その分、アスリートたちと親しくなり話を聞くようになります。その声の一つが「なぜ自分たちは、福祉枠でしか扱われないのか」。メディアの扱いもスポーツニュースではなく社会ニュースで取り上げられることが多かったのです。

 また、かつて「パラ貧乏」という言葉があったそうです。つまり、パラスポーツには道具や施設利用、海外遠征などで多額の費用がかかるため、資金不足に悩むアスリートが多いのです。

 彼らの悔しい気持ちを聞くうちに、越智さんは「自分で発信しよう」と思い、2004年、パラスポーツを発信する団体「カンパラプレス」を立ち上げます。「感じるパラリンピックスポーツ」という思いを込め、ライターと組みチームで記事発信や写真・コンテンツ提供、企画提案をしていきました。多数のメディアへ売り込みをしましたが、唯一日本最大級のポータルサイトメディアが越智さんたちの思いに共感し、出資 や配信協力をしてくれました。そうして少しずつ、パラスポーツを応援する仲間を増やしていきました。

 

全員が先駆者

 越智さんは「パラアスリートは、全員が先駆者なんです」と言います。オリンピック競技ではレジェンド的な選手も多くお手本がありますが、パラスポーツでは障害の種類と程度が人それぞれみんな違うので、自分で強くなる道を探す必要があります。

 また、事故などで人生の途中から障害をもった人は特に、すぐには精神的に立ち上がれません。変わってしまった自分の身体や生活を受け入れて、そしてパラリンピック出場のような「夢」を追うステップに進むには、相当なエネルギーを要します。

 そんなアスリートたちの力強さに出会ってしまった越智さんは、磁石に引っ張られるように追い続けてきました。

 

 越智さんにとって印象に残っている撮影を2つ教えて頂きました。

 一つは知的障害水泳の山口尚秀選手の写真。ゴール後、手を合わせて喜びと感謝を伝える姿を見て思わずシャッターを切りました。

パネル右上が山口選手の写真

 

 越智さんはこの時まで知的障害の選手の撮影は比較的少なかったのですが、この写真をきっかけに山口選手と交流し、見方が変わったと言います。学んだのは、障害をもっていると、確かに移動や意思伝達手段に工夫が必要な場合もあるけれど、そのような身体的な特徴とその人のパーソナリティは分けて考えた方がよいということ。結局は「その人」とどう向き合うかが大切だと改めて感じたそうです。

 もう一つは、義足を枕にして寝そべるパラ陸上競技の選手の写真。

イギリス人選手/パラ陸上競技選手権(越智貴雄/カンパラプレス)

 「義足を枕にしている!?」と越智さんは驚き、写真を撮っていいか聞くまで彼の周りを何周も歩いてしまったそうです。しかし、「自分の仕事はカメラマンだ」と意を決し話しかけたら陽気にOKしてくれました。この撮影で、義足に対する自らの思い込みに気づき、カメラによって越智さんは世界が広がっていくことを実感したそうです。

 

気が付けば、自分にも先駆者精神が

 越智さんが撮影するのはパラアスリートだけではありません。たとえば、義足の女性を美しくビビットに撮ったファッション写真集「切断ヴィーナス」とファッションショーの「切断ヴィーナスショー」。

写真集『切断ヴィーナス』

切断ヴィーナスショー/石川県中能登町の夏祭り(越智貴雄/カンパラプレス)

 

 ショーは全国各地で開催され、リオパラリンピックの閉会式では切断ヴィーナスの写真が使われたりしました。また、『あそどっくの寝た集』という、寝たきりの芸人である「あそどっく」の写真集も出版しました。あそどっくのスリリングな挑戦の数々に越智さんも全力で応えた一冊で、これをきっかけに彼の知名度もぐんと上がりました。

 まず見てもらうことが大切。その時に写真とはショーケースのように並べて見せる役割を果たすのです。

『あそどっくの寝た集』(白順社)

 

 現在は、「夢を追いかけるステップに上がれた」人たちだけでなく、新しい自分へと「立ち上がり始めた」人たちも撮りたいという越智さんは、新しい企画をいくつも考えています。

 その姿は「全員が先駆者」と称したパラアスリートの精神が、越智さんの中にもあるからだと思いました。

 

20年間の変化。「こわい」から「すごい」、そしてその先へ

 日本でのパラスポーツへの見方はこの20年間で随分変わったと越智さんは言います。かつては障害を持つ人のことを「こわい」つまり自分とは異質な存在として遠巻きに見る人が多かったけれど、今は「すごい」とか「カッコイイ」と語る人が増えたこと自体が大きな変化に感じるそうです。

 東京2020パラリンピックが開催される今年を「とても楽しみにしている」と越智さんは語ります。世界中のトップアスリートの姿が間近で見られることはもちろん、逆に世界中から人が集まり日本が見つめられる機会になり、社会の様々な部分が変わることに期待していると。

 

インタビューを終えて

 穏やかな口調でありつつも強い輝きを放つ越智さんの瞳は、とてもポジティブでした。それまで私はパラスポーツやアスリートは好きだけれど、どう魅力を伝えたらいいか正解が見いだせないでいました。しかし、越智さんのお話を聞き、まずは好きな競技や選手を心から応援し、様々な人との出会いを楽しもうと思いました。そして「伝えたい」の気持ちをずっと持っていれば、周囲のまなざしも1mmずつ変わるかもしれない。

 20年間パラスポーツを追い続けた越智さんの言葉の重みから、そして何より、越智さんが楽しそうに覗くレンズの先のアスリートたちの姿から、そう教えて頂きました。

 越智さんのWEBサイトとカンパラプレスのHPには、越智さんが撮影したパラアスリートのかっこいい写真やパラスポーツの情報などがたくさん詰まっています。ぜひ以下のリンクからご覧ください!!

 

越智貴雄WEBサイト http://www.ochitakao.com/

カンパラプレス http://www.kanpara.com/

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

関連ワード

関連記事

この人の記事