超福祉展2020③Final~ここからはじまる『超新星爆発』後編~
- cococolor事業部長 / cococolor発行人
- 林孝裕
2014年から、毎年秋に渋谷で開催されてきた『2020年渋谷、超福祉の日常を体験しよう展(以下:超福祉展)』は、東京オリンピック・パラリンピック開催予定だった今年を最後の開催とし、幕を閉じました。オンライン配信をメインに実現されており、こちらのリンクから一部を除き視聴ができます。
http://peopledesign.or.jp/fukushi/
参加者、出展者、主催者の三者の視点で、お送りしてきたシリーズ記事「超福祉展2020」。今回は、主催者の視点を通じて振り返る、シリーズフィナーレの後編です。
(前編はこちら)
■『超福祉展』はどこへ行くのか?
人のチカラ、人から人へ
前編では超福祉展ならびにNPO法人ピープルデザイン研究所(以下:PDI)に関わるナカの人たちが、その中心で厳密さに依らないアバウトでインクルーシブな求心力によってつながり合っているという事について話を聞くことができた。
では、そうした超福祉展がその先に見るものは一体どのようなものなのだろうか。
林:「超福祉展を通じてつながりを深め、拡げ続けてこられている皆さんですが、ピープルデザインという人という視点に立ったものが実はまちづくりをテーマとしているというところがまた面白いと思うのですが、そこにはどのような思いがあるのでしょう。」
須藤:「ピープルデザインを掲げる前から一貫しているところがあって、それはやはり鳥羽君もそうですが僕自身も息子の障害という個人的な課題から始まっているという事で、障害にしても、認知症にしても、LGBTQや子育て家庭にしても、コミュニティやカルチャーなどという前に、それぞれひとりの人としての課題に端を発してくる。そうした時に国や企業は助けてくれなくて、やはり人の力が最後の拠り所になると考えているんです。そうした時に、本やテキストから得られる“ブックスマート”ではなくて、“人から人へ”、送り手と受け手の関係で伝えていくということになっていくと考えています。
その一つの象徴が鳥羽君で、彼が今年提案してくれてやったのが、ボランティアスタッフをどんどん僕のところに連れていくからそれぞれ話をしてくれと言うんです。」
鳥羽:「今年はオンラインがメインという事もあって結構時間が空いていたんですね。せっかく参加してくれている学生たちにも何か持ち帰ってもらいたいと思って、僕自身が須藤さんから多くを学んだので、できるだけ直接話す機会をつくりたいなと思いました。それで、それぞれプロフィールを見て、大学生とか高校生の中からひとりひとり連れて行って、この子はこういう子なので話をしてくださいとお願いして、それぞれ1時間くらい話をして頂きました。」
須藤:「みんなそれぞれテーマは違うんだけれども、一つ共通して言っていたことは、一日も早く日本の外へ出ろという事。井戸の外には全然違う景色があるよと。ダイバーシティだったりインクルージョンだったり、福祉についても、自分の就職だったり人生だったりとどんな風につながっていくかというのを体験する醍醐味やいろんな答えががそこにはあるっていうのをお話していました。」
2017年にボランティア統括をされた田邊さん(右)からバトンは受け継がれた
次世代キテルな!
鳥羽さんを筆頭とする大学生、高校生まで含むボランティアの学生たちやPDIのプロジェクトで交流を持つ中学生たちとも様々な対話をしていく中で、須藤さんは日本の「次世代」をどう見ているのだろうか。
須藤:「一言で言えば、次世代キテルな!っていう感覚ですよ。特に中学生、高校生はすごい。大学生でギリギリというくらいの感覚です。もちろん僕が見えているのは2:6:2というバランスはどうしてもあるから、その先頭の2かもしれないですけど、それでもキテル。
まずは現状を本能的に理解している。大人の都合によって隠されている部分があっても、このままじゃいけないという事がなんとなく分かっているんです。さらにそのために自分が主体的に何をやりたいのかという事を合っているっているかどうかは別にしても、ちゃんと言語化できる。不都合な部分をごまかさずに直視する姿勢ってイノベーションの入り口じゃないですか。その部分では大人たちよりもよっぽど可能性を感じています。
広がりもあると思っていて、超福祉展に来る人達も鳥羽君たちが参加してくれた2017年以降確実に変わった感じがありました。」
鳥羽:「2:6:2の話でいうと、真ん中の層まで、もしかしたら後ろの2の層の人たちも入ってきているじゃないかという感じがしています。」
岡部:「2018年のオープニングに田中さんと、なんか雰囲気が変わってきましたねっていう話をしてたんです。すごくいい意味でカオスな状態を受け入れられるようになっていて、福祉に興味があるとかないとか関係なく、それがすごく超福祉展らしい雰囲気というものになっていったんです。」
自分のナカミに気付き合い、あらためて次に進んでいく
座談会の最後に、この超福祉展のレガシーとしてこれから何をしていくのか、また次世代にバトンを渡すのであればそれをどのように支援していくのかについてそれぞれにお話を伺った。
岡部:「先ほどの話に繋がりますが、自分にイメージできる範囲では、イベントの形で達成できそうなことはやり切った感覚があります。なので、ここでの学びを踏まえて、改めて何ができるか、実践していきたいと思っています。福祉が、という話を超えて、自分が思う美しさはその先にあると思っています。」
センス:「僕も昔自分で作ったフィロソフィーに沿ってアートワークを続けてきたんですけど、それをやっぱり続けていこうという事を再認識した感じです。福祉っていうよりも人間の営みとしての幸せっていうのが僕のアートのテーマなんだけど、さっきみんなで共有してきたっていうあり方みたいなものも、やっぱり目標っていうのは大きなものでいいじゃんって思っていて、そうしていった方が大体のベクトルは的に入ると思うんです。次世代のアーティスト達もそういう感覚の人が意外と多いし、アプローチはどうでもよくそうしていったほうがみんなそれぞれ楽しめると思うので、次世代にも自由に突っ走ってもらう為の応援は自分自身のアートを通じてやっていきたいと思っています。」
布施田:「運営を通じてたくさん気づきや学びがあったんですけど、まだまだ学んでいきたいと思えることがあるなと感じていて、ずっと関わっていきたいと思っています。私は埼玉に住んでいるんですけど、こっちの人に言っても超福祉展って全然通じないし、さっきの2:6:2で言うと先頭の2割のその中の1割とかしか通じないかもしれないというギャップを感じています。それをどうにかして日本中世界中のどこに行ってもこのアタリマエを本当のアタリマエにしていきたいと思います。その為には自分の靴づくりを通じても、障害とかそうした視点を入れることで、障害者だけじゃなくて、誰にとっても便利でカッコいいものってもっといろいろつくれるんだということを見せていきたいです。子どもたちの教育みたいなところにも関わって行けたらと思っています。」
2020年オンラインでのシンポジウムを回す布施田さん(右から二人目)
布施田さんが事業主として展開する商品
IMUAは2020年度のグッドデザイン賞を受賞した
須藤:「スコープとしては二つありまして、一つはこの超福祉展でも作られていった顔の見えるコミュニティが複数生まれてきているんですが、そういう共同体を外とつないでいきたいと思っています。変えていくのではなく、つくっていったほうが早いので、その為に日本の外に、具体的に言うとフィンランドやオランダ、ニュージーランドなんかとコミュニティ同士をつないでいって、人間のブロックチェーンみたいなものをやっていこうと思っています。もう一つが、次世代に委ねるという事。計画経済の逆の立場としてのランダムや、AIが計算できない、ひらめきや思い付き、これを次世代を信じて委ねていくという事をやりたいなと思っています。」
委ねるピュアな大人たちと、委ねられた次世代プレイヤー
このバトンリレーを最後委ねられた次世代としての鳥羽さんに渡してみた。
鳥羽:「え、どうしようかなぁ。今年一番の難問ですねぇ。僕自身の大学生活すべてがピープルデザインだったと言って間違いないので、今後はそれを如何に次のステージに活かしていくのかというのがミッションではあると思っています。その時にやっぱり超福祉展などの非日常のイベントとしてのワクワク感は大事だなと思っているので、それをつくりながら、あとはいかに日常に落とし込んでいく事ができるかの方法論を考えたいと思っています。超福祉展で出会った本当にいろいろな方との出会いを活かして、障害があってもなくても、誰もが自分の手で自分の住みやすいまちをゼロからつくっていけるようにしていきたいと思っていて、そんなことをやっていくこれからになるんじゃないかと考えています。」
須藤:「なんか普通だな。もう一掘りしたほうがいいんじゃない(笑)。」
渡ってきたバトンに焦る鳥羽さん
岡部:「でも鳥羽君みたいな、まだはっきりはわからないけど可能性がある人が、こんなにコミットするってことは単純にすごいことだなと思っていて、僕もセンス君が言うならって入ってきたんだけど、そうやって立場とか組織とかそういうことを超えて、誰が何を言っているのかっていう事をちゃんと受信できるセンサーをみんなが持ち合わせるってことで結構なんでも解決しちゃうんじゃないかなって思います。」
鳥羽:「僕一人では何もできないので、今後一緒に動いていくであろう同世代の人たちに広げていきたいなっていうのはすごくあって、3年間で少しそうしたこともできて自信にもなったので、今後はやっぱりそうした仲間たちと一緒にこれからの未来をつくっていくという事についてはワクワクしているっていう所ではあります。」
須藤:「でもきっと、鳥羽君は本当にそういう風に思っていて、本気で動いていて本気で今後も動こうとしているから普通の言葉に聞こえちゃう、“本物のプレイヤー”なのかもしれないね。」
2020年の最後の超福祉展は、「集え、超福祉プレイヤー」というコピーで締めくくられている。そしてこの座談会も、まさにプレイヤーからプレイヤーへのバトンリレーで締めくくられた。
バトンを渡した方も、渡された方も、双方プレイヤーとしてさらに加速していく事に疑いはなかった。
「集え、超福祉プレイヤー」というコピーで超福祉展は締めくくられた
■『超新星爆発』のような、次の世界の生み出し方
このナカの人たちの座談会を通じて、印象的だったことをまとめると、そこにはいろいろなヒントが隠されているのではないかと思う。
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本質的なナカミは緻密に定義されたものではなく、みんなの幸せや平和を望む思いなど、きっと多くの人の中にある、多様なものを包含することができる大きくて“アタリマエ”のこと
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そのアタリマエのことに対する向き合い方、あり方を共有し合う、しかしバラバラな人々が、人と人との対話を通じて色々なところから自然に集まっていくその際には、1%でも重なり合う部分があれば互いの違いも受け入れ合い、共鳴し合う“インクルーシブなマインド”を持ち合わせている
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どこか奥の方で共鳴しあう、外側はゆるい共同体の中で、それぞれは自分のナカミに“新たな気付き”を得ながら、自分としての成長をしつつ、その気付いたナカミをもって周囲の共鳴する仲間たちの“新たな気付き”を作り出していく
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そうした“営みが連鎖”していくことで、最も深い部分で共有するものを持ち合わせた人びとが、ゆるく広くつながり合い、そこからそれぞれが“自由に”もう一度それぞれの方向に加速をはじめていく
超福祉展とは、そんな流れだったのではないかと感じた。
ダイバーシティやインクルージョン、福祉、障害、そうした難しいテーマがその本質だと思われがちだが、超福祉展はそこを超えているのだと思う。
専門家が作り出した、崇高で難解な概念を経典として理解させる、受け入れさせるというものではなく、誰しもが本能的に目指したいと思える、大きくてポジティブな世界観を“アタリマエの世界”として中心に置きながら、その“魅力をピュアに表現”することで、いろいろな人が気軽な興味を持って集まって来られる“インクルーシブな求心力”を作り出す。
そうしてそこで“楽しみながら蓄えられたエネルギー”が起爆剤となり大爆発を起こすとそこに集まっていたものがもう一度、“起点を同じにしながらそれぞれの方向に”向かって“自由に”飛び散っていく。
それはまるで、宇宙のある所にチリが集まって星が作り出され、星としての成長を続け、その一生を終える際に大爆発を起こす際に最も光り輝くとされる「超新星爆発」のように思えた。
「超新星爆発」は、その名の通り宇宙に突然新しい星が誕生する事を超えるほどの光を放つそうだ。それは星の一生の終わりなのだが、実はそこから飛び出す無数の元素が次の星や生命体の元となると言われており、この地球も、そして私たち人間もそうした元素を受け継いでいる、“星の子”なのだと言う。
“UNITE” by sense 本稿に寄せて(前編のタイトル画に使用)
The Blue Love by sense + KAZ 本稿に寄せて(後編のタイトル画に使用)
7年間の最後を飾った『超福祉展2020』。
新型コロナウィルスの影響で、本来は予想もしなかった終わり方になったように見えるかもしれない。しかしながらその場が果たすべき役割は既に終えたのだとナカの人たちは実感していた。
そこで育まれた時間や、繋がり合った人と人、そしてほんの少しでもその世界観を垣間見た全ての人たちは、言葉にできない何かを共有して再び大爆発を起こし、新しい世界をつくっていく“星の子”を拡げていく。そうしたステージに移されたのだ。
「個々のカラー」を輝きとして、「ここから」始めていくというコンセプトの下で超福祉展とほぼ同時期の2013年から活動してきたcococolorも、その一元素として、また次の世界をつくる“星の子”のひとりとして、少しでも役に立てていければとあらためて考えさせられた次第だ。
そしてここまで読んでくださった皆さんが、次の“星の子”となって新しい世界を作っていかれることを信じてやまない。
超福祉展2020最終日、運営メンバー、ボランティア、クリエイティブチームのみなさん
■超福祉展のナカの人たちプロフィール
須藤 シンジ
NPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事
“心のバリアフリー”をクリエイティブに実現する思想や方法として、「ピープルデザイン」という概念を提唱。国内外の教育機関との連携や渋谷区や川崎市の行政と連動したマチづくりまで、幅広い活動をしている。
坂巻 善徳 a.k.a. sense
美術家 クリエイティブ・プロデューサー 作品はこちらをご覧ください
美術作家、ライブペインターとしての活動を軸に店舗内壁画、グラフィックデザイン、プロダクトアートディレクション、クリエィティブコンサルティングなど、様々な分野で多数のコラボレーション作品を制作。その作品を通して世界に<Peace & Happiness>を送り出し続ける。超福祉展へはTHE BLUE LOVE by sense + KAZとして参加。cococolor編集部美術家。
岡部 修三
建築家 upsetters architecs主宰
2004年よりupsetters architectsを主宰。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインと、ビジョンと事業性の両立のためのストラテジデザインを行う。2014年よりブランド構築に特化したLED enterprise 代表、グローバル戦略のためのアメリカ法人 New York Design Lab. 代表を兼任。JCDデザイン賞金賞、グッドデザイン賞、iFデザイン賞など、国内外での受賞歴多数。
布施田 祥子
株式会社LUYL 代表
NPO法人ピープルデザイン研究所 運営委員
当事者目線で「下肢装具にも履けるオシャレな靴」企画、開発、販売を手掛け、障害のある無しに関係なくオシャレが楽しめるセレクトショップ「Mana’olana」を運営。教育機関、医療機関などでも講演活動を行う。2020年度グッドデザインを受賞。
鳥羽 和輝
慶應義塾大学総合政策学部4年
NPO法人ピープルデザイン研究所 運営委員
ダウン症の弟の兄として、選択肢の開拓をテーマに掲げ、人と人とがつながり、誰もが心豊かに暮らす、多様性に寛容な社会の実現に向けた創造実践に取り組む。2018年よりPDI運営委員として、複数プロジェクトの企画・運営を担当。
田中 真宏
NPO法人ピープルデザイン研究所 ディレクター
文化服装学院卒業後、スノーボードインストラクター、アパレルの販売員・企画・デザインを経て、2009年にネクスタイド・エヴォリューション社に入社。2012年、PDI設立と共に運営メンバーに。現在はディレクターとして、超福祉展などのイベントや、障害者の就労体験プロジェクトなどの企画から運営までを担っている。
そして、
これからのナカの人になるのかもしれません。
取材・執筆 林孝裕
グラフィック 坂巻 善徳 a.k.a. sense / sense + KAZ
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