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Apr.

2024

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3 Dec. 2015

黒地に白 –弱視者の視点から開発された手帳、ポイントはデザイン性と使いやすさ-

皆さんは来年の手帳は、もう手に入れましたか?

黒色の紙に、白で描かれた罫線。シンプルながら上質な大人の雰囲気を感じさせるこの美しい手帳の名前は「TONE REVERSAL DIARY」。ネット通販の他、全国の東急ハンズ売り場でも展開され、雑誌などのメディアで紹介されるなど人気を博していますが、実は、ある目的のために開発されたものでした。

IMG_0065(アーチャレジーが開発・販売するTONE RESERVAL DIARY 2016:1980円(税別))

開発したのは、共に視覚障害を持つ大学生の安藤将大さんと、浅野絵菜さん。「点訳会」という大学間サークルで知り合った二人は、自分たちの経験を、視覚障害や日常で不自由を感じている人たちを支えることに活かしたいと、1年前にビジネスコンテストに挑戦して見事入選を果たし、今年2月に株式会社アーチャレジーを創業しました。

視覚障害者というと、まったく見えない「全盲」の人たちをイメージする人が多いかもしれませんが、他にも、視力が低かったり、視野が狭かったり、暗い場所や眩しさが苦手など、いろいろな「見えにくさ」を抱えた「弱視(ロービジョン)」と呼ばれる人たちがいます。しかし、そういった人たちの存在は、外見上すぐには見分けがつかないこともあり、一般にはあまり理解されていません。そして、弱視の人たちを対象とした製品やサービスも、ほとんど存在していないのが実状です。

「弱視というものが社会的にあまり認知されていないことから、不便さを周囲の人と共有することができず、困っている当事者も多いのです」と、アーチャレジー代表の安藤さんは語ります。

そこで考え出されたのが、この手帳です。黒板のように、黒地に白で書いた文字は、一般的に読みやすいと言われています。弱視者に限らず、多くの人にとっても使いやすく手にしたくなる商品を提供することで、弱視当事者以外の人が「弱視」を知るきっかけにもつながる。商品の開発には、そんな想いが込められていました。

月間(祝休日を白抜き・枠で囲うなど、わかりやすさの配慮がなされている)

「オシャレで使いやすい」を入り口に

「はじめから障害者向けと限定してしまったら、一般の人たちには手にしてもらえませんし、販売先も限られてしまいます。ですから、商品を開発する時には、弱視でない人たちにも、おしゃれ、使いやすそうという気持ちから手にしてもらえる手帳を意識しました」と語る、商品のデザインを担当した浅野さん。
DSC_8715(浅野さん(左)、安藤さん(右)。アーチャレジー事務所にて)

そのため、商品のキャッチにも「弱視用」とはあえて書いていません。テスト版としてリリースした2015年版手帳に添えられたコピーは「読みやすさと美しさを極めたら、黒になりました」。2016年版は更に改良を加え、デザイン性・機能性の高いものに仕上げ「誰の目にもやさしい手帳」として打ち出しました。

実際に、店頭で気に入って購入したという一般ユーザーの方から「購入後にインターネットで商品名を検索して、初めて弱視の人向けと知りました。素敵な商品だと思います」とメッセージが届いたこともあるそうです。ミルクカラーのペンを販売するゼブラ社からも「ミルクカラーで書くとおしゃれな手帳」という公認を得ました。弱視の人にとっても、そうでない人にとっても、見やすく使いやすい、デザイン性の高い手帳。ありそうでなかった製品にリピーターも多いのだとか。

高まるニーズ、対応するために

しかし、このように黒地の製品を作ることは、実は容易なことではありません。黒地の紙の製作はコストもかかりニーズも少ないことから一般にほとんど流通しておらず、印刷技術を持った業者も限定されています。そういった壁を乗り越え、継続的に生産していけるしくみをつくるため、今年はクラウドファンディングを活用して70万円の資金を集めました。
IMG_0072(個人の好みに応じてアレンジしやすいことも、ポイントのひとつ)

「2016年には障害者差別解消法が施行されるなど、社会の側にも”障害を持った人への配慮”に対応する必要性が、より強く認識されつつあります。2020年の東京パラリンピックは、障害を持った人が社会に出ていく機会の拡大にもつながるでしょう。そういった意味からも、より多くの商品やサービスを、社会に提供していきたいと思っています」と安藤さんは今後の抱負を語ります。「デザインや使いやすさで気に入り、自然に手にしてもらえるようなものを、届けていきたいです」と、浅野さん。

現在、アーチャレジーでは、大学生や社会人をターゲットとした、黒地に罫線を入れたノートを開発中だそうです。弱視者ならではの視点やテクノロジーを活かした商品・サービスの開発。それは、今後高齢化や多様化の進む社会において、大きな価値をもたらすことでしょう。皆さんもこの機会に是非、アーチャレジーの商品を手にしてみませんか?

(参考)
株式会社アーチャレジー 
TONE REVERSAL DIARY」特設サイトhttp://trdiary.archalle.co.jp/diary2016/index.html  

取材・文: co-maki/今井麻希子
Reporting and Statement: co-maki-imaimakiko

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