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Nov.

2022

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24 Feb. 2022

思いやりではなく、思い込みになっていませんか? WCW 2022セッション「CancerX働く」レポート

岸本かほり
副編集長 / ストラテジックプランナー
岸本かほり

2月16日よりスタートしたWorld Cancer Week 2022イベントレポート、今回は3件目の「【CancerX 働く】 ~がんと就労とアンコンシャスバイアス~」のレポートです。

がんになったら働けない・働かせてはいけないという思い込み

がんサバイバーの約3割は働く世代、そのうち3割は離職を検討するそうです。

働くがんサバイバーは今後も増加する見込みのため、労働者の権利を守ることに加え、企業の成長戦略・ダイバーシティ経営という視点で企業側の対応も重要になってきています。

がんサバイバーの「がんになったら、働けない。」という思い込み、企業の「がんサバイバーを、働かせてはいけない。」という思い込み。がんにはさまざまなアンコンシャス・バイアスが付きまとうことがあるようです。

本当は働きたい人と、働き続けてほしい企業の間のすれ違いをなくし、より働きやすい環境を作るためにどのようなアプローチをすべきか?行政・がんサバイバー・民間の異なる3者の視点から構成されたセッションとなっています。

 

以下4名の方が登壇されました。

高倉 俊二さん (厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 労働衛生課長)

北風 祐子 さん(電通ジャパンネットワーク 執行役員 Chief Diversity Officer / がんサバイバー)

宇都出 公也 さん(アフラック生命保険株式会社 取締役上席常務執行役員)

モデレーター:谷島 雄一郎さん(ダカラコソクリエイト 発起人・世話人 / カラクリLab. オーナー / 大阪ガス株式会社 ネットワークカンパニー 事業基盤部 コミュニティ企画チーム / がんサバイバー)

 

がんサバイバーと企業の意識差を埋めるために

厚労省の高倉さんは医師として働いていたキャリアがあり、当時治療以外の患者のくらしについてあまり配慮できていなかったという反省があるそうです。その思いから現在は、医療的な情報を企業に共有し、患者である労働者と企業と医療機関をつなげていくアクションをしています。

がんサバイバーの離職理由のデータ(独)労働瀬策研究・研修機構(JILPT)病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(WEB患者調査)2018 ⒸCancerX

【がんサバイバーの離職理由】のデータからは、「柔軟な働き方ができないこと」という職場環境の問題と、「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」といった職場の人間関係に対する思い込みが見られました。職場の人からの好意の可能性もありますが、「治療に専念してね」という言葉によって本人としては仕事を続けたくても、治療に専念するために離職に追いやられる人もいるそうです。

企業が治療と仕事の両立の取り組みをしていない理由のデータ(東京都がん医療等に係る実態調査(H31))ⒸCancerX

一方、【企業が治療と仕事の両立の取り組みをしていない理由】としては、「従業員から明確な要望がない」が1位でした。一見、無責任にも感じますが、企業側もがんサバイバーの労働者にどう対応すべきなのか?どう声をかけるべきなのか?わからないのが正直なところで、その結果、腫れ物に触るような対応をする職場も存在するのかもしれません。

労働者と企業、お互いに働きたい・働き続けてほしいのにも関わらず、アンコンシャス・バイアスによる意識差を埋められないまま、離職という別れになっている場合、あまりに悲しいことだと感じます。

この問題に対して、患者・労働者として声をあげることは難しい場合が多いため、医師から就労に関する方針・患者の要望をまとめて企業に連携する必要性があると、高倉さんは続けます。ただし、現在医療機関からそのような指示を出せているかについて、まだ対策が不十分とのことで、「働くことによって、経過も良い方向にむかう」といった医学研究データが出てくると医療側からのアプローチも進みやすくなるのではないかとの考えを示されていました。

厚労省では、労働者である患者と主治医⇔企業との連携強化のためのマニュアル作成や、「仕事と治療の両立支援ナビ」という情報ポータルサイトでの発信も行っているそうです。

辞めた人の中でも半数以上が再就職したいという希望を持ち、実際にそうしている人が多いというファクトからも、患者である労働者・企業・医療機関間の連携を強め、望まない離職者が増えない仕組み作りが必要だと感じます。

 

もしも、チームメンバーががんになったら?

「社員の多様性をプラスの力にしていきたい。」そう語るのはご自身もがんサバイバーである、電通ジャパンネットワークの北風さん。2017年乳がんに罹患。がん罹患以降、働き続けられるかどうかは最初の上司の対応に左右されることや、安心してがんについて話をできる場所がないことを実感したそうです。

最初にチームメンバーからがんになったと申告されたときに、マネージャーがチームメンバーに対してどのような対応をするべきか?についての“バイバイバイアス研修”を行っています。

研修で使われているスライドⒸCancerX

ここでは、実際にがんサバイバーが言われることの多い言葉が紹介されました。この研修の存在を知らなければ、自分も言っていたかもしれない言葉もあり、ドキッとします。

例えば、「おまえの代わりはいくらでもいるんだから、ちゃんと休め。」は、本来的には配慮している言葉ですが、がんサバイバーとしては存在価値を否定されたり、居場所を喪失したような気持ちになったりする問題があります。当事者と非当事者間のマインドギャップは、変えるのはむずかしく、良かれと思っての思いやりが裏目にでることもあります。

「がんの申告をされたとき、大切なのは何か答えを出すのではなく、一旦受け止めて、一緒に考えること、一対一の基本的な人間関係ができなければならない。」

北風さんは続けます。

「マネージャーには、自分の部下に幸せに働いてもらう義務がある。それを徹底しないといけない。がんになった人に対して腫れ物に触るように対応するのではなくて、目の前で悩んでいる人がいた時に自分だったらどう対応するか?という問題として考えるべき。」

シンプルですが非常に本質的なこの考え方はがんサバイバーのみならず、育休明けの社員や、介護をする社員など、さまざまな背景を抱える人との付き合い方にも共通しています。

 

社会全体でがんのイメージを変えたい

宇都出さんは胃がんを専門とする外科医としてのキャリアがあり、癌研究所病理部を経てがん保険を扱うアフラックへ入社されています。

アフラックは1958年に世界初のがん保険、1974年に日本初のがん保険を発売開始。当時は、がんは不治の病気であるという固定概念があり、過去半数以上の患者にはがんという病名を伝えなかった時代だったそうです。時代は大きく変わりましたが、がんという言葉による刺激が強さはいまだ根強い状況です。

がんを経験した社員のコミュニティ「All Ribbons」ⒸCancerX

アフラック社内では、がんを経験した社員のALL Ribbonsコミュニュティを立ち上げ、3本の柱でプログラムを整備、社内でも大変重要な役割を果たしています。ピアサポートはもちろんのこと、会社の両立支援制度についても彼ら自身が積極的に意見し反映されています。また、がん保険という会社ならではのビジネスとしての付加価値増大にも、積極的に寄与しているということです。

アフラックは社内外でがんサバイバーに対する取り組みを行っていますが、宇都出さんは、社会全体でいろいろな方面から、がんに対する言説を変えていかなければならないと述べています。

 

骨折した人がいたら配慮をする、がんだって同じ話

クロストークの中で、がんと骨折を対比した話がありました。

職場に足を骨折した人がいたら、エレベーターを譲ったり、一緒に行くお店に段差がないか気を付けたりします。指を骨折した人がいたら、キーボードが使えるか確認したり、何か仕事で手伝えることがあるか聞いたりします。骨折の場所や種類・程度によって、必要なことを相手に聞いて配慮すべき点を確認するのは、普通のアクションとして行います。

しかし、それががんになった瞬間に、同じ頭の使い方ができなくなります。「果たして聞いてもいいのだろうか?踏み込んでいいのだろうか?」という懸念が頭によぎるからです。この独特の遠慮が、過去のがんイメージから形成されたアンコンシャス・バイアスなのだと気づかされました。

 

共通解ではなく、それぞれの最適解を。

セッションを通じて、働くがんサバイバーの中にも、働き続けたい人、治療期間中は働く時間を短くした後完全復帰したい人、離職して治療に専念したい人等、価値観の多様性があることを実感しました。もし、職場でがん申告を受けたとしても、まず自分の目の前の人はどう考えているのか?どうしたいのか?を、受け止め話し合うことで、アンコンシャス・バイアスによって生まれる両者の意識ギャップは縮めることができます。思いやりには共通解はないことを認識し、その時に応じた最適解をお互いに探していくことが大切です。

 

がんサバイバーと企業と医療機関を「かけあわせる」

労働者と職場の意識ギャップは、思いを伝えあうことで「かえられる」

そして、がん=働けない・働かせてはいけないという世の中のイメージを「かこにする」。

社会の様々な価値観がここ数年でも大きく変化しているように、がんについての社会的価値観も変化させることはできる、そんな勇気をもらえるセッションでした。

取材・文: 岸本かほり
Reporting and Statement: kitumoto

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