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Apr.

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28 Apr. 2020

いま、「うち」からできること。 #うちで踊ろうからはじめてみよう

伊藤亜実
cococolor編集員 / ライター
伊藤亜実

 cococolor読者の中には、コロナ禍でも、いつもと変わらず、あるいはいつも以上に過酷な状況で働いているエッセンシャルワーカーの方々もいらっしゃると思います。この場を借りて、心から、お礼を申し上げます。毎日、本当にありがとうございます。

4月27日現在、全世界で約21万人もの人の命を奪い、今なお猛威を振るっている新型コロナウィルスは、私たちの生活を一変させてきました。私たち「パラスポーツチーム」はこれまで、パラスポーツの大会や選手、関係者への取材を通して、ダイバーシティの面白さや価値を、お伝えしてきましたが、スポーツ大会やイベントへの取材は、当面の間お休みいたします。

それでも、こんなときだからこそ伝えられることを考え、各々が、このアンダーコロナの世の中をダイバーシティ的な視点から切り取り、リレーコラム形式で発信していくことにしました。

この議論を始めてみて、cococolorライターである私たち自身が、それぞれに多様であるということを再認識しています。

身近な人や自分自身と、ゆっくり向き合い、味わっていくこと、違いに気づく面白さを、読者の皆様にも、楽しんでいただければ幸いです。


(筆者のデスク。モニター、ノートPC、スマホの3スクリーンが、今の私の世界。)

 

さて、ゆるやかなリレーコラム1回目の今回は、星野源さんの「#うちで踊ろう」から考えたダイバーシティ考、お送りしていきます。

 

様々なメディアでひっぱりだこの人気シンガーソングライターであり、マルチタレントの星野源さん。

私自身は、実はもともとファンというわけではなかったのです。

ところが、4月初旬のある日。「東京もここ数日中にロックダウンするらしい」という噂やチェーンメールが回り、スーパーではトイレットペーパーや食料品の品切れが続くようになった頃でした。殺伐とした気持ちになりそうだった私の目に、「私もデュエットしてみました」という、星野源さんの動画に重ねて、ある女優さんが歌っている動画が飛び込んできました。それは、なんとも、ゆるくて、温かくて、幸せな空気を帯びていて。誘われるように、そのまま自然と星野源さんのアカウントに訪れたのです・・・が。

そこには、有名人もそうでない人も、日本中の#うちで踊ろう動画が。世の中にはこんなにもクリエイティビティに溢れた人がたくさんいるのか、と笑ったり、驚いたりしているうちに目が離せなくなり、今では、毎朝欠かさず、新作をチェックしています。

完全にハマっております。

 

ご存知ない方のために、「#うちで踊ろう」とは。

星野源さんのインスタグラムアカウントにて、4月3日に公開された、新曲の動画であり、その動画に合わせて、誰でも一緒に歌ったり踊ったりして投稿できる、参加型のキャンペーンです。ただし、「動画投稿キャンペーン」という言葉では表現しきれないほどの、拡がりと、盛り上がりを巻き起こしているのです。

4月27日現在、インスタグラムでは「#うちで踊ろう」だけでも5.8万件の投稿、YouTubeでは408万回再生。ユーザーのボランティア翻訳により38か国語の字幕がつき(そんなにたくさんの言語に対応している動画、他にあるんだろうか)、世界からも参加動画が続々と上がり続けています。SNSで始まりながら、その話題の大きさから、マスメディアでも取り上げられ、4月15日には楽曲が正式にリリースされ(音源は、星野さんが自宅でiPhoneで撮った動画からの切り出し)、音楽やダンスが好きな人はもちろんのこと、政治家からお笑い芸人、市井のお年寄りまで、多様な人が参加している、一大ムーブメントになっているのです。

 

このムーブメントがここまで広がり、みんなに愛されているのはなぜなのでしょうか。星野さんがもともと人気者だから?著名人が次々に参加したから?

そういった要素はいろいろあれど、私は、このムーブメント拡大の根底にあるのは、星野さんご自身と、このコンテンツが持つ、3つの魅力が、ポイントだと思っています。

 

 

1つ目は、「想像豊かであること」。キーワードは、 Imaginationです

タイトルが「家で踊ろう」ではなく「うちで踊ろう」であることに注目です。一部の人は、この楽曲を外出自粛のキャンペーンソングのように捉えてしまったようですが、ここに込められているのは、「家にいよう」という一方向のメッセージではありません。英語タイトルは、「Dancing On The Inside」。Homeではなく、Insideと言っているのがミソです。

この表現は、「家にいようといわれても、様々な環境や事情によってできない人」への想像力が生んだものです。エッセンシャルワーカーはもちろんのこと、どんなに家にいたくても、職場や家庭環境や、その他様々な理由からそれがかなわない人たちが、疎外感を持たずに済むように、仕事の後の息抜きに見て楽しめるように、自分も参加できるように。あらゆる人を幸せにしたいという気持ちが込められています。

家にいても、いなくても、自分の「うち」でできることを楽しもう。そうか、だから平仮名なのね!HomeではなくInsideなのね!と、思わず膝を打ちたくなる。そういう表現としての面白さになっています。

人にはそれぞれに置かれている環境がある。そのことを前提に、豊かな想像力働かせたからこそ、誰でも心から楽しんで参加できる、拡がりのあるメッセージになっていますし、何よりも、より深みがあり、魅力的なコンテンツになっているのです。

 

2つ目は、「アクションを誘うこと」。 Encouragingであることが大切です。

星野さん自身が語るように、「うちで踊ろう」は、コンテンツであると同時に人々が参加し、楽しむことのできる「仕組み」になっています。

新型コロナウィルスの感染を防ぐために、私たちは外出や営業を自粛する日々を送っています。ともすると、できないこと、してはいけないことを列挙していく、制限思考に陥ってしまっていたことでしょう。

ところが星野さんは、自分の提供した映像を活用して、新しいコンテンツを創ってほしい、と、インスタグラムで投稿します。緊急事態宣言直前です。こんな制限だらけのときに、「新しいものを生み出せ」というのです。

なんでもいい。歌ってもいいし、踊っても良い、描いても良いし、ぼやくだけでも良い。

とにかく、自分にできることをやれば良い。行動を起こして、楽しむことに意味がある、と、すべてのアクションを肯定しています。

その結果、この期間でないと生まれなかった、夢のようなコラボレーションや、なんとも言えないゆるくて楽しい表現が生まれています。できることからはじめてみたら「いまだからできること」になったのです。

 

3つ目は、「双方向であること」。 Interactiveとは、まさにこのこと。

「誰かこの動画に、伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」という、なんとも謙虚な呼びかけで始まったこのムーブメント。iPhoneひとつで撮った動画とはいえ、アーティスト自身が、ユーザーに自由に加工して使われることを想定してつくるというのは、珍しいのではないでしょうか。(インスタグラムの尺に収まるように、長さも1分にしたというのだから、仕組みとしての意図を隅々に感じます)

そして、もう一つ、ユーザーの投稿数を加速度的に成長させた仕掛けが、星野さん自身が、投稿された動画やコンテンツを(おそらく)すべて見て、ピックアップして、再度コメントを付けてストーリーに再投稿していることです。

星野さんが見てフィードバックをくれるならば、1億総クリエーターの時代、もともとのファンでなくとも、創作意欲が掻き立てられるもの。思いもよらないものであっても、発信された思いを受け止め、咀嚼して応じていく。相手と自分を、一対一の存在として扱い、その関係性の下でコミュニケーションする。距離が離れていても、デジタル上であっても、そういった対等な相互作用は可能だし、何よりも人の心をつかむということなのでしょう。

 

 

豊かな想像力を持ち、行動を歓迎し、対話をすること。この3つの要素は、まさにダイバーシティ&インクルージョンな世界を楽しみながら生き抜いていくキーワードです。

正しい、と一般的に思われることでも、いろいろな立場の人の視点に立って、想像してみましょう。そうして工夫することで、より多くの人に伝わり、拡がりのあるメッセージへと昇華させられるでしょう。

「タブー」や「やってはいけないこと」に気を取られすぎずに、その制限を、新しいスポーツのルールのようにとらえて、できることをやってみる、その行動力や挑戦を賞賛しましょう。制限の中でやってみたからこそ、ユニークなものになるかもしれません。

自分とは違う特技を持った人、今までの常識が通じない人との相互作用を怖がらずに、積極的に取り入れてみましょう。思いもよらなかった、新しい何かが生まれてくるのではないでしょうか。

 

#うちで踊ろうは、生みの親である星野源さんご自身もびっくりされているくらい、大きくて、多様で、面白い、今までになかった一大ムーブメントになっています。

自分で投稿した人たちはもちろん、私のように日々ストーリーを楽しみに見ている133万人は、きっとこのムーブメントの根幹に流れている、インクルーシブな空気に、無意識のうちに共感しているのではないでしょうか。わざわざ、それってダイバーシティだよね、と言わずとも、習慣や心地よい社会の姿、として定着していくことが、ダイバーシティ社会浸透にとって大事だと思っています。

この心地よさが、未来の社会をつくる私たち一人一人にとっての、ひとつの原体験になるのではないか、そんな可能性すら、感じています。

取材・文: 伊藤亜実
Reporting and Statement: atimo

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