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Sep.

2020

interview
31 Aug. 2020

「テクノロジーが拡げる可能性を考える~WHILL堀氏×クリエイター二宮氏の対談より~」

吉澤彩香
プランナー
吉澤彩香

コロナ禍の影響で移動が制限される中、これからの移動の在り方や、手段の多様化による可能性の拡がりを様々な視点から紐解く、Mobility More Bility。今回は、起業家でありVTuber(バーチャルYoutuber)のプロデューサーでもある二宮 明仁さんと、WHILL(ウィル)株式会社でシステム開発部ソフトウェアエンジニアの堀 和紀さんの対談を通じて、新しい移動の在り方、マイノリティなテクノロジーや移動手段を浸透させていくためのヒントを探りました。

左:堀さん 右:二宮さん

■テクノロジーが当たり前になる転換点とは

WHILL社は、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、新しい移動手段として、近距離用のモビリティの製造・販売、シェアリングサービスを手掛けています。そして、製品としてのWHILLはこれまでの障がい者や歩行困難者のための「車椅子」という枠を越え、より多くの方に使用してもらえるパーソナルモビリティとして開発されました。最近では空港でも、保安検査場から搭乗ゲートへ自動運転で人を運ぶ移動のインフラとして導入が進められており、日本では今年6月、羽田空港における自動運転の実用化が世界初の取組として始まりました。コロナ禍における空港への導入は、自動運転により人との接触を回避できるサービス形態であることも大きいようです。

ただ一方で、実際に空港で利用者の様子を見ると、高齢の方々ほどWHILLの利用に抵抗があることが分かりました。「歩けない人のための車椅子」という固定概念からか、「まだわたしには早いかな」と敬遠される傾向があると言います。

新しいテクノロジーやサービスが「みんなの当たり前」になるまでに、どんな転換点があるのか、二宮さんから紹介されたのはVRを取り巻く世界で起こった変化。

今でこそコロナ禍の影響により、VRを活用した展示会やイベントが行われるなど、VRは注目され市民権を得つつありますが、VR技術が世に出てきた当初は「HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を付けて楽しむ特殊なアトラクション」というイメージが大きく、一部の人のみが使用する特殊なものという立ち位置でした。この転換点になったのがキズナアイというVTuberの登場。

©︎Kizuna AI

彼女がロールモデルとなり、VRを使うことによる「違う人になれる」「顔を出さずになりたい自分になれる」というメリットが浸透したことで、企業だけでなく個人までもがVR機材を購入しVTuberとして参入。現在、国内のVTuber数は1万人以上にも及ぶと言われています。中には男性で「女性になりたい」という願望をかなえる人も。

二宮さんが紹介した「REALITY」というアプリで、VTuber体験をする堀さん

■本質を見ること

VTuberはアバターを使うことで、容姿を気にせず自分の表現したいことを実現できることが利点。顔を出さずに、歌やトークなどを披露できる場があり、そこで他者から褒められて自信を持つことで、演じている本人が元気になったり社交的になったり、内面にも外見にもポジティブな変化が生まれることも少なくないそう。リアルでの障壁になっていたコンプレックスを超えていける、VRはそのためのツールであるという認知がVTuberを通じて浸透したことが、エポックメイキングな出来事だったのではと二宮さんは語ります。

一般的に新しいテクノロジーの登場時には、一つの固有イメージを持たれがち。このイメージをいかに拡張するかが普及へのポイントになりそうです。

例えば「バーチャル」という言葉一つとっても、「仮想の」「想像上の」「夢の」とその特性を抽象化して考えることで、イメージを拡張するアイデアを考えやすくなるのではないでしょうか。

■電動車椅子をもっと「みんなの当たり前」に

WHILL社が目指すのは、移動の物理的なバリアだけでなく、精神的なバリアをも壊すこと。車椅子というカテゴリーを越えて、かっこいい乗り物となるべく、車椅子らしくない現在のデザインに至った経緯があります。

実際のユーザーからは、WHILLを使用してから、「もっと外に出たくなるようになった」、「行ける場所がより増えた」といったポジティブなフィードバックをいただき、9割の方が、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上したという結果が出ています。
一方で、まだ利用を踏みとどまっている方へのアプローチはどうしたらいいのか。もしかするとヒントは子どもや若い人にあるのかもしれません。VRやデジタルテクノロジー領域でも流行はステレオタイプの少ない若い世代から始まることが多く、当たり前のように使う利用者が増えた頃に年齢の高い層が追随する流れがあると言います。
「新しいテクノロジーを利用することを気負わず、新しい服を着るくらいの気軽な気持ちで挑戦できるといいですね」と二宮さん。
テクノロジーを利用すること=「マイナスを埋める」ではなく「プラスを増やす/なりたい自分になれる」と発想を転換させる必要がありそうです。

例えばめがねの歴史のように、過去には「視力矯正」器具として捉えられていたものが、ファッションアイテムとして個性を表現できるためのツールとして認識され、今ではデバイスとして進化しつつあるように、電動車椅子も障害者だけでなく、自分の個性を表現する一つのアイテムとして使用するというプラスの価値を提供できるよう、WHILLが変えていきたい、そう堀さんは考えています。

これに対して二宮さんが挙げたのは、ロバート・ダウニーjr. × Limbitless Solutionsによる、少年に“アイアンマン”デザインの義手をプレゼントするというプロジェクト。(参考動画

例えばこんなプロダクトだったら、義手=腕がない人のものという概念を超えて、誰でも欲しいものになる。感性に訴えかける力のあるプロダクトや、そう思わせる表現は強い。機能面や身体面での拡張だけでなく、テクノロジーを使うことで得られる自己肯定感や満足感といった精神面に対しても考えることが大切と言えます。

VRもVTuber以前は機能面の話が主だったところから、VTuber登場以降すごく人情味のあるカルチャーに育ってきた経緯があります。移動の未来を考える時も、「効率化」がキーワードになりがちですが、ゆっくり進むことを情緒として捉えたり、「移動の楽しさを拡張する」存在としてWHILLを捉えたりといった視点の切り替えが、マイノリティな乗り物として分断されている壁を突破する上で必要になるでしょう。

新しいテクノロジーに出会ったとき、まずは受け入れ、楽しもうとする姿勢を大切に、今後もWHILLをはじめとする新しい移動手段の動きを追っていきたいと思います。


対談者プロフィール:

【二宮 明仁(にのみや あきひと)】
グリー株式会社でのSocial gameプロデュースなど経て、2016年にNinolaboを設立。また、共同創業したFictyではKMNZ(ケモノズ)を筆頭に、VRのテクノロジーを使ったVTuber(バーチャルユーチューバー)をプロデュース。アーティストの楽曲やオリジナルグッズ、ファッションなどのクリエイティブも手掛ける。

 

【堀 和紀(ほり かずのり)】
サイバーエージェント、メルカリ、ソニーでの経験を経て、2018年よりWHILLに参加。現在はシステム開発部で自動運転の経路計画などを担当するソフトウェアエンジニアとして活躍。

取材・文: 吉澤彩香
Reporting and Statement: ayaka

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