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Apr.

2024

interview
9 Oct. 2018

ネパールに学校をつくる夢が支援してもらえる理由。それは「かわいそうだからではなく、面白そうだから」。

江口露美
ソリューションプランナー
江口露美

異色の経歴をもちながら、笑顔の絶えないネパールの青年がいる。

それが、ライ・シャラドさんだ。

ライさんは、ネパールの田舎コタン郡のドルシム村で生まれた。毎日1時間半かけて水を汲みに行っていた10歳の少年は、ネパール全国から毎年若干数しか選ばれない特待生に選出され、奨学金制度によって首都カトマンズにある名門全寮制学校に進学した。その後来日し、立命館アジア太平洋大学を卒業。現在は、ソフトバンク株式会社で働く傍ら、NPO法人YouMe Nepal(ユメ ネパール)の代表も務めている。

7年前、故郷にYouMe Schoolを建ててから、その輪はどんどん広がり、次から次へと新しいチャレンジをしているライさん。将来はネパールのリーダーになりたいと語る彼のパッションは並外れたものではない。その情熱とモチベーションはどこからくるのかインタビューで迫ってみた。

ライさん

ライ・シャラドさん

国に恩返ししたい、でもどうやってやればいいの?

ライさんがネパールに最初に学校を建てたのは2011年、大学4年生の時。

「国に恩返しがしたい。でもハジメの一歩をどう踏み出すかわからなかった。」と振り返るライさんは当時、日本の大学で国際協力や世界情勢を勉強。卒業後、福岡の中学や高校で英語の先生として教壇に立っていた。日本の教育現場での体験を通じて、教師側のやりがいや困難を見つめることができたという。

全国で均一の質の教育が受けられることや時間通りにカリキュラムが遂行されることなど、日本では当たり前とされる風景がネパールでは違う。ライさんの直面した事実のひとつに、ネパールのある中学校で、卒業の際に数学/科学/英語の学習到達度が足りず高校進学が出来ない生徒が多数出たということがあったという。

これはつまり、教育の質が低いことを物語っているのだという。ライさん曰く、ネパールの公立学校の教員は教えることに対する責任感が低かった。教員の遅刻・欠席は当たり前。ライさん自身も子どもの頃、学校に行っても先生が来なくて、一日遊んで過ごした経験があったという。そんな経験から、日本の教育システムやソフト面など、ネパールの教育環境とあまりに違うことに感銘を受け、「ネパールには水準の高い教育が必要だ」と決心。故郷のコタン群に村で集めた竹の柱とトタン屋根で学び舎をつくって、小さな学校をスタートさせた。

ネパール③

1校目のコタン校(当時の写真)

ネパール④

YouMe Schoolは、たった8人の生徒から始まった(当時の写真)

ネパール⑧

コタン校はその後資金を得て大きく改築した

なぜそこまで出来るのか、根源にある気持ちは「ネパールのことが大好きだから」

物心ついた頃から「ネパールのリーダーになる」という目標を掲げてきたライさん。

それを支えるのは、「ネパールが幸せになってほしい」という揺るぎない祖国愛。その為に、学校をつくり、政治家を目指すというのは、あくまでも手段の一つに過ぎない。ネパールのためにやっている活動すべてがネパールのためになると信じているからだ。

愚問かもしれないが、なぜそこまで母国を愛せるのか?と聞いてみる、「ネパールを好きな理由に理由はない」と回答が返ってきた。「小さい頃から、母国を家族と同じように想っていた。大人になるにつれて、世界にはさまざまな国があることもわかり、相対的な評価も知るようになったが、そのたびに自国をもっとよくしたい、ハッピーにしたいという想いが強くなる。」

ご自身の人生を、海に向かって流れている川に例えるライさん。

海にいくために手段は問わない、ときには無意識に流されていることもあるが、ゴールは変わらない。だからこそ、手当たり次第でどんなことにでもチャレンジする。そのすべてが、「ネパールを幸せにすること」に繋がっているならば。

ネパール⑦

日本で活動を通して出会った人達が示してくれたターニングポイント

来日してからは様々な人のサポートを得てきたライさん。今でも多くの人からのサポートを得て活動を続けている。その中で印象的な価値観を与えてくれた人がいる。

ほぼ日の糸井重里さんだ。

糸井さんの『かわいそうだからではなく、面白いから』一緒にやるよという価値観が特に印象的だったという。ネパールの子ども達の目がキラキラしているから面白くなりそうという期待を受けることでライさん自身のモチベーションも上がり、新しい魅力を見つけてくれる人たちとの出会いが日本におけるターニングポイントになったのだと振り返る。

ライさんの活動に関わるサポーターの7割が、この活動に求める条件は、「特にない」そうだ。人々が無条件で応援してくれる理由は、「大きな夢はある」、「実現するための実行力がある」、「ウソがない」ということと、「この人は応援しなくても、なにがなんでも成し遂げるだろう」というところが、一番の共感ポイントなのかもしれない。

「どんなことにチャレンジしても、夢への道のりだと理解してもらっているからこそ、トライ&エラーを見守ってくれている」と、ライさんは話す。

ネパール②

2校目となるモラン校。今では2校合わせて360人の子ども達へと広がった。

 そんなライさんは現在、今まで培ってきた教育の大切さ、楽しさを“ネパール全ての公立学校”へ広げられるように、インターネットの力をつかったオンライン教室の仕組みをつくるべく、更なるチャレンジをしている。

夢の共感力は、人の心を動かし、行動を掻き立てる。

「ネパールの良いところは、笑顔になるために理由が要らない」と教えてくれたライさん。いつでもどこでもどんなに大変なときでも、そこは笑顔があり、人を大事にするという価値観が社会の中に根づいている。「社会が発展していくなかでそういった価値観が失われないようにしたい。ネパールの魂がなくなって、発展だけした国にはしたくない」と語るライさんの眼差しは、強くも、温かい。

いまや社会課題もボーダレスになっていく世の中で、各々が持ち合せている得意分野やリソース活かして、ソリューションをつくっていく。そこには国境はない。誰かの弱点を、別の誰かの強みで補い合って行ける世界だ。

ライさんが解決しようと向き合うネパールの教育における社会課題。その解決策として、ライさんが日本で体験した教育制度、習慣、プログラムが活かされていく。加えて、面白いからといってライさんを支える日本人も多い。ライさんは、機能的にも、経済的にも両国の色々な人・モノ・仕組みなどをインクルージョンし、これからもチャレンジを続けていく。

「かわいそうではなく、面白そうだから。」と元気をもらえる活動、みなさんもぜひYouMe Nepalの活動を覗いてみてください。

YouMe Nepal :https://youmenepal.org/

 

ライさん、素敵なインタビューをありがとうございました。

次回は、実際にネパールに行って見てきた現地の様子をお届けします!

取材・文: 江口露美
Reporting and Statement: lulu

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