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7 Sep. 2015

今、企業がLGBTに注目する理由とレインボー消費

阿佐見綾香
戦略プランナー
阿佐見綾香

LGBT JAPAN 2020〜レインボーカンパニーへの道〜 #01

今なぜ、LGBTなのでしょうか?
LGBTって、何か配慮が必要なのでしょうか? 何をどうすればよいのでしょうか?
うまくいっている企業って、どうやっているのでしょうか?
そもそもLGBTってどういう人々でしょうか?

電通ダイバーシティ・ラボ(以下DDL)によく寄せられる疑問の一部です。

LGBTとは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとったセクシュアルマイノリティー(性的少数者)の総称の一つです。

ここ最近、メディアをはじめ、いろいろなところで「LGBT」の話題を耳にする機会が増えたと感じている人も多いと思います。ダイバーシティに関する企業向け研修や講演、具体的な事例のケーパビリティーや、施策やアイデアなどソリューションを提供しているDDLへも、メディア・自治体だけではなく業界業種を問わないさまざまな企業からの問い合わせが急増しており、日本中で関心が高まっていることを実感しています。

DDLのジェンダーチームLGBTユニットは2012年に活動を開始し、この課題に向き合い続けてきました。今日から新たにスタートする新連載「LGBT JAPAN 2020〜レインボーカンパニーへの道〜」では、最新の情報を交えてよくある疑問を解消しながら、企業がLGBTに向き合うというのはどういうことなのかに迫っていきたいと思います。

●差別の時代が終わる!? 世界中で過渡期を迎えるLGBTとの向き合い

日本でも今年3月に渋谷区で「同性パートナーシップ条例」が可決されて話題になったことが記憶に新しいですが、LGBTを取り巻く社会の動きはここ数年で加速しています。

今年6月にはアメリカでついに全米で同性婚を合法化する判決が下され、ニュースは世界中を駆け巡りました(アメリカは州によって法律が異なるので、これまで同性婚が認められる州と認めない州が混在していましたが、これからは同性婚を禁じている州法は違憲ということになります)。あまりにも歴史的な出来事だったので、世界中の人々がこれを祝し、当事者・非当事者関係なくFacebookのプロフィール写真を6色レインボー(※)に変えていく様子を目にした人も多いのではないでしょうか。

※6色レインボー
多様性を表し、LGBTのシンボルとして定着しています。

 

国際オリンピック委員会(IOC)が、2014年9月に開催都市との契約に差別禁止条項を追加することを決定し、今後LGBTに差別のある都市ではオリンピックの開催ができなくなったことも注目するべきニュースです。

それは、2013年にロシアが「同性愛宣伝禁止法」を成立させたため、2014年2月のソチオリンピックの開会式を各国首脳がボイコットする騒ぎが起こったことをIOCが問題視した結果なされた処置です。対象となるのは2022年冬季以降ですが、東京2020オリンピック・パラリンピックでも、商品やサービスを含めた日本の対応力に全世界から注目が集まることになるので、日本の企業にとって無視することのできない課題になりました。

著名人によるカミングアウト(LGBTであることを公言すること)も相次いでおり、2014年はAppleのティム・クックCEOがゲイであることを公表し注目されました。
フォーチュン500企業のCEOが公式にカミングアウトしたのは初めてのことだったので、このニュースは多くの人に勇気を与えたばかりではなく、株価が下がることもなかったことから、時代の流れが明らかに変わってきていることを示しました。

●LGBTは日本で13人に1人、市場規模は5.9兆円

DDLが今年4月に全国6万9989人(20~59歳)を対象に実施した調査では、日本でLGBTに該当する人は7.6%(=13人に1人※)ということが分かりました。それは、左利きやAB型の人とさほど変わらない割合とされます。

※DDLが2012年に行った調査では5.2%(=20人に1人)というデータを公表していますが、調査手法を変更しているため経年比較はできません。2015年の最新データがより実態に即した数字になります。

LGBT層で自分のセクシュアリティーを誰にもカミングアウトしたことがない人は56.8%と半数を超えており、セクシュアリティーは見た目で分からないので、「LGBTは、自分の周りには存在しない」という誤解を生みやすいのですが、実はあなたの身近にも存在するのです。

LGBTを考える時には、セクシュアリティーを「生まれた時の身体の性別」「心の性別(自分は男だ、女だという性自認)」「恋愛対象の相手の性別」の3つの組み合わせで考えると分かりやすいといわれています。

LGBTに該当しない、一般的に「ストレート」と呼ばれる人たちとは、身体と心の性別が一致している「シスジェンダー」かつ「異性愛者」のことを指します。

マップ上に登場するセクシュアリティーの他にも、例えば「身体の性別」が男女どちらか判別しにくい「インターセックス」、「心の性別」が男女どちらかに規定できない「Xジェンダー」など、多様なセクシュアリティーが存在しており、LGBTの4つでもくくりきれません。

また、4つめの性として「表現する性」があり、「ドラァグクィーン(drag queen)」などを含む「トランスベスタイト」(異性装者)が存在します。トランスジェンダーの一つといわれていますが、一般的な女性・男性は行わないくらいデフォルメといえるほどの異性装を行うので、例えばトランスジェンダーの中の一つで性同一性障害の人たちがより自然な女性・男性らしい装いを求める気持ちとは少し異なります。

テレビで見かけるいわゆる「オネエタレント」の方々にも、異性的な装いをする人とそうでない人、奇抜なほどの異性装をする人と自然な異性装をする人など、いろいろな人がいる理由は、各自の中の4つの性がそれぞれ異なるからです。LGBTはひとくくりにできないし、LGBTであるかどうかは見た目で分かるとは限らないのです。

自分がLGBTだと気づく時期も人それぞれで、40歳を過ぎてから自認する人も9.8%存在します。

セクシュアリティーは白黒つけられるものではなく、まるでグラデーションのように曖昧なものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。

さらに、LGBT層の市場規模は5.94兆円と算出されました。その規模は、百貨店の年間総売り上げに匹敵します。

●企業がLGBTに向き合うって?

企業がLGBTに向き合うときに、二つの接点が考えられます。一つはその企業に勤める「働く人」という視点、もう一つは企業にとってサービスや商品を「買う人」という視点です。

LGBTが働きやすい職場環境をつくることは、人口減少が進む中で優秀な人材を確保したい企業にとって重要な課題となっています。

調査ではLGBT層の74.6%が「LGBTをサポートしている企業で働いてみたいと思う」と回答しています。裏を返せば、LGBTフレンドリーではないというイメージを持たれることは、当事者の中にいる優秀な人材を採用し損ねたり、会社を辞められるなどの損失を生む可能性があるといえます。

ところで、「女性」や「障害者」などと異なり、配慮されるべき対象が見えにくいLGBTに配慮するということはできるのでしょうか? 前述の通りLGBTの6割はカミングアウトをしていませんが、特に職場の人には言わない傾向があります。そのため「うちの職場にはいない」という誤解から、企業が何も手を打たないというケースが少なくありません。

実際に配慮の進んでいる企業で働く当事者に話を聞くと「カミングアウトしなくても働きやすい環境なんです」という声を聞きます。

つまり、異性間婚姻者に与えられているものと同等の権利や保証を受けられる制度が整っていたり、「彼氏いるの?彼女いるの?」ではなく「恋人・パートナーはいるの?」という言葉の使い方をみんなが当たり前のようにできるほどの「知識」が浸透しているなどの環境があるため、カミングアウトをしないLGBTにとっても、無理して合わせるような場面がなく、全ての人材の能力が最大限に発揮される環境を作ることができるのです。

興味深いのは当事者以外のストレート層においても、64%の人がLGBTフレンドリーな会社で働いてみたいと回答していることです。

LGBTに配慮ができるということは、女性の活用を含めた「ジェンダー」の課題にきちんと向き合っている企業であることを示し、「性同一性障害」などの「障害」にも向き合っているということも示すことになります。他の多様なマイノリティー属性を持っていても働きやすそうだという先進的なイメージを獲得することになり、結果として企業価値を高めることにつながっていくのです。

アメリカ最大のLGBT人権団体Human Rights Campaign(HRC)は、LGBTにとって働きやすい職場環境であるかどうかを調査し、企業を評価でランキング化した「Buyer’s Guide」をアプリで無償提供しており、人々が買い物をする際の判断材料の一つとなっています。アメリカ国内の企業がすでにほぼ100点満点を取ってしまい、2016年からは調査の対象がアメリカ以外の世界にも広がることも話題になっています。

●多様化する社会の新たな消費スタイル「レインボー消費」

「買う人」という視点では、数年前まではLGBTを眠れる巨大市場として攻略しようとする動きが主流でした。DDLでは、注目するべき新たなトレンドとして、LGBT当人の消費のみならず、LGBTを中心にその周辺のストレート層にも広がる新たな消費傾向に注目し、「レインボー消費」と位置付けて研究しています。

レインボー消費とは、具体的には3つ挙げられます。

① LGBT当事者の消費
② LGBTを応援する消費(ストレート層含む)
③ LGBTが社会に受容されることによる新しい人間関係消費(同性パートナーシップ制度にも関連)

1つ目は、LGBT当事者の消費パワーである5.9兆円市場です。

2つ目の「LGBT応援消費」とは、LGBTフレンドリーな企業や取り組みを応援する消費傾向のことです。調査では当事者以外のストレート層においても、52.7%の人がLGBTフレンドリーな企業の商品・サービスを積極的に利用したいと答えています。実際にLGBT支援を宣言したキャンペーン期間中に、来店数と売り上げが両方伸長するという成果を上げた企業事例も見られています。

「買う人」に向き合おうとするときの留意点ですが、単にキャンペーンで外向けにLGBTフレンドリーに働きかければよいわけではなく、まず社内のLGBTの社員に対してフレンドリーに変えていくことが先決です。社内の規定などをLGBTフレンドリーに変えることによってみんなの意識が変わり、自然と社内でLGBTフレンドリーな雰囲気ができて、外に向けてもフレンドリーな対応ができるようになっていくのです。

商品やサービスを考える時に「対象をLGBT当事者だけに限定しない」ことも重要です。例えば、ゲイの人専用につくられた商品がある場合、それを購入すること自体がカミングアウトになってしまいます。LGBTの人を特別視するのではなく、LGBTの人たちと一緒に生きやすい社会をつくるという「インクルージョン」(包括)の視点を持つことが重要です。

いろいろな人がいる「ダイバーシティ」は多様性という「状態」で、その力を企業や社会がポジティブに生かして力にするのがインクルージョンです。インクルージョンの視点を持って商品・サービスを考えていくことが、当事者のみならず支援者からの共感を呼ぶことにつながるのです。

3つ目の「新しい人間関係消費」とは、例えば同性婚などが受容されて新しい家族のかたちが増えると生まれる消費のことです。結婚式や2人で一つの家や車を買うようになったり、子供をもって養育費にお金を使うようになったり、家族旅行に出かけるようになったりなどが挙げられます。

それから、30~40代パワーゲイ層と30~40代キャリア女子による親友関係が多く見受けられる傾向があり、異性の組み合わせであっても恋人ではなく親友という2人が一緒にする消費も見られます。
また、多様な愛の形が受容され、恋愛が活性化することで生まれる消費があります。

●マイノリティーの気持ちが分かるかどうかが、企業の運命の分かれ目

今、世界は多様な個性(属性・価値観)の活用や対応をスタンダードとするダイバーシティ社会へとシフトしています。トレンドは多様性に向かっており、多様性に富んでいる都市や企業が人を集めています。

LGBTにはダイバーシティに関する全ての要素が詰まっているといわれています。ジェンダー、性同一性「障害」、文化の違い、人権、差別、エンターテインメント…などです。
2020年に向けて、「ダイバーシティ」は「環境」と並び立つ課題になっていきますが、LGBTはそのフラッグシップになっていくでしょう。

個人的な話ですが、私自身は重度の聴覚障害者です。「障害」はなかなか自分ゴト化しにくいと思いますが、「セクシュアリティー」はみんなが持っているものなので自分ゴト化しやすいテーマだと思います。だからこそLGBTは多くの人のダイバーシティへの意識を高めるための入りやすい入り口となって、みんなが楽しく生きられるダイバーシティ社会に変わっていくキッカケになるのではないかという可能性に期待を感じています。

次回は、具体的にLGBTに向き合う企業の現場に迫ります!


調査出典:電通ダイバーシティ・ラボLGBT調査2015
全国20~59歳男女個人
SC調査 69989人
/本調査 900人(LGBT層 500人/一般層400人)
2015年4月9~13日 インターネット調査

 

-Writer Profile-

6阿佐見 綾香
原宿可愛研共同創立者。電通ギャルラボ研究員。若年女子研究を専門とする。ストラテジック・プランナーとして、企業や商品・サービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニング、コミュニケーション戦略立案などを担当。電通ダイバーシティ・ラボ研究員としても、マーケティングの最新トピックであるLGBTに取り組み、みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。LGBTを中心として広がる消費に関する調査や、「レインボー消費」に関する研究を重ねる。ダイバーシティウェブマガジンcococolor編集部員兼ライター。「LOVEのカタチが変わると消費が変わる」が持論で、LOVEマーケティングを専門としている。

 

※この記事は、WEB電通報と同時掲載しています。
http://dentsu-ho.com/articles/3028

取材・文: 阿佐見綾香
Reporting and Statement: ayacandy-asamiayaka

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