cococolor cococolor

22

Oct.

2024

column
18 Oct. 2024

可愛い人/格好良い人を見かけるとなぜツラくなるのか ~ルッキズムと相対的剥奪~

松實良知
ソリューション・プランナー
松實良知

私は自分の見た目がコンプレックスで、過去に美容整形をしました。アゴや頬の骨を切って顔を小さくしたり、鼻の形を変えたりする、大掛かりなものです。機能障害が残るリスクもあり、腫れが引き切るまでに6ヵ月以上もかかるような大手術でした。

この記事を読まれている方の中には「なぜたかが見た目のために、そんなにリスクを掛けるのか」と疑問に思った方もいるかもしれません。私のこの行動の背景には「ルッキズム」と呼ばれる社会問題が潜んでいます。

この記事ではルッキズムに関わる問題の中でも、私も苦しんでいる「自分の容姿を人と比べてしまうときのツラさ」に注目していきます。この記事がきっかけとなり、私と同じ悩みを持つ人の心が少しでも軽くなれば幸いです。

なお「そもそもルッキズムとは何のか?」については以前執筆したコチラの記事をご覧ください。

 

可愛い人/格好良い人を見かけるとツラくなるのはなぜ?原因の1つは「相対的剥奪」

みなさんの中には
「SNSを見ていたら同世代の可愛い人がタイムラインに出てきて、自分と比べてしまって辛くなった」
「街中で格好良い人がいて、自分と比べてしまって恥ずかしさや不安を覚えた」
といった経験がある方もいらっしゃるかもしれません。私もその一人です。SNSで流れてきたイケメンインフルエンサーの写真を見て「この人はこんなに格好良いのに、自分はこんなにブサイクで…」と悲しくなった経験があります。
この現象の原因の1つとして考えられるのが「相対的剥奪」です。
相対的剥奪とは社会学の用語で下記の状態を指します。

「生存に必須ではないが、他者が持っていて自分も欲しいと思う物を現実には持っていないという状態」(※1)

相対的剥奪が不安・ストレス・欠乏感などを引き起こす原因になることが、多くの研究で明らかになっています。
ではどういった条件が満たされてしまうと相対的剥奪が発生するのでしょうか?
「ランシマン条件」と呼ばれる下記の4つの条件があります。これら全てが満たされると相対的剥奪が発生するとされています。以下がその条件の引用です。(※2)

①個人Aは対象Xを持っておらず
②Aは、過去や将来の自己像を含む現在の自分以外の誰かがXを持っていると(それが本当であるか否かにかかわらず)見なしており、
③AはXを欲しいと思っており、
④AはXを持つことが可能(feasible)であると思っている

この条件に「可愛い人/格好良い人を見かけるとツラくなる」という現象を当てはめると下記のようになります。

①個人Aは可愛くない/格好良くない(と本人が思っている)
②Aは自分以外に可愛い人/格好良い人がいると見なしている
③Aは可愛くなりたい/格好良くなりたい
④Aは可愛くなる/格好良くなることが可能だと思っている(メイクや美容施術などで)

いかがでしょうか。この記事を読まれている方の中には、①~④すべてが当てはまっている方もいらっしゃるかもしれません。これが容姿に関する相対的剥奪の発生条件です。Xの内容は何でも構わないので、みなさんの価値観に合わせて「可愛い/格好良い」を別の言葉に置き換えて考えてみてください。
現代社会における問題点は、これら4つの条件が成立しやすくなってしまったことだと私は考えています。
ここからは条件が成立しやすくなった背景について述べていきます。

 

相対的剥奪が起きやすい現代社会

4つの条件が成立しやすくなった背景を1つずつ見ていきます。説明の都合上、条件の順序を入れ替えて記載しています。

④Aは可愛くなる/格好良くなることが可能だと思っている
近年、メイク道具やメイクスキルの進歩で「整形メイク」「変身メイク」と言われるほど、見た目に大きな変化を生むことが可能になりました。また、美容医療の進歩により、容姿に関する多くの悩みを緩和・解消できるようになりました。つまり条件④が成立しやすくなっていると言えます。
このように、本来歓迎すべき技術や医療の発展が、④の条件を成立しやすくさせることで、逆説的に人を苦しめている可能性があります。

②Aは自分以外に可愛い人/格好良い人がいると見なしている
この②の条件で重要なのは「見なしている」という点です。つまり「自分以外の可愛い人/格好良い人」が本当に可愛いか/格好良いか(=実物がどうなのか)は関係がありません。そのため、SNSで流れてくる可愛いく見える写真が、実物と大きくかけ離れるほどフィルターで重加工されていようが、奇跡的に盛れた写真を使っただけであろうが、関係がありません。受け手が「あ、この人可愛いな/格好良いな」と思った時点で条件②が成立してしまいます。

またSNSには別の問題点もあります。SNSが幅広く浸透したことで、昔であれば出会うことがなかった一般人の可愛い人/格好良い人を知ってしまう確率が高まりました。この「一般人」であることが実は相対的剥奪において大きな問題になります。もしも「この世で可愛い/格好良いのは、トップクラスの芸能人だけ」という認識であれば別世界の話だと割り切って、容姿に執着せずに暮らせたかもしれません。しかし一般人の中にいると知ってしまうと、可愛さ/格好良さがより身近になり、より手が届く(気がする)ものになってきます。すると先述の条件④が成立しやすくなり、相対的剥奪が生まれやすくなります。

①個人Aは可愛くない/格好良くない(と本人が思っている)
③Aは可愛くなりたい/格好良くなりたい

先述の通り、メイク道具や美容医療の進歩により、容姿に関する悩みが解消しやすい時代になりました。つまり容姿の水準が以前にも増して高まっている時代だと言えます。
周囲の水準が高まった分、相対的に「私は周囲より可愛くない/格好良くない」と思う機会が増えるため、条件①が成立しやすくなります。またその気持ちと紐づく形で③の気持ちも高まりやすくなっています。

以上が容姿に関する相対的剥奪が起きやすくなった背景です。

 

相対的剥奪への対策/容姿で悩まないために

ではどのようにしたら相対的剥奪に悩まずに暮らせるのでしょうか。ここからはその対策の一例について述べていきます。ただし、あくまで私自身が実践しているものや、経験則に基づくものです。
重要なのは、4つの条件のうち1つでも崩せば相対的剥奪は起こらない、という点です。行動や意識を変えて条件のうち1つでも崩せば良いことになります。
なかには実践が非常に難しいものもあり、私自身もまだ容姿の悩みの渦中にいます。完全には脱し切れていません。ですが下記の対策(あくまで一例です)を少しでも取り入れることで、相対的剥奪を完全に解決することは難しくても、少しは緩和できると考えています。比較的崩しやすいのは条件②です。

「条件②Aは自分以外に可愛い人/格好良い人がいると見なしている」を崩すために
⇒対策例:SNSでフォローする人を変える
SNSを開く度に可愛い/格好良い一般人が目に入ってしまうと条件②がより強固なものになってしまいます。そこで、対策としてフォローする人を変えるのがおススメです。これは実際に私もやっています。以前はファッションや筋トレの参考にするために格好良い人をフォローしていたのですが、タイムラインで見かけるたびに自分と比べてしまい、不安や恥ずかしさに襲われたためフォローを止めました。
みなさんの中には「メイクやファッションの参考にするためにフォローしているから、フォローする人を変えられない」といった事情がある方もいるかもしれません。その場合、たとえば「顔出しせずにコーディネートを紹介している人をフォローする」といったことだけでも対策になります。

またメイクであれば、もしあなたが女性(男性)であれば「男性(女性)のメイクアップアーティストをフォローする」というように、直接的に自分と比較することが難しい人を選ぶのも手です。ただし自分の顔の系統と異なる人だとそもそもメイクの参考になりづらい、というデメリットもあるので完璧な対策ではありませんが。

「条件③Aは可愛くなりたい/格好良くなりたい」を崩すために
⇒対策例:容姿以外の夢中になれるものや注力するものを見つける
趣味でもスキルアップでも何でも構いません。できるだけ容姿に関する思考を頭の中から追い出すことも大きな対策になります。先ほどSNSのフォローを変える話をしましたが、例えば美容系をフォローするのではなく、スキルアップ系・エンタメ系・料理やキャンプなどの趣味系アカウントをフォローすることも有効です。もちろん、この条件③は一筋縄ではいきません。価値観自体を変えることに等しいので長い時間がかかります。私自身もまだ崩し切れていませんが、少しずつ少しずつ、容姿のことを考える頻度を減らせてきています。

以上が相対的剥奪を起こさないための対策例です。
完全に解決させることは非常に難しいですが、この記事がきっかけになって、1人でもほんの少しでも容姿で悩む時間が減っていただけたら嬉しいです。

 

参考文献

※1)吉田彩(編集部)、近藤尚己(協力、東京大学)、日本でも進む「格差と健康」研究(別冊日経サイエンス no.236)、日経サイエンス社、2019年、p24

※2)石田淳、相対的剥奪の社会学 不平等と意識のパラドックス、東京大学出版、2015年、p16

取材・文: 松實良知
Reporting and Statement: yoshitomomatsumi

関連記事

この人の記事