産学官連携が拓く留学生の就職支援の未来 -Transcend-Learning社 吉田代表インタビュー-
- ソリューションプランナー
- 姜婉清
<はじめに>
日本の労働人口の減少が社会問題になっており、日本で勉強している留学生を戦略的に採用したいという企業も増えている。今回は一般社団法人Transcend-Learningの代表である吉田圭輔さんにオンラインでお話を伺った。Transcend-Learning社は、関西大学を中心に20大学が集まった「留学生就職支援コンソーシアムSUCCESS」と連携して、外国人留学生の就職支援や特徴あるインターンシッププログラムを行っている。インタビューでは、外国人留学生が直面する就職活動の課題や、企業が抱える課題、さらにはこれからの展望について詳しくお話を伺った。
(一般社団法人Transcend-Learning 吉田圭輔さん)
<留学生の就職活動を支える「小さな成功体験」の重要性>
日本の学生は就職活動を行う際に、20~50社以上の企業に応募するのに対し、外国人留学生は多くの場合、約10社への応募にとどまっている。この10社での選考に通らなかった場合、留学生は日本での就職を諦めてしまうことが多い。
一方で、過去に日本社会でいくつかの「小さな成功体験」を積んでいる留学生は、日本での成功を思い出し、もう少し頑張ろうという気持ちを持つことができる。例えば、母国との架け橋となる経験や、地域とのつながりを通じて居場所を見つけたことなどだ。これらが留学生にとっての大きな支えとなり、諦めずに挑戦し続けている原動力になっている。
しかし、コロナ禍により、こうした成功体験を積むための環境が失われてしまった。コロナが収束した後も、活動がオンラインになる習慣が取れず、実際の日本の社会経験をリアルに積む機会が減少している。
このような状況を踏まえ、留学生の就職活動における最大の問題は、大学時代に日本社会との連携を通じて、小さな成功を積み重ねる経験不足といえる。それが就職活動を諦めやすくなっていると吉田さんは指摘している。
<日本企業が抱える留学生採用の課題>
世界中で優れた外国人人材を自国に呼び込み、国の発展につなげようとする人材獲得競争が激化している。日本でも、2033年までに留学生の国内就職率を60%にするという目標が掲げられている(内閣官房 教育未来創造会議)。しかし、企業と留学生の考え方の間には大きなギャップが存在している。
「留学生が辞めやすい」という負のスパイラル
多くの企業が留学生に長期的な雇用を望んでいる一方で、「留学生はすぐ辞める」という印象が根強くなっている。この背景には、企業の経営者が多様性を重視し、留学生を積極的に採用したいと考えているものの、実際の現場ではそのサポート体制が十分に実現されていないという現実がある。
優秀な人材を採用することに力を入れる企業が多いが、彼らが活躍できる環境を整えることが後回しにされることがしばしばある。その結果、一部の留学生は入社後に職場になじむことができずに辞めてしまい、結局「留学生はすぐ辞める」というステレオタイプが強化されてしまう。
コミュニケーションコストの問題
日本企業は従業員間のコミュニケーションコストを下げたいと考える傾向が強いという。このため、多くの企業が「コミュニケーション能力」が高い人材を求めているが、ここで問題が生じる。「コミュニケーション能力」と「日本語能力」が混同されてしまうのだ。重要な点は、日本語が得意な留学生が必ずしも優れたコミュニケーターであるとは限らない。
最近、Transcend-Learning社の「実践型インターンシップ」に参加した企業の事業部の方々にアンケートを実施したところ、留学生の魅力についての意見として、「多様な視点や文化的背景を提供してくれるのが魅力的」、「高い学習意欲と熱意を持っている」などの評価が寄せられた。
(出典:一般社団法人Transcend-Learning )
一方で、「留学生をサポートするには手間がかかる」という課題も浮かび上がった。例えば、日本のビジネス文化では「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)が非常に重要視されているが、留学生がその必要性を理解するのが難しい場合がある。
(出典:一般社団法人Transcend-Learning )
また、企業側が、失敗させたくないという気持ちが強すぎて、留学生に対して過剰なフォローをしてしまうことがある。そのため、留学生をサポートする際に難しさを感じ、結果としてコミュニケーションコストが増加する。しかし、このコミュニケーションコストがかかるのは留学生のせいではない。吉田さんは、「日本企業は、ある程度の失敗を許容し、その中で、倒れ方、そして立ち上がり方を通じて成長させていく文化が必要だ」と述べている。
<関係者がwin-winになる”実践型インターンシップ”>
吉田さんが推進する「実践型インターンシップ」は、企業の事業部門が採用プロセスに積極的に関与すべきだという理念からスタートした。このような取り組みの中で、実際に事業化につながった成功事例もある。
南海不動産株式会社は新規事業開発に模索していたところで、アイデアを留学生から募った。留学生から「ネパールのIT人材が非常に優れている」というアイデアをもらった。そこで、新規事業の方向性として「ネパールのIT人材が日本で働くことができる環境と機会を創出することで、日本とネパール双方の発展可能性に貢献しうるのではないか」という仮説をきっかけに、ネパールのIT人材を日本の企業へ紹介する事業、高度人材紹介サービス「Japal」という新規事業を立ち上げた。最終的に、親会社である南海電気鉄道株式会社がこの事業を譲受することになった。
このような取り組みを通じて、企業は革新的なアイデアを得ることができ、留学生は実践的な経験を積むことができる。これにより、企業と留学生の双方にとってwin-winの関係を築くことが可能になる。
<産学官が共に挑む社会課題解決の道>
近年、海外から日本に働きに来る人々が増えており、その多くが子どもを連れてくる。このため、最近では外国籍の子どもの数が増え続け、教室でのトラブルや、言語の壁による学業の遅れなどの問題が顕在化している。
この課題に対して、吉田さんは「多国籍には多国籍を」というアプローチを提案した。具体的には、大学や教育庁と連携して、日本社会貢献型のSDGsインターンシップとして実施している。外国人留学生が母国語で外国籍の子どもたちをサポートし、学習指導だけでなく精神的な支援も行っている。これにより、外国人高度専門職人材含めた家族の定住促進にもつながっている。この事業は、近畿経済産業局から「第7回はなやかKANSAI魅力アップアワード」の特別賞を受賞した。
このような活動を通じて、関西の外国人留学生の就職率向上と、地域で増加する外国をルーツに持つ子どもたちへの教育支援を同時に実現し、特に留学生は、日本社会との接点を増やし、「小さな成功体験」を積むことができる。また、彼らにとっては母国との架け橋となる貴重な経験となり、将来の就職活動や日本でのキャリアにおいても大いに役立つだろう。
<さいごに>
最後に、吉田さんにこれからの留学生の就職活動についての見解を伺うと、
「日本企業において、外国人を積極的に採用できる企業とそうでない企業の間で二極化が進むと予測しています。上位大学の留学生たちは、言語習得コストに見合う程の給料がもらえない等の理由から、日本企業で働くことのメリットが見えにくくなり、就職先として日本を選ばなくなる可能性が高まると考えられるためです。
一方で、日本の人口減少が進む中で、労働力を補完してくれる人材が不足することが懸念されています。これらの状況を打破するためには、人材を投資対象として捉えることが重要だと思います。初期投資は必要ですが、優れた人材を採用し、丁寧に育成することで、最終的に日本企業が人的資本の観点にシフトしていきます。これらは世界の高度外国人材から求められています。
さらに、これは国策の為、大学だけではなく企業単独でも解決できない問題が多く、産学連携の重要性が今後ますます高まります。産学官の橋渡しができる人材の育成が今後の課題となるだろうと思っています。」と話してくださった。
(吉田圭輔さんプロフィール)
慶應義塾大学理工学部卒業後、豊田合成での経験を経て、東京大学発ベンチャーに転職。2017年から関西大学で外国人留学生支援プログラムを企画運営。現在は独立し、一般社団法人Transcend-Learningの代表として活動中。この度、関西経済連合会事務局の関西高度外国人材活躍地域コンソーシアムのコーディネーターにも就任。事業企画には定評がある。
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