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Dec.

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18 Dec. 2020

動力とデータマイニングで、義足界に劇的な変化を。BionicM 孫CEOインタビュー

11月下旬に開催されたサイバスロン2020。その義足部門で、一際注目を集める日本のプロダクトがありました。東京・本郷に本社を置く義足ベンチャー、BionicM(バイオニック エム)が開発するパワード義足です。

競技順位こそ5チーム中4位という結果に終わりましたが、義足としての動きの滑らかさには、目を見張るものがありました。

競技動画より。始めのゾーンでは両手に荷物を抱えて階段を超えなくてはならない。

サイバスロンとは
ロボット工学等の最先端技術を応用した義肢などを用いて障害者が競技に挑む国際的なスポーツ大会。第1回大会がスイスのチューリッヒで2016年10月8日に実施され、今年で第2回目となる。

 

「私たちは、義足の世界のテスラと自分たちを捉えています。テクノロジーとビジネスの力で、誰もが自由に歩ける世界を実現したい。」

そう熱く語るのは、BionicMを率いる社長の孫小軍さん。新卒で入社したソニーを退社後、東大情報理工学系研究科を経て、2018年12月にBionicMを創業されました。

孫さんは幼い頃に下肢切断を経験され、現在は自らも義足を使われています。ご自身の経験を原動力に、最先端の義足開発をリードする孫さんの思いを、cococolor編集部が取材しました。

前編となる本記事ではBionicMの義足テクノロジーの秘密に迫ります。


(中央:BionicM 孫 小軍さん 左:筆者)

 

目指すのは、動力を操る義足体験

BionicMではパワード義足というカテゴリーの義足を開発しています。

まだ市販化はされていませんが、プロトタイプのムービーは公式HPから見ることができます。

パワード(Powered)と言う名が示す通り、BionicMの義足にはモーターが内蔵されており、ユーザの体を持ち上げる、膝関節を能動的に屈曲させることで、障壁を自ら乗り超える、と言った動作が可能になります。

孫さんによると、今日市場に流通するほとんどの義足は動力を持たず、BionicMのように動力を持つ義足は非常に稀だそうです。あったとしても1,000万円以上と非常に高価で、おまけに扱いも難しく、これまで普及に成功したモデルはありませんでした。

孫さんは圧倒的に使いやすいパワード義足を、従来の義足と変わらないコスト感で提供することで、義足業界にイノベーションを起こそうとしています。

では、そもそも義足が動力を持つことのメリットとは何でしょうか。

「義足で階段を登る、立ち上がると言った動作は大きな力を必要とします。そのため、特に高齢者の方などは自重を支えきれず、次第に車椅子に移行したり、寝たきりになるケースも少なくありません。

 パワード義足を使うことで、筋肉が衰えても義足がアシストし、気軽に外出も出来るようになります。」

つまり通常の義足は支えとしての足の役割は果たしますが、体を動かす筋肉としての役割は果たしません。BionicMの義足は筋肉の役割も担うことで、自然に歩くことができるようになるということです。実際にテストトライアルでは、再び階段の上り下りが出来るようになったユーザーもいらっしゃったそうです。

「サイバスロンをご覧になっても分かる通り、BionicMの義足の動きは、他のチームとは全く異なるものでした。動力があることで、本物の足のように自然な動作で歩行することが可能になります。」


5チームによる競技動画

 

ふくらはぎのサイズに詰まったハイテク技術

こうした動きを実現するのに、どのようなテクノロジーが使われているのでしょうか。

「最も難しいのはユーザの行動予測です。もしこれが出来ないと、使ってる方は怖いですよね。動力があるだけに、自分の意志に反して義足が勝手に歩き出しかねないわけです。

 そのためBionicMの義足には様々なセンサが埋め込まれていて、ユーザの体勢や状態を計測し、次にやりたい動作を予測しています。それに合わせて、義足の挙動を変えるわけです。」

人間の筋肉であれば、脳から指令を出して直接動かすことができます。しかし、「我々の義足はまだ神経とは繋がっていない」ため、ユーザの意志を読む必要があるのです。

こうしたセンシング技術は、義足ならではと孫さんは語ります。

さらに、動力部にも秘密があると言います。

「もう1つのテーマは、筋肉の機能の再現です。実は人間の筋肉はとても優秀で、大きなパワーを出せるのに、柔軟性も併せ持っています。既存のモーター技術ではそうした動きの再現が難しかったため、我々は独自のアクチュエータ技術と制御技術を開発しました。

 BionicMの義足の中には、他にも様々なコアテクノロジーが活用されています。」

孫さんが本当にUX(ユーザエクスペリエンス)のディテールにこだわって開発されていることが伝わってきました。単に歩ければ良いでだけではなく、自分の足のように、気持ちよく歩ける体験をゴールとされています。

こうした課題を解決するため、BionicMには多様な領域のプロフェッショナルが集まっていると言います。

「僕自身はロボット工学の出身ですが、全てが制御可能な人型ロボットとは違って、義足の場合は人間との関わりを考慮しながら制御しないといけません。

 そのため、分野はとても横断的になります。ハードやソフトの領域は勿論、バイオメカニクスの知見も必要になります。社内には義肢装具士や理学療法士(※義肢装具士は義肢装具を製作する国家資格職、理学療法士はリハビリをおこなう国家資格職)の方もいるんです。やはりエンジニアだけで考えると勝手な制約を置いてしまうので、臨床の立場からも意見をもらいながら、本当に良い義足とは何か、常に議論しています。」

 

データが増えるほど拡張される、義足の新しい価値 とは

様々なセンシング技術を搭載したパワード義足。そこで得られた身体データを活用して、孫さんは更なる価値を生み出そうとされています。

「我々は、義足をウェアラブル・デバイスであると考えています。人間の歩行に関してこれだけ緻密にデータを取得できる接点はありません。

 しかも、毎日歩けばどんどんデータも貯まるのです。そのデータを歩行の精度向上だけでなく、付加価値の創出に活かせないかを考えています。」

義足を「データを集めるデバイス」として捉えるのは、とても面白いコンセプトだと思いました。自動車の世界でもコネクティッド・カーと呼ばれる近いコンセプトがありますが、これは「コネクティッド義足」と呼ぶことが出来そうです。

では、一人一人の義足が世界とコネクトすることで、我々の生活はどのように変わるのでしょうか。

「例えば、義足ユーザの健康管理を考えています。1日の歩数はもちろん、左右の荷重バランス、健足側にかける負担の度合いが分かる。それによって、より健康的な歩き方や、必要なサービスの提案ができるようになるかもしれません。

 あるいはリハビリシーンでの活用です。データの可視化を通じて、お一人お一人にあったプランを提案する。もちろん専門家の方の勘と経験も大事ですが、まずは数字で語ることが大事だと考えています。」

 

目指すは義足のテスラ。データとビジネスで義足業界に変革を

先ほど書いた義足のデータ活用を進めるには、BionicMの義足が一定量社会に普及し、十分な量のデータを貯めることが必要と孫さんは考えています。

「義足業界には圧倒的シェアを占める海外メーカーが2社あります。両者とも旧来的な受動式義足に強みを持ち、その反面、パワード義足の技術はまだ強くない。

 そこにチャンスがあると考えています。私たちはパワード義足という新しいカテゴリに特化してイノベーションを起こし、世界と戦っていく。そのためには技術だけでもダメで、技術とビジネスの両方が必要です。これまでの義足はお客様に売ったら終わりの商売でしたが、データを活用して、(購入後も)付加価値を生んでいく。

 実は我々は、自分たちを『義足のテスラ』だと捉えています。」

BionicMが義足のテスラとすれば、孫さんは義足界のイーロン・マスクと言えるでしょうか!パワード義足と言う新しいテクノロジー開発に留まらず、データやビジネス、社会とのつながりまで見据えて、社会的イノベーションにチャレンジする。

熱く語る孫さんの目に、強い意志と実行力、そしてワクワクする未来を感じました。

さて、後半は、そんな孫社長のモビリティにかける想いを特集します。そちらもお見逃しなく!

(パワード義足を持つ孫さん)


取材・執筆 千代 裕介

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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