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Nov.

2024

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24 Mar. 2022

世界の「読み方」~メディアとの向き合い方~

指先ひとつで自分の欲しい情報が瞬時に入手できる今。情報がこれだけ溢れている中で、私たちは世界をどのようにとらえ、情報を受け取るべきか。事実はどのように伝えられるべきなのか。

2021年11月19日に開催されたMASHING UPカンファレンスvol.5では、メディアとの向き合い方をテーマにLobsterr Publishing 共同創業者 / Takramの佐々木康裕氏を中心に、評論家の荻上チキ氏、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版編集長の中嶋愛氏、ジャーナリスト兼メディアコラボ代表の古田大輔氏が【世界の「読み方」】と言うセッションを行った(冒頭写真 ⒸMASHING UP)。

 

各登壇者の情報の向き合い方

まずは古田氏からメディアとの向き合い方のキーワードとして2つ提示された。

 

「キーワードの1つ目は【情報の民主化】。インターネットとスマートフォンとソーシャルメディアによって、 いつでもだれでもどこでも情報を摂取し、拡散・発信 できるようになった。これまでのような マスメディアの在り方が崩れ始めた状況にある。ただ、マイナス点が2つある。1つは情報量が膨大になりすぎたこと。もう1つはフェイクニュースがあふれるようになった(専門家ではミスインフォメーションともいう)。 間違った情報をみんなが目にするようになってしまったことに対してどうすべきなのか。キーワードの2つ目は【信頼とバイアス】 というキーワード、どの情報を正しい情報として見分けるかそして信頼できる情報を見分けていくかというときに自分の中にはバイアスがあると認めること。自分の偏りに気づいたうえで、その偏りに基づいて情報を選んでしまう状況をどう改善していくのかを話したい」(古田氏)

まさにメディアの変遷と1人1人の向き合い方についての“問い”である。

 

続いて中嶋氏からメディア発信側として大事にしていることの話があった。

「季刊誌の方針として3つある。【薄めない】【盛らない】【煽らない】 ということ。NPOなどクロスセクターが社会的な問題を解決するためのソリューションを見つけていくための方法や経験を共有するものであるため、必要な人に届けるために情報を盛らない。精査された論文が掲載されるので要約や解説を付けるのではなく、読み手に判断をゆだねることで情報を薄めない。誰かを媒体として応援したり批判したりすることで煽らない。」

また、中嶋氏はスタンフォードソーシャルイノベーションレビュー誌から発刊から20年、同誌で過去掲載した論文から選りすぐりのベスト版として「これからの『社会の変え方』を、探しにいこう。」を出版。従来のメディアだと一度出した情報を何度も読み返して新たな解釈で発信することがなかなかできないが、同じ論文でも時を変え読む人を変えると捉え方が変わることが面白いと感じたという。そのためのコミュニティも形成する編集長として活躍している。

 

次は、評論家でラジオパーソナリティ、リサーチ機関の社会調査支援機構チキラボ代表、ストップいじめ!ナビの代表、と様々な顔を持つ荻上氏。

「大学院の時にメディア研究をしていたときは歴史からどういった情報を読み解くべきかの議論があり、ミスインフォメーション・ディスインフォメーションの違いやそれを受けて発信者に対して受け手はどう警戒すべきなのか、受け手が再発信(リツイート、シェアなど)で拡散者になることについて研究があった。1つはマス・コミュニケーション研究で、多くのマスメディアによって市民が不幸な同意をさせられてしまう現象について、影響力や市民のリテラシーをどうつけることが必要なのかの歴史研究や実証研究を重ねることによってマスメディアとの距離を測ること。もう1つは根拠がない情報がひとりでに歩いてしまう流言研究。流言が人から人へ伝わり、なぜ信じてしまうのか、なぜ再生産されてしまうのか。2000年代に入ってインターネットの登場によって、先述2つの研究の垣根がなくなっていく。今の時代は市民がアカウントを作って情報を拡散でき、強力なパワーを持つマスメディアとのバランスが変わってきた。メディアは瞬間的に消費されるのか等スピードに焦点を当てることも必要。メディアの影響力を理解しながら、メディアに対して介入して民主主義社会や自由主義社会を構築することが出来るのかに関心がある。」

最後に佐々木氏からは「メディアがブランドになる可能性を信じている。最近では映画会社がグッズやポップアップストアの展開を始めている。ほかには、アメリカなどではマスメディアとは別にワンパーソンメディアといわれる1人の記者が行っている影響力が大きくなっているように感じている。」とこれからのメディアの可能性についても言及があった。

 

メディアの信頼はどう生まれどう向き合うべきか?

古田氏から提示の2つ目のキーワードである「信頼とバイアス」については現代ではソーシャルメディアやマスメディアがどんな存在となっていけばよいのか、という問いには荻上氏が答えた。

「信頼はあったほうがいいという前提がある中で、信頼が果たす機能に着目すべき。信頼は人々が強い動機で求めるもので、信頼がなければ社会生活を営めないからである。つまり相手がこうあるだろうと予測と期待をもって動くため、その予期を共有するためにメディアの役割がある。」(荻上氏)

ところがメディアにはさまざまな形がある。たとえば、ワクチン接種の例がある。

「コロナワクチンは危険だと訴えているメディアもある。だが一方でワクチンについての断定ではなく、こういうものであると説明をするコミュニケーションを重ねることで信頼を得て接種に向かわせようという方法もある。メディアは様々であり、違う状況の中で社会合意をどうとるのかが議論すべきところ。」(荻上氏)

 

さらに古田氏からはメディア側の意識が大きく変わることになったきっかけがあったという。

「2016年問題というアメリカ大統領選挙がある。ソーシャルメディア上で人が話題を共有していくことにポジティブな意見が多かったが、アメリカ大統領選挙の調査報道で、とある人がフェイクニュースを流していることが、CNNやBBCの有名マスメディアよりもシェアされていた事実があった。そこから、人は目の前の情報を信頼して、真実だと思いシェアをしてしまう議論が始まっている。今ではアメリカでは“トラスト・プロジェクト”といって何をきっかけに我々が発信する情報を信頼してもらえるのかの研究が進んでいる。キーワードとして“バイアス”。たとえば、ワクチン接種について意見が分かれてしまう夫婦の取材をするなかで「なぜワクチン接種が嫌なのか?」「なぜワクチン接種を信頼しているのか?」を聞くと、大体の人が回答に困る。まさに政府やメディアの予期の働きによってバイアスがかかっているということ。」(古田氏)

また、フェイクニュースなども飛び交う中、私たちは情報との向き合い方ではどうしていけばよいのだろうか。古田氏はこう答える。

「メディアリテラシーの中での中心概念はクリティカルシンキング。ある情報を見たときにその情報を吟味する。その情報と自分の距離感を図るような方法を1人1人が持っていることから始めていくべき。クリティカルシンキングは受け手のリテラシーをどう上げるのかと同時に発信者もリテラシーを持たないといけない。」(古田氏)

発信者側・受け手側とも、メディアのなかで情報と向き合うときには、自分にはバイアスがあることを認めることがクリティカルシンキングとして距離を測る方法の第1歩になるのかもしれない。

中嶋氏からは「信頼」についてはこんな意見も出た。

「信頼は経路の問題でもあるのはないかとも思う。誰が言ってどういう風に自分が受け止めたのかでコミュニティが作られ、コミュニティには同じ経路を信頼している人たちが多いので、安心して話ができることになる。自分の経路から入ってくる情報は信頼しやすいが、信頼しすぎるとこれもバイアスになるので難しい。信頼はパーソナルなものも含むだが、信用はドライな意味もある。ファクチュアルというアメリカのメディアはバイアス前提で企業媒体の点数がついている。」

The Factual(https://www.thefactual.com/index.html)というサイトでは各メディアサイトの信頼度、クリエイティビティ、書き手の過去の記事や、異なるソースに取材しているか、異なる立場の人に取材しているか分析してアルゴリズムが採点する。あくまでもこれはバイアスがある前提である。

「こうした一覧性をもってメディアの評価を見るのも自分のバイアスにも気付けるきっかけとなる。信用は何らかの評価をしないと信用するかどうかが決まらない。経路依存で決まることと一覧して比較して判断することの両方があるのではないか。そのためコミュニティも開かれたものであることが大事である。」(中嶋氏)

 

今後のメディアの展望

最後に今後のメディア側として荻上氏から「メディア論の中ではメディアリテラシーでできることは限られている。世界を読むためにはメディアの読み方には限界があるため、メディア論の外側にあるさまざまな議論を経由したうえで社会をどう動かしていくのか考えるのがベター。」とコメント。

古田氏は今後のメディア接触の可能性についてスマートフォンを例にあげた。「情報摂取の方法は進化している。たとえばスマートフォン内蔵の文字起こしのツールなどを使うことによって、情報摂取の方法が変わっていき、浮いた時間で本質的な部分に迫っていくのができる。本質的な部分は、生き方や関心や情報アプローチの違いもあるように1人1人違う。また、自分の中にも複数の見方を持つのが重要である。なぜ自分はこの情報を信じているのか?信じない人になったらどうだろう?という問いを心の中で持つことが良いのでは。」

続いて中嶋氏。「【余白】を大事にすること。たとえば解像度の低い写真を見ると、想像力がはたらき、何かないものを自分の中で補完して見るようになる。そういったように、情報の摂取や受け取りだけについて考えずに、どういうものに接すると自分の中の情報が喚起されるのか?について考えて付き合う方法もある。」

最後に佐々木氏。「テクノロジーとメディアに興味があり、今後取り組んでいきたいことがある。1つはパブリッシュした記事はウィキペディアのように記事読んだ人も含めて全員編集できるようにする。2つめは記事編集に協力してくれた人にはメディアから読者にお金を払うような仕組みをする。3つめはメディアがニュートラルの立場を放棄することなどを踏まえて新しい切り口として可能性を広げていけるのではと思っている。」

 

英語表記のセッション名でもある「Looking At The World From The Different Perspectives」=「それぞれの違う見方で世界を見る」の通り、十人十色のメディアへの向き合い方がある。今回の登壇者の4名もメディアという共通の世界に対してのそれぞれのアプローチ方法や見方がある。私たちは違いを、受け入れながら、楽しみながら、考えることが求められている。

取材・執筆 福島茉莉奈

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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