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7 Oct. 2020

LGBTを理解し“アライ”を発信すること、アクションが世の中の空気を換える。タレント・MEGUMIさんインタビュー(前編)

阿佐見綾香
戦略プランナー
阿佐見綾香

(この記事は2018年7月20日に「Z TOKYO」掲載された記事を転載したものです。)

昨今、「LGBT」と同様に関心が高まってきている言葉がある。それが“アライ”だ。日本人からすれば人名として馴染みの深い語感だが、由来は英語の「ally」にあり「味方」「同盟を結ぶ」「結びつける」といった意味だ。LGBTの人々を理解しようとする姿勢をもち、社会的不利な立場を正すために、自分にできることを考えて行動する支援者のことを、アライと呼ぶ。

発祥はLGBT支援活動の原点となった北米の“ゲイ・ストレート・アライアンス”の活動。ストレートの人でそれを支持する人のことを“ストレート・アライ”と呼ぶようになったという。日本でも使われるようになったのはここ2~3年と近年だ。この言葉の良いところは、「ゲイのAさんはトランスジェンダーのBさんのアライ」「LGBT当事者のCさんは、障害者のDさんのアライ」といったように、さまざまなダイバーシティ・テーマにも応用しやすい概念だということだ。“アライ”は、色々なマイノリティの存在が顕著に見えやすくなってきたダイバーシティ時代にこそ必要な、良い居場所をつくる汎用的な概念なのかもしれない。

米国から日本に伝わり、少しずつ広まりつつある“アライ”の活動は、芸能人やスポーツ選手など、多くの著名人の共感を得た。近年では著名人による“アライ”の発信がニュースになることも増えている。2018年5月に行われた東京レインボープライドでは、大トリに歌手・浜崎あゆみさんのスペシャルライブが行われたことも、著名人によるアライ表明が増えている近年の傾向を象徴するようだ。

ここでは、今よりもずっと前、“LGBT”という言葉自体の認知もほとんどなかった時代から、LGBTの方々から“アライ”として認知されているタレント・MEGUMIさんにお話を聞いた。インタビューを前後編に分けてお伝えしていく。

 

聞き手:阿佐見 綾香(あさみ あやか)

電通ダイバーシティ・ラボ 研究員、株式会社電通 第2統合ソリューション局、戦略プランナー。本職であるマーケティングを専門としたプランナーの視点で、LGBTを中心として広がる消費に関する調査や研究を重ね、ダイバーシティに関する企業向け研修や講演、施策やアイデアなどソリューションを提供。みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。

 

“アライ”が世の中の空気を変える

阿佐見 MEGUMIさんといえば、2010年、2011年にLGBTコミュニティに貢献した人物や団体に贈られる賞典「Tokyo Superstar Awards」(以降TSSA)で、司会を務められたことが印象的でした。当時は“LGBT”という言葉もあまり知られてなく、タレントさんで言えば「私はアライです」と表明すること自体にハードルがあった時代だったと思います。その中でのMEGUMIさんの登場はインパクトがありましたし、勇気をもらった人も多かったと聞いています。世の中が今とまったく違った状況だったと思いますが、当時TSSAをはじめ、さまざまなLGBTに関連するイベントへの出演を引き受けられた経緯などを伺えればと思います。

 

MEGUMI レインボープライドを主催している杉山文野ちゃんっていう友達がいるんです。18年くらい前の沖縄でグラビア撮影した際、打ち上げで飲んでいたんですけど、隣の席に当時バックパッカーをしていた文野ちゃんがいたんです。「何やってんの」って話しかけたら同い歳で、実家が歌舞伎町で、とんかつ屋さんということとかが分かって。「あっそうなんだ。バイバーイ」みたいな感じで当時は別れたんですよ。

その後、本を送ってくださったりテレビに出演されたりしているのを見て「あの時の、あの人じゃない?」みたいな関係性でいました。それからイベントで共演したり、彼がどんどん頑張って外国人記者クラブで会見したりとか、年々色濃く目撃するようになったんです。

 阿佐見 東京レインボープライド共同代表で、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんと出会ったことが、LGBTのことを知る一つの理由だったんですね。

 

MEGUMI そうですね。それから、私が芸能界に入って最初にメイクしてもらっていた人がゲイだったんです。なんていうか自然と周りにLGBTの人たちが多くて。その友達から「TSSAやるから司会やってくれない?」とか「LGBTの人たちが成人式やるから来てくれない?」と誘われて、二つ返事で「全然いいよ〜」と、軽く賛同しているだけだったんですけどね。

 

阿佐見 フットワークがとても軽いんですね。

 

MEGUMI そのうちに、気がついたらアーティストも芸人も役者もカミングアウトして等身大で自分のことを表現する世の中になってきていて、それが文野ちゃんとかTSSAをやっていた仲間たちの力なんだろうなとすごく思っています。

 

阿佐見 元々あった身近な方との繋がりが、LGBTのイベントに関わる縁だったということですね。

 

MEGUMI ゲイの友達が欲しいとか、作ろうかなとか何も考えてなかったんですけど、本当にゲイの友達とか多いんです。それが結果的にTSSAの司会を務めるということに繋がりました。

 

阿佐見 お仕事をされている中で、身近な方でLGBTのご友人が多かったんですね。自然体ですね。

 

MEGUMI そうですね。言いやすいっていうのもあるんじゃないかと思います。芸能関係って個性的な人たちが多い業界ですよね。人とコミュニケーション取りたくなくてこもっていても、芝居とかお仕事ができればそれでOKな特殊な世界の中で、ゲイの人とかLGBTの人とかもたくさんいるし、なおかつアーティスティックな人たちが多いです。それに美意識を念頭に置いて仕事されている方が周囲に多いので、私もスタイリストでゲイの友達にメイクの道具やコスメのいいものを教えてもらったり、彼ら彼女たちから学んでいることは沢山あると思います。

 

カミングアウトしやすい環境、言いにくい空気が充満している環境

阿佐見 MEGUMIさんの周囲では、カミングアウトしやすい環境があるのですね。

 

MEGUMI そうね。でも人によります。ヘアメイクやスタイリスト、画家だとか表に立っている人は言いやすいのかもしれないです。例えば、ディレクターの方とか制作に関わっている裏方の人の方が言いにくいのかなと思いますね。

 

阿佐見 カミングアウトのしやすさという点では、職場だけではなく、職種による違いもあるということでしょうか?

 

MEGUMI それもそうだし、会社員だから……とかですかね。色々なことを気にしなくてはならない方が多いんでしょう。それでも私にはこっそり「僕、実はそうなんです」とかカミングアウトしてくれたり。「なんで私には言えるの?(笑)」って思った時もありますけど、なんか言いやすいんでしょうね。

 

阿佐見 あ、やっぱりMEGUMIさんには話しやすいんですね。分かる気がします。

 

MEGUMI 私の周り、特に芸能関係でLGBTのカミングアウトは二極化していると思います。

 

阿佐見 私自身は自分の会社の中や周りにはLGBTの方がいないものだと思ってしまっていたタイプでした。私も杉山文野さんとご一緒して、企業の中の従業員の方だったり、お客さまの中のLGBTの方に向き合う仕事をするようになって。そうしたアクションを取るようになると、身近な方でカミングアウトしてくれる人が出てきたりしたことを覚えています。それまでの私は、言いにくい人だったんだなとショックを受けたりもしたのですが、実は「いない」と思われている場所って、言いにくい空気が充満しているところでもあるんだなと気づいたりしました。

そういった空気を変えていくのは、影響力のある方の“パワーカミングアウト”もそうだし、影響力のある方が自身を“アライ”だということを示すような行動を取るということだとか、MEGUMIさんのTSSAの司会に出られるっていう行動もそういうことだと思うんですよね。周りはすごく騒いでたので。

 

MEGUMI そうだったんだ。そういう反響があったのは知らなかったですね。

 

阿佐見 TSSAの司会をやられたことでLGBTの方たちにとって、MEGUMIさんが身近に感じられる存在になったということですね。“アライ”だということもカミングアウトしないと分からないですもんね。

 

MEGUMI そうですね。でも、TSSAの前から周囲のLGBTの方たちが本当に仲良くしてくれていたりというのがあったのは大きかったです。

 

考すぎない。もっとゆるい気持ちで、行動を起こしてみる。

阿佐見 日本でもLGBTが受け入れられてきている要因の一つとして、LGBTへの理解浸透やダイバーシティ&インクルージョンの意識が日本よりも進んでいる海外諸国の影響が大きいと思いますが、MEGUMIさんは海外に留学されていた経験をお持ちでしたよね。その際に日本と海外の違いって感じられましたか?

 

MEGUMI う〜ん。日本人はある意味平和なのか、「あの人があんなことを言って……」とか「頑張れない私……どうしよう」とか言ってたりするじゃないですか。

阿佐見 たしかに(笑)。

 

MEGUMI 私たち日本人はもうちょっと頑張らないといけないんじゃないかなって、最近思っていたりしますね。考えすぎてて頑張っていない人が多いんだと思う。足並みを揃えたりとか、自分が身を置いている場所によっては個性を出しづらいのが日本の人。もちろん、強い心を持って生きていくっていうのは相当な覚悟がいるし孤独にもなるだろうし、LGBTの人たちは特にそうだと思うけれど。

でも、私たちの世界もそう。普通のOLさんもそうだと思うんです。本当はこうしたいけど……っていう何かしらの葛藤の前で建前があったりして折り合いをつけて生きている。でも、みんな考えすぎだと思っているんです。もっとゆるく行こうよって。アメリカの人とかは端から見て「嘘でしょ」って格好で街を歩いていても実際誰も見てないとかね。さすがにそこまでは無理かもしれないけど、日本の人は国民性もあって、考えすぎなのかなと。全てのジャンルの人たちがもうちょっとゆるく生きていくのがいいんじゃないかなと思いますけどね。

 

意識せずとも世間からはアライと認識されていた

阿佐見 取材の前におっしゃっていましたけど、“アライ”という言葉を認識したのは今日が初めてだとか。

 

MEGUMI そうなんです。そういう呼び方があるんですね。

 

阿佐見 “アライ”という言葉が日本に入り始めたのが、2015年前後とかなんですよ。伝わり始めて徐々に広まってきたのがここ最近のことだと思うので、MEGUMIさんのように“アライ”と周囲に認知されていてもご自身は知らない方もいるのかもしれないですね。ちなみにLGBTって言葉自体を知ったのはいつだったんですか?

 

MEGUMI TSSAですね。ワードとして何となく聞いていたけど、それまでちゃんとした意味は分からなくて。そこで意味を教えてもらったって感じです。

 

楽しそうなところに人は集まり、やがて地方の“Fammunity”をつくる

阿佐見 2010年、2011年のTSSAの前後ではLGBTという言葉が世の中にまだ知られていないような段階でした。それから世間の雰囲気はMEGUMIさんが感じているように変化してきたかなと思いますが、これまで、発信しやすいとか、しにくいだとかは考えずに活動されていたんだなっていうのは今日聞いてびっくりしました。

 

MEGUMI 何も気にしていなかったですね。私は当たり前のようにしていたけど、地元に帰ると「ゲイの人とか会ってみたい!」とかなんか動物に会うような言い方する人がいるんですよね。「下ネタとかすごいんでしょ!?」みたいに曖昧なイメージ。それを聞いて、なるほどねって思ったんです。東京にいるから雰囲気がフラットになってきたと感じていただけなんだなって。まだまだ地方だとカミングアウトしてない人とか、生きづらいような環境はあるんだと思いますよね。

阿佐見 そうですね。地方でのLGBTへの課題にどう向き合うのかということは今後注目テーマになっていくと思います。MEGUMIさんのご出身地の岡山にストライプインターナショナルという会社(アースミュージック&エコロジーなどのアパレルブランドを展開)があり、岡山出身の会社として中国地方でのLGBTへの課題に向き合おうとした取り組みを頑張っていらっしゃったりするみたいですね。

MEGUMIさんは、東京以外の場所で他に何か取り組みたいって思っていらっしゃることはありますか?

 

MEGUMI そうですね。今は金沢でお店をやっていたりするんですが、例えばそこへ東京から美容家の人を呼んで、地元の人たちに向けたワークショップをやったりしています。「美容で綺麗になるんだよ」ということを体験して楽しんでもらえればいいなと思って始めたのですが、参加された方が「久しぶりにこんなに化粧しました……!」と言ってくれたり、中には「介護に疲れてて……」と泣く方もいたりして、「これはなかなか深いことをやっているのかもしれない」と思ったんです。

2ヶ月に一回くらいのペースで開催しているんですけど、そういう場所があれば、東京で活動している人でもいろんなワークショップをできる。それは地元の岡山でも同じ。やってみれば豊かになっていくことだと思います。一つのものごとに対して、こういう「考え方もありますよ」「こういう良いものがありますよ」と考え方の角度を変えてみると何かに気づくきっかけになるんだと思うんです。きっと私が突然大きなイベントをやるのは難しい。“お店”くらいの、こじんまりとしていても濃い空間でやるっていうのが、特別なものになるポイントなのかなって気はしていますね。

 

阿佐見 それこそまさに、Z TOKYOの特集テーマである“Fammunity”のような場ですね。

※Fammunity:「Z TOKYO」では世の中のダイバーシティ&インクルージョンを実現し促進させている場を「Fammunity(ファミュニティ)」と名付けていた。

 

MEGUMI いきなり大きく始めるのは、ハードルが高いじゃないですか。できる人もいるけど、例えばお華とか美容とか、取っ掛かりやすいところからでいいと思うんです。

 

阿佐見 たしかにそういう意味では、東京のような規模のプライドパレードが全国にあればいいってことだけではない気もしますね。

 

MEGUMI 金沢のお店でワークショップをやっている人に、トシコちゃんていうゲイの子がいるんです。参加されている方はこの人はゲイだとか考えずに「トシコ先生!」って呼んで教わっているんですよね。だから、逆にこっちがLGBTうんぬんって考えすぎているのかなって少し思ったりもしますね。お華とかのワークショップの時は一見とんでもない格好で来ているんだけど、その場にいるのが普通というか。

阿佐見 力の入らない感じってすごい大事だなと思います。発信しようと考えすぎているとバチバチしてしまう感じですよね。その辺りMEGUMIさんは自然に体現されている気がします。

 

MEGUMI そう。あんまり「私たちを分かって」って押し付けるのは良くない気がしていて。みんな自分のことに一生懸命だし大変な時代だから、その場では理解した感じでも結局聞いてないんですよ。私は、人は楽しそうなところにこそ集まると思うから、それを心がけていくのがいいんじゃないかと思います。「私はこんなこともやってるから大変なの!」っていうのは前の時代なのかなって。もう少しワクワクすることをやって、タイミングが合えば一緒にいかがですか、くらいの方がやりやすいし、みんなも参加しやすい感じがします。

 

阿佐見 楽しくて、みんなが参加したくて参加しているうちにお互いを理解しているというような、童話『北風と太陽』の「太陽」のようなアプローチが今っぽいのかもしれないですね。

 

MEGUMI なぜこれをやりたいかっていう私の根源が、楽しくないとっていうところだからね。自分が楽しいからやりたいって思うことがすごく大事なことな気がしますよね。だって楽しくなければやらなければいいんだから。

 

アライの役割と広がり

阿佐見 LGBTの方々から“アライ”として人気がある理由が分かってきたような気がします。MEGUMIさんから見て、周囲の方のLGBTに対する関心というのは高まってきていたりするんでしょうか?

 

MEGUMI そうですね。「周りにゲイの人すごいたくさんいるよね」って言われたり。そういう人たちに対しては「ゲイの代弁者なの」とか笑って言ったりしてますけど。うちの主人とかは結婚するまでLGBTの人が周りにいなかったみたいなんですけど、私と結婚したことでゲイと会うとすごい謎の空気が流れてますよね(笑)違う星と違う星がすごい仲良くなってて、「面白いわ」「面白いな」ってなってたりとかね。逆にこっちが大丈夫かなとか構えてお互い傷つけないようにとか心配してましたけど、意外に大丈夫なんだなって思ったりしました。

 

阿佐見 LGBTの方々からMEGUMIさんのことはどう見えているかって聞こえてきたりしますか?

 

MEGUMI なんかね、すごいみんな崇めてくれますね(笑)。神みたいにすっごい優しくしてくれますよ。二丁目に行っても代々木公園のレインボーパレードに行っても「お酒持って行ってください!」なんて言われたりもして、「ああいいの〜?」みたいな感じで。いつからか崇めてくれるようになっちゃって、どうしちゃったんだろうって感じですよね(笑)。

 

阿佐見 東京レインボープライドにも、参加されているんですね。尊敬されるのはMEGUMIさんが最初だったからだと思うんですよね。MEGUMIさんはアライの走りみたいな存在なんです。

 

MEGUMI 私、走りなの!?

 

阿佐見 LGBTっていうワードも途中から突如出てきたじゃないですか。それと同じで、“アライ”っていうのも自然にそういう行動をされている方に言葉が当てはめられただけだなと思っていて。LGBTを支援しようとか、言えないことを代弁しようとか、差別的な発言があったらそっと正そうとか。ただただ「理解したい」と思っただけじゃなくて、そういう具体的にアクションを起こす人のことを“アライ”って呼ぶ動きがあるんですけど、私はそうやって定義されたアライという概念が広がっていくことは、いいことだなと思っています。というのも、MEGUMIさんのように具体的に自然に行動を取れる方もいれば、「自分は何したらいいんだろう」って方もきっと多いと思うんです。アライにはアライの、こんな役割があんだということを、認識したことで動きやすくなった人も出てきたんじゃないだろうかと思うんです。

 

(後編へ続く)

 

写真=沼田 直之
取材・文=小野寺 淳
企画・編集=阿佐見 綾香

取材・文: 阿佐見綾香
Reporting and Statement: ayacandy-asamiayaka

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