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Dec.

2024

interview
6 Oct. 2020

育児漫画『はととうーじろ』 作家きびちゅーさん インタビュー

國富友希愛
コミュニケーション・プランナー
國富友希愛

■「はととうーじろ」きびちゅーさんからのメッセージ

二児のシングルマザー、広告演出家、育児漫画家としてご活躍されるきびちゅーさんに、育児への想いをインタビューをさせていただきました。

©きびちゅー

 

■育児をする人の心のよりどころ「はととうーじろ」

はととうーじろが幼いころは、年子の未就学児の姉弟の育児をしながら、ハードな勤務をこなす制作会社で働いていました。当時、育児をしながら勤務をする女性への理解は進んでいなくて「同じ給料なのに、育児者は夕方に帰れるのはなぜ?」という冷たい視線や、年子を育てながら働くことへの指摘を受けたりすることがありました。家事育児をして、送迎をして、仕事に行って、送迎をして、家事育児をする。日々繰り返される労働、努力しているのに認められないという疎外感もありました。独身の方も含めて、多様な生活スタイルが存在する中で“同じ境遇”を理解できる人が身近にいない。“弧育て”の悩みを誰にも相談できなくて、苦しい気持ちを吐き出したいという思いから、ノートの端っこにメモ程度に文章と絵を描いていました。それをSNSに投稿してみたら、友人が面白いと言ってくれるようになったのがきっかけで、今の漫画「はととうーじろ」が誕生しました。

苦しい気持ちやリアルな子育てを、イラストでアウトプットするときに、あえて苦しいモーメントばかりが想像されないようにしています。読者にとって暗くならないようにしたいという意図もありますが、振り返ると9割苦しかった子育ての中で

「ああ、たのしいな。うつくしいな。しあわせだな。」

と希望を感じる1割の輝く瞬間を意識的に切り取ってイラストにし、子育てする自分を肯定しようとしていたのかもしれません。育児は、ご家庭によってやり方や考え方が全然違い家庭環境も十人十色です。育児が大変なのは暗黙知で、そのつらさよりも、私の中の1割の喜びや発見を可視化することで、共感をしてくださる方が増えたのではと感じています。

悩んだときにその悩みを相談できる居場所や方法があるかどうかが重要だと考えていて「はととうーじろ」が育児に向き合っている人にとって、育児の楽しみを共有しあう場であったり、みなさんの暗黙知の苦しさやモヤモヤを分散して分かち合う場になることを期待しながら描いています。

©きびちゅー

 

■はととうーじろとの時間

2020年はすべての人が変化にさらされた一年だったと思います。私自身、夜勤を含むダブルワークをするようになったり、子どもたちは学校が休みになったり、夏休みが減ったり。環境や心境が変化し、仕事と家庭の時間の使い方の配分が変わる中で、意識的に子どもとの“何気ない時間”を大切にしています。

例えば、漫画にもよく登場するのですが、“たべもの”にふれる時間。東京から岡山に移住してから特に「たべものがおいしい」「ありがたい」ということを実感するようになりました。高級な食事や外食でなくても、毎日のお米が美味しい、旬の魚が美味しい、旬の果物が美味しい、という喜びを家族と共有できる食事の時間が好きです。

それから表現をする時間。私は2、3歳のころから、ずっと絵を描いていました。3歳の時に、雪をみて感動して絵にしたあの感覚を、何十年たっても覚えています。妹と兄と、それぞれが好きな“りぼん”と“ジャンプ”を回し読みしたこと。両親の趣味の画集を見て「モディリアーニの顔、長いな。」と思ったこと。子ども時代の何気ない原体験や、自己表現、自己発見は、記憶として残る人生の糧なのではないでしょうか。子どもたちにもそのような時間を過ごしてほしいと思っています。そのために、100円ショップで購入したフェルトなどの工作道具や、シャボン玉を随時ストックし、子どもたちが“やりたい”と思ったときに、すぐにできるように準備しています。先日宿題をしていたはとが、外の天気を見て

「あ、雨が降りそうだ!今遊ばないと遊べなくなる!」

と言って庭に飛び出ていきました。“今”の気持ちに忠実に過ごせることが、子ども時代の素晴らしいところです。彼女たちがやりたいと思ったときにやらせてあげることを大切にしています。そして、私が子育てでつらいときそれを絵にしたように、子どもたちも必ずあるであろう言葉にできない気持ちや子どもながらの心のモヤモヤを、表現で発散させてあげることが必要なのではと考えています。ピアノを実家から運んで娘に解放したり、スポーツに積極的に参加したり、成長の中での心の葛藤や感動を、表現やスポーツや遊びを通して、昇華してもらえるようにしています。

©きびちゅー

©はと&きびちゅー
「鬼滅の刃」フェルト作品

 

■はととうーじろときびちゅーさんのこれから

ダイバーシティ&インクルージョンという言葉はまだ聞きなれないのですが、一方で、現実にはお父さんがいない子、お母さんがいない子、祖父母がいない子、外国のルーツがある子、障害がある子、さまざまな子どもたちと、はととうーじろを通して出会います。子どもたちに、人との“ちがい”に対するの先入観はなく、たまにひとり親の子ども同士で

「前の苗字なんだった?」「○○だった。」「うちは△△だったよ。」

という会話を自然にしていたりします。育児の在り方、つまり家庭環境の在り方は確実に多様化していく中で、正解を求めたり、先入観にとらわれているのは大人ではないでしょうか。いろんな大人がいて、いろんな子どもがいる、いろんな考え方がある、という状況を子どもたちは受け入れている一方で、それを受け入れられない大人が障壁を自らつくってしまっているのではないかと思います。というのも、うーじろが就学する前に、ランドセル選びに苦戦したのです。うーじろは水色がよかったのですが、リボンやフリルの装飾のない水色のランドセルがなくて、男の子のランドセルの色の選択肢の少なさに驚きました。本来、好きな色と性別は関係ありませんよね。習字道具にしろ、筆箱にしろ、お洋服にしろ、人形やおもちゃにしろ、「男の子はこちら」「女の子はこちら」という2択で子どもに迫るようなモノの売られ方が変わってほしいと感じます。

私が子どもの頃、家では髪型をショートカットと決められていて、長く伸ばしたくても我慢していました。切られた次の日は泣きながら学校へ行っていたのを忘れられず、私は子どもの髪型を自由にさせてあげたいという思いが強いです。子どもに選択肢を増やしてあげるために努めることは実は、自分の子ども時代の想いを癒す行為だったりします。私の子どもだけでなく、すべての子どもたちにとって、選択肢が増えるといいと思っていて、子どものやりたいことを応援したり叶える努力をすることが、私の使命だと思って生きています。

©きびちゅー

 

 

■元気をくれる育児漫画「はととうーじろ」

☆インスタアカウント @kibichu_

☆幻冬舎plus 毎月14日掲載  https://www.gentosha.jp/article/15040/

☆文芸誌「小説幻冬」隔月連載

☆山陽新聞 毎月第3金曜日掲載

2020年に、東京で「はととうーじろ」の個展開催予定だったそうですが、残念ながら中止になってしまいました。改めて開催されることを願っています。私も同じひとり親として、共感することが多く、アッというまの充実したお時間をいただきました。これからますますのきびちゅーさんのご活躍と、はととうーじろのすばらしい毎日の成長を、漫画を通して見守らせていただきたいです。

©きびちゅー

取材・文: 國富友希愛
Reporting and Statement: yukiekunitomi

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