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Dec.

2024

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11 Jan. 2023

【レポート】MASHING UP CONFERENCE vol.6『DE&Iリアルフォーラム』

寺岡真由美
プランナー
寺岡真由美

DE&Iが重要であることは社会の共通認識になりつつある一方で、経営陣がその重要性を理解しない、具体的なアクションが後回しにされる、などの課題も見えてきているのではないだろうか。

2022年11月11日に実施されたMASHING UP CONFERENCE vol.6での「DE&Iリアルフォーラム」では、ダイバーシティ推進の第一線で活動する面々が、そんな課題への向き合い方についてパワフルにトークを繰り広げた。

登壇は、一木裕佳氏(執行役員 サスティナビリティ推進室 室長/セガサミーホールディングスセガサミービジネスサポート、代表取締役社長/セガサミービジネスサポート)、日下部奈々氏(SDGs推進室/ソフトバンク)、松本紗代子氏(執行役員 ストラテジックアライアンス事業部長 兼 インクルージョン、ダイバーシティー&エクイティー担当/キンドリルジャパン)、山口有希子氏(執行役員 常務 CMO デザイン部門担当役員 DEI担当役員 カルチャー&マインド推進室 室長/パナソニック コネクト)の4名、モデレーターは小木曽麻里氏(代表取締役/SDGインパクトジャパン)が務めた。

(冒頭写真 ⒸMASHING UP)

 


 

DE&Iはビジネスに貢献する?

まずは登壇者たちが考えるダイバーシティ推進の重要性を、DE&Iはビジネスにどう貢献するかという観点から見ていく。

 

松本氏「私たちは人が人に対してサービスを提供するプロフェッショナルカンパニーなので、一人ひとりが力を最大限発揮することがそのままダイレクトに社会やお客様への価値を発揮することにつながります。そのため、個々が自分らしく能力を最大限発揮できるための環境をどう築いていくかが、私たちのID&E(インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ)の中核の考え方です。」

 

日下部氏「少し前までダイバーシティはどこか『やった方がいいこと』ではあったが『やらねばならない』ことになっていなかった。現在サステナビリティ推進の立場から経営に提言しているのは、『投資家たちは企業のダイバーシティ・インクルージョンの推進度合いで、企業価値を測りにきている』ということ。もうすでに『ダイバーシティ・インクルージョンは人事のアジェンダではなく、経営のアジェンダである』とです」

 

一木氏「ゲームはマーケットがグローバル。その中で「なぜ男性キャラは水着のバリエーションが少ないの?」や、「女性キャラが露出の多い鎧を着ているのはおかしいのでは?」などの声が海外のお客様から出ています。私たちはリゾートホテル経営も行っていますが、外国人の方、性的マイノリティの方、身体障がい者の方、発達障がいの方、知的障がいの方、たくさんの方がいらっしゃるなかで、みなさまに喜んでいただけるサービスを追求しています。ダイバーシティ・インクルージョンを社員全員が理解することは、私たちの製品・サービスにとって不可欠なのです。」

 

山口氏「ダイバーシティの推進は、企業カルチャーの変革につながっています。カルチャーが健全に軽やかになることで、意思決定のスピードが速くなり、ビジネスにプラスに働きます。2年前にアメリカのソフトウェア会社 Blue Yonder を買収しました。私たちのDEIやカルチャー改革が進んでなかったら、実現が難しかったかもしれません。」

(ⒸMASHING UP)

 

ダイバーシティを前に進める「KPI」

ダイバーシティ推進を「口だけ」にしないため、重要なポイントの一である目標設定について話が及ぶ。

 

山口氏「私たちが力を入れているのは、きちんとKPIを設定すること。例えば女性管理職比率は2035年に30%を目標に、加えて男性育休取得100%宣言もしています。宣言するのは簡単、実現は難しいですが、男性育休取得率も初めは数%だったところから3年後には約96%にまで上がりました。KPI設定で一番変わるのは、マネジメントの意識ですね。『DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は大切だ』は誰もが言いますが、数字が決められて自分の目標にされると、抵抗を感じるのが普通です。しかしその上でマネジメント陣が本質的なDEIの大切さを理解し、真剣に取り組んではじめて、DEIが実現するのだと思っています。」

 

日下部氏「日本企業は『悪い数字は改善するまで出したくない』というメンタリティがありますが、ESG投資の観点からすると、『出せさないのは管理も意識もしていないということ』と見られてしまいます。理想的な情報でなくても悪くてもまず開示する出す、そして毎年上がっていく過程を見せる、というのが大事です。たとえば賃金の男女差に関して、私たちもまだまだ大きな差がありますが、2021年に開示に踏み切りました。すると『日本で一番最初に開示したのがソフトバンク』とニュースになって。企業の姿勢いいですよね、とポジティブな報道にもつながったので、思考の変換はやはり必要だったと感じました。」

 

松本氏「数字を与えると『やらざるを得ない状況』になり、必然的にみんなの気持ちが改善しなきゃいけない方向に回っていきますよね。ひとつの仕組み化だと思います。一方で、全社が腹落ちする目標を設定することも大事です。当社では、社員たちが率先して全社の意見を収集する機会を作ってくれて、その情報をもとに目標設定を行いました。」

 

「女性の健康」「女性のマネジメント」…女性へのフォーカスにみんなが納得するには?

女性の健康への理解促進、女性だけの研修制度などの話題では、「どうして女性だけ?」という声が男女問わず上がることがある。そんな状況に、どんな姿勢で対応していくべきか。

 

日下部氏「たとえば職場でのWell-being、『よりよく生きる・ある』ことは、『活躍』の土台として何より大事ですが、Well-beingというと『ゆるく働けばいいってこと?』みたいな感覚があったり、バリバリ働いている女性から『私はそんなケアいらない』と思われてしまうこともあります。そのため、女性のWell-beingに関する施策は 、敢えて『フェムテックのイベントです』という名目で実施しています。フェムテックというテクノロジー、サービスを社員が理解しましょう、というアプローチに変えしました。そこでは女性からも『自分の体のことを知らなかった、我慢していた』という声が上がって、フェムテックというフィルターを通して敢えて設計することで『そこを意識していいんだ』というカルチャーを作りの一歩にすることができました。」

 

山口氏「女性の健康の問題については、男性役員にも登壇してもらい社内イベントで対談を行いました。男性役員が生理について話すことには戸惑いがありつつも、『女性がこんなにも大変な思いをしているとは知らなかった。もっと知っていれば、もっとケアができた』と振り返ります。これまでタブー視されていたために知らなかったことに気づくポイントを会社の中で多く作っていく。それがDEIのWell-beingのベースラインにあると思います。また、女性マネージャー研修などをやる際に『なぜ女性ばっかり』という話が出てきますが、その度にエクイティの考え方を啓発、理解してもらうように努めています。これまでの企業システムは基本的に専業主婦がいる男性中心に設計されてきた、という点を理解し、あえて”戦略的えこひいき”をすることは、DEI推進に絶対的に必要だと思っています。」

(ⒸMASHING UP)

 

こり固まった「粘土層」、どう向き合うか?

「粘土層」とは、上からも下からも水が通らない地層のごとく、古い価値観に縛られた40~50代の中間管理職をさす言葉。会社を変えるためにはこの層を説得することが必要だが、登壇者たちはどのように向き合っているのだろうか。

 

山口氏「昭和の価値観の中で生きてきて、当時は『正』だったものが今はそうじゃなくなった。昭和時代にストライクゾーンだったものが、令和にはボールになってしまった。そこに対しては教育しかないですね。現在、管理職全員を対象に4.5時間のDEI研修をやっています。『なぜDEIは重要か』から始まり、女性の健康などについても強制的に学んでもらう機会を創っています。社長からのメッセージも重要ですね。会社の毅然とした姿勢を見せながら、態度や言動を改めなければという気付きを与えないとなかなか変わらないです。」

 

日下部氏「『粘土層』の方々にとってダイバーシティ推進は、経験値としては腹落ちできないけれど頭では理解している、という状況だと思います。日々の判断も過去の成功体験が頭をよぎるでしょうし。なので、組織のトップに立つ人は、本当の共感まではいかなくても、頭で理解して、次世代のアクションを否定せず応援する側に回ってほしいと思います。これは会社としてではなく個人としての発言ですが(笑)。でも、それで結果が出れば、新たな成功体験が蓄積されDEI推進に腹落ちにつながります。」

 

一木氏「たとえば育休明けの女性が復帰したときに、バリバリやりたいのに上が過配慮をしてあまり重くない仕事ばかりを担当させ、評価もされず、キャリアがストップしてマミートラックに乗ってしまうことがありますよね。仕事をセーブしたい人もいれば、そうじゃない人もいます。管理職は一人ひとりに合わせてマネジメントをするべきで、そのための研修も必要です。意識がこり固まっているとマネジメントは難しいです。」

 

松本氏「求められるリーダーシップスタイルが変わったということですよね。わからない人にわかってもらうための工夫は必要で、私たちは、必ずデータを持って話します。たとえば、なぜID&Eをやらなければいけないか、それは、Z世代の90%はID&Eをちゃんとやっている会社を選ぶから、経営者はいい人材が欲しいはず、じゃあやらなきゃいけないよね、と腹落ちしてもらう。あとは、評価項目に入れること。私たちの会社はリーダーシップの行動規範を決めており、その規範を見える形で体現しているかが評価基準になります。自分の評価になるからやらざるを得ない、という仕組みを作っています。」

 


 

セッションの終盤では、登壇者から参加者へのエールが飛び交う。「ダイバーシティはやれば必ず前に進みます。難しいことも多いけれど、みんなで情報交換しながら助け合っていきましょう」と声をそろえた。

 

ダイバーシティ推進は企業活動にとって確実にプラスに働く。そのことを経営陣はじめ全社に理解してもらい、明確な目標を設定しアクションに落とし込んでいく。それらをエネルギッシュに実践している登壇者たちの姿は、参加者たちにも勇気を与えたことだろう。

取材・文: 寺岡真由美
Reporting and Statement: mayumiteraoka

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