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21 Dec. 2022

【レポート】MASHING UP CONFERENCE 『ESGは世界を救うのか』

中川紗佑里
リサーチャー
中川紗佑里

「ESGは世界を救うのか」

企業に突きつけられた、本質的ゆえに厳しい問いである。ここ数年で日本でも人口に膾炙した「ESG」という言葉。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字からとった略語だ。

 

2022年11月11日、「RESONANCE(共鳴しあう社会)」をテーマに開催されたMASHING UP CONFERENCE vol.6において、「ESGは世界を救うのか」というタイトルでトークセッションがおこなわれた。登壇者は、青木広明氏(ESG/サステナビリティ・リード/シティグループ証券 投資銀行・法人金融部門)、シュミッツ・クリスチャン氏(PDIE Group創業者)、村上由美子氏(ゼネラル・パートナー/MPower Partners)の3名。

 

欧米では今、アメリカを中心にESGが政治的・経済的な逆風にさらされているという。ESGの真価が問われるなか、どのような論点が出され、どのような議論がなされたのか。多様性メディアcococolorの視点でレポートする。(本記事内、写真はすべて ⒸMASHING UP)

 


 

共通の「ものさし」はもてるか? ESG評価の課題

クリスチャン氏「今、ESG評価には800以上のフレームワークがあると言われています。例えば、ある事業活動がどれだけ温室効果ガスの排出もしくは削減に寄与したかを算定・集計する「カーボン・アカウンティング(炭素会計)」と呼ばれる取り組みがあります。カーボン・アカウンティングは一般的になりつつありますが、計算モデルがいろいろあるので、どの方法が正しいのか議論になっています。」

 

青木氏「ESGの観点から企業をどう評価するか。そのものさしをどうするのか。今、そのコンセンサスを世界でつくっている最中です。規制に関する議論は欧州が先行していて、2021年からSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)が施行されました。これにより、金融の最前線でESG投資をおこなっているファンドマネージャーたちが、どのような観点から企業を評価し、投資の意思決定に反映したのか、開示が求められるようになりました。日本でもESG投資が拡大しており、資金調達という面でも『ESGファイナンス』『サステナブル・ファイナンス』も広まってきています。マーケットの拡大にあわせて規制に関する議論も今後も高まっていくでしょう。」

 

欧米で吹き始めた、ESGへの逆風

村上氏「ヨーロッパを中心にガイドラインの策定が進む一方で、ESGへの逆風も吹き荒れています。エネルギー価格の高騰が進むなか、『ESGなんて言ってられるか』という意見があるのも事実です。アメリカの中間選挙で注目を浴びたフロリダ州のデサンティス知事は、州の年金基金のESG基準を削除するよう命じたことがニュースになりました。特にアメリカで、そういう動きが目立ってきていますね。」

 

青木氏「ESG投資やサステナブル・ファイナンスは、過去5年ほどで急激にマーケットが成長し、追い風ムードが続いていました。しかし、ウクライナ侵攻などの地政学的リスクによって化石燃料の価格が高騰し、脱炭素に逆風が吹いています。また、脱炭素が産業構造を大きく変えてしまうことに危機感を覚える人がおり、声を上げています。ただ、こうした傾向は一時的なものであり、ESGを重視する大きな潮流は変わらないと思います。」

 

人的資本の開示。企業の収益につながる?

村上氏「今のところ日本ではESGへの逆風は見られず、むしろ人的資本を開示しようという流れがきています。2023年3月期からは大手企業では開示が義務化されますね。ただ、人的資本の難しさは、経済価値に落とすのが難しいことにあります。E(環境)はカーボン・アカウンティングなどによって定量的に表すことができますが、S(社会)に含まれるダイバーシティはそうはいきません。そのなかで、企業がダイバーシティを推進していくための鍵はどこにあるでしょう?」

 

クリスチャン氏「日本は高齢社会、そして人口減少という問題があります。従業員に外国人を迎えているか、男女比の偏りがないか、そして、企業の多様性推進を実行するリーダーシップがあるか問われています。ダイバーシティとインクルージョンという言葉はキーワードであり、よりよいイノベーションを起こすために必要です。」

 

青木氏「ダイバーシティはイノベーションの源泉となることに加え、優秀な人材を獲得し、ロイヤルティを上げるために必要だと感じます。実際リクルーティングしていても、企業としてダイバーシティにどう取り組んでいるのかという質問をよくいただきます。」

 

現状の開示が、前進を促す

村上氏「今年から日本で企業の男女間の賃金格差の開示義務も始まりました。これに対して手段と目的を取り違えていないか?という批判があるようです。でも、現在地がわからないと、どれくらい前に進めるかもわかりません。たとえ手段が先行していても、目的達成のための重要な一手のように思えます。」

 

青木氏「賃金格差の開示義務で焦っている企業は多いと思います。ただ、ESGについては開示を促すと、結果として取り組みも前進するという側面もありますから、ポジティブな効果を期待しています。」

 

結局、ESGは世界を救うのか?

青木氏「どのようにビジネスをやっていくかは、常に社会からの要請を受けます。その要請がESGだと思うんです。ESGについて考え、取り組むことが、自らのビジネスをより持続可能なものにし、社会の持続可能性に寄与することができるのではないでしょうか。」

 

村上氏「私はYESだと思います。ただし、一足飛びにいかないことは事実です。今日できること、明日できることを一つずつ実行することによって、多様性を育む企業文化が醸成されると思います。そのためには、忍耐も必要です。長期的な視点をもってESGに取り組むことができれば、世界を変えることができると思います。」

 


 

地政学的リスクに伴う、商品市況の高騰や為替通貨の乱高下など、先行き不透明な状況は今後も続くであろう。ただ同時に、ESGをさらに実効性のあるものにするため、ものさしの統一や規制の整備も着々と進んでいる。

 

セッションの終盤、クリスチャン氏は「Business as usual is over. Let’s create the future. (いつものやり方のビジネスは終わり。未来を作ろう。)」と会場に投げかけた。彼のメッセージに、このカンファレンスのテーマの通り「RESONANCE(共鳴)」する人が増えれば、たとえ逆風が吹いたとしても、ESGは世界を救うことができるのかもしれない。

取材・文: 中川紗佑里
Reporting and Statement: nakagawasayuri

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