Gap「LGBT就活スキルアップセミナー」開催の訳〜「自分らしさ」にオープンであることは原点 –
- 共同執筆
- ココカラー編集部
個性を活かして働けていますか?
8月28日、Gapグランベリーモール店(東京都)でLGBT(性的マイノリティ)の人たちを対象にした就活スキルアップセミナーが開催された。取材に訪れると、主催者のGap担当者から、少し意外な説明を受けた。
「内容はLGBTの人たち向けに特別にアレンジしたものではありません。アパレル業界で働くことや接客・販売に興味のある人たちに、Gapがごく一般的に行っている研修と同じことをお伝えする機会なのです」。
(Gap社員が講師となりセミナーを実施)
確かに様子を覗いてみると、講師役のGap社員から伝えられているのは、Gapの企業信条や、接客の方法など。一通りの座学のあと、これまでに学んだ知識をもとに、チームに分かれ、お客様役の社員にオススメの秋服のコーディネーションを行う。ヒアリングをし、店内で服をセレクトして、プレゼンテーションを行う。それは、ごく一般的な就職体験セミナーそのものだ。
(チームに分かれ、お客様役の社員に似合うコーディネートを見つける)
「就活」から育まれるコミュニケーションとは
まさにそのことに今回の研修のポイントがあるのだと、同セミナーを主催するNPO法人 ReBit(りびっと)代表理事の藥師実芳さんは語る。
国内人口の約7.6%がLGBT(電通ダイバーシティ・ラボ「電通 LGBT 調査 2015」)とすると、2016年度3月卒の就活生43万人のうち3万人以上がLGBT。しかし、トランスジェンダーの約69%、同性愛者や両性愛者の約40%が求職時にセクシュアリティ(性の在り方)に由来した困難を感じるという(Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2014調査より)。
男性用・女性用どちらのスーツで就職活動をするか、エントリーシートでどちらの性別を選択すればよいかわからず、就職活動のスタート地点にすら立てない。企業側にLGBTへ理解がないかもしれないと考えると不安でカミングアウトすることができない。カミングアウトせずに就職をしても、いつか自分のセクシュアリティが知れたら職場に居づらくなるのではなどの心配もある。
実際、面接中にカミングアウトしたことが原因で「帰れ」と言われたり、「君の体は一体どんな風になっているのだ」というセクハラ的な質問を受けたり、質問がLGBTのことのみに絞られ、それ以外の話が全くできなかったなど、企業の無理解から不均等な対応を経験する人も少なくないそうだ。
(関西からセミナーに参加したゆいさん(写真左))
「学生時代、一番熱心に取り組んできたことはなんですか?」。アパレル業界に憧れ関西からこのセミナーに参加したゆいさんは、こういった就活におけるオーソドックスな質問に答えること一つにも、難しさを感じていると言う。LGBT/ジェンダー・セクシュアリティについて考える有志グループを立ち上げ、その運営に学生生活を捧げてきたゆいさん。セクシュアリティに関する活動について語らなければ、自分という人間を説明することができない。しかし、大学のキャリアセンターに相談に行くと、決まってこの3つの言葉を返されるという。「LGBTであることは隠しておいたほうがいい」「少なくとも、今の日本では」「これは、あなたのためを想ってのアドバイスです」。
自分のセクシュアリティのことで特別扱いを受けることなく、純粋に楽しむことができた今回のセミナー。学んだことの全てが勉強になったと、ゆいさんはとても嬉しそうだ。
来年に就職活動を控えているという下平さんは、希望の業界や職種をこれから絞り込むところだった。これまでほとんど興味を持っていなかったアパレル業界だが、Gapの社員の人たちと交流し、その社風に触れる中で、考えが変わっていったという。「就職先を決める時に大事なのは、ありのままの自分で働くことができる社風を持つ企業を選ぶことなのかもしれないと思いました。就活に漠然とした不安を持っているLGBTはとても多いと思うので、LGBTフレンドリーであることを企業側から発信してくれることはとても嬉しいことだと思います」
(コーディネートした服について説明する下平さん(写真右))
社員が自分らしく輝いて働く企業に
この研修会を開催するきっかけは、今年4月に開催されたLGBTを祝福するイベント「東京レインボープライド」だった。Gapは二年ほど前から、国内でのLGBT啓発活動を展開している。同イベントで出店したブースの運営には100名以上の従業員有志が参加した。2009年に学生団体として活動を開始し、2014年に特定非営利活動法人となったReBitは「LGBTを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会」を目指し、企業や教育現場でLGBTへの理解向上を目指すプログラムを展開している。双方の関係者が出会い「草の根レベルでできる活動を展開したい」とアイデアを交わしあった。
就活セミナーの終盤、社員交流会では、参加者から事前に受け取った質問を元に、LGBTの社員が、自らの経験をもとに、LGBTとして働くことについて語る時間もあった。この社員は、かつて別の会社で働いていたとき、カミングアウトしたことで同僚の態度ががらりと変わってしまった経験をしたことが一度だけあるという。けれども、Gapではそういったことは一切ない。4人のLGBTのスタッフが働く店舗に勤務したこともある。「カミングアウトしている人、していない人、いろいろな人がいますが、何よりも、自分が大好きな仕事に日々情熱を注いで働けていることが嬉しい—」。その言葉は、参加者の心に熱く響いたようだった。
(社員交流では、Gapで働くLGBTの社員が、参加者の質問に答える時間も)
「誰もが自分らしく個性や才能を発揮して働くことは、全世界のGapで共有されている文化」だと、同社コミュニケーションズの郷間さんは語る。ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括性)。セミナーからは、このキーワードを体現していることをGap社員が誇りに思っていることが伝わってきた。
この日は、学生向けの就活セミナーの前に、首都圏約10店舗の店長を対象としたLGBT研修をNPO法人ReBitが講師として開催した。セミナーはGap店舗奥のスタッフ用ミーティングルームで開催されたが、休憩時間にGap社員から「トイレは男性用/女性用どちらを使ってもいいですよ」というさりげない声がけがあったことも、印象的なことだった。
個性に着目し、それを肯定的に受け入れること。そんな姿勢を発信することが、企業が個性豊かで優秀な人材を惹きつける上で強みとなると言えそうだ。そういった風潮が社会全体に広がるにはもう少し時間がかかるかもしれないが、今回の取り組みがそのひとつのきっかけとなることは間違いない。
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