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Dec.

2024

interview
25 Apr. 2022

『1252プロジェクト』学生のうちに知る正しい生理の知識とアスリートの原体験

石田温香
デジタルプランナー
石田温香

男女問わず、がむしゃらに毎日部活に励んでいた学生時代を過ごした方も多いと思います。その時に一緒に頑張る友人が1年(52週間)で約3か月(12週間)体調不良だったかもしれないと考えたことはありますか。

社会人生活においても、『生理休暇』という制度は耳にしても、実際に利用している方はまだまだ少ないのではないでしょうか。

 

 

 

1252プロジェクト。

その名称の意味は『1年(52週間)で約3か月(12週間)』、月経期間があることを指しています。

改めて意識すると日々の生活でとても大きな割合を占める月経。しかし、月経の話題は女性の間でも話しにくく、タブー視される傾向があり、そのため正しい知識を得ていない場合もあります。<1252プロジェクト>は主に学生アスリートに正しい月経の知識を伝えることで、スポーツ活動の中で月経の悩み・課題を抱える可能性のある学生アスリートのスポーツ環境を改善していく取り組みです。

1252プロジェクト オンライン記者会見の様子

そしてこの1252プロジェクトは「一般社団法人スポーツを止めるな(以下、<スポーツを止めるな>)」の活動の一つです。<スポーツを止めるな>は新型コロナウイルス感染症の影響によって、学生スポーツの大会が中止になり、進学に向けたアピール機会を失った高校生アスリートのために立ち上がった団体です。その活動の一環である、学生への教育プログラムの中で、元競泳日本代表 伊藤華英さんの生理に関する原体験のお話が学生から多くの共感を呼びました。

今回、<スポーツを止めるな>共同代表理事 最上紘太さんにお話を伺いました。

<スポーツを止めるな>共同代表理事 最上紘太さん

 

1252プロジェクト立ち上げ

アスリートの発信力と専門医の信頼できる情報

 

「生理を知れば、スポーツはもっと面白い。」をコンセプトに2021年3月に1252プロジェクトが立ち上がりました。学校への出前授業、トップアスリートが生理にまつわる体験談を語る『Talk up 1252』のYouTube配信、女子学生の意識調査等を行っています。また、各アクションにおいて東京大学医学部附属病院女性診療科・産科 助教[特任講師(病院)]女性アスリート外来医師 能瀬 さやか氏による監修を受けており、専門医による生理の正しい知識を学生アスリートに伝えています。

YouTubeでは伊藤さんの原体験や他の著名アスリートのお話も

 

最上さんが初めて生理のことを考えてみて

 

最上さん「伊藤華英さんから生理の原体験を聞くまで、生理のことを考えたことはほとんどありませんでした。男性は『生理』と言われても自分とは関係ないと考えがちです。しかし、1年の4分の1も月経によって体調等が不安定な期間が当たり前にあると聞いてとても驚きました。こんなに多くの日数に渡って体調が優れない状態になることを男性に置き換えて想像したことはなかったし、それを聞いたら男性は誰しも驚くと思います。生理のことをよく知らない男性にもわかりやすく、共感を得やすいように『1252プロジェクト』と名付けました」

最上さんは生理のことを知った時、3つの気づきがありました。

  1. 女性自身も生理のことを詳しく知らない
  2. 生理の症状には個人差がある
  3. 生理に関する困りごと・悩みを共有できない

そして、スポーツのルールや常識が生理の状況を踏まえていないと感じたそうです。

 

1.女性自身も生理のことを詳しく知らない

最上さん「女性はみんな生理のことをよく知っていると思い込んでいました。しかし、生理の話は女性の間でもタブー視されている傾向がありました。また、スポーツをしている学生にとって生理がくることはパフォーマンスが低下することに繋がるため、生理がきてほしくなくて「無月経でラッキー」という間違った理解をしている方がいたりします」

 

2.生理の症状には個人差がある

最上さん「生理の症状が重い人もいれば、全く気にならない人もいる。出産など体質や環境の変化などで症状が変わっていくこともお互いの状況が異なるゆえに理解するのに難しい点だと感じました」

 

3.生理に関する困りごと・悩みを共有できない

最上さん「男性指導者を相手に生理の困りごとや悩みを伝えることは難しいと認識しています。加えて、親御さんとの関係によっては相談できている選手・できていない選手がいます。また、スポーツは勝敗がかかっている以上、精神的な強さが求められます。生理での体調不良を伝えて、試合に出られないのではないかと不安になる方もいます。このような環境から生理での体調不良を言い辛いことが多い状況です。更に、間違った考え方として『生理が止まるくらい自分を追い込んでこそ一人前』ということを教える指導者もいました。間違った認識や発言があるのは、正しい知識が伝わっていないから。スポーツ界の生理に関する認識を変えていく必要があります」

 

もっと相談相手になれていると思っていた

 

悩みをシェアできないことは、1252プロジェクトで実施したアンケート結果からも浮き彫りになっています。

最上さん「中でも学校の先生から反響が大きかったものは『もっと相談相手になれていると思っていた』というものです。『運動時の月経に関する悩みの相談相手は誰か』という質問に『 1位母親、2位チームメイト、3位できる相手がいない』という結果を受けての感想ですが、これまでいかに女子学生の意識に迫れていなかったのかを表していると思います」

 

このような実情を踏まえ、1252プロジェクトでは、悩みなどがシェアしやすくなり、自分だけで抱えなくてよいと思えるためのサポートを目指し、コミュニケーション方法やその思いをワークショップに組み込んでいます。

追手門学院でオンライン開催されたワークショップの様子
男女問わず学生が参加

学生になじみが深いInstagramで伝える

 

2022年3月1日、1252プロジェクトから「スポーツ×生理の新しい教科書」をコンセプトとしたInstagram上の教育コンテンツ「1252 Playbook(プレイブック)」がリリースされました。学生アスリートをサポートする中で、もっと情報が届きやすく、学生自身で学びやすいような形を実現しました。掲載している情報は、東大病院女性アスリート外来医師 能瀬 さやか氏の監修のもと、正しい生理の知識を端的で明るい言葉と図でわかりやすく伝えています。

キャッチ―で明るい表現が目を惹くInstagram投稿
@一般社団法人スポーツを止めるな

 

自分らしくスポーツに向き合うために

 

筆者自身、学生時代にスポーツをする中の雰囲気として『勝たないといけない』『弱音をいうと試合に出られないのではないか』と感じることがありました。

最上さん「その人がその人らしく在るスポーツの取り組み方があると思います。個人的に学生スポーツが競争過多に感じることもあり、例えば小学生に対して勝ち負けにこだわらせることはスポーツ本来の楽しさや心身の健康を維持する役割からずれているように思われます。この話題については、先日ニュースで大きく取り上げられたものがあります。柔道で小学生日本一を決める大会を中止したことです。怪我や練習の追い込み過ぎで若くしてスポーツをやめてしまうケースが多くあります。」

 

本音を言える環境、心理的安全性の確保

 

最上さん「育成の視点に立って考えると、学生アスリートの進学状況次第で指導者が替わるケースも多く、中長期的な視点で育成することが難しいことも事実です。学生自身は結果を出せと言われる中で(試合に出るために)自分の弱みを出せない状態になっていて、心理的安全性が低くなってしまっています。心理的安全性はリーダー(指導者)が作るべきもの。学生が生理を含め弱みではないかと感じている部分、本音の部分を伝えて、共有した上で成長していける環境を指導者が整えていく必要があります」

1252プロジェクトで生理の正しい知識を学生に伝え、学生が周囲に悩みを共有しやすい環境になることで、生理以外の本音も伝えることができる風通しの良い環境に近づくように感じました。そのような本音を伝えられるフラットな環境であることによって、スポーツを楽しむ気持ちを持つことができ、心身ともに成長する経験を積みつつ、もっと技術を上げたいという向上心にも繋がるのではないでしょうか。

 

1252プロジェクト、これからの活動の拡がり

 

1252プロジェクトでは、今後のチャレンジを見据えて専門家を巻き込んだ取り組みにも着手をしているようです。

最上さん「女性アスリート外来医師 能瀬 さやか氏と共に活動する中で、プロジェクトとして東大病院の中に研究機関を持つことも視野に入れています。高い専門性のある知識を知る人ぞ知る知識にしておくのではなく、わかりやすく翻訳して学生の方々に伝えていくのが私たちの役目です。

女性のスポーツは男性のスポーツと比較して何が足りないかを指摘されることが多いのが現状です。生理も女性スポーツにとって足枷になると捉えられています。(東大病院との取り組みを通じて)ゼロの状態をプラスにするためのスポーツのあり方や、より健康になれるスポーツの仕方を研究し伝えていければと思います」

1252プロジェクト 監修 東京大学医学部附属病院女性診療科・産科 能瀬 さやか氏

 

最上さんがおっしゃっていた「女性はみんな生理のことをよく知っていると思い込んでいました」という言葉に一人の女性としてはっとさせられました。学生時代から正しい知識を身に着けることで、学生時代の生理の課題・悩みの解決だけに留まらず、その後の人生でも自分の身体と向き合う機会を作りやすくなり、大人になってからリスクがより高くなる婦人科系疾患に対する理解も深まることで、婦人科受診への心理的ハードルの軽減、生理や自分の体調について周りの人に相談しやすくなるマインドが醸成されるのではないでしょうか。

取材・文: 石田温香
Reporting and Statement: harukaishida

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