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Dec.

2024

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17 Mar. 2015

響きあう個性が社会を熱くする –コモンビートの挑戦Vol.1-

<100人で、100日かけて紡ぐステージ>

 とある週末。都内の公共施設の一室で、ミュージカルの体験説明会が開催されました。集まってきたのは、学生やエンジニア、主婦やフリーターなど、多様な背景を持った人たち。尋ねてみると、ミュージカルの体験は初めて、そもそもダンスや歌もほとんどやったことがないという人たちが大半のよう。そんな彼らをこの場に導いた、その吸引力はどこにあるのでしょう?
  今回は、NPO法人コモンビートのミュージカルプロジェクトの体験説明会のルポを通じて、その秘密を探っていきます。

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(参加者を歌とダンスで迎えるキャストメンバー)

  コモンビートは、2004年に設立されたNPO法人です。「表現活動によって、自分らしく・たくましく生きる個人を増やすことを通じて、多様な価値観を認めあえる社会を目指す」ことをミッションに掲げ、これまでに80回を超えるミュージカル公演を行い、3000人以上が参加、13万人を超える観客を動員してきました。

  メイン事業として展開しているこのミュージカルプロジェクトの演目は、団体名のルーツでもある「A COMMON BEAT」。2000年にアメリカのNPOによって創作された、多文化理解をテーマとした作品です。ストーリーは、異なる文化的特徴を持つ四つの大陸に暮らす人たちが、自らと異なる存在と出会い、交わり合うことを通じて、互いへの理解を深め、共存の道を見出していくという、一見とてもシンプルなもの。けれども、体験会参加者の多くは、この公演を観て、あるいは公演に関わる知り合いの姿に触発されて「自分もやってみたい」と強く心を動かされたのだと言います。

CommonBeat2

(スタッフのバックグラウンドもさまざま)

 いわゆる初心者たちが集まり、人に感動を与える、本物の舞台をつくりあげていく。そのダイナミズムはどのようにして生まれるでしょう。コモンビートはそれを「100人が、100日かけてつくりあげる」というスタイルで実践しています。そしてそのベースとなるのが、社会的な肩書き、立場から離れて、まっさらな自分と向き合うという、表現活動の力のもつ、解放のプロセスなのです。

<つながるバイブレーション>

 呼んで欲しいニックネームを書いたシールを胸に貼り、住んでいる場所、好きな人に告白されたい場所、行ってみたい国など、心のうちにあるものを、ワークショップを通じてシェアしていく、参加者の皆さん。この日は、遠く九州から訪れた人もいました。小グループに分かれての自己紹介タイムでは「こんなところにきているけれど、実はとても、人見知りなんです」と打ち明ける人の姿も。

CommonBeat4
(身体がほぐれると共に、緊張もゆるんでいく)

  柔軟体操で身体の緊張をほぐし、発声練習をして、歌声を輪唱にして、参加者全員で空間に響かせていく・・・。テンションの高い人たち、戸惑いながらも見様見真似でついていく人たちと温度差はありますが、共鳴が広がると共に、会場全体が少しずつ、一体感と熱気に包まれて行きます。

  赤、青、緑、黄色、四つの大陸のグループに分かれて、それぞれの大陸を象徴するイメージで即興でダンスを踊るというエクササイズでは、同じメロディをバックに、それぞれが想像力を膨らませ探りあげた、独自のムーブメントを披露。言葉を交わすでもなく、気づいたら自然に、互いの心の間にあったボーダーがどんどんと溶けてなくなっていく感じです。

CommonBeat5
(それぞれの大陸のイメージをダンスで自由に表現)

 「ここからは、2つのチームに分かれて、ダンスに挑戦しましょう。一つはヨサコイ、もう一つは、ヒップホップ」。この頃になると、それぞれのダンスを魅力的に表現しようと、皆さんの胸のうちに、創造性の炎がメラメラと大きくなってきた様子。互いにダンスを発表しあい、拍手を贈り合う姿は、さながら「A COMMON BEAT」の作品世界をリアルに再現させたようでした。「違いとは、恐るべきことなのか。そもそも、違いこそが、美しいことなのではないかー」。作品が投げかけるメッセージに、活動体験を通じて、まさに、ひとりひとりが向き合っていく。みんなが同じ心臓の鼓動(A COMMON BEAT)を持っていて、違いがある人たちも、そのドキドキを共にして、一緒に生きている。その共体験が、コモンビートの創造のプロセスなのです。

 100人の、バラバラの個性を持った人たちが、集まり、みんなで一つの作品を完成させる。この「いろいろな人が集まってつくる」というそのものが価値なのだと、コモンビート事務局スタッフで東京公演のプロデューサーを務める花宮香織さんは語ります。「例えば、学生はいろいろな仕事をしている社会人と出会うことで、将来を考える上でのヒントを得ていますし、社会人の人も、普段出会えない人たちと触れ合うことが刺激になると言います。そもそも一人一人が個性的で、みんな違う。そのことがすでに多文化ですし、同じダンスを踊っていても自然と出てしまうのが個性なのです。言葉でいくら多様性が大事だといっても伝わらないですから、表現することを通じて、感じ取っていくんです」。

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(プロデューサーの花宮香織さん)

  ミュージカルに参加するのは、18歳から60歳を超える人までさまざま。「50代の会社経営者が、10代の若者からダンスを教えてもらっているといったシーンが、ここでは普通に展開されます。社会的な肩書きは関係なく、誰もがフラットに出会えることを、みんな楽しんでいるのです」と、過去の公演に参加したことのある参加者は語ります。「これだけ一体感が感じられるのは、ミュージカルを成功させたいという共通の夢があるからこそ、なんです。全力で、やりきるという感じ」。口コミでコモンビートの存在を知り参加してみたという社会人の男性は「いくらミッションやゴールを掲げても、こういう風にフラットになれるって、会社組織とかだと、なかなかできないじゃないですか。ここのパワーはすごいなと、正直驚きました」と感想を聞かせてくださいました。

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(観るだけでなく、やってみる。その行動の変化が大きな発見をもたらす)

  「私たちは、個性豊かな、ダイバーシティ豊かな社会を目指していますが、はじめからそのミッションを前面に出して真面目な話から入ってしまうと、社会課題に関心の高い、いわゆる真面目な人たちしか集まらなくなってしまいがちです。『楽しい』を入り口にすれば、どんな人でも気軽に集まってこられるようになる。私たちは、いろいろな人たちに参加して欲しいから、あくまでも入り口はエンターテインメントにしているのです」と、花宮さんは語ります。

 コモンビートの作品では、セリフを持った役者は数人。あとの大多数が、自分の演じるキャラクターを自ら設計し、自分で考えて表現するそうです。誰かに教えてもらうのではなく、互いが教えあう「共育(共に育む)」というスタイルを大切にしている、コモンビートの創作プロセス。そこには、他者への理解を育むことと同時に、自分の中に眠る可能性が自ずと育っていくという、アドベンチャーがあるようです。東京公演は3月中にキャストが決まり、7月25日(土)・26日(日)に昭和女子大学人見記念講堂(三軒茶屋)で開催されます。

 現在は、東京、中部、関西、九州のほか、東日本大震災の被災地・石巻市では、地域活性化の起爆剤としても導入されているというこのミュージカルプロジェクト。次回はその可能性について、理事長の安達さんにお話を伺います。

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特定非営利活動法人コモンビート 
表現活動によって、自分らしく・たくましく生きる個人を増やすことを通じて、多様な価値観を認めあえる社会を目指すNPO法人。メイン事業の「A COMMON BEAT」ミュージカル公演への来場者は通算約13万人にのぼる。「よさこい」に特化した「お祭りビックバンプロジェクト」、国際交流の「アジアンビートプロジェクト」など国内外各地でさまざまな表現活動を展開している。

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取材・文: co-maki/今井麻希子
Reporting and Statement: co-maki-imaimakiko

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