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Nov.

2020

interview
16 Apr. 2015

自分らしさの追求の彼方に
–コモンビートの挑戦Vol.2-

表現活動によって、自分らしく・たくましく生きる個人を増やすことを通じて、多様な価値観を認めあえる社会を目指す-そんな大きなミッションを掲げ、2004年の設立以降、延べ3000人を超える人たちと80回以上のミュージカル公演を実施してきたNPO法人コモンビート。多様性社会の実現につながるその活動の裏には、どんなストーリーがあるのでしょう。理事長の安達亮さんにお話を伺いました。

<「自分らしさ」を実感できる人生をめざして>

安達さんは就職活動で、周囲が皆「内定獲得」という目的に向かって均一化していくことに、強い違和感を覚えていました。そのため、大学卒業後、企業就職せず、様々な価値観を得るために世界一周クルーズへの乗船を決め、海外に飛び出しました。船上では異文化理解をテーマとするミュージカル「A COMMON BEAT」をつくるプログラムがあり、これに参加したことがこの作品と安達さんの出会いでした。ミュージカルの描く、多様な個性を持った人たちが出会い、対立し、やがて互いへの理解を含めていくというストーリーに、求める社会の姿を見出したのです。下船後は設立されたばかりのNPO法人コモンビートの活動に参加。多くの人たちにこのミュージカルのメッセージを届けようと安達さんは当初からコモンビートの運営に深く携わり、2005年から事務局長に就任、2014年1月から理事長に就任しています。

「今の社会では、若者が未来に対してワクワクすることが難しい状況があるのではないかと思います。若者白書(内閣府)にも『自己を肯定的に捉えている者の割合が低く,自分に誇りを持っている者の割合も低い』と報告されています。コモンビートは、表現活動を通じて、自分らしくたくましく生きる人を増やす、つまりは『自己肯定感』を高めていくような価値を生み出していきたいと思っています」(安達さん)

<共感から描き出されるストーリー>

100人で100日かけてつくりあげるコモンビートのミュージカル。その運営の中核を担っているのは、プログラムごとに選出されるプロデューサ、演出、キャストキャプテンから成る3名のコアスタッフと約20人の運営スタッフです。彼らが体験説明会を開催して、100人のキャストを集める。そこではじめて、プログラムの実施が正式に成立します。「やりたい気持ちが参加資格」を掲げて、やりたい人が少なければやらないという判断をするという考え方をもち、楽しいという思いだけでは進められない、真剣勝負に臨んでいます。

「実際には70人くらいでも作品は成り立つと思います。でも、100人分の個性が集まってはじめて、あの面白い空間がつくれるのです。70人じゃ、そのエネルギーは半分くらいになってしまう」(安達さん)

スタッフのほとんどは、本業の傍ら、夜や週末の時間をフル活用してコミットしているメンバーです。誰かが教えるのではなく、互いに学び合うことで新しい価値を生み出していく、そのプロセスそのものがインクルーシブデザインであり、ダイナミックな作品そのもののよう。

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(ミュージカルの練習風景。衣装や大道具・小道具類が用意され、本格的な舞台がつくりあげられていく)

「スタッフ研修では、『自分らしくたくましい人とは何か』ということを、みんなでディスカッションします。正解のない話し合いを通じてお互いの価値観をシェアし合います。そして、ひとり一人が、自分自身のなりたい姿を思い描いていきます。」(安達さん)話し合い、学びあいながら共感の流れを育てていく。それが作品に魂を吹き込みます。

一方、それだけ熱意を持った人が集まると、当然ぶつかることも多いはず。違いを受け入れるとか互いを理解すると言葉でいわれてもなかなかしっくりきませんが、作品を通じて他者と向き合うと『ぶつかりあうことって当たり前にあることだよね』と実感できるようになっていきます。衝突があっても、それに向き合い、乗り越えていくことが自然と身についていくそうです。

他人と真剣に向き合う、そして「自分がいたから、この作品が上演できた」という感覚と、キャストひとり一人が実感する自己肯定感。それこそが、このプロジェクトの醍醐味と言えるのかもしれません。

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(100人で繰り広げられるステージは圧巻)

<新しい価値を育てる>

ミュージカルプロジェクトだけで87%もの事業収入を生み出しているというコモンビート。一方、「ミュージカル=エンターテインメント」というイメージから「NPOらしくない」という声が寄せられることもあるそうです。

「NPOには社会課題解決型と、価値創出型の2つがあると言われていますが、コモンビートは、どちらかというと後者です。自分たちの活動がどれだけ社会に価値を生み出していけるか、その部分を追求していきたいと思っています」(安達さん)

小学校にスタッフを派遣して行っている出前授業もそのひとつの現れです。「コモンビートのスタッフには、いろいろなバックグラウンドを持った大人たちがたくさんいます。子どもたちが多様な人生を歩む大人たちと出会うことは、キャリア教育の観点からも重要だと言われています」。

 実際、ある高校で実施したプログラムでは、歌や踊りの時間よりも、スタッフの生き方や職業についてのプレゼンテーションに、生徒たちが一番強い関心を示したのだとか。子どもに、人生の多様な選択肢を示していくことも、今の社会に求められることのひとつと言えるのでしょう。

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(子どもたちに好評の学校訪問活動)

 コモンビートは、東日本大震災の後、被災地・石巻市で「東北ミュージカルプログラム」を立ち上げました。その目的は、震災を乗り越え、地域の人たちが集い、元気になること。そして、人とひととのつながりをつくることです。「このミュージカルがきっかけになって、東北に人と注目が集まり、お互いの顔が見える関係がたくさん生まれて、つながりあっていけたらいいなと思っています」という安達さん。このプロジェクトは復興支援の枠組みで進められてきましたが、今では東北在住のスタッフで主導権をもって運営されるようになってきています。

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(東北プログラムの告知チラシより)

設立10周年を迎え、コモンビートは、これまでの活動報告を一冊の本にまとめて発表しました。安達さんは、コモンビートがこれまでの運営で培ってきたノウハウをできるだけ多くの人に共有することを心がけていると言います。実施することで、社会により多くの価値を還元することにつながりますし、メディアなどに注目されることで、参加者や運営スタッフの愛着を高め、そしてコモンビートの団体肯定感を高めることにも結びつくからです。

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(2014年から、コモンビート10年の運営によって培われた非営利組織運営ノウハウをNPO関係者に伝えるボランティアマネジメント講座も開催)

101日目から先を考える>

今、コモンビートが力を入れようとしているのが、参加者ひとり一人が「100人で100日かけてつくる」ミュージカルプログラムを終えた、「101日目からの生き方」について考えていくこと。

ミュージカルづくりを通じてどんなに個性を発揮しぶつかり合う体験を積んでも「会社に戻ったらこうはいかない」と感じている参加者も少なくありません。ミュージカルが終わった101日目から先に、社会に何をしていけるのか、コモンビートからの学びを日常生活や職場に持ち帰り活かすにはどうすればいいか。それを突き詰めていくことが、今後の新たな挑戦なのです。

「ダイバーシティ社会を実現するために必要なことは、周りにいる人みんながそれぞれ違うっていうことを認識することだと僕は思っています。違いはいろいろありますけれど、それを好奇心や相手への思いやりで乗り越えていけたらいいですね」(安達さん)

 この他にも、アジア諸国と歌や踊りでの国際交流を実施するアジアンビートプロジェクトにおいて、日韓キャストでミュージカルをつくるプログラムを展開しているコモンビート。これまでに多くの個性が育まれ、響きあってきました。それはこれからも国内外を問わずますます拡がっていくことでしょう。

-取材を終えて(編集部)-
 多様な個性を認めあうための手法が「表現活動」に帰着するのは、なによりもまず「自分自身の個性を認めなければ何も始まらない」ということに理由があるのではないのでしょうか。そして実は、そのことを難しいと感じている人が多くなっているのが、今の社会なのかもしれません。そうした自己肯定の機会をエンターテイメントとして仕上げていくコモンビートの視点は、私たちの社会がよりダイバーシティな社会へ進んでいくにあたって、大きなヒントを示しているといえます。あなたも一度、その熱い鼓動を共感してみませんか?

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(安達さんと、cococolor編集部(右))

特定非営利活動法人コモンビート 
表現活動によって、自分らしく・たくましく生きる個人を増やすことを通じて、多様な価値観を認めあえる社会を目指すNPO法人。メイン事業の「A COMMON BEAT」ミュージカルプロジェクトの公演来場者は通算約13万人にのぼる。「よさこい」に特化した「お祭りビックバンプロジェクト」、国際交流の「アジアンビートプロジェクト」など国内外各地でさまざまな表現活動を展開している。

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取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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