どの道を選択しても主たる道を歩ける時代に -開催20年、国際女性ビジネス会議にみる未来ビジョン
- 共同執筆
- ココカラー編集部
国内外からビジネス・プロフェッショナルとして高い志を持つ女性たちが集い、キャリア形成や社会変革など多様なテーマを学び合う「国際女性ビジネス会議」。1996年の初会合から20周年を迎えた今年は「歴史を動かす力に(Make History)」をテーマに1,100人もの参加者を迎えて開催されました。
<「脇道整備」の発想からの転換を>
この20年を振り返ると、女性たちにとって働きやすい環境を整えるさまざまな法案がつくられてきました。けれどもそれは「主たる道を何も変化させないで脇道を整備したに過ぎない」と、同会議の運営を担うイー・ウーマンの代表・佐々木かをりさんは語ります。「いろいろな働き方、暮らし方をする中で、みんながどんな選択をしても主たる道を歩いていけるという時代にしたい」——。「歴史を動かす力に」という、強いテーマは、そんな想いから導かれたのです。
<女性を含めさまざまな個性を活かす>
女性にとって働くこととは何か。ビジネスにおける女性の可能性とは−−。国際女性会議20年のテーマを振り返ると、この領域における社会的関心の変遷を垣間見ることができます。
男女雇用機会均等法の制定(1986年)、育児休業法の施行(1992年)、男女共同参画社会基本法の成立(1999年)、少子化社会対策基本法の施行(2003年)と、時代とともに女性とビジネスを取り巻く法的整備が進んできました。そして、テクノロジーの変化や新たなビジネスモデルの誕生もまた、女性の活動推進に大きな影響を与えています。だからこそ、ビジネスを通じて、自分たちにはできることがあるはず–同会議が、そんな想いを抱いた女性達が未来志向で、夢やチャレンジャースピリットを共有するために集う場であることが、過去19年間の参加者満足度99.6%という高い支持に表れているのかもしれません。
(左から一橋大学名誉教授石倉洋子さん、国立情報学研究所新井紀子さん、ネットイヤーグループ(株)代表取締役社長兼CEO石黒不二代さん、インテル(株)代表取締役社長 江田麻季子さん、MITメディアラボ副所長・メディアアート&サイエンス教授石井裕さん(c)国際女性ビジネス会議 )
ここ最近のトレンドとして、ダイバーシティがキーワードにあがっていることにも注目です。佐々木さんは「ダイバーシティという言葉がいろいろなところで聞こえるようになっていますが、これは女性活用ではありません。多様な視点でさまざまなアイデアがディスカッションの過程に含みいれられるという意味なのです」と語ります。
政治的リーダーシップにも期待
会議には安倍首相がサプライズゲストとして参加し、来年5月に開催される主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で、女性の活躍推進を議題の一つにする考えを表明しました。6月に開催されたG7サミットの首脳宣言には「女性の起業家精神促進のための共通原則」が盛り込まれましたが、これらの実現に向け、「女性起業家支援ネットワーク(仮称)」の設立も予定されているとのこと。
一方、世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ指数2014年報告(出典:Global Gender Gap Report2014 )によると、調査対象142カ国のうち、日本は104位と低ランクに位置づけられています。項目別では、経済参加が102位、政治参加は129位とまだまだ低い状況。こういった評価をこれからどう変えていけるのか、政治・経済両面からのアプローチへの期待は、国際的にもますます高まることと言えるでしょう。
((c)国際女性ビジネス会議)
注目のキーワード「LGBT」の分科会も盛況
複数のテーマに分かれて開催される「円卓会議」では、参加者から登壇者へ、ビジネスでのリアルな実情を背景とした質問も多く交わされました。
その中でも、注目を集めた分科会の一つが「LGBT大切な働き手、大切な消費者」です。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなど性的マイノリティと呼ばれる人たち)を、権利という視点にとどまらず、ビジネスやマーケティングの視点も含めて考えようと開催されたこの分科会。実はLGBTの分科会は7年前(第13回会議)から設置されていますが、当時はほとんどこのテーマについて知られておらず、参加者数も非常に少なかったそうです。しかし昨今は、4月に渋谷区で同性パートナーシップ条例が制定されるなど、LGBTが非常に身近なテーマとして脚光を浴びるようになってきたことから、当事者以外の人たちの間にも関心が高まっています。
(分科会には、NPO法人EMA日本理事の寺田和弘さん(右)、東京都世田谷区議会議員の上川あやさん(中央右)、電通ダイバーシティ・ラボの阿佐見綾香さん(中央左)、NHK国際放送局の山本恵子さん(左)らがスピーカーとして登壇し、会場は満席に。写真提供:国際女性ビジネス会議事務局 (c)国際女性ビジネス会議 )
日本の人口の7.6%(約13人に1人)いると言われるLGBTの人たち(電通ダイバーシティ・ラボ調べ)だけを対象と見るのではなく、これらの人たちを含む新しい人間関係が社会に受け入れられることで生まれる新しい消費スタイル「レインボー消費」が進むことが予想されるとも言われています。一方、ビジネスはこういった状況にどう応えていけばいいのか。個人の多様性を受け入れることと、社会の豊かさを高めることをどのように関連づけて社会の主流な価値観にしていけばよいのかについては、まだまだ、試行錯誤が続いています。「企業として、ビジネス・パーソンとして、どのようにこのテーマに向き合えばよいでしょう」。分科会の後、参加者からこのような問いを多く受けたという電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)の阿佐見綾香さんは語ります。「研修などを開催して、そのテーマについて知ってもらうことが大切です。関心が高まり、理解が深まれば、そこから新たな動きが生まれくるのです」。
理解の広がりが、可能性を広げる
このことは、ビジネスにおける「女性」というテーマに関心を高めようと、ビジネス・ウーマンたちが奮闘していた20年前にもつながるのかもしれません。この会議を始めたばかりの頃、イー・ウーマンの佐々木かをりさんは、経済団体の人から「そんな会議は必要ない・無駄だ」と一喝されたそうです。それが今では「女性を含めさまざまな人の手や知恵を集めなければ、前に進めないと、誰もが気づいています」(佐々木さん)。
海外からの登壇者も交えた国際会議とあって、日本社会を客観視しつつ、時にユーモアを交えながら展開された、熱気に満ちたこの会議。会議レポートは、今後、ホームページにも随時掲載される予定だそうです。21回目を迎える来年は、どんなテーマが掲げられるでしょうか。
(c)国際女性ビジネス会議
国際女性ビジネス会議公式ホームページ
写真提供:(c)国際女性ビジネス会議
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