「ノーライン・キャリア」の時代 ③~顧問キャリアカウンセラー~
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<ダイバーシティな働き方 「ノーライン・キャリア」>
グローバル経済の進展、少子高齢化、労働市場の流動化などの環境変化によっ て、日本人の働き方が変わりつつある、と言われ始めて久しい。終身雇用、年功序列といった慣行が崩れるなど、やや恐怖訴求的な論調のニュースが目立つ。一 方、この変化をチャンスととらえ、これまで当たり前とされて来た枠組み(ライン)に縛られず、逆に自分で自分の限界(ライン)を決めない多様で新しい働き 方、つまり「ノーライン・キャリア」を創りだしている取り組みが、現れはじめた。そうした開拓者たちの“いま”をレポートして行きたい。
<第3回 顧問キャリアカウンセラー>
“キャリアカウンセラーが、未来を創る”
「キャリアカウンセラー」という職業をご存じだろうか?仕事や日常生活を通して得られる「経験からの学び」を支援し、個人にとって望ましいキャリアの選択・開発を支援するキャリア形成の専門家、とされる。グローバリゼーションや少子高齢化などの影響による雇用環境の変化、労働市場の流動化に伴い、一人一人が自律的なキャリアを形成することが求められる一方、それを支援する社会システムが十分に整えられているとは言えない。厚生労働省の認定資格であり、現在、全国に4万人いるとされるキャリアカウンセラー(またはキャリアコンサルタント)は、正に「キャリア形成」を支援する専門家として、急速に必要性が高まっている職種なのである。
今回ご紹介する黒木(くろぎ)陽子さんは、キャリアカウンセラー組織では最大規模の会員を擁する日本キャリア開発協会所属のキャリアカウンセラー(正式名称はCDA=キャリア・デベロップメント・アドバイザーという)として宮崎を拠点に活躍され、全国で唯一、ご自分の職業名を「顧問CDA」と名乗っている。「顧問弁護士や顧問社労士がいるなら、顧問キャリアカウンセラーがあってもいいのでは、と思ったのがきっかけです」。
民間企業(CO-OP)で社員教育などの仕事に携わった後、2000年に独立。心療内科・精神科で心理カウンセラーとして勤務し、現場での臨床経験を経て、現在クライアント24社と顧問契約を結んでいる。日々、キャリア開発、メンタルヘルスやコミュニケーション等に関わる研修・講演・キャリアカウンセリングを企業向けに行っている。業種も、製造、金融、建築、小売・・・と多岐に渡り、隔週で宮崎と東京を往復する多忙な毎日を送っている。
顧問CDAという発想の原点は、勤務した法人の設立趣意書に謳われている「日々の暮らしは、芸術家が芸術作品を創るように、とても価値ある貴重なもの…」という理念。その事を胸に業務に携わる中で、専門的に生き方・働き方に関わる仕事をライフワークとしたい、という気持ちが湧き上がって来た。そのためには、個々人を理解・支援する能力が必要となる。独立に向けて再び大学で心理学を学ぶ中で、キャリアカウンセラーという職業があることを知り、CDA資格を取得。精神科やクリニックでの実務経験を通じ、治療に至る前の段階でキャリアに悩む人たちを支援する必要性を、ますます強く感じるようになった。
では、「顧問」であることの意味は何なのだろうか?「それは、継続的に個人と組織の変化成長に関わることが出来ること」だと黒木さんは言う。たとえば、このような事例があった。数年前に人間関係で社を辞めようかと思うほど悩み、相談に来た20代半ばの社員のキャリアカウンセリングを行った。その中で本人が自らを振り返り、結果的には悩みを乗り越え、今では、リーダーとして成長し会社の方向性を見据えながら部下育成についてダイナミックに考える存在になった。
そんな黒木さん自身のロールモデルとも言える存在は、ミヒャエル・エンデの有名な童話「モモ」。“人の話をじっと聴く”不思議な能力を持った少女・モモが、街の人々の時間(人々が時間泥棒から奪われてしまった一人ひとりの豊かな時間)を取り戻していく、という物語だ。30歳の頃、あるキャリアコンサルタント的存在の方から読むことを薦められた。「モモ」から黒木さんが学んだもの。それは、自らの声を聴き、たった一人でも勇気を持って行動できるか?ということ。行動の中にある自覚が環境まで創る力を持つ、ということ。現在契約して頂いている24社という数字は、「何の為に行動しているのか」を自ら問い続けながら活動を続ける中で相互信頼が生まれ、それが口コミによって広がった結果だと振り返る。そして、モモから学んだように、自分が他者をエンカレッジできる役割になって、社会の成熟を目指す顧問CDAを全国に広げて行きたい、と新たな目標に情熱を燃やす。
(クライアント企業トップからのキャリア戦略相談を受ける黒木さん)
黒木さんにとっての「キャリアカウンセラー」とは?「未来を創る人です」。一人一人の、自分と自分を取り巻く環境イメージ(これを「自己概念」という)の発達と成長を促す支援を通じて、組織や環境・社会の成熟を促す、そのような世界を創る存在だ。
厚生労働省は、平成36年(2024年)までにキャリアコンサルタントおよびキャリアカウンセラーを10万人養成する計画を立てている。それでも追い付かないほどのニーズが予測される一方、懸念されるのは、数字だけが独り歩きし肝心の「キャリア支援者」としての質が追い付かなくなることだ。資格ありきではなく、黒木さんのような志と覚悟を持って地道で継続的な支援を現場で実践し、その活動を通じて社会の成熟を高めて行くキャリアカウンセラーが、一人また一人と生まれて行くことが懸念を払しょくし、誰もがやりがいを持って働き自分らしく生きる、“つながり”のある社会を創って行くのではないだろうか。
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