一緒に、海を楽しもう! – 鎌倉バリアフリービーチ2016体験ルポ –
- 共同執筆
- ココカラー編集部
晴れ渡る夏の日。こんな日には「海に飛び込みたい!」という気持ちになる方も多いのではないでしょうか?
たとえ海辺に暮らしていても、障害があることを理由に、海に入ることをあきらめている人がいる。地元開業医のそんな気づきをきっかけに、昨年から有志メンバーによって1日限定で開設されているのが「鎌倉バリアフリービーチ」です。
2016年7月24日。2回目の開催となったこの日は、障害のある人やその家族、そして150人ものサポーター(ボランティア)らが集う、とても賑やかな1日となりました。
気づきを重ねて、場をつくる。
会場は鎌倉市材木座海岸。遠浅で波も穏やかな、家族連れの海水浴客に人気のエリアです。「バリアフリービーチ」開催日、ここにベニヤ板が運び込まれ、車椅子の人が海にアクセスするための通路がつくられました。
(早朝にも関わらず多くのボランティアが集まった (写真提供:バリアフリービーチ実行委員会))
朝6時40分。約30名のボランティアが、海の家「sun cafe paradise」に集合。海水浴場がオープンする午前9時に備え、設営作業を行います。
砂の上にベニヤ板を並べながら、実際に車椅子に乗って、移動のしやすさをチェック。段差や坂道を移動することが、車椅子やそれを補助する人たちにとってどんな意味があるのかを体感します。
(車椅子に試乗し、設置した通路の出来栄えをチェック)
砂浜はタイヤも食い込むし、通路も急な斜面の部分は砂があると滑りやすい。潮の満ち引きに合わせて、通路の長さの調整も必要です。スタッフには福祉や介護の専門家もいますが、こういったボランティアが初めてという人もたくさん。それぞれが手探りで「いま、ここに必要なサポート」を考え、場を整えていくのです。
海に入るために砂浜用車椅子4台と補助輪のついたイカダが用意されました。車椅子3台は取扱店から借りたもの、1台は、隣接する由比ヶ浜海岸が所有するものです。由比ヶ浜海岸は今年4月にブルーフラッグ認証(持続可能な海水浴場運営を目指す国際認証)を取得しましたが、認証取得の要件「バリアフリー対応」を満たすために購入された1台を、今回有効活用したそうです。
(「気持ちいい、これは是非体験してほしい!」。海に入り、乗り心地を確かめるボランティア)
あきらめていた海に
安全面の配慮が必要なことから、参加者は事前予約制で募集しました。昨年は23人が参加、今年は、参加者からの口コミもあり、20人の募集枠に対し、4歳〜83歳まで、合計46人の応募を受け付けました。
「予定人数をオーバーしましたが、もし断ってしまったら、その方は1年間海に入るチャンスを逃してしまうかもしれません。だからなんとかして、対応することにしたんです」。バリアフリービーチの立ち上げ人で、実行委員会委員長の医師・酒井太郎さんは語ります。
総勢150人というボランティアも、そのような想いへの共感から集まりました。地元だけではなく、都内や静岡から訪れる人も。
(海水浴場オープン前、集合し、気持ちをひとつにする)
海水浴場オープン時間の9時になると、家族や介護福祉士らに同行され、障害を持った参加者が続々とビーチに訪れました。
(「これから入りますよ」。ボランティアの呼びかけにサインで応える重松さん)
都内からご家族と訪れた重松さん。交通事故で体幹・四肢麻痺、言語障害になって以来、海に入ることはあきらめていたそうですが、訪問ドクターからの紹介でバリアフリービーチに行くことを決めたそうです。
海に入ると、笑顔で気持ちを指で表現し続けていた重松さん。ご家族からは「海に行くことが決まってから、ニコニコと笑顔になって、ずっと楽しみにしていたんです。海に入って、とってもいい顔をしています」とのコメントが。
都内から参加した四肢麻痺の女の子・守谷さんは、去年参加した友達に誘われて、お母さんに連れられてやってきました。「海に入るのは初めてでしたが、温水プールが好きで、水も怖らがないアクティブな性格なので好きかなと思って連れてきました。赤ちゃんの頃ならば、抱き上げてあちこちに連れていくことができたけれど、大きくなってくると、車椅子が入れない場所には行くことができないとあきらめていました。こういう場があってとてもよかったです」と、お母さん。
(初めての海を楽しむ守谷さん)
会社の先輩に誘われて横浜から参加した池崎さんは、怪我で歩けなくなってから、約10年ぶりに海に入りました。「最初は緊張して、ベルトを強く握ってしまいましたが、とても楽しかったです。まさか再び海に入ることができるとは思っていなかったので、とても嬉しい経験でした」。
(職場の先輩(左)と、海に入った感想を交わし合う池崎さん(右))
この海岸のすぐ近くに暮らしているという、83歳の小原さん。車椅子生活になってから、遠い存在となっていた海に入ることができるとあり、何日も前から、この日をとても楽しみに、車椅子を乗り換えるリハビリに励んでいたそうです。「ずっと海に浸かっていたかったようで、海から出たくないと、海の中で泣いてしまったんですよ」と、ご家族は笑顔で語ってくださいました。
(家族に見守られ、海に入る小原さん)
障害を持った方も、その家族も、そしてボランティア参加者も。この空間では、海に入ることで誰もが、とびきりの笑顔になっていくのが印象的です。
ボランティア参加した園芸療法士の女性は「こんな風に海に入ったのは本当に久しぶりで、自分自身、とても楽しかったです。海に入ることでダイレクトに、大きな自然・いのちを感じることができる。そこからもらうエネルギーはすごいなと、改めて感じました」と、にっこり。
また、海に行こう!
実行委員長の酒井さんは、バリアフリービーチへの想いをこう語ります。
「去年初めて開催した時に、参加者の方たちが『やった!はじめての海だ!』『潮の匂いって、こういう香りなんだ』と話すのを聞いて、涙が出てきました。本当にやってよかった、そして同時に、もっともっと早くにやっておけばよかったとも思たんです。バリアフリービーチは、何か特別に大掛かりなものがなくても、みんなで知恵を集めて、手づくりし、サポートしあうことで開催することができます。大変だけれど”支える”ではなく、”一緒に楽しむ”というコンセプトに”みんなでつくること” “続けられること”を、今後も続けていきたいです」。
(バリアフリービーチを終えての集合写真。前列中央部、白と黒のシャツの男性が酒井さん (写真提供:バリアフリービーチ実行委員会))
(酒井さん自らが刺繍を施した、バリアフリービーチロゴ入りのフェアトレードのエコバック。売上は全額運営資金に)
経験のある人もない人も、無理のない範囲で楽しく運営にあたることを心がけたという、鎌倉バリアフリービーチ。
「みんなで顔をあわせるのは当日がはじめてだし、安全面の配慮も必要なことなので緊張していましたが、誰もが自然体で楽しんで参加している姿がとても印象的で、この場そのものに心地よさを感じました」。この日初めて、都内からボランティアに参加した女性からは、こんな感想がありました。「また、来年もやろうね」。この日、この言葉は、障害を持った参加者、そしてボランティアスタッフの両方の間で、幾度も交わされました。
(「また、来年も」。多くの人が、この日のことを、そう胸に刻んだ)
障害を持った人たちが楽しめるビーチは、国内にはまだわずかな数しかありません。本当は、この日だけではなく、いつでも、障害を持った人が入れる海があるといい。そして、そんな場所が、全国各地に広がって欲しい。そんな想いを込めて、酒井さんは、こう語ります。
「海を楽しむ気持ちを、誰もが持ち続けられる社会を、きっとつくることができるはずです。障害がある方も、どの海水浴場に行こうかなと悩める夏がくることを願っています」。
夏はまだ、これから。もしかしたら、あなたの暮らすまちでも、このような場をアレンジすることができるかもしれません。「できるかな?」を「できるかも!」に変える体験。あなたもこの夏に、トライしてみませんか?
鎌倉バリアフリービーチ in 材木座
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