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Nov.

2024

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4 Dec. 2017

超福祉展2017 – シンポジウム編

今年で4回目となる「超福祉展(2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展)」が、渋谷ヒカリエ8/をメイン会場に渋谷各所で開催されました。主催は特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所。11月7日〜13日の間、最新の福祉機器の展示や数々のトークセッション、イベントに計51,300人が来場したこのイベントの見所を、数回にわたりレポートします。

「超福祉」を渋谷の街から発信。 – オープニングセレモニー

今年は初めて、メイン会場の他に渋谷キャストやケアコミュニティ・原宿の丘などサテライト会場が設置されました。ピープルデザイン研究所 代表理事の須藤シンジさんは、「ハンデのある人も遠慮なく渋谷の街に出ようということで、昨年よりも街の外へ出るアクションを強化しました。困っている人がいたら遠慮なく声をかける、手伝うことがイケてる。そんな街の文化をつくれたら」と語ります。

DSC_3631長谷部健区長(写真左)と須藤さん(写真右)

渋谷区の長谷部健区長も登壇し、「渋谷の街がもつパワーを活かし、渋谷が変われば東京が変わり、日本が変わる。そんなきっかけになれば」と、ダイバーシティやインクルージョンの考え方を意識した渋谷区の基本構想を紹介。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という区のスローガンを実現するための掛け声として、「YOU MAKE SHIBUYA」というロゴをこの11月に作成したことを紹介しました。

DSC_3639最後は登壇者による記念撮影

今年からマイノリティという大枠に障害やLGBTだけではなく、「病気」というテーマが新たに加わりました。病気をテーマにしたトークセッション3本についてダイジェストで紹介します。

セッション1:「病とともに生きるこれからのキャリア」

初日に行われたのは、NPO法人マギーズ東京共同代表であり日本テレビの記者兼キャスターを務める鈴木美穂さんと、産業医の大室正志先生による「病気」と「キャリア」を主軸にしたトークセッション。モデレーターは『婦人公論』編集長の横山恵子さんが務めました。

DSC_3688横山さん(ステージ左)、鈴木さん(ステージ中央)、大室先生(ステージ右)

鈴木さんは入社3年目の24歳の時に乳がんを発病し、闘病のため8か月間休職。家族や職場メンバーによる手厚いサポートのおかげで報道職に復帰した現在は、定期検診を受けながらも人の3倍働くまでに回復されたそうです。そして、鈴木さんが自身の闘病経験を活かしたいと考え立ち上げたのが、同じく若くして癌になった人やその家族が集うことで相談・ふれあいができるNPO法人マギーズ東京です。「〈病気と仕事〉は、マギーズでもっとも多い相談内容の一つ」と鈴木さん。

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大室先生は、「ひと昔前は重大な病気にかかると退職するケースもありましたが、今は病気と付き合いながら働く人が増えている」と指摘します。例えば「ノーマライゼーション」を掲げ障害者採用を積極的に行なう企業はあるものの、実際は健常者をスタンダードとしたノーマライゼーションのため、障害者雇用が定着しないのが今の日本。ノーマルの基準値を会社単位で変える、就業規則を見直すなどの対応ができれば、病気や障害のある人がより働きやすくなるのではないか。

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「みんなが働きやすい社会は病気の人に限らず働きやすい。思いがけない状況に陥った時にもその人らしく生きていける社会をつくることが何より重要」と鈴木さんは自身の経験をもとに語りました。

セッション2:「注文をまちがえる料理店」と「認知症」

5日目の午後一番のセッションは、NPO法人こども哲学おとな哲学アーダコーダ代表理事の川辺洋平さんをモデレーターに迎え、「注文をまちがえる料理店」の仕掛人である小国士朗さん、読売新聞「ヨミドクター」の副編集長である飯田裕子さんがパネリストとして登壇しました。

【写真①】20171111 注文1川辺さん(ステージ左)、小国さん(ステージ中央)、飯田さん(ステージ右)

「注文をまちがえる料理店」は今年の6月と9月に期間限定で都内にオープン。ホールスタッフが認知症を抱えているため注文した料理とは違うものが運ばれてくる可能性がありますが、問題視せずに楽しもうというコンセプトです。テレビディレクターを本業とする小国さんがこのユニークな発想を構想したきっかけは、認知症の人が共同で暮らす介護施設運営のエキスパート、和田行男さんを追うドキュメンタリーを5年前に制作したことでした。小国さんは、これまで社会が認知症を患う人を一般の人の“常識”で判断し、その枠内に押し込めようとしてきたことに気づき、そのことを多くの人に知ってほしいと感じたそうです。

プロジェクト実現のために小国さんがこだわったのは、“一流を集める”こと。福祉・介護のプロの和田さんをはじめ、料理・レストラン運営のプロ、デザインのプロ、IT関連のプロ、海外に発信してくれる人にも声をかけました。認知症を抱える人を笑いものにしている、見せものにしている、不謹慎だという批判を受けないためにも、プロの集団をつくることで最善の対応ができる体制をとったのです。

【写真③】20171111 注文5

主役のウエイターさんたちの選定は福祉のプロに委ね、営業時にはウエイターさんたちに過剰なストレスがかからないよう細心の注意を払ったそう。それでも間違いは起こったものの、6月には60%だったオーダーミスが、9月には30%にまで改善されたとか。

認知症を抱えていてもできることがあること、周囲が少しだけ柔軟に受け入れることができれば、認知症を抱える人が自信を失わずに生活できる。そのことを私たちが肌で感じることで、彼らの居場所が社会の中に確保されます。「注文をまちがえる料理店」は、一般の人が認知症を抱える人と交わり学べる場所なのです。

【写真⑥】20171111 注文19

「少しだけ自分が相手のペースを受け入れることができたら、その先にはそれぞれの個性を自然に受け入れる社会が築かれるのでは」と語る小国さんが最終的に目指すところは、クールジャパンならぬ「WARM JAPAN(暖かい日本)」を築くこと。同時に「WARM JAPAN」づくりには、私たち一人ひとりの参加が不可欠だと認識した1時間でした。

セッション3:「ヘアドネーションの活動と、活動を通じて考える多様性とは」

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続いて、6日目に行われた「ヘアドネーションの活動と、活動を通じて考える多様性とは」。登壇者はジャパンヘアドネーション&チャリティ(ジャーダック)(代表理事の渡辺貴一さん、花王株式会社感染科学研究所所長の山口紀子さん、フラメンコダンサーの吉田薫さん、司会は、自身もヘアドネーション経験者である朝日新聞大阪本社社会部記者の寺尾佳恵さんの4名でした。

DSC_3832寺尾さん(写真左)、渡辺さん(写真右)

「ヘアドネーション」は、何らかの病気で髪の毛を失いウィッグを必要とする子どもたちに、ウィッグの原料となる毛髪を提供すること。本来切った髪の毛は産業廃棄物扱いになりますが、美容師経験の長い渡辺さんはこれに疑問を感じて、ジャーダックの活動を2009年に開始しました。

渡辺さんによると、「1つのウィッグをつくるために必要な毛髪は最低31cm。さらに1つのウィッグには約30人分の髪が必要で、費用も50万円くらいかかる」とのこと! 31cmに満たない毛髪は、ジャーダックの協賛である株式会社花王で研究開発に役立てられています。

DSC_3831ウィッグが必要と申請する方の半数以上が子どもの脱毛症関連で、ドナー(毛髪提供者)は30〜40代の母親世代が目立ちます。

フラメンコダンサーの吉田さんは、小学生の頃にかかった脱毛症が原因で、高校2年生の頃からフルウィッグを愛用しています。「水泳の授業、修学旅行、日本人は違いに対して敏感で精神的にしんどい時期もあったが、友人の理解がとても助けになった」という吉田さん。ダンサーという職業ゆえに、ウィッグがずれないよう経験と工夫で試行錯誤してきた日々ですが、半年ほど前に髪をすべて剃ってしまうことを決断しました。「治療を放棄した訳ではなく、この方が清潔で扱いやすい。何よりこれが自分の自然な姿なので受け入れてほしい」と吉田さんは語ります。

花王の研究所で働く山口さんは、がんによる抗がん剤治療が原因で脱毛し、一時的に帽子付きウィッグやフルウィッグを使用した経験を持っています。「病気になるとおしゃれができなくなることにも落ち込む。ウィッグも毎日でも付け替えたいくらいですが、日本人は昨日と違うことに寛容でない」と指摘したうえで、個々のもつグラデーションを認め合える社会にするために、企業としても何かできることがあると語りました。

DSC_3836山口さん(写真左)、吉田さん(写真右)

「ウィッグが傷みにくいシャンプーや頭皮のダメージを緩和するプロダクトの開発など、企業によるCSVの取り組みが世の中を動かす流れにつながるはず」と渡辺さん。

吉田さんは同じ悩みをもつ人に向けて、「フラメンコを通じて一緒に体を動かすことができる空間をつくっていきたい」と今後の展望を話されました。

DSC_3848吉田さんはウィッグを外した姿もステージ上で披露

違いを認め合い、誰もが生きやすい社会をつくるためには何が必要か。それぞれのトークセッションから感じたことは、まずは知らないことを知り、理解を深めることがその第一歩につながるのではないかということでした。

取材・文: Hiraki
Reporting and Statement: hiraki

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