『ダイバーシティ・アテンダント』 #06郷土料理店で
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ダイバーシティ・アテンダント検定のテキストの中に紹介されているエピソードを1つ選びクイズ形式でご紹介。
第六回は郷土料理店での観光ツアー事例です。参加者には外国からの方がいることも増えてきました。
郷土料理店で
佐藤さんは湖畔の料理店を経営しています。名物は、地元の豚肉を使った大きな「わらじカツ」。小さいお店ですが3階まであり、1階は厨房と4人席が4卓、2階席は畳で30名ほどが座れます。3階は4人席が2卓の小振りの部屋が一つあり、湖畔がベストポジションで見えます。10年前に、思い切って観光ツアーの貸切店舗とし、昼食や夕食の提供を始めました。今では土日や連休になると、団体客でいつも貸切となっています。
ある日、いつものように、お得意様のJJT観光から予約FAXが入りました。備考欄に「明日5日、全49名。アレルギー:ピーナツ1名、蕎麦1名。ムスリム4名(豚・酒NG)。対応可能?」とありました。アレルギーはいつものことですが、“ムスリム”を受け入れるのは初めてです。佐藤さんは、奥さんの一恵さんに言いました。
佐藤 「ムスリムって、イスラム教だよね? 豚とお酒がダメなんだ!?」
一恵 「カツつけるけど、4人だけトリ唐揚げにしようか? ベジタリアンじゃないから大丈夫でしょ。」
佐藤 「そうだな。カツが揚がったら、最後に揚げよう。それから、お酒もダメなのか・・・・。豆腐のあんかけや調味料に酒を使うけど、それもだめなのかなぁ」
一恵 「もしそうだったら申し訳ないから、ミリンにしておけばどうかしら?」
佐藤 「あぁ! それなら安心だ。」
一恵 「えっと・・・・1階に16名、2階に25名、3階はムスリムのお客さん4人だけにしたらいいかな?」
佐藤 「そうだな。突然お祈りを始めたら、周りに迷惑だしな、そうだそうだ、そうしよう」
一恵 「さて、そろそろ、取り皿とお箸とコップ並べるね。今日は人数が多いから、AKビールからもらったコップを置きましょう。今日は暑いから、水やビールが出そうだねぇ」
あなたならどうしますか?
ムスリムの方が4人いらっしゃることになりました。佐藤さんはこれに対して、どうするべきでしょうか? 次の3つの中から、もっとも良いと思う回答を選んでみましょう。
①前日では、用意が難しいので、FAXを受け取ったときに断るべきでした。
②インターネットで情報を調べ、できる範囲でできる限りのことをするべきでした。
③差別・区別をすることなく、他の人と同じようにカツを出すべきでした。
②であるべきです。①のようにムスリムというだけでお断りするのは、望ましいダイバーシティ対応ではありません。また、他の人と同じにする③という考え方も、多くのバリアを生み出します。イスラームはいろいろな戒律がある宗教ですから、飲食に関わるものは、最低限の情報を日頃からしっかりと押さえておきましょう。
。
ホントのきもち・・・
ムニラさんは、夫が仕事で日本に半年ほどいることになり、一緒についてきました。夫の同僚の妻ラビアさんとも仲良くなり、夫婦2組で日帰りのバス旅行に参加しました。日本人ばかりのツアーですが、それも面白いと思いました。ムニラさん以外は日本語が多少話せます。
ムニラ: 「ランチの店、さっきインターネットで調べたら、名物が豚肉ですって!」
ラビア: 「事前に、豚と酒はダメだって伝えてあるから大丈夫だよ」
店に着くと、3階に案内されました。誰もおらず、貸切のようです。
ムニラ: 「あら? このグラス・・・・ Beerって書いてあるわ!」
ラビア: 「本当だわ!」
そこに、店員が料理を持って上がってきました。
ラビア: 「すみません。ビールと書いていないグラスに替えてください」
店員: 「でも、それ、きれいに洗ってありますよ」
ラビア: 「洗ってあってもダメです。お酒用のグラスは使えません」
店員は少し考えて、使い捨ての紙コップを持ってきました。店員が去ってムニラが言いました。
ムニラ: 「この店、大丈夫かしら? 豚肉を調理した調理器具とか使ってないでしょうね?」
ムニラの夫:「まぁ、ここは外国だから、多少のことには目をつぶろう」
解説
同じムスリム(イスラーム・イスラム教を信じる人)でも、国や地域によって、戒律の厳しさや捉え方は多少違いますが、次のことは一般的ですので、押さえておきましょう。
- 豚肉はハラーム(イスラーム法が禁止したもの・非ハラール)です。それを使ったもの(薬のカプセルやうまみ調味料など)も、すべてハラームです。一度でも豚肉を調理したことがある調理器具、盛りつけたことがある食器なども、ハラームとされています。豚を揚げたことがある鍋や油は、使うことができません。
- アルコールは飲むだけではなく、ミリンや醤油などに含まれるアルコールもハラームです。
- 牛、羊、鶏は食べることができますが、イスラムの方式に従って処理された肉(ハラール・ミール)でなければいけません。専門店やインターネットでの取り寄せで手に入れることができます。
- 食べ物だけでなく、行動や服装にもハラームがあります。ギャンブルや同性愛、女性が男性の医者や男性美容師を使うこと、女性が家族以外に髪や肌(手首から先と顔はOK)を見せること、男性が臍から両膝頭の間を見せたり金を含む布や絹を身につけること等。
- 1日に5回、メッカの方向に向かって礼拝をしますが、ある程度の時間的な幅があるので、そのときに礼拝できる場所で行います。
- 豚の置き物やお酒のビンなどが置いてあるのも嫌う場合があります。
【ダイバーシティ・アテンダント検定公式テキストより】
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