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interview
5 Oct. 2017

言葉の飛距離を伸ばす – ダイアログ・イン・サイレンス

口に指をあてた(静かに)のポーズに添えられた「おしゃべりしよう。」の言葉。2017年夏、日本で初開催したソーシャル・エンターテインメント「ダイアログ・イン・サイレンス」のキービジュアルのメッセージです。音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむというこの活動の魅力を紡ぐ言葉に込められた想いとは何か。コピーライターとしてプロジェクトに関わった電通コンテンツ・ビジネス・デザインセンターの阿部広太郎さんに尋ねました。(取材:cococolor編集部)

ワクワクする気持ちをイメージする

阿部さん自身の、ダイアログ・イン・サイレンスとの出会いについて教えてください。

阿部:
一月から配属になったコンテンツ・ビジネス・デザインセンターの先輩、寺尾聖一郎さんが、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村夫妻から「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(視覚障害者にアテンドされ暗闇を探求するソーシャル・エンターテインメント)」だけではなく、「ダイアログ・イン・サイレンス(以下、サイレンス)」や「ダイアログ・ウィズ・タイム(70歳以上の高齢者のファシリテーターの案内による対話型エンターテインメント。以下、ウィズ・タイム)」も広げていきたいという想いを伺ったそうなんです。その話を僕にしてくださって、僕もコピーライターとしてプロジェクトに加わることになりました。同期のアートディレクター高橋理(おさむ)くんを誘い、3人のチームで担当しています。僕自身、ダイアログ・イン・ザ・ダークの存在はずっと知っていたのですが、初めて体験したのは今年の2月のことでした。これはすごいぞって唖然としました。最初、ひとりぼっちになってしまうんじゃないかと不安でした。でも、一緒に参加した方たちと声を掛け合うことで安心して進んでいけるという体験があって……。世界の見え方が変わってしまったんですね。それから、まちで白杖をついて歩いている方を見かけると、人ごとじゃないというか、「自分に何かできることはないかな」と考えるようになったんです。

今回、サイレンスを伝えるにあたり、どんなことを意識しましたか?

阿部:
伝えることも大事ですけれど、伝え方が大事だなと考えました。ダークは暗闇なので、黒を基調とした世界観ですが、サイレンスは静寂ということでシンプルに白の世界観だろうと話し合いました。「静けさの中の対話」を表現していく上で、志村夫妻から、「これは福祉のイベントじゃないんです。ソーシャル・エンターテインメントなんです」と伺っていましたので、ビジュアルも含めて「分かりやすいけれど気になる」「なんだかわくわくする」そんな心地よい違和感を目指しました。
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阿部:
指を口もとに当てるポーズだと普通「お静かに」っていう言葉が入るんですけど、対話なので「おしゃべりしよう。」と真逆の言葉を添えました。絵と言葉との間でギャップがあって「なんだろう?」となるかなと考えたんです。そして「言葉の壁を超えて、人はもっと自由になる」というコピーは最初、「人は言葉を超えて、より自由になる」でした。企画監修の松本果林さんや森本行雄さんから、「手話も言葉なんです」と伺ってはっとする経験があって。考えてみたら、ボディーランゲージというように身体の表現だって言葉だし、手話も言葉なんだなって。それぞれの言葉は通じ合っている、だとすると、「言葉を超える」というより「言葉の壁を超える」という表現の方が言い当てられると考えました。たとえ、使う言葉の異なる外国の方たちがやってきても、あの空間に入れば、自由にコミュニケーションを取ることができる。そういうことを表現しました。

異なる世界の交わりの中で

– 「言葉の壁を超える」と言えば、J-WAVEで放送された「サイレントラジオ」も話題になりました。

阿部: 
「聞こえない世界のエンターテイメントを、聞こえる世界のラジオがサポートしていく」という、真逆の世界に位置する両者が出会ったことで実現した企画でした。「ラジオは耳だけじゃなくて瞳でも楽しめるはず」というコンセプトのもと、J-WAVEさんと一緒にチャレンジしたんです。「ラジオ番組の手話同時通訳」というそのままの言い方だと、「いいことそうなことをやっているけれど、自分にはあまり関係ないかな」という印象を与えてしまう気がしました。「サイレントラジオ」という言葉をつくることで、「え、なにそれ?」とたくさんの方が興味を持ってくれて、放送後も、番組ホームページで配信している動画のアクセスは伸びているそうです。新しい言葉から、新しい未来が生まれてくることを実感しました。

170729logo_silent_radio(「瞳で聴こう。」というコピーと、「瞳」に見えるデザインには、この両者の出会いが表現されている)

表現を変えることによって、届く範囲が変わってくるのですね。

阿部:
アテンドを募集する際のポスターも、耳の聞こえない人たちに届けるものなので、手話のイラストで、線を入れることで手の動きまで伝わるような表現をしました。ダイアログ-イン-サイレンス.jpのURLを指文字で表現しています。

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阿部:
僕は「世の中に一体感をつくりたい」という信念を持っています。サイレンスの持つ魅力的な部分を、みんなで体感する、一体感をつくるためにどんなメッセージやデザインにするかというのを、みんなで考えることができて、それがすごく楽しかったです。知らないことっていうのはワクワクするし、楽しいですね。

阿部さんは、他にもソーシャルのテーマでコピーを書いていらっしゃいますね。

阿部:
脳性まひで車椅子を使って生活している元芸人の寺田ユースケさんという方がいます。寺田さんが発起人の日本各地を車椅子で旅する「HELPUSH(ヘルプッシュ)」プロジェクトのネーミングを担当しました。寺田さんが、駅の近くにある階段を登ろうとした時に、駅員さんに「手伝ってください」とお願いしたところ、「管轄の範囲外なので手伝えません」と言われたらしいんです。寺田さんがショックを受けて友人にその話をしたら「道行く人にちょっと手を貸してもらえばよかったじゃん」と言われた、と。この気付きから、プロジェクトは生まれました。当初は、車椅子ヒッチハイクで「ヒッチプッシュ」という打ち出し方だったのですが、意志を言葉に込めた方がいいですよねと「HELP(ヘルプ)」と「プッシュ(PUSH)」と組み合わせてHELPUSHにしました。これなら海外の人にもイメージが伝わるよね、ということも考えて。
helpush阿部:
ジャーナリストの堀潤さんと恵比寿新聞編集長のタカハシケンジさんが開催する「伝える人になろう講座」というネーミングも担当しました。そもそもは、堀潤さんの「市民記者を1,000人に増やしたい」という想いからはじまったんです。名前の相談をしてもらって、僕がまず考えたのは「市民記者」という言葉です。悔しいことに「市民記者・ジャーナリズム」という言葉は、「一部の熱心な人が取り組むもの・おっかないもの」という、多くの人にとって他人事なイメージをつくってしまっていると感じたんです。けれども、もともと堀潤さんが「8bitニュース」というメディアを立ち上げた時の想いを振り返ると、「一生懸命説明すれば、何かが変わっていくと信じています」という、伝える可能性を信じた気持ちに辿りつきました。つまり目指すは、「伝える人を増やすこと」なのだろうなと考えて、この名前を提案したんです。


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(写真:2016年に開催された「伝える人になろう講座」の様子。「伝える人になろう講座」は、恵比寿のミュニケーションスペース「amu」で開催されている)

まっさらなこころで、出会うということ

ダイバーシティの領域で「伝わりやすい言葉」をつくるために、どんなことを意識していけばいいのでしょう?

阿部: 
なんとなく、人って「これはこうである」と思い込んでいるところがありますよね。それを取り払って、まっさらな気持ちで飛び込んでみるっていうのが大事だなと思うんです。例えば言葉の通じない海外に突然放り込まれたら、身振りや手振り、スマホを使ったりして、なんとかして伝えようとするじゃないですか。そういう底力って人間は持っているって思うんですね。感じたことをいろんな人と分かち合うために、僕たちは言葉というものを持っている。だから、外から眺めているのではなく、できるだけまっさらな気持ちで飛び込んでいけば、お互いを受け止め、認め合うことは絶対できるはずだと信じているし、そのために必要なことを、言語化し続けたいと思っています。

色眼鏡をかけずにものごとを見ることは、難しいことでもあると思いますが、そうならないように、どんなことを心がけていますか?

阿部:
そういう意味では、好奇心ですかね。心が曇っていると見えないことはたくさんあるなと思っていて。心から一緒にいたいと感じる人たちと仕事したりすることで、心が晴れの状態をつくる。好奇心を発揮しやすい状態で、わからないことや不思議に思うことを調べて、いろいろな良いこと見つけられるようにしたいと思っています。

「興味を持って楽しく」というアプローチなのですね。

阿部:
「なんで世の中がこうなんだ」という苛立ちやフラストレーションは、活動のエンジンにもなるので、すごく大切だと思いますが、同時に、うまくハンドルを切れるようにしておくことも大事だなと思うんです。悲鳴をあげることももちろん必要です、ただ悲鳴だと共鳴しづらい部分があるので、悲鳴の中にある本心を丁寧にすくい出していく。それを、言葉やデザインの力で考えていきたいんです。

_DIS-24阿部:
ネガティブな感情の方が伝播しやすいし、お互いにとってポジティブになれるポイントをみつけていく方が、手間暇もかかるし大変なんですよ。ただ、人のこころをできるだけ前向きにしながら、お互いにとってよい着地を目指すのを諦めちゃいけないと、強く思っています。伝え方ひとつで、飛距離がびゅーんと伸びて、きれいな放物線を描くように心に届くんですね。ネガティブな批判や怖い言葉も、届くには届きます。でも、空襲みたいな感じで、受け取る側は「あーきたぞ」って逃げていっちゃう。それは嫌なんです。コミュニケーションのキャッチボールを、受け取りやすいものにしていきたいし、そのために、心を込めながら、言葉を尽くします。ポジティブな表現は「綺麗事」と言われてしまうかもしれないけれど、その綺麗事のなかに気になる企てを入れていきたいって思うんです。

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阿部:
ダイアログの代表の志村さんも、心に情熱のマグマを持っているけれど、優しい強さを持ち続けて行動されている。マグマと温泉の関係と一緒ですね。熱さと優しさが両立するから、みんなが浸かってポカポカしていられるし、そこに来ることで変わる人がたくさんいる。燃えたぎる熱い想いを、みんなが浸かれる温度にして、適温で届けるのが僕たちの仕事です。

-クリエイティブの視点から、どのように社会と関わってゆきたいと考えていますか?

阿部:
僕は「名は体を表す」って言葉が好きで、「名付ける」という行為自体が生命力を与えることだと思っているんです。言葉を変えてあげるだけで、伝わり方が変わることありますよね。広告会社って、今まで、商品とかサービスを、どういう風に伝えたらより伝わっていくか、本当によい部分が伝わっていくかを考え抜いてきた会社です。僕がダイアログのみなさんと出会えたように、専門性を持った人たちが、まちにでて、懸命に活動されている方たちに出会い、仕事を共にしていく機会が増えると、社会はもっと面白くなっていくだろうなって思っています。

 

関連サイト:
ダイアログ・イン・サイレンス
※イベントは既に終了しております

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取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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