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26 Sep. 2017

「静けさの中の対話」- ダイアログ・イン・サイレンス 日本へ

音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテインメント、ダイアログ・イン・サイレンスが、2017年8月に国内で初めて開催されました。会場はJR新宿駅に隣接するLUMINE 0(ルミネ ゼロ)イベントホール(渋谷区・東京)。20日間の開催期間中のチケットは完売し、約3,500人が参加しました。

言葉の壁を超えた「おしゃべり」

ダイアログ・イン・サイレンス(以降、サイレンス)は、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏によって発案された「静けさの中の対話」を楽しむソーシャル・エンターテインメントです。1998年にドイツで開催されて以降、フランス、イスラエル、メキシコ、トルコ、中国など世界各地でこれまで100万人以上の人たちが体験しています。

cococolor編集部も、実際にサイレンスを体験してきました。「音を一切立てず、言葉を使わない」というこの空間を100%あじわうために、カメラもメモ帳も置いて手ぶらでの参加です。1_ようこそ静寂の世界へ(参加者はヘッドセッドを装着。写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

先ず、参加者は音を遮断するヘッドセットを装着します。ここから先は、言葉はなし。口にチャックをして、聴覚障害者のアテンドの誘いに導かれ、音のない世界へ。

「これからこちらの部屋に移動します。わかりますか?」。アテンドは敢えて「手話」を使わず、目線や表情、ジェスチャーを頼りに、意思疎通を行います。「一体何が起こるのだろう?」「もし、わからないことがあったらどうしよう」。参加者の表情からは、期待と不安の両方が伺えます。

最初のワークは、手でさまざまな動きをし、全員で影絵を描くようなアートを楽しむ「手のダンス」。「手のひらを広げて。そして、こんな形をつくってみて……」そんなインストラクションが聞こえてきた気がして、隣の人と顔を見合わせて、互いの理解が合っていることを確認しながら、見よう見まねで、手でダンスします。

手のダンス(写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

続いて訪れた「顔のギャラリー」の部屋では、一人ひとりがフレームから顔を出し、中央のスクリーンに投影された画像から連想されるものを顔で表現。「すっぱい顔」「泣き顔」など、見ただけで伝わるほどはっきりと感情を表現するのは、普段はなかなかない体験で、皆さん少し照れ臭そうです。

3_顔のギャラリー(写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

そして「サインの部屋」では、2つのグループに分かれ、アテンドが手のサインで表現した動植物をあてたり、動物を手のサインで表現。

①(写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

「形と手」の部屋では、参加者が二手に分かれたグループをつくり、片方が、箱に入ったブロックや人形が配置された写真を見て、その内容をもう一方に言葉を使わずに伝達します。そして、もう一方が、ジェスチャーから読み取ったメッセージをもとにモノを配置し、写真を再現します。伝え合っているうちに、想像力が刺激され、手を使った表現も豊かに。伝えやすそうで伝えにくいものも、手をひらひらさせたり、重ね合わせたりすることでクリエイティブに表現。通じ合えた時の喜びはひとしおでした。

5_形と手(写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

体験を重ねるに連れ、最初にあった「聞こえない状態での不安な表情」がほぐれて、参加者の表情が柔らかく豊かになっていくのが感じられました。最後に、会場の展示物を見て少しの手話を学んだら、ヘッドセットを外して、再び音のある世界へ。

「対話の部屋」と呼ばれる部屋では、手話通訳が入り、アテンドと参加者の対話へと誘います。そして、この体験で感じたこと、持ち帰りたい気持ちをカードに書いて、アテンドに気持ちを伝える「新しい関わり」に。そこには、表情やジェスチャー、ならいたての手話や筆談、さまざまな方法で伝え合う姿がありました。

6_対話の部屋(写真提供:一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)

参加者の多くからは、言葉ではなく心で分かち合えた瞬間が嬉しい、という声がありました。

「ジェスチャーで、自分が誕生日だったことを伝えた女の人に、みんなでハッピーバースデーを歌ったのですが、聞こえていないのに、バッチリ息があっていて『ハッピーバースデーなんとかさんー』の歌い出しの時が揃ったっていうのが、感じられたんですね。アテンドの方の声を、みんな同じように心で聞こえていたんだなって感じました」「昔バンドをやっていた時に、つまらなそうに聞いているなと思っていたお客さんから、パフォーマンスのあとに『すごくよかったです』と言われたことを思い出しました。表情があると伝わるのになってことに気づいたので、これから少し意識していきたいです」。

伝えたい気持ち」と「好奇心」

全国から公募で集まったアテンドの一人、福岡在住の「えりりん」こと西嶋恵理子さんにお話を伺いました。

DISattend(ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表 志村真介さんfacebookの写真より、参加者とハグするアテンドの西嶋さん)

西嶋さんは人材育成の研修講師をしていますが、2年ほど前に耳が聞こえなくなってからは、自分に自信をなくすこともあり、仕事も減らしていたそうです。友人からの情報でサイレンスの存在を知り、「聞こえなくなったことでできることがある」と衝撃を受け、アテンドとして参加することを決めました。

「これまで手話に対して『自分の世界とは違う辛い世界の言葉』という勝手な思い込みがあったのですけれど、自分が今回集中して手話を学ぶ中で、手話の奥深さや思いがけない楽しさを体験をしました。想像力豊かなろうの仲間たちとの手話での対話は、言葉以上の真の優しさがこもっています。気持ちを見える形にして共有できるって、ステキです。相手に対する『違う』『別』という感覚こそが、ダイバーシティを阻む壁だと思うんです。ここで一緒に体験させていただいた『伝えたい』とか『好き』とか『一緒に何かやって見たい』という好奇心があれば、ダイバーシティが自然に広がると思います」

DISeririn
今回のイベントは、聴覚障害者の松森果林さん、手話通訳の森本行雄さんが企画監修に入りました。普段は聴覚障害者と交流する機会が少ない人たちが多い中、聞こえなくても安心して運営できる体制をつくるには、企画段階から当事者や手話通訳者が関わることがとても重要だと、松森さんは語ります。会場内に非常時用のフラッシュライトを設置したりと緊急時の対応も行った上で、サイレンスという、大イベントを乗り越えました。

20日間の日本でのサイレンスの開催を経て、今後、サイレンスはどのような展開をみせるのでしょう?次回はダイアログ・イン・サイレンス総合プロデューサの志村季世恵さんのインタビューをお届けします。

 

関連サイト:
ダイアログ・イン・サイレンス
※イベントは既に終了しております

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取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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