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24

Nov.

2024

interview
17 Oct. 2022

おしゃれしたい、は人間の権利

滝嶋世理
コミュニケーションプランナー
滝嶋世理

子どもと美容室というと、どんなイメージを抱くでしょうか。

子どもなのに美容院に行くなんて贅沢?
まずは勉強するのが大事?おしゃれは大人になってから自分の稼いだお金でするもの?

美容は、生活を潤すものではあるけれど、なくてはならない必需品ではない、と考える人が少なくないのが日本の現状かもしれません。では、本当に美容は子どもには不要なのでしょうか?おしゃれをすることは、大人にとっても嗜好品なのでしょうか?

村橋哲矢さんは、子どもたちへの美容室利用無償化を提案しています。
子どもたちに2ヶ月に一度美容室で髪を切る習慣を提供するというこのサービスは、行政から全国の美容室への有償業務委託として展開する、という計画を持っています。

核家族化や少子化が進む日本。両親とも働いているために、小学校に上がると学校が終わった後に学童に行ったり、さまざまな習いごとや塾でスケジュールが埋まっている子どもたちが増えています。30-40年前の児童の生活と比べると、社会との接点が多くなったようにも見えます。しかし、「勉強」「習いごと」「保育(学童)」などの明確な目的があり、多くの子供たちを一箇所に集め預かる場所で、子どもたちは自分の中に抱えていることをゆるやかに共有し、親ではない第三者の親しい大人に伝える十分な時間や余裕はないかもしれません。

 

村橋さんに、子どもへの美容室解放計画に対する考えを伺ってみると、美容院と子どもの関わり方について3つの軸となる考えがあることがわかりました。

1.子どもたちが自分らしさを育む場所になる

2.休眠せざるを得ない美容師たちが復帰しやすい環境を整備する

3.福祉における美容の価値・意義の向上

 

1.子どもたちが自分らしさを育む場所になる

 少子化で子どもの数が減る一方で、子どもたちを預かる場所の不足や子どもたちをターゲットにした犯罪が減少していない現状があります。親や先生ではない大人とゆるやかにつながる場所として、美容院は有効だと村橋さんは考えています。

 まず、髪を切るという体験を通して、子どもたちはどんなヘアスタイルが好きかを考え、それを美容師に伝えます。この行動は、自分らしさについて考え、自分の好みを知ると同時に、友達や周りの人たちと自分では好みがさまざまであることを知ります。これは、多様性について自然と意識を向けることにつながっていきます。

髪を切る体験、美容師との会話を重ねていくことで、子どもたちは親や先生とは違う観点から自分自身を応援してくれる大人として美容師を認識するのではないでしょうか。なりたい自分、好きなことを、ヘアスタイルを通して表現することで、子どもたちの自己肯定感を高めていくことにも貢献できます。

 また、髪を切ることを通じて、美容師は子どもの身体的変化や表情など細やかなところに気付くこともできます。例えば、言葉ではSOSを発信しづらい虐待やいじめなどの兆候にいち早く気づくこともできるかもしれません。親や先生という直接子どもたちが属すコミュニティではないからこそ、美容院が早期発見をして、行政のサービスにつなげたり、子どもたちの話を直接聞くこともできるでしょう。

子どもや女性、高齢者等、地域住民が「誘拐や声かけ、ひったくり、ストーカー」など、何らかの犯罪被害に遭い、または、遭いそうになって助けを求めてきた場合などに、その様な人たちを保護するとともに、警察、学校、家族等へ連絡する措置を行うボランティア活動である「子ども110番」という取り組みがあります。しかし、一度も入ったことのない施設に、いざという時に子どもたちは助けを求めることができるのでしょうか。この制度をきちんと機能させていくためにも、子どもたちが心理的安全性を感じ、定期的にコミュニケーションを持つ大人がいる場所を作っていくことは大切なのではないかと考えています。

 

2.休眠せざるを得ない美容師たちが復帰しやすい環境を整備する

 現在美容師の資格を持っている人は、約150-160万人と言われています。そのうち、実際に稼働しているのは約50万人、残りの約70-80万人くらいは休眠しています。これは、育児出産などで休職した美容師が復帰しづらい労働環境や、首都圏で仕事をしていたけれど地方の地元に戻ったら働き口が見つからなかった、などのケースがあるためです。美容師の仕事はどうしても朝早くから夜遅くまで、しかも体力も必要なことが多く、長時間なるべく休みを取らずに働ける人が優遇されてしまいがちな風土が残っています。

 育休を取って戻ってきたときに、いきなり育休前と同様に働くことは難しいです。復職のステップとして子どもたちと向き合うポジションがあることは、美容師のセーフティネットにもなるはずです。また、子育てをしている美容師たちが、自分以外の子どもたちと接することで気づくことや生かせることも多いのではないでしょうか。

 

3.福祉における美容の価値・意義の向上

”きれいになりたい”という気持ちを大切にすることは、誰かと会話したいという気持ちを掻き立て、社会との繋がりを積極的に求めたり、活動意欲を高めることにつながっていきます。がんなどの病気の治療、加齢などの理由で思うようにヘアスタイルを整えられなくなった人たちは、本当はきれいになりたいと思っていても医者や看護師には外見のことを相談しづらいという悩みを持っていることも多いと言われています。こういった課題に着眼した活動を「アピアランスケア」と言います。

村橋さんのパートナーは美容師で、アピアランスケアの知識を持っており、ウィッグカットの指導もされていました。お嬢さまが誕生した当日に腸閉塞で手術をされ、2週間後にもまた手術をするという体験を通じて、毎日病院にいるといろいろな悩みを持つ人たちを間近に見て接することが多かったと言います。そのとき、美容の仕事で社会にできることがあるのではないかと思い、アピアランスケアのサービスをスタートさせました。助成金制度を港区で始動し、およそ5年の歳月をかけて千代田区、中央区、豊島区など他の区で横展開。もっと多くの人たちに「アピアランスケア」がアクセスしやすい環境を整備したいと活動を続けています。2022年夏には試験的に、港区の子ども食堂とタイアップして、貧困家庭の子供への美容無償化を実施しました。

アメリカ、フランス、ベルギーなどでは、病院にネイリスト、エステティシャン、美容師が常駐し、患者さんの気持ちに応えるサービスがスタンダードになっています。行政だけでなく、寄付なども含めて運営されており、社会全体で「おしゃれをしたい」「きれいになりたい」という気持ちを人間として当たり前の権利として認めているのです。

日本は高齢社会化が進み、介護施設にいる高齢者も増えています。しかし、施設での働き手は不足しており、「施設カット」と呼ばれる「介護する人に都合の良いヘアスタイル」が横行していることも少なくないと言います。本当は、その人がその人らしく心地よく感じるヘアスタイルを最期まで楽しめることが本当の介護なのではないか、という疑問が湧いてきます。

 

アピアランスケアを子どもに、すベての人に。

私は、おしゃれをするとき、自分の顔や身体、好きな色や材質、なりたいイメージなどに考えをめぐらせます。普段はあんまり好きではない高めの背も、少し長いスカートをカッコよく履けたりすると、自分も結構いいじゃんという気分になったりします。忙しいのに無理してするおしゃれや、要求されてするおしゃれではなく、自分が楽しいと感じるおしゃれを大切にすることは、自分自身を抱きしめることでもあるのだな、と村橋さんとの対話を通じて確信しました。これからも、自分らしいきれいを死ぬまで楽しみたいと思うとともに、すべての人がそうやって自分を抱きしめる行為ができるように、活動を支えることもしていきたいなと思いました。

 

 

インタビューに答えてくれた人:

村橋哲矢(むらはし・てつや)

青山学院大学 経営学部卒。 一部上場の金融会社に入社の後、3代続く家業の美容業を継承。 東京都港区で美容室経営の傍ら、がん患者の外見変化の苦痛を軽減するソーシャルビジネスとして、一般社団法人アピアランス・サポート東京を設立し、美容と医療、行政のコラボレーションを実践。 趣味はトライアスロン。 東京都美容生活衛生同業組合 専務理事の他、 一般社団法人アピアランス・サポート東京 代表理事 公益社団法人東京都環境衛生協会・港区環境衛生協会 会長 NPO法人アイラッシュメイク技能検定協会 事務局長 一般社団法人日本コスメティック協会 顧問 美・プラザ協同組合 事務局長 株式会社ヱステインターナショナル 代表取締役社長 もつとめる。

取材・文: 滝嶋世理
Reporting and Statement: seritakishima

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