生きる困難を“笑い”で乗り越える、「いのちの落語」
- 副編集長 / Business Designer
- 硲祥子
“笑いは最高の抗がん剤”を合言葉に、生きる希望や勇気を笑いに乗せて伝える創作落語「いのちの落語」の活動を続ける落語家、樋口強さん。彼が1年に1回、がんと闘う仲間に向けて実施する「いのちの落語 独演会」にて演じられる演目を、この度LAVENDER RING DAY 2022のクロージングセッションにて、特別改訂版「いのちの落語 LAVENDER RINGバージョン」として披露頂きました。
*「いのちの落語」以外のクロージングセッションの様子は、こちらよりアーカイブをご覧いただけます。
演目は、「いのちの落語―一診一笑」
今回演じられたのは、“もし医師にも「免許更新」があったなら…”という仮説から始まる落語。がん患者が、がん治療のプロセスでつらいと感じていることや、医師と患者の認識のギャップなど、樋口さんが身をもって体験したのであろうリアルな思いや経験を、軽やかに、ユーモアたっぷりに、時に少しの皮肉を込めながら表現し、会場の笑いを誘います。
病院の待合室で待つことの気の重さ。検査結果が出るまでに、何日も何週間も気を揉みながら待たなければいけない時のやるせなさ。医者にかけられて、よりつらくなった「がんばってね」のひとこと…。実際にがんを経験した人にとっては「あるある」と共感を呼び、当事者でなくとも「今後がんと闘う人をどうサポートできるか」の気づきが詰まった内容でした。
超えてきた日々を労い、変わらぬ日々を願う
樋口さん自身は、働き盛りの43歳で肺がんが見つかり、当時3年生存率5%を宣告されながら、今もリハビリや治療を続けつつ落語家・作家をしているがんサバイバー。がんの手術を終えて5年が経った時、ひとつのマイルストーンとしていた術後5年の記念に、と「いのちの落語」の最初の講演を実施されました。本来、病気を乗り越える苦しみや戸惑い、治療のプロセスのつらさは、できればあまり積極的に触れない(触れられたくない)話題です。でも樋口さんの「いのちの落語」は、話す方も、聞く方も、経験者だからこそ笑いに変えられるし、笑い飛ばすこともできる。独演会に来られたがん患者やサバイバーの方々が、涙を流しながら笑う様子を見て、1年に1回この「いのちの落語」を続けることを決心したそうです。
『えー、みなさま。お変わりありませんか。』
がんを乗り越えたサバイバーにとって、今日が昨日と変わらないこと、明日が今日と同じ日であることは切実な願いであり、それこそが命の原点である。そんな思いから、樋口さんの落語は、毎回この言葉から始まります。がんとの闘いは、明日が見えないように思うこともある。それでも、「1年先にクサビを打つことが大事」と、樋口さんは語ります。樋口さん自身、1年に1回の独演会を変わらず20年以上続けていることは、自分の人生のモチベーションにもなっているといいます。“お変わりない”を続けることこそが、がんと向き合う樋口さんのひとつの答えなのだと感じました。
クロージングセッションにて、「今後やりたいことは?」の質問に「1年先にクサビを打つ」と回答。
“笑い”と“病”
がんサバイバーも、そうでない人も、ともに並んで聞き入り、笑うことができる樋口さんの落語は、私の“がん闘病”イメージを少なからず変えました。樋口さんもまだ多くの後遺症を抱えながら活動を行われており、そうした生活の中ではもちろん、笑いにできることばかりでなく、笑えないようなこともたくさんあるはずです。ただ、がんになったからといって、すべての“普通の生活”がなくなってしまうわけではない、ということを樋口さんの落語から教わったように思います。「笑う」という“普通”を、改めて噛みしめる日となりました。
最後に、私が思わず笑ってしまった「いのちの落語」つかみの一節で締めくくらせていただきます。
『どんなにつらくてもどんなに苦しいときでも、朝から晩まで一日中笑っていたら、きっと病気にはならないです。あっ、でもこれ、周りからは、病気だと思われますよ!』
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記事を読んで、樋口強さんの活動が気になった方は、こちらもぜひ。
『魂のさけび』春陽堂書店
手術と抗がん剤治療を乗り越え、後遺症と闘いつつも、全国各地での講演活動を行う。
生きる喜び、いのちの尊さを落語を通じて伝え続ける著者の、20年間の集大成!
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