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Feb.

2024

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27 Jan. 2023

カンヌライオンズ2022から考えるクリエイティブとダイバーシティ -多文化編-

宮本 結以
アートディレクター
宮本 結以

20226月、世界最大級のクリエイティブの祭典である『カンヌライオンズ2022』が3年ぶりにリアル開催されました。今年は87カ国から合計25464作品のエントリーがあり、社会課題の解決を目的にした受賞作品も多く見られました。

そんな受賞作品に関して、2年目社員5人がお届けしていく本連載は、1回目はヘルスケア関連の作品を、2回目は子どもに関連する作品をご紹介しました。3回目となる今回は、「多文化」に関する作品についてご紹介していきます。

 

実は肌の色によって機能に差があったスマホの顔認識

いまや生活の中では欠かせなくなっているスマホでのカメラ機能。しかし、肌の色が暗い方々にとっては、スマホで写真を撮ると自身たちが必要以上に暗く写ってしまうという問題があります。特に、AIによる画像認識は、実は肌の色が濃いほどうまく機能しないことが多く、多くのアプリやサービスで広く活用されてきているにも関わらず、使いづらい一面がありました。

そこでGoogleは、ハーバード大学と共同で、肌の色調を10段階で認識する「モンク・スキン・トーン(MST)スケール」を開発。顔認識機能の改善に取り組みました。 実際に、GoogleによるスマートフォンGoogle Pixel6には、これを活用した「Real tone」と呼ばれるフィルター機能が追加され、さまざまな肌の色を的確に認識・表現することを可能にしています。

この施策は、自社製品の機能向上に繋がっているだけでなく、人種とは一見関係がなさそうなテクノロジー開発の中にも、制作の過程でバイアスが潜みうることを示した施策でもあると思います。結果、こちらのキャンペーンは、カンヌライオンズMobile部門のグランプリを受賞しました。

こういったテクノロジー開発における平等性を見直す事例は、過去の受賞作品にもいくつか見られます。例えば、自動車メーカー VOLVOの「The E.V.A. Initiative」では、“車メーカーの安全テストは、主に男性を想定したダミーでのデータでしか検査を行っていないため、女性のリスクが高く出る”という問題を発見し、ボルボは男女平等に調査した過去40年間のデータをフリーで公開しました。

このように、さまざまな軸での平等性をテクノロジー開発の段階から整えることで、会社の理念を体現しブランディングを高めるだけでなく、製品を通して実際に社会課題の解決に結びつけられている点が、いずれの施策も素晴らしいと感じました。

 

博物館を“フィルター”と捉える、新たな視点を

アメリカのニュースメディア「VICE World News」による、大英博物館の中で最も物議を呼んだ10の工芸品を巡るバーチャルゲリラツアー。画像共有アプリ「インスタグラム」の拡張現実(AR)機能を使って、大英博物館で視聴できる音声解説を非公式に提供しました。

同博物館に収蔵されている芸術品の一部は戦乱や植民地化などによって略奪されたものだといわれています。そのような収蔵品が、“勝手に博物館側の目線で解説されている(フィルターがかかっている)”ことが問題であると捉え、「そうしたフィルターを外して歴史を眺めることで、今まで見えてこなかった事実を自ら体験しよう」と訴えています。

該当の展示物にスマホをかざせば、没入型のオーディオビジュアルなどが鑑賞でき、収蔵品が本来あった現地なまりの10人の専門家が、ツアーガイドを演じながらそれぞれの工芸品の本当の歴史、大英博物館の物語などについて語られます。例えばモアイ像のコーナーでは、同像で有名なイースター島の解説者が「大切なこの像が何千マイルも離れた博物館に展示されています」などと説明を始める仕組みです。

この施策は、多くの人々に、“固定観念にではなく、さまざまの視点から事実を把握することの重要さ”を再認識させてくれる点で素晴らしいキャンペーンだと感じました。今日の多文化問題に焦点を当てるのも勿論重要ですが、過去の問題にも改めて目を向け、さまざまな角度から事実を知ることもまた大事であると思います。

(「The Unfiltered History Tour」サイト:https://theunfilteredhistorytour.com/

 

当たり前の中に潜むバイアスをいかに疑うか

 

「多文化」というテーマは、文化のとらえ方・切り取り方によっては様々な社会問題につながりかねないテーマであるといえます。平等の必要性が叫ばれている今日、さらに必要なのは、文化の違いによる認識の齟齬や、衝突などは起こり得る、という心構えなのではないでしょうか。自分たちには関係がない、と無関心でいるのではなく、生活の中の当たり前に不平等が潜んでいないか、と疑ってみる視点が、上記2事例に通ずるクリエイティビティであると思います。

 

多文化問題に限らず、さまざまなダイバーシティの共生をさらに進めていくためには、こういった視点を広告という大きなコミュニケーションの中に取り入れ、社会の視野を広げる後押しをしていくべきだと、改めて感じました。自分もこの先、その一端を担えるようなクリエイティブを世の中に発信していけるよう精進したいと思います。

 

次回は、女性エンパワメントに関する施策をご紹介します。

 

(※画像出典:The Work https://www.lovethework.com/en-GB/home

取材・文: 宮本結以
Reporting and Statement: yuimiyamoto

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