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Apr.

2024

column
26 Jan. 2023

性暴力をタブーにしない。『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

在原遥子
プロデューサー
在原遥子

セクハラや性暴力被害の体験を告白し、「私も被害を受けたことがある」と名乗り出る「#MeToo運動」が大きなうねりとなってから5年以上が経ち、日本でもニュースで目にすることが増えてきました。そんななか性暴力の告発を事実に基づいて描いた映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が公開されました。原作は、2022年5月に日本語版が発売された、『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』という書籍です。

 

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』あらすじ

2017年、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた1つの記事が世界中で社会現象を巻き起こした。数々の名作を手掛けた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性的暴行事件を告発したその記事は、映画業界のみならず国を超えて性犯罪の被害の声を促し、#MeToo運動を爆発させた。

取材を進める中で、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明する。さらに、被害にあった女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいた。問題の本質は業界の隠蔽構造だと知った記者たちは、調査を妨害されながらも信念を曲げず、証言を決意した勇気ある女性たちと共に突き進む。そして、遂に数十年にわたる沈黙が破られ、真実が明らかになっていくー。(公式サイトより)

 

 

「声」に出せない被害体験

ニューヨーク・タイムズの調査記者であるジョディとミーガンがハーヴェイ・ワインスタインの元で働いていた女性たちを訪ねていくシーンでは、必死に証言を取ろうとしても誰も被害体験について話したがらない、というもどかしさがありました。はじめは、「忌々しい体験を再び思い出したり口にしたりすることは難しいよな・・」と思っていたのですが、その後彼女たち<サバイバー>は被害の直後に声をあげていたにも関わらず、ワインスタインや弁護士によって示談に持ち込まれ、示談金を受け取る代わりに証拠を没収されたり被害の事実を家族含め誰にも口外しないことを約束させられたりして、口封じされていたことが分かるのです。

これは、性暴力事件での立証が難しいことや裁判・弁護士の費用が見合わないことなど、被害を受けた女性を守るシステムがないことが根本的な原因でした。その結果、加害者はお金さえ払えば性暴力をもみ消すことができ、容易に加害を続けることができるサイクルが出来上がってしまっていたのです。「もし自分が当事者だったら・・」と恐怖と絶望を覚えるとともに、怒りを感じた場面でした。

 

一人ひとりの勇気で、女性たちは連帯することができる

そこで重要なのが、女性たちの連帯でした。1人で声をあげただけでは、ワインスタインからメディア側に手を回されてもみ消されてしまうことになりますが、告発記事で複数の女性が実名を出して証言をすれば状況は変わります。ミーガンは産休から復帰してすぐにこの案件にジョインすることになったのですが、「この記事で、社会を変えたい」(make something different)と繰り返し口にしていたのが印象的です。

カリフォルニア、ロンドン、イングランドと被害女性の住むところを直接訪ねて話を聞くジョディとミーガンの情熱と執念は、ついに被害者たちの心を動かします。示談内容のコピーを託してくれる人、実名を出してもいいと言ってくれる人が現われ、ついに有名女優も実名を出しての証言掲載に同意してくれたのです。それにより、ついに記事はニューヨーク・タイムズ紙に掲載され、この一連の事件が社会の注目を集めることになりました。

ダイバーシティについて私たちがその問題を知ろうとするとき、当事者の声や被害体験を聞くことは欠かせませんが、当事者がつらかった体験を共有してくれる、話をしてくれるということは、当たり前のことではありません。この作品でも、「告発をすればもう仕事が続けられないかもしれない」という懸念から沈黙を守ってきた例や、「アジア系移民だから家族に迷惑はかけられない」と示談を受け入れた例など、女性ひとりひとりのバックグラウンドやストーリーが描かれていました。そんな事情があるなかで、「声をあげる勇気をもつ」というのは簡単なことではなかったはずです。でも、この記事が世の中に出たあと、多くのサバイバーたちがさらに立ち上がり被害体験を語り始めました。

 

 

実話に基づいた作品なので、ドキュメンタリーのような臨場感で問題の根深さと、ジャーナリストたちの勇気を目の当たりにすることができます。ワインスタインが反論できないほどの証言や証拠の集め方、ジャーナリズムのあり方なども映画の見どころの一つでした。また、ジョディとミーガンの子育てをしながら仕事に邁進する女性としての葛藤も、リアルに描かれていました。国内の宣伝プロデューサーにお話をうかがったところ、「センシティブな内容のため、本篇の演出と同様、過剰な煽りはせず使用する言葉一つ一つ含めて丁寧に検討した。公開後の反響として女性からの共感は勿論あるが、男性鑑賞者も多く、記者映画として彼女たちの正義感と勇気に心が震えた、といった感動のコメントが増えている」とのことでした。二人の女性記者が文字通り人生を懸けて世の中に出した記事により、いままさに社会に大きな変化が起こっている最中であることを実感できた作品でした。

 

文・在原遥子

 

 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』 配給:東宝東和

監督:マリア・シュラーダー

脚本:レベッカ・レンキェヴィチ

製作総指揮:ブラッド・ピット、リラ・ヤコブ、ミーガン・エリソン、スー・ネイグル

出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、

ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートン ほか

原作:『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』

  ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー/著(新潮文庫刊)古屋美登里 / 訳

https://shesaid-sononawoabake.jp/

© Universal Studios. All Rights Reserved.

取材・文: 在原遥子
Reporting and Statement: yokoarihara

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