「食」でストレスフリーな「子育ち環境」をサポート
- アソシエイト・メディアプランナー
- 久保葉月
仕事終わり・家事終わりなど、疲れているとき、こどもがした些細な行動に怒ってしまい、「本当は怒りたかったわけではなかったのに…」と、後から罪悪感を抱えた経験はありませんか?
今回ご紹介する方は、ストレスフリーな「子育ち」環境をつくることをビジョンにかかげる株式会社Kazamidori 代表取締役社長の久保直生さんです。
▽プロフィール 久保直生(Nao Kubo)さん 1995年東京生まれ。大学4年次「将来の可能性を拡げる幼少期の学びをデザインする」Kazamidoriを創業。親御さんのゆとりを作るため、離乳食ブランド「土と根」、宅食ブランド「ごはんじかん」ノンカフェインティブランド「Soyonoma」を手がける。Kazamidori HP
久保さんが子育て世帯を支えるビジネスをはじめたのは、今から4年前。
留学中のアメリカで大統領選挙を目の当たりにしたことが、きっかけだといいます。大統領選挙から久保さんはなぜ、子育て領域のビジネスに踏み入る決意をしたのか、食を通じたダイバーシティ&インクルージョンとは何か、お伺いしました。
目次
- 米留学で気付いた幼児教育の重要性
- 連鎖的な格差の問題を解決したい
- 親が主体の子育て」から、子どもが主体の「子育ち」へ
- 「食」でストレスフリーな「子育ち環境」をサポート
- より多くの家庭をサポートしていくことがこれからの挑戦
- 自己愛を育むことが大切、食を通じたインクルージョンとは
米留学で気付く、幼児教育の重要性
―米大統領選挙が、子育て領域でビジネスをスタートしようと決めたきっかけだと伺いました。なぜそう思ったのか、具体的にお伺いしてもよろしいですか?
久保「2016年アメリカ・ボストンに米大統領選挙を見に行くため、留学を決意。トランプ、クリントン両陣営の集会に参加しました。クリントン支持者は女性初の大統領が生まれるかもしれない期待や、次の世代への投資といった未来への希望を口にしていました。反対に、トランプ陣営は、明日をも心配する人たちの怒りや憎悪からくる熱狂そのものでした。アメリカという大きな国のリーダーを決める選挙の根底に、希望vs憎悪の構図があるのではないかと肌で感じたんです。」
自分が明日を生きていくためにはどうしたらよいのか、という気持ちがこんなにも政治や世論に反映され、国をも動かす力となることに驚いた久保さん。生まれた家庭・地域が人生をこんなにも大きく左右することがあることに、初めて気づいたという。
同時に所得格差世界ワースト8位(※1当時)の日本でも生まれや育ちによって、機会、関係性や教育レベルなど様々な格差がうまれているのではないかと問題意識をより一層強く持つもつようになったそう 。
久保「どんな家庭・地域で生まれ育ったとしても、自分が好きなことを力にできたり、夢を持ち、夢を追いかけることができたりする社会をつくりたい、そんな思いで起業しました」
帰国後、子育て領域を調べていくうちに分かったことは、多くの問題は連鎖的に続いていること。そして、連鎖的に続く要因は、変えることのできない「遺伝要因」と変えることのできる「環境要因」に大きく分けられることだった。
中でも環境要因(幼少期における非認知能力の形成)は大変重要で、知的好奇心や、自己肯定感などは0から5歳の環境要因が大きく影響されるといわれている。
久保「どこで生まれ育ったのかが人生を決める社会から、努力で変わる『環境要因』 が人生を切り拓く社会へ社会全体がシフトしていく必要があると思いました。環境要因を僕らが変えていくことができるのであれば、社会を少しでも明るくできるよう、その手助けをしていきたいです」
―ビジョンとして「『子育て』から『子育ち」』へ。子どもも親も自己実現を追求できる社会へ」と掲げられています。こちら『子育ち』というワードに聞きなじみがないのですが、詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか。
久保「最近の保育や幼児研究の場では『子育て』という言葉から『子育ち』に変わってきています。親が主語になりがちである『子育て』から子どもが主体になる『子育ち』が考えられています」
「子どもって本来であれば、周りにいる人たちを見て自然と好奇心を持って育っていくはずだと思うんですよ。
ただ、現状は、周囲のサポート不足から生じる保護者の孤独感や仕事との両立による疲弊感やストレス、それらが障壁となり、子どもが好奇心から良かれと思って生み出した行動が、親を含む、周囲の人たちから阻害されてしまっているのではないか?と思っています。
本当は何も邪魔されなければ育っていく非認知能力も、成長の上で阻害されている要因があるのだとすれば、それをなくしていくことができればよいと思っています」
幼児教育といえば、性格・気質に合わせて最適な環境を設計することを考えることが多い。そんな中久保さんは、子どもが「自然」に育っていく ためには何が必要なのかを考え、阻害要因を一つ一つ取り除いていくことから始めている。
久保「子どもの内発的な動機を大切に育んでいく、そのためには一番近くにいる保護者の『子育ち』を邪魔してしまうような時間の無さや精神的な余裕のなさを解消していくことによって、子どものスタートラインの格差是正につながるのではないか、と考えています」
―具体的にどの領域から事業をスタートされたのですか?
久保「事業をスタートするうえで1000人以上の親御さんに取材して分かったことは、共通して子ども、家族の食事作りに時間的、精神的にコストをかけている、ということでした。親御さんも、自分の離乳食の時のことは覚えているわけではないですし、子どもの安全面も考えると、情報コストも高いです。はたまた作るうえでの時間的コストがかかります。であれば、僕たちがなんとかサポートできることはないかと、離乳食ビジネスを始めました」
久保「手作りでないといけないという、手作り信仰もまだまだあります。作り物に頼ることへの罪悪感もまだまだ根強いと思いますし…そのハードルを打破していきたいと思っています。僕たちはこの『土と根』を通じて、手作り以上の価値を提供していきたいと思っています」
離乳食に続いて始めた事業が、産後のお母さん向けのノンカフェイン飲料販売だ。
ホルモンバランスが乱れる産後、イライラしたり、なかなかまとまった睡眠がとれない、がゆえに体の疲れが取れなかったりするお母さん。それにも関わらず、産後は口にするものを始め、あらゆることの選択肢が少なく、自分が自由に楽しむことができる時間が少ないのではないか、それらが余裕のなさにつながっているのではないかと思い久保さんはお茶ブランド「Soyonoma」をリリースした。
事業買収した宅食サービスの「ごはんじかん」も親御さんの手作りの手間を省くことで、ストレスや時間的コストを少しでも軽減することを目的としている。
「お母さんたちが手作りをしないことへの罪悪感を少しでも減らすことができるような取り組みをこれからもどんどん進めていきたい」と久保さんは語る。
子どものスタートラインの格差是正や機会是正をしていきたいと語る久保さんだが、ビジネスとして行う以上、現実は甘くない。現状ではお金がある家庭にしかアプローチできていないことも課題だと語る。
そんな久保さんは現在、子どもの貧困率が高いと言われている沖縄県と、とあるプロジェクトを始めた。
久保「弊社の宅食サービスを無料で提供できないか等検討しています。もっといろんなリソースを借りて、地域コミュニティで助け合いながら子どもたちを育てることはできないか、沖縄県とカンファレンスを3回程実施してきました。」
「経営が安定してきたら、幅広い家族にアプローチできるサービスをつくっていきたいですね」と実現に向けて奔走している。
自己愛を育むことが大切、食から通じたダイバーシティ&インクルージョンとは
―最後に、久保さんにとってダイバーシティ&インクルージョンとは何でしょうか。
久保「区別の境界線をなくすことだと思います。子育て家庭とそうではない家庭、バリキャリと専業主婦・夫、いろんな区切りを便宜上つくってはいるものの、相手のことを属性やカテゴリーでみないことが大切だと思います。その上でまず最初は、自分自身をカテゴライズしてみないこと、自分をカテゴライズせずにみることができれば、他者のことも、一人の人間としてみることができるのではないでしょうか。」
久保「自己愛を育むことこそがダイバーシティ実現のはじめの一歩なのではないかと思いますし、その自己愛とは『家族』が切っても切り離せられないと思うので、より多くの家庭がそのような状態になればいいと思います」
向かい風も、向きを変えれば追い風になる、カザミドリ。
全ての子ども達が、どんな家庭に生まれても、どんな地域で生まれても、
自分にあった「風」を見つけて、明日の方向を向く力にできる、
そんなカザミドリになってほしい。と願い今日も久保さんは「子育ち課題・解決」に奮闘している。
編集後記:今回お話を伺って、全家庭が共通してもっている「食べる」という営み、この時間を愛に溢れた空間にアップデートすることこそが、社会全体の景色をアップデートすることにつながっていくのだろうと、改めて思いました。これからの社会を久保さんがどう変えていくのか、とても楽しみです。
※1 ユニセフ(2016)子どもたちのための公平性
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