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9 Feb. 2016

「自分らしさ」でキャリアを選ぶ -中学校で“多文化”視点伝える授業

多様な社会や文化に触れる中で、自分の人生や仕事の幅を広げて生きること。それは、受験勉強や就職活動を中心とした現代の日本の教育システムの中では、見出しにくいとされています。この課題に”多文化”を切り口に、社会人と子どもたちを出会わせることによって取り組んで行けないか。そのような目的から、電通ダイバーシティ・ラボ・多文化チームと、子どものキャリア教育で実績を持つ認定NPO法人・キーパーソン21の協働による出前授業が、田園調布学園中等部(東京都)で実施されました。(2015年11月28日採録)

インタビューで探る“多文化”な生き方

講師役となったのは、海外で生まれ育った・勤務経験がある、あるいは外国籍を持つなど多様な文化経験を持つ、株式会社電通の社員約15名。授業を企画した電通人事局の酒井章さんは「普段、自分たちの暮らしの周辺にある『多文化』に触れる機会が少ない日本の子どもたちと、多様な文化経験を持つ大人が出会うことで、子どもたちにとっても、自分たち大人にとっても気づきがあると考えました」と語ります。

授業の開始にあたり、生徒たちには講師役の大人たちのプロフィールが示されます。そこでは、出身地、これまでに暮らしたことのある国や地域、海外暮らしのきっかけ、そして自分の仕事についての紹介が記されています。Exif_JPEG_PICTUREDSC_9316s
   (生徒たちに囲まれ取材を受ける柳瀬さんと、生徒たちに事前に紹介された柳瀬さんのプロフィール)

例えば、ブラジル出身で、父親の仕事がきっかけで来日した柳瀬フラヴィア智恵美さん。日本語がまだわからない頃に、日本のCMを見ておもしろいと感じたことがきっかけで、広告の仕事がしたいと電通に入社しました。現在は日系企業の海外広告に関する業務に携わっています。

生徒たちはこういった情報を参考に、自分が話を聞きたいと感じた大人のもとを訪れ、先ずはグループでインタビューを行い、その人の生い立ちや、どんな仕事をしているのか、どんな想いで働いているのかを聞き出します。次に、一対一となり、人生を変えたきっかけや、どのように悩み、どんな選択して、どんなことを考えたのかといった、パーソナルな部分にまで触れる取材をしてゆきます。Exif_JPEG_PICTUREExif_JPEG_PICTURE
(より深い対話が展開された、一対一の対面インタビュー)

「何故、この仕事に就こうと思ったのですか」「私たちぐらいの年齢の時には、どんなことを考えていましたか」…。グループの質問ではおとなしかったけれど、ふたりだけの対話になると、しっかりと自分のことを話し出す生徒も。

インタビューの後、生徒たちは、自分の生きたい人生を歩んでいる大人の生き様をレポートした「かっこいい大人ニュース」を作成し、その内容を、インタビューをした相手へと伝えます。

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(インタビュー後、ニュースを作成する生徒たち)
(柳瀬さんへのインタビューをもとに作成された「かっこいい大人ニュース」)

コミュニケーションのキャッチボールを通じて生まれた「ニュース」のタイトルには、それぞれの生徒の心に響いた言葉が記されました。例えば、柳瀬さんを取材したある生徒のつくった新聞のタイトルは「誰かにできないと言われても信じない!」。他には「好きなことをとことんと!」「自分のことは自分で決断!」「偶然与えられたことをきっかけに」「Tonight Dream Come True」「日本と台湾の架け橋に」など、生徒の考えたコピーが、ニュースの紙面を彩ります。聞くこと、伝えること。この交流体験は「生き方の多様性」について共感しあう場にもなったようです。

Exif_JPEG_PICTURE(ニュースを受け取ったあと、講師役の大人たちは、生徒一人ひとりにメッセージを伝えた)

知らない世界の広がりを知る

日本社会では、学生と職業人との接点といえば、典型的には就職活動があります。けれども、中学生たちに尋ねてみると、実際に職業を意識しだすのは、文系・理系の選択時等、もっと早い段階にあるとのこと。そんな背景からか、参加した生徒たちからは「受験のための勉強だけではなくて、もっといろいろな社会があり、生き方があることを知れてよかったです」「日本の常識も、他の国ではまったく違うこともあるという話が心に残りました」「周りの人がなんと言っても、自分らしさを大切に生きることが大事だと思いました」といったコメントが多くありました。

講師役の一人、柳瀬さんは「中学生たちと話していると、彼女たちが目を輝かせる瞬間や、グループではおとなしい子でも、一対一で話してみると話したいことをたくさん持っている子がいることに気付きました。もしかしたら子どもたちは、普段あまり大人に話を聞いてもらう機会がないのかもしれません。大人と生徒の出会う架け橋をつくることが大事だと思いました」と授業を振り返りました。他にも「ほとんどの子が親とキャリアの話をできていないし、特に思春期には親子の間では素直に話しにくいことがある。だからこそ、違う大人と話をする機会が必要」「自分も娘とはあまり深く話ができていない。親子で話すことが大事だと改めて感じた」「自分の中学時代を振り返る新鮮な時間だった」などの感想が寄せられました。

この授業をコーディネートした認定NPO法人キーパーソン21の代表理事、朝山あつこさんは「一人ひとりの子が原石を持っている。将来の生き方を考える時に、”べき”からではなく、その子たちの持つ力を発揮させていくことからアプローチすることが大切です。自発性・主体性を育てさえすれば、子どもたちは自分の力でやりたいことを見つけていけるのです」と語ります。その上で大切なのは、一方的に教える(Teach)のではなく、ファシリテーションを通じて、生徒の中にあるものを導き出していくこと。そうすることで、子どもに対して抱きがちなステレオタイプによるレッテルも、自然と剥がれていくそうです。

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(参加メンバーと授業を振り返る酒井さん)

今後日本でも、多文化社会が広がり、異なる文化的背景を持つ人たちと出会う機会がさらに増えると言われています。今回の授業を実施した電通も、2年前のイージス社買収に伴い、本社を含むグローバルでの総従業員数が全社員約45,000人、そのうち海外の従業員が今や29,000人にもなり、多文化は正に身近に迫るテーマとのこと。そういった社会の変化に対し、私たちはどう向き合ってゆけばよいのでしょうか。電通の酒井さんは「今回の授業は、”人としてどう生きるか”という普遍的な観点からお互いを知り合う、よい機会となりました。大上段にグローバルと構えるのではなく、一人ひとりの学びや体験を通じてのグローバルを共有することが大事だと感じています」と語りました。

社会人と中学生。同じ社会に存在しながら交わることの少ないこの二つの層を、企業の出前授業という形で出会わせ、そこに”多文化”の視点をもたらしていく。こういった体験の場を広げることからもまた、多文化社会の可能性を探る具体的なヒントが見出してゆけそうです。

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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