DEIな企業風土の耕し方 vol.2パナソニック コネクトの場合(前編)
- 副編集長 / Business Designer
- 硲祥子
DEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆様にお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る本連載。
第2弾は、経営戦略の柱のひとつにDEIを位置付ける、パナソニック コネクトさんです。
お話を伺った人:パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 DEI推進室 油田 さなえさん、古山 雄也さん、池松 奈穂さん
聞き手:中川 紗佑里、硲 祥子、菅 巳友(いずれもココカラー編集部)
——パナソニック コネクトのDEIに関する取り組みの全体像を教えてください。
油田さん:2017年に現CEOの樋口が 当社の前身であるパナソニック コネクティッドソリューションズ社の社長に就任したときから、組織文化を企業競争力の源泉に位置付け、社内外に発信するようになりました。
こちらが2017年から進めている3階層の企業改革です。土台となる1階の風土改革を、当社では「カルチャー&マインド改革」と呼び、7年以上推進しています。DEIは、そのカルチャー&マインド改革の3本柱の一つです。
——DEI推進は企業の土台である、ということですね。DEIがそのような重要な取り組みとして認識されている理由はなんでしょうか?
油田さん:大きく2つの観点があります。まずは、「企業競争力の向上」。例えば、ダイバーシティが進んだ組織の方が、イノベーションが生まれやすく、意思決定の質が高まると言われています。いまの日本では、この観点からDEIを進められる企業が多いですよね。
ただ、それと同じぐらい、もしくはそれ以上に、「人権を尊重する」という観点を私たちは大事にしています。人権の尊重というのは、フェアな労働環境を整えていこうとか、差別のない職場を作っていこうとか、本当に基本的なことです。この「人権の尊重」と「企業競争力の向上」という2つの観点を、DEI推進の前提としています。
——人権の尊重なくしてDEIは実現できないということが、社内の共通認識になっているということですね。それ以外に、パナソニック コネクトさんならではの特徴はありますか?
油田さん:よく特徴的だと言われるのは、人事担当ではない役員がDEIを担当している点です。現在は、CMO(Chief Marketing Officer)の山口と、CFO(Chief Financial Officer)の西川がDEIの担当役員を務めています。これにより、人事の視点だけでなく、パナソニック コネクト全体としてDEIを推進していく体制が取れていると感じています。
また、リーダー層だけでなく現場の体制にも特徴があります。当社は九州・沖縄から北海道まで多くの拠点があり、製造のメンバーもいれば、エンジニアも営業もSEもいて職種もバラバラです。職場・現場ごとにDEIに関するその時々の課題が異なる中、私たちDEI推進室のメンバーが全社一律で進めるDEIの取組みには限界があります。だから、 事業部門ごとに「Champ」と呼ばれる職場でのDEI推進リーダーを設置しています。
——トップダウンとボトムアップの両方があることで、DEIがより推進しやすくなるということですね。具体的には、どのようなDEI推進の取り組みを行っていますか。主な活動を教えてください。
油田さん:毎年様々なゲストをお招きして、DEIについて社員全員で学ぶ「DEIフォーラム」というイベントを行なっています。昨年は初めて介護をテーマにしました。
池松さん:介護というテーマをきっかけに、関心層が広がったとすごく実感しています。今はまだ問題を抱えていない人も、もうすぐ自分ごとになりそうだという感覚があるのだと思います。DEIに関する 興味や関心は人それぞれ違いますし、「DEI=女性・LGBTQ+の話で、自分とは関係ない」と思ってしまう人も多い。介護はそういった方々も含めマジョリティにも当てはまる問題意識をテーマアップできたという点で、あなたも当事者なのだと伝えられた意義が 大きかったと思っています。
油田さん:昨年の10月からは、卵子凍結の助成制度も導入しました。1回限りではありますが、採卵や凍結にかかる費用を40万円を上限に補助するもので、社員からの関心も非常に高く、 私たちが予想していたより多くの方に活用されています。
池松さん: ただし、「卵子凍結してどんどん働いてね」というメッセージとして間違って受け取られないよう、自律的に考えて、卵子凍結にトライしてみたいという方がいらっしゃれば活用してくださいということはセットで伝えるようにしています。その根底にあるのは、パナソニック コネクトが大事にするキャリアオーナーシップという考え方です。個人が生涯のキャリアにおいて「どうありたいか」を意識し、その実現に向けて主体的に行動すること自律的なライフプランを考えることを推奨しています。
——DEIの取り組みを考える上で、キャリアオーナーシップの考え方が通底している、というのはとても興味深いです。DEI推進の先にある自分の将来のキャリアまで考えるきっかけになりそうです。こうしたDEIの取り組みをきっかけに、何か社内で変化はありましたか?
油田さん: 2017年から毎年実施しているDEIキャラバンをきっかけに、全社プロジェクトに発展したことがありました。このキャラバンは、DEIの担当役員が年1回拠点を訪問して現場の 生の声を聞き、次のアクションにつなげていこうという活動です。 毎年テーマや参加者を変えながら、感じていることを気軽に話せる場を提供しており、赤裸々な意見が出てきます。
2022年度のキャラバンは女性が対象だったのですが、「管理職、マネージャーになりたくない」という声が多くあがりました。その理由を紐解くと、管理職の業務負荷が非常に大きいことが一因になっていると明らかになったんですね。これはDEIだけの課題ではなく、全社を巻き込んで解決すべきだということで、担当役員の2人が 経営会議に起案する形で、「マネージャー業務負荷低減プロジェクト」を発足しました。
古山さん:人事や経理をはじめとした各職能を巻き込んで業務プロセスの見直しを行い、承認プロセスの整理や、会議時間の短縮など、実際にいくつか改善アクションが生まれました。DEIキャラバンで出てきた社員の意見を聞きっぱなしにせずに、次の施策につなげていくことが大事だと思っています。
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インタビュー前半はここまでです。
後編では、現場の声をどのように拾い上げているか、そして今後の課題や挑戦について詳しくお伺いしていきます。
インタビュー後編へ続く
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