新連載! DEIな企業風土の耕し方 vol.1 アマゾンジャパンの場合(後編)
- 副編集長 / Business Designer
- 硲祥子
人的資本経営、社員のダイバーシティ、インクルーシブな価値提供…。企業にとって、対顧客、対社員、対株主、さまざまな視点でダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(以下DEI)の取り組みの重要性は増す一方。ただし、日本ではいまだ多くの企業がDEIを風土・文化として浸透させきれていない現状があるのも事実です。そこで、すでにDEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆様にお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る連載をスタートします。
今回その第1弾として、先日東京レインボープライド2024にてゴールドスポンサー協賛をされていたことも記憶に新しい、アマゾンジャパンさんの事例をお伺いしたいと思います。
※前編はこちらから。
お話を伺った人:塩澤 絵衣子さん(アマゾンジャパン glamazon Japan Co-lead)、青木萌さん(電通 アマゾンジャパン担当プロデューサー)
聞き手:硲 祥子、半澤絵里奈(いずれもココカラー編集部)
硲:前編でお伺いした通り、Amazonさんの中でglamazonの果たしている役割はとても大きいと思いますが、今のglamazonのチーム運営に対して課題感などはありますか?
塩澤さん:我々が常に悩んでいることとしては、メンバーの脱退が多いことです。結局、ボランティアで有志が集まってやっていることなので、強制力が働かず、どうしても業務優先になってしまう。どうしたらメンバーを定着させられるか、もしくは、常に新しいメンバーに参加してもらうにはどうしたらいいか、考えています。
そんな中、やはり東京レインボープライドというイベントがひとつの大きな要になっているのは確かです。みんなでひとつのことを作り上げ、みんなで成功体験を味わえる、そういった達成感がチームの一体感を作っていると思います。もちろん大変なこともたくさんありますが、それを乗り越えるだけの、絆みたいなものはみんなで作り上げることができているのかなと。今年のTRPのglamazonメンバーも本当に仲良くて、TRPが終わってからもみんなで飲みに行ったりしています。みんな多分集まりたいんですよね。そういう雰囲気をずっと保てるといいなと思っています。
文化的に日本人は比較的カミングアウトされてない方が多く、Amazonの社員の中にもなかなか胸を張って自分はglamazonのメンバーだと言うのが難しい人がいるようです。私はアライ*1で、当事者ではない。それもあって代表というポジションで堂々と顔出しもして、メディア出演もなんの躊躇もなくできるのですが、当事者の方たちはそういったことを躊躇される方がまだまだいらっしゃるというのが実情です。
今後のミッションとしては、アライをどんどん増やしていきたい。当事者だけではなくて、 アライに参加してほしいというのが私の願いです。もちろん当事者とかアライとか、メンバーになるために開示しなきゃいけないということは一切なく、カミングアウトもしなくてもいいですし、安心してどなたでもメンバー参加していただきたいと思っているというのが前提にあります。
アライ含め、メンバーを継続的に増やすために我々がやっていることのひとつは、新卒社員向けのオリエンテーションへの参加です。glamazonのメンバーとして、“こういったアフィニティグループがあります、我々の活動に賛同してくれるなら、ぜひメンバーになってください”と社内PR活動を行なっています。「会社にこんな取り組みがあるんだ」と加入する新卒社員も多いです。あとは、社内のさまざまな部署から、全社会議でglamazonの活動について話してほしいといったリクエストがあったりもします。
硲:新卒向けのオリエンテーションでプレゼンを行うのは、確かにいいアイディアですね。
塩澤さん:そうですね。色々なことをやっている会社なので、オリエンテーションも1週間ぐらい続くんです。Amazonの歴史から始まって、AWSやTwitchなどの買収、関連会社の説明に至るまで。その一環として、glamazonのみならず、Women at AmazonというAmazonで働く女性、ノンバイナリー社員、そしてそのアライ(支援者)のためのグローバルなアフィニティグループや、PWD(People With Disabilities)という精神的および/または身体的な障害を持つ社員やお客様をサポートするアフィニティグループ、最近立ち上がったアフィニティグループで、Mental Health & Well-Being(MHW)というメンタルヘルスを推進するものなど、様々な社員有志のグループを紹介しています。
硲:どこの組織でもやはり、熱を持った人たちの数は限られてくるので、その熱をどこまで伝播させられるか、その火をどうやって途絶えさせないか、などが活動の肝なのでは、とお伺いしていて感じました。企業におけるDEIが醸成されるために、他に留意すべきことはありますか。
塩澤さん:DEIの推進は、誰か特定の役割を持つ人だけがやることではないんですよね。社員全員がDEIを常に意識しながら仕事に取り組むというのがAmazonの姿勢なので、全員がDEIに責任を持つメンタリティーが大事です。
とはいってもやはり難しいのが、ビジネスとの優先度合いですよね。私自身、忙しくて目の前の業務が終わらないのに、どうして国際女性デーのプレゼンテーションの準備を自分がしないといけないんだろう、と思ったこともあります。ダイバーシティに関する取り組みは、どうしてもマイノリティの方に負担がかかることも多い。たとえば、採用面接ではジェンダーダイバーシティのために必ず面接官としてある程度の役職を持った女性が一定数担当しないといけないというルールがあります。ですが、どうしても人数的にそういったポジションの女性の方が少ないので、比較的女性への負担が重くなりがちです。ダイバーシティを唱えながらも、結局マイノリティの人たちの負担になっていることもある。そういった矛盾も生じてしまうので、バランスが難しいですよね。
硲:バランスという面では、DEIと、売上をどう折り合いをつけているのか気になります。こちらを立てればあちらが立たない、というトレードオフの関係ではないと理解していますが、売上への責任と、DEIに対するコミットメントについては社内でどのように説明されていますか。
塩澤さん:Amazonの場合は、16項目の「リーダーシップ・プリンシプル*2」という行動規範が大きな役割を果たしていると思います。このリーダーシップ・プリンシプルはあらゆるミーティングで伝えられ、オフィスの壁にも書いてあります。その項目の中に、“Hire and Develop the Best (採用や昇進において、すべての社員がさらに成長できるようベストを尽くす)”、そして “Strive to be Earth’s Best Employer (地球上で最高の雇用主になる)”というものがあります。それを実現するためにはダイバーシティは絶対欠かせないですし、ダイバーシティが確保されたあとのインクルージョンも、同じく欠かせないですよね。社員がみんな「自分はインクルードされている」と誇りを持って働くためには、全員が意識して誰もが働きやすい職場環境を作らなければならない、という考え方の啓発にAmazonは非常に力を入れています。
硲:お話を伺っていると、アマゾンジャパンさんのさまざまな取り組みの背景には、リーダーシップ・プリンシプル含め、元々の出自であるグローバル(アメリカ)のAmazonの持つコアバリューがすごく強いと感じます。それがベースにあるからこそ、DEIが皆さんに浸透されやすいという傾向もあるのかもしれません。
逆に、そういったグローバルの背景を持たない、いわゆる日系企業で、DEIの文化を育む、根付かせるために、塩澤さんの視点から見て、何かアドバイスいただけることはありますか?
塩澤さん:Amazonには多様な社員がいるため、人種、国籍、文化的背景を越えて協業する必要があります。私の経験では、Amazon社員の多くは、詳しく説明するまでもなく、DEI推進の取り組みの重要性を認識しています。お互いの違いを受け入れることが、効果的なチームワークとイノベーションに不可欠だという一般的な理解があるようです。ただ当然、日本社会や日本企業の中でもLGBTQIA+の方、障害者の方もいらっしゃいますし、女性も役職や業界によってはまだまだ活躍されている方が少ないですよね。それぞれの組織の中で、そういったマイノリティーに目を向ける姿勢を、トップの方が率先して取っていくことで、社員が追随できる空気が作られると思います。
硲:たしかに、トップが率先してDEIにコミットメントをすることで、社員が追随していくモデルというのは、伝統的な日本の企業であっても、ひとつの突破口になる気がします。
塩澤さん:ダイバーシティの問題は、マイノリティだけの問題ではなく、経営に直結する問題である、と我々もよく言っています。多様性が増えれば増えるほど、ビジネスの判断がより良いものになり、利益率が上がるなど、実際の経営にも直接的に影響があるものです。そういう観点からも、経営層からは 是非DEIに積極的に取り組んでいただきたいと思っています。
まとめ:Amazonジャパンの事例から学ぶ、DEIな企業風土の耕し方
今回はアマゾンジャパンの塩澤さんに話を伺い、DEIな企業風土の耕し方のヒントをいただきました。この記事を読んでいただいているみなさんの組織でも、なにか取り入れられる糸口が見つかれば幸いです。
*1 LGBTQIA+の人々を理解しようとする姿勢をもち、社会的不利な立場を正すために、自分にできることを考えて行動する支援者のこと。
*2 https://www.amazon.jobs/content/jp/our-workplace/leadership-principles
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13 Sep. 2024
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