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12 Jun. 2019

暗闇ワークショップ:ダイアログ・イン・ザ・ダーク新プログラム体験

飯沼 瑶子
副編集長 / プランナー
飯沼 瑶子

“Dialog in the dark”


「暗闇の中の対話」というタイトルのこのプロジェクトは、暗闇のソーシャルエンターテイメントとして、日本では1999年から開催されていたので、ご存じの方もいるかもしれない。
2017年以降は拠点を浅草橋に移し、エンターテイメントとしてのみならず、企業・団体向けの研修プログラムも開発・提供している。
これまでは企業や団体から、一定の人数以上が集まった場合にのみ利用可能であったのだが、「1名でも研修として参加したい」との要望を数多く受け、この春より「ダイバーシティ&インクルージョン研修」として個人でも参加ができる特別なプログラムが設けられた。

この研修プログラムでは「ダイバーシティ&インクルージョンとは何か?」を考えるきっかけとなるワークを暗闇の中で行う。
性別・年齢・職種も異なる、その日出会ったばかりの人たちと暗闇に入り、チームとして様々な体験を共有する数時間。
照度0の暗闇では、目の前にかざした掌も見えず、自分が透明人間になったような気持ちがする。実際、声を発さなければ暗闇での存在は消えたも同然だ。
「暗闇では、早々に見ようとするのをあきらめることがポイント」だと、アテンドの多恵さん。暗闇で戸惑う我々をサポートし、グループワークのファシリテーションを行うアテンドのみなさんは、普段から視覚に頼らず生活をする視覚障害者であり、専門にトレーニングを積んだ方々。

ちなみに、暗闇の中では暗闇ネームを使ってお互いを呼び合う。
cococolorからは、「きっしー」と「ぽん酢」(いずれも暗闇ネーム)が参加した。

 

ようこそ暗闇の世界へ

暗闇への入り口。カーテンの内側に広がる未知の世界。

今回は7人と8人の2チームに分かれ、照度0の暗闇へ入った。
この空間では、普段視覚障害者が使用する「白杖」をもち、地面や進行方向を探りながら進む。最初は、一歩進むのも怖くて、だれの声も聞こえないと不安な気持ちでいっぱいになる。
まずは、ボールをチームの中でパスし合うアクティビティ。暗闇の中、ボールをパスするのは無理だと思ったが、声を掛け合えば意外とうまくパスが通る。見えなくても、声と聴覚を使う事で人の位置や距離感がわかることに驚いた。

次に、同じ血液型同士で集まるアクティビティ。チームを一度解散し、15人の中で同じ血液型の人を見つけ、それぞれのグループを作る。
例えば、きっしーはAB型だったので、「AB型の人~!」と大きな声をあげるが、マジョリティであるA、O型の凄まじい数の声にかき消される。
めげずに、「AB型の人…。」と小さな声を上げ続けていると、「AB型の人あっちにいましたよ!」という助けの声。暗闇だったが、一筋の光が見えたような気がした。
周りはみんなグループになって、楽しそうに話をしているのに、暗闇の中で一人という疎外感は想像以上の心細さだったが、遂に、一人AB型の仲間を見つけ、嬉しくてつい腕をつかんでしまった。

 

「伝えたつもり」「伝わっているつもり」

テーブルとイスのスペースに移動してからは、あるルールにしたがってブロックを並べ替えたり、粘土で造作したり、お菓子を分け合ったりするワークを行う。
いずれも暗闇でなかったら、難易度は極めて低いだろうアクティビティなのだが、体験してみるといかに自分が普段、視覚に頼ってやり取りをしていたかを実感する。
自分の持っているものは、どのくらいの大きさなのか。それを相手と共有したいと思っても、何かで測ったり、お互いの持ち物を見比べたりができないとき、どうするか。
「伝える」ということが途端に難易度を増し、自分が持つ常識の枠を感じる体験だ。
言語化することはできるが、相手が共通認識を持てているか。その試行錯誤をワークの場で体感する。
さらに、これは視覚だけの問題ではないとも気付き、はっとする。例えば違う言語の相手や、遠隔地の相手との作業でも「伝えたつもり」「伝わっているつもり」が生じているのではないか。

ワーク中にはもどかしく思ったり、もやもやする気持ちになったりすることも多いが、一方で、とても解放された気持ちにもなる。何だか童心に返ったように素直になれるのだ。

粘土を触っては、「わぁーーー粘土だ!」「ふわふわだ!」
「ぽん酢です。私はしめじを作りますね」「トコマです。私はアサリを作りました。触ってみますか?」「かっちゃんです。触りたいです!」など、暗闇ではとてもシンプルでストレートな表現が多くなるように思う。そして、暗闇ネームを名乗り合うのもそれに拍車をかける。

ぽん酢の所属したBチームが暗闇で制作した作品。テーマは「お味噌汁」。
具は、ちくわ・アサリ・毛ガニ・ネギ・豆腐・かぼちゃ・しめじ(のつもり)

また、配られた板チョコを割っては、「わ!意外と固い」「さっきの板チョコと音が違いますね!」と、普段なら気にしないようなことをさも大発見かのように伝え合うのも、楽しい。

様々なワークを通し、触覚、聴覚、嗅覚、味覚を最大限に使って、いつもの何倍も特別に感じられるモノやコト。周りの人にこの発見を伝えたいと思い、話すことが楽しくて、誰かの声を聴くことが安心に繋がる。
数時間前には知らない人だったことが信じられないくらいに、お互いやチームの存在に安心を覚え、信頼していた。最初は不安だらけだった暗闇の空間も、いつのまにか少し心地よさすら感じられる場所になっていた。

 

暗闇は怖くない

そんな風に無邪気な時間を過ごし、暗闇を歩く際には肩を貸しあい協力しながら明るい場所に戻ってくると、途端にどこか少し気恥ずかしい。しかし同時に、秘密を共有し合った仲間のような親密さも感じた。

徐々に照明が明るくなり、相手の姿や表情が見えてくるほどに、暗闇の中のように自由に話すのに躊躇するようになる。
暗闇では見えなかった、人の表情や、姿勢によって“こんなことを言ったら、バカにされるのではないか?”といろいろな心配をしたり、深読みをしたりしてしまう。自分が思っている以上に、自分は視覚情報に頼って生きていることがわかると同時に、視覚情報によって、ありのままの自分自身が制御されているかもしれないという可能性に気付く。
暗闇は私たちが普段持っている心のバリアを取り払っていたのだ。
『さっきみたいにみんなと自由に話せない、もう一度暗闇に戻りたい。』そんなことを言う参加者に強く共感した。

暗闇を出てからの振り返りタイム。

 

暗闇から出たあとに

明るい環境下でワークの振り返りをして、目も身体も徐々に元の感覚に戻っていく。白杖がなくても歩くことが怖くないし、どこに誰がいるかも、声を掛けなくてもわかる。
そんな普段からすると当たり前の元の環境に自分が戻りつつあるときに、ハッと気付く。
暗闇で案内とサポートをしてくれた視覚障害者のアテンドは、今もそしてこれからも、あの暗闇の中にいるんだ。一人だと、とても心細くて、誰かから声を掛けられると、とても安心するあの世界の中。頭ではわかっていたつもりだったが、静かに衝撃を受ける自分がいた。暗闇の世界は、普段の生活の中では気付けない、様々な事に気づかせてくれる。
人のぬくもりの大切さ。見えない事によって、知ることができる世界がたくさんあること。そして、この暗闇の中で毎日生活している人がいるということ。
この体験をするかしないかで、人生の幅や豊かさが大きく変わる。心からそう思わせてくれる唯一無二のあたたかくて特別な空間だった。

※ご紹介:
・ダイアログビジネスワークショップ公式サイト
・過去のcococolor内ダイアログ関連記事


取材・文:岸本かほり・飯沼瑶子(共著)

取材・文: 飯沼瑶子
Reporting and Statement: nummy

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