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5 Nov. 2018

持続可能な特例子会社。その経営戦略を探る(後編)

前編に続き、大手インターネットサービス企業グリーの特例子会社であるグリービジネスオペレーションズ株式会社(以下GBO)の取材記事をお届けします。後編では、代表の福田社長に、GBO社の目指す姿について存分に語って頂いたインタビューをお届けします。


会社の持続可能性が第一

我々はグリーグループの特例子会社ですが、それは障害者雇用促進法上で「特例」なだけです。特例子会社であっても「営利法人」ですので、会社が持続可能であるために、当社単体で売上をあげて費用を賄うことを第一に考えています。社員が幸せに仕事をすることも大事ですが、社員が幸せに働けても、会社が潰れては意味が無いため、まずは、当社として自律的に継続していけることをとにかく重要視しています。
そのためには、クライアントでもあるグリーグループ各社のニーズに合うような業務を受託できる事が大事です。内容によっては、当社の社員には難しいものもあるので、社員の適性をみながら受託する業務をコントロールしています。
受託業務に関して、障がい者の法定雇用義務を理由に、「生産性は下がるけれども、GBOに業務を委託しなければならない」という体制にはしたくないと考えています。当社単体で競争力をつけ、他社ではなく当社に発注した方が生産性が高いという状態をいかに作れるかがカギとなり、これが維持できると、社会保障への依存度を下げた障がい者雇用が持続可能なものになります。

当社には「能力を最大限に発揮でき、仕事を通じ自律的に成長し続けられる会社を創る」という企業ビジョンがありますが、社員の働き方(前編参照)も、このビジョンを達成するために工夫して整えています。


「グリーの事業に貢献していること」が社員のやりがい

社員の当社での働きがいは非常に重要です。現に多くの社員が、グリーグループという大企業の事業に貢献していると言うやりがいを感じながら働いてくれています。
多くの特例子会社の場合、代表は人事部門の役職者などが務めるケースが多いようですが、私は当社の代表の他に、親会社グリーにおいて事業部門の役職者も兼務しています。これには、当社社員達の持っている能力をグリーグループの事業に紐づけやすくするという目的があります。

元々私は事業畑を歩んできた人間であり、現在も事業部門の役職者であるので、グリーグループ各社で今起きていることや今後の事業戦略等を把握しやすい立場にいます。
当社では、四半期ごとにホームページ上で公開されるグリーの決算説明会資料を使って、私が社内向けに決算説明会を開催しています。そのなかで「これは○○チームが関わっている案件です」、「今度この事業に関する業務を受注する予定です」という話を必ずするよう意識しています。
そうすることが、いま社員自身が担当している業務と、グリーグループ全体の事業を紐づけることができ、社員のやりがいも向上していると感じます。


“インハウスでのパラレルキャリア”という働き方

私がどういう経緯でGBOの代表に就いたのか、少しお話します。
当社は2012年に創業しましたが、当時は障がい者の法定雇用率を遵守するという目的の方が大きかったように思います。その後、事業部門にいた私が人事本部に異動し、当社の代表になる話がありました。この時から、少子高齢化の煽りで人手不足が起こることは自明でしたし、障がい者の法定雇用率も上がることも公表されていました。であれば、「GBOの社員にも、グリーグループの事業に最大限貢献したほうが良いでしょう」という思いで、当社の代表を引き受けました。

その後、やはり私は事業畑の人間なので事業部門の仕事を再び希望して異動する訳ですが、だからといってGBOの代表をやめる必要は無いと思いましたし、グリーの人事本部長もその意思を応援してくれました。今は働き方改革、副業元年とも言われていますが、私の働き方はインハウスのパラレルキャリアであると思っています。1つのグループ会社の中で全然違う仕事をしているのですが、先ほどもお話ししたように、結果そのことがとてもシナジーを生んでいると思います。


ポイントは、いかに継続的に業務を切り出せるか

他社様からよく、「どのようにしたら上手く特例子会社を運営できますか?」という質問を頂きます。特に、働き方や施設面の配慮の必要性などを問われる傾向があります。一方で、私が考える最も大事なポイントは、親会社やグループ子会社からいかに継続的に業務を切り出せるかです。そのためにはグループ各社の事業状況を正確に理解している人が特例子会社を経営することが非常に重要であり、そういった立場の人がグループ各社の事業と一体化させた事業モデルを作り出す必要があります。だからこそ、事業経験のある人が特例子会社の代表に就くことが必要だと考えています。

当社では、私が代表に就任した時からグリーグループ全体の生産性向上に寄与することを目指して経営を行っていました。当時も今も、グリーグループでは外注している業務が一定量あります。外注をすると当然契約が発生しますし、他にも見積もりや請求書のやり取り、NDAなど非常に大きな事務的負担が発生します。
当社ではこの負担の解消を競争力の一つとして、100%子会社であるメリットを最大限活かした事業モデルを考えました。

例えば、グリーグループ各社の現場担当者と、個別業務単位で見積もりや請求書のやり取りを行わなくてもいい仕組みにしたり、都度守秘義務契約を結んだりはしなくて大丈夫なようにしました。こうするとことで外部の業者に発注するよりも同じグループ会社の当社に発注した方がとても事務負担もリスク負担も少なく、安心して安定的に発注してもらえるようになったのです。このような仕組みを本社の管理部門とも連携してゼロから作っていきました。


できることから実績を積み、評判を生み出す

次に大事なことは、「本当にその業務が出来るのか?」というところです。ここは地道に、できることから少しずつ実績を積み重ねていくようにしました。

例えば管理部門からの人事情報管理などの「事務サポート業務」や事業部門からの「ゲーム品質管理」や「市場調査」の業務です。クライアントであるグリーグループ各社の現場担当者側の間でも、こうした実績の積み重ねが良い評判となり、口コミで受注につながったりします。
また、グリーグループ各社の役員に実際に当社オフィスに来てもらったり、当社のFacebookページを使って積極的に情報を発信したりといったインターネットを活用した地道なPR活動も、時間はかかりましたがグリーグループ各社に対する知名度をあげていくことに成功した要因であったと思います。


障がい者のマネジメントは、未来のマネジメントに通じる?

最近思うことは、「当社社員の大半を占める発達障がい者のマネジメントは、今後、より一般的に必要とされるマネジメントに通じるのではないか?」ということです。

少し壮大な話になりますが、障がい者雇用の現場から我々が見てきたこと、そして取り組んできたことを共有することで日本の全ての企業にとっての人材不足やマネジメント課題の解消に繋がって行くことができるのではないかと思っています。一般的に、日本人は同質性の高い環境で育っているので、人種や宗教といった多様性も諸外国にくらべてそれほど高くなく、実は、マネジメントはそう難しくないと思います。
しかし、当社では違います。発達障がいの特性の一つとして、健常者が思う「暗黙の了解」や「普通」が通用しませんし、空気を読むことが苦手な社員も多くおります。

そういった社員達の個々の特性を理解するために、私自らが個別に行う1対1の定期面談など、コミュニケーションにはとても時間をかけています。
ここでのマネジメントは、これまで私が経験してきたそれと比較すると決して効率が良いものではありません。ただ、障がい者雇用の現場からは多くの学びがあります。

これからの社会は、インターネットやスマートフォンの登場によって価値観の多様化とその顕在化が一気に進む社会です。今まで、個々のマネジメントに多くの時間を割かなくとも、「暗黙の了解」や、終身雇用・年功序列といった「日本的経営」のもと手放しでもついてきてくれた社員達がついてこなくなる、つまりそれは、今まで機能していたマネジメントが機能しなくなる可能性があるということです。
当社では、社員一人ひとりの個性にしっかり向き合った上で、共通の企業ビジョンを浸透させるマネジメントを日常的に行っています。こうした同質性と多様性を混在させたマネジメントは一般企業・組織にとっても非常に重要になってくるのではないかと思うのです。これは政府が「働き方改革」を推し進めるようになったここ1〜2年の大きな変化だと思います。


障がい者雇用ってすごく良い

障がい者雇用ってすごく良いですよ。まず事業の生産性向上に貢献できますし、障がい者の雇用機会を創出するといった社会課題の解決にもつながります。そうなると「止める理由がない」と思います。
当社の取り組みを広くお伝えすることで、少しでも多くの人に知って頂いて、多くの企業の気づきになれば嬉しいなと思います。当社だけでは、”障がい者雇用”という大きな社会課題は解決できませんので。私たちは、障がい者の雇用機会増大はまだまだ非常に大きなポテンシャルがある上に、社会的意義も非常に大きいことだと思っています。


執筆者 副田真弘(Masahiro Soeda)

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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