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29

Mar.

2024

interview
20 Oct. 2022

性教育は人間の生き方そのもの~「GENIE」という新しい性のとらえ方~

中曽根彩華
統合マーケティングプロデューサー
中曽根彩華

「みんな違って、みんないい」。

私が幼いころから大切にしている言葉です。

近年、多様性への理解が浸透し、自分との違いや各々の個性を尊重する環境が日本にも整ってきた実感があります。ですが、まだまだ「同質性」の重視・活用を目指す傾向が残っているのも現状です。

そんな要因の1つに、「性教育はタブー」という教育環境は少なからず関わっているのではないでしょうか。

性の知識は生きていくうえで切っても切り離せない、大切な知識ですが、子供たちに届けられていないのが現実です。そんな日本の抱える課題に対し、幼い子から大人まで、学校では学べなかった「性の知識」を始めとした「生のための知識」を包括して理解することができ、性教育の概念を新調できる、ボードゲーム【GENIE】が開発されました。

この記事では、”生き抜くために必要な力”が養える【GENIE】の開発者、【助産師・兼・株式会社With Midwife代表の岸畑聖月さん(以下岸畑さん)】に、インタビューを行い開発の秘話と熱い想いに迫っています。

株式会社With Midwife 代表の岸畑聖月さま

 

ボードゲーム「GENIE」とは?

「GENIE」は、ゲームの設定、コンポーネント、ゲーム中のイベントを通じて、性教育で身に着けたい知識を学び、性にまつわる事柄を擬似体験できるボードゲームです。

(出典:https://pj-genie.jp/

舞台は魔法の世界。仲間と協力して一人前の魔法使いを目指すストーリーで構成されています。

「GENIE」の名の由来は、3つの願い事を叶えてくれる※1「ランプの魔神ジーニー」。なんでも叶えられる印象のジーニーですが、実は叶えられないことが5つあるそうです。

※1:ただし、「殺生」・「恋愛の(心理操作を含めた)成就」・「死者の蘇生」・「叶える願いの数を増やす」・「願いを取り消す(返却・交換)」の5つは叶えられない

ボードゲーム「GENIE」にもできないことがあります。それは、

 

「傷ついたあなたに変わること」

「時を戻すこと」

「体を若いまま止めること」

「失った命を戻すこと」

「ずっと手の中で守っていくこと」

 

でも、魔法のごとく性教育を学ぶことで、正しい「知識」や、避妊具・ワクチンなどの「あなたを守るアイテム」への理解、そして「愛」なら与えることができる。そういった開発の想いを代弁しているのです。

性教育は実現したいことや夢を叶えるためにも必要な知識。魔法みたいな知識ですが、正しく理解できていなかったり、選択を誤ったりすると、叶えられなくなってしまうこともある重要なもの、そんな想いを込めてネーミングされていました。

  

性教育が学べるゲームですが、実はゲーム内には一切性教育色は出てきません。

1回30分程度、8歳くらいから大人まで、性教育のワードを使用することはなく、全員のミッションを全員で協力しあいながら達成を目指す「ただただ楽しい」ボードゲームです。

ミッションをクリアし無事に一人前の魔法使いになると「賢者の書」が与えられます。

この「賢者の書」に仕掛けがありました。

このゲームでは、性教育の知識を比喩的に表現しています。

この比喩表現された性の知識の解説を「賢者の書」で行っているのです。

楽しく遊んだ後に、ゲームで何を示しているのか、事後に理解することで学びとして定着する仕組みになっていました。

「賢者の書」は10歳、15歳、20歳向けと用意があります。保護者やプレイヤー本人が必要だと感じる時期に、必要なレベルに応じた情報を届けることができるのがポイントです。

 

なぜボードゲームなのか?

性教育に子供でも興味を持って学べるにはどうしたらいいのか。

そこで思いついたのが「ボードゲーム」だと言います。

 

岸畑さん「人は自分事化することで知識を増やしていける。体験し必要であることに気づくと、意識が芽生え、知識が定着しやすいです。しかし、性教育を自分事化できる学びはとても難しい。ならば、人の人生を“疑似体験”できればいいのではないか、と考えました。

そこで思いついたのが人生ゲームです。ゲームは自分事化でき意識と知識が定着しやすい、と考え、ボードゲームを開発しました。」

 

今の日本の性教育事情は?~「性的同意年齢」でも同意すべき選択内容を理解できていない~

岸畑さん「今の日本には、国が定める学習指導要領内に、通称「はどめ規定」と呼ばれている、「妊娠の経過は取り扱わない」という規定があります。これによって、海外に比べ日本では、性行為をはじめとした性について、公で学ぶ機会がありません。

一方で、性的同意年齢は1907年(明治時代)から変わらず13歳です。※参考:https://www.moj.go.jp/content/001132263.pdf

性にまつわる選択に“責任”と、選択できる“権利”が与えられる年齢であるにもかかわらず、それまで性の具体的な知識を学べておらず、全貌を理解できていないのが現状です。」

 

NOといえる勇気とNoの選択もしやすい環境を築きたい

性被害にあったことのある人のうち、”中学生以下”は”18.6%”※2。被害者の5人に1人は、まだ何も知らない若い子たちという実態があります。

※2:出典:内閣府の男女参画局の調査(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-05-11.html

 

彼女たちは、望まない性行為に対面した際に、誤った事態であることにもかかわらず、知識がないから判断できないこともあると言います。

求められても、これから何をされるのかがわからない。だからこそNOとも言えない。これは解決していくべき社会課題だと感じました。

 

NOといえるようになるには以下の3つが整っている必要があると言います。

①性に関しての科学的な知識

②コミュニケーション方法

③環境

 

①性に関しての科学的な知識。

人はどのようにして誕生してくるのか、今自分は何をされ、しようとしているのか、それによりどんな良し悪しがあるのか、複合的に性についての理解を知識として深めることです。

 

②コミュニケーション方法

①を理解をしたうえで「自分はどうしたいのか」を伝えるコミュニケーション方法です。日本は、Yesを伝えることは学ぶ機会が多いです。ですが、Noということはあまり称賛されていない文化があります。そのため断ることに抵抗があるのも日本人の特性です。

特に、性の領域においてはセンシティブなため「No」と言い難い領域でもあります。だからこそ、より一層「No」を言える手段を学ぶことは重要です。

センシティブだからこそ、ただ一方的に「No」を伝えるだけでなく、相手の状況を聞きながら、自分の気持ちをしっかり伝えられるコミュニケーション方法を学ぶことは非常に大切で、生きやすくなるスキルでもあります。

 

③抵抗なくNoが発信できる環境。

個人の意識だけではなく、周囲の環境が最も大切だと言います。

Noと言ってもいい、性について発言してよい、というオープンな環境を作っていくことが今の日本には必要なことなのです。

 

GENIEは、この3つを成し遂げることを目指して誕生していたのです。

 

ボードゲーム「GENIE」:性教育“教材”ではない

知識を学べる教材はたくさん世の中に存在しています。

ただ、GENIEは

・賢者の書にて性教育についての①知識 を習得できる

だけでなく、

・ゲームの中でプレイヤーとともに歩む②コミュニケーションの方法の取得

・GENIEがあることで性についてオープンにしていいのだという ③環境作り

 

上記の実現に寄与し性についてオープンに会話できる雰囲気を作る、話せる関係値を作ることを一番の目的として誕生したゲームなのです。

 

「GENIE」を通じて目指したい社会

岸畑さん「性や生殖にかかわる悩みを減らしていきたい。それから、もし不意に死産・流産してしまった場合でも、孤独を伴わない社会を作っていきたいですし、理解がある社会を目指していきたいです。これは助産師だからこそ強く感じるのかもしれません。

性や生殖に関する権利をしっかりと若いうちから理解し、認め合える環境構築と、「傷つける子」「傷つけられる子」を減らしていくことに貢献していきたいです。

そして「性教育」というワードにプレッシャーがあるように感じています。GENIEというワードが性教育の代名詞になることを目指して、よりGENIE(性教育)について語りやすい社会をめざしていきたいです。」

 

性教育とは「生殖」にまつわることはもちろん、「人間関係」「価値観」「文化」「ジェンダーの理解」「健康と幸福」など非常に多岐にわたる「ダイバーシティ」な学問と概念を兼ねそろえている、壮大な分野であることに気づかされました。最近ではそれを「包括的性教育」と呼ぶこともあるそうです。

GENIEはそんな性教育の概念を、気軽に学べる機会の提供ができるイノベーティブアイディアだと感じています。性教育は決して、子どもや若者にとっての課題だけでなく、人間の生き方そのものに関わるテーマとなっているのです。

 

このような手法を活用すれば、相手のことを理解し・思いやり、自分を大切にしていける環境がきっと広がっていくでしょう。

これからの未来をより明るくしていく、そんな環境作りにあなたもぜひ参加してみませんか?

 

取材・文:中曽根彩華

 
取材・文: 中曽根彩華
Reporting and Statement: saikanakasone

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