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Dec.

2022

interview
15 Dec. 2021

暗闇の中で自分の感性と日本の文化を見つめ直す経験を

鈴木陽子
ストラテジスト/PRプランナー
鈴木陽子

世界50カ国以上で開催されている真っ暗闇のエンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。そのプログラムで活躍している視覚障害者のアテンドスタッフと会津漆器の職人とがコラボレーションして誕生したのが、会津漆器「めぐる」です。

竹芝にあるダイアログ・ミュージアム「対話の森」では、2021年11月6日から約2週間にわたり、「めぐる」の器と実際に触れ合える体験プログラム「会津漆器・イン・ザ・ダーク」が開催され、筆者はそのプログラムを体験してきました。

今回の記事では、アテンドの“特別な感性”を活かした商品誕生の裏側や「めぐる」の魅力を、コンテンツプロデューサーの志村季世恵さんとアテンドの川端美樹さんのインタビューを中心にお届けします。

 


志村季世恵さん
一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事
ダイアログ・イン・ザ・ダーク コンテンツプロデューサー
心にトラブルを抱える人、子どもや育児に苦しみを抱える女性をカウンセリング。クライアントの数は延べ4万人を超える。1999年からはダイアログ・イン・ザ・ダークの活動に携わり、多様性への理解と現代社会に対話の必要性を伝えている。著書に『さよならの先』『いのちのバトン』(ともに講談社文庫)など。

 


川端美樹さん
アテンドスタッフ
フェリス女学院大学 音楽学部声楽科卒業。ダイアログ・イン・ザ・ダークに2005年からアテンドスタッフとして勤務。声楽家としても活躍。
視覚障害者ならではの感性を生かし、今治タオルメーカーと「最高の肌触りを追求したタオル」や会津漆器メーカーと「触れるデザインと心地よい肌触りを追求した漆器」の共同開発に参加。

 

「めぐる」の魅力を多面的に味わえる「会津漆器・イン・ザ・ダーク」

 

「会津漆器・イン・ザ・ダーク」のプログラムは、通常の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のプログラムと同様に、視覚障害者の方が使用する白杖を手に、杖先や視覚以外の感覚を頼りに真っ暗闇の中に入っていきます。

暗闇での体験に慣れてきたところで、いよいよ会津漆器「めぐる」との対面があり、会津漆器ができるまでの各プロセスを視覚以外の感覚を使って理解したり、漆器にたくさん触れる体験をして、元の世界へ戻るまでが一連のプログラムです。

器を目で見て説明を聞き、頭で理解した気になっているだけでは見えてこない「めぐる」の魅力を垣間見ることができた今回の企画。まずは「めぐる」の誕生の経緯から振り返って頂きました。

 

触れる文化を持つ人同士が出会って「めぐる」は生まれた

 

――「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」として、会津漆器「めぐる」の商品開発に携わることになったきっかけを教えて頂けますか。

志村さん:
会津漆器との出会いは11年前、会津漆器のプロデュースをしていた貝沼航さん(福島県会津地域を中心に漆器のプロデュースをしている「漆とロック株式会社」の代表の方)と知り合ったことがきっかけでした。会津漆器は伝統工芸品であり特別なものと思われているけれども、本当は日常遣いをして、人が触ることによって磨かれていくものだということを知ったんです。

私たちダイアログのアテンドスタッフは、指先の触感が繊細で、モノの捉え方が本当に優れているんですね。アテンドのような触ることでものを見る文化の人たちと、触れることで漆器を磨いていく文化の人たちが出会って何かを作ることができたら、いい意味で新しいものができるのではないかと貝沼さんとも話していました。

そこで、漆器職人さんのところにダイアログのアテンドの川端たちを連れて行ったのですが、職人さんたちでも一度では分からなかった刷毛の材料を、彼女は触って「これ人の髪の毛でしょう?」と即答したんです。その出来事がブレイクポイントとなり、漆器職人さんたちと、アテンドたちとのコラボレーションが進んでいきました。


(アテンドの皆さんが会津漆器を触っている様子)

 

――アテンドの川端さんは、会津漆器の魅力をどのように捉えられたのでしょうか。

川端さん:
会津漆器に触れた時に、手にしっかりフィットする感じがして、「気持ちいいなぁ、素敵な器だなぁ」という感動が込み上げてきたのが、最初の感想でした。木の温かさや柔らかい質感、更に漆を重ねることで手に吸い付くような気持ちのよい艶やかさがあり、木と漆の持つ素材感との出会いに手が喜んでいる感じがしたんです。

また、会津漆器を使うと、おつゆの味もまろやかさも違う。食事や、食事をいただく器自体を味わう経験というのは色々な感覚でできていることを、全身を使って感じることができました。

 

誰にとっても素晴らしいと感じられる器を目指して

 

――職人さんとのコラボレーションを通じて、「めぐる」がどんな商品になることを目指されたのですか。

志村さん:
「めぐる」の商品開発では、障害者の人もそうでない人も、より良いデザインを見て感動し、誰もが使いやすい器を作りたいと願っていました。ですので、福祉的にこうすれば障害者の人たちが使いやすいということではなく、それを超えるようなものを作っていくことに留意していました。

川端さん:
伝統工芸というと、目で見て、「この赤が綺麗」とか、「ツヤ感が美しい」とか、「形がすごく綺麗」という風に視覚的に捉えることも多いと思います。そこにさらに、触れてみた時の“手に包んでずっと抱き上げていたいような感覚”だったり、器に段差を付けることによる“姿勢良く食事が取れるという感覚”だったり、様々な感覚をプラスすると、漆器がより日常に根付くのではないか。会津漆器に私たちアテンドの感覚をプラスして、五感でたくさん楽しんでもらえるような器を作りたいと考えました。

開発過程では何度も会津にお邪魔しながら、職人さんに「器のこの部分を、もっとこの指にフィットするように削ってみて」だとか、「この曲線にもうちょっと丸みを入れて」など、色々なことをお伝えして、職人さんも「じゃあやってみよう」と私たちのお話をたくさん聞いて下さいました。


(「めぐる」の商品開発の様子)

志村さん:
職人さんたちもダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇を体験して、アテンドの話を理解しようとして下さり、結果的に「自分たちだけでは思いもつかなかったことを考えてもらえたというのは、職人冥利に尽きる」という風におっしゃっていましたね。

 

器に触れた指先から日本文化の丁寧さを感じ取って欲しい

 

――11月に実施された「めぐる」を実際に体験できる「会津漆器・イン・ザ・ダーク」のプログラムは、どのような趣旨で企画されたのですか。

志村さん:
プログラムを通して、目で見て知っているだけでは分からない良さがまだたくさんあること、私たちの国が豊かだということを感じて欲しいと思いました。

会津で同様の催しをおこなっていた時に、参加者の方が「会津漆器を触ると、気持ちが落ち着く」とおっしゃったんです。漆器をよく使っている会津の方からも、暗闇の中で漆器の良さを再発見したという声があり、日本の文化と暗闇というのは相性がいいのだと気づきました。

暗闇だと皆さん動きが丁寧になります。繊細になっている自分の感覚で器に触れ、その気持ち良さを感じ、漆器が完成するまでの年月に思いを馳せてもらったりすることで、日本の文化が持つ美しさと本当の豊かさを知って頂けるのではないかと思いました。


(会津漆器「めぐる」)

 

――その趣旨を感じ取ってもらうために、プログラム構成で工夫した点を教えて頂けますか。

志村さん:
ご自身それぞれの五感でまずは会津漆器をじっくりと感じて貰ってから、制作工程のお話をする、という順番のほうが漆器への理解が深まると思い、そういう構成にしたことが工夫した点ですね。

また、アテンドもこのプログラムの開催のために実際に会津に出向くなど、長時間の研修を重ねました。ただ内容を暗記してガイドのように説明するのではなく、職人さん達の思いを自分たちが代弁するような気持ちで会津漆器のことをお伝えしていたのではないでしょうか。

川端さん:
そうですね。漆器の良さや職人さんのお仕事の様子が1つ1つの工程から伝わるように心掛けつつ、いくつかの漆器の制作過程に触れた時に、参加者の方がどんな風に感じているのか、対話を深められる時間も持ちました。

志村さん:
ゲストの方に漆器を持った時の手のぬくもりを感じて貰うことはもちろんなのですが、ダイアログだからこそできる対話の時間も大事にしたんですね。感じたり発見したりしたことはゲストによってさまざまです。それをお互いに話すことで、魅力により深く気づくこともできます。ゲストとアテンドが一緒になって感じたことを深めていくことを大切にしました。


(会場でも使用された漆器の制作過程)

 

――プログラムに参加された方の感想の中で、印象に残っているものを教えて頂けますか。

川端さん:
ゲストの方がそれぞれの捉え方でたくさんのことを感じて下さったのが嬉しかったポイントです。

たとえば、「漆器は特別なものだと思っていたが、会津では丁寧に作られたいい器を普段使いしていることを知り、自分も漆器を身近な存在として使いながら、色つやや手触りが良いものに育てていきたい」とおっしゃった方がいました。別の方からは、「会津漆器に唇で触れて、お水がこんなに甘く美味しいものだということを体感できた。これからは、いま何を食べているのかということや、命を頂いているという感覚を大切にしながら食事をしていきたい」という声もありました。

 

“特別な感性”を通してまだ知りえてない作品との出会いを作る

 

――最後に、アテンドの方の感性や視点を商品開発に活かしていくことの可能性について、今回のプロジェクトを通して感じられたことをお聞かせ頂けますでしょうか。

志村さん:
目を使っていないからこその感性というのが本当にあって、目が見えている私よりも偏った捉え方をせずに、音や匂いや指先を使って色々なことを感じている。その豊かな感性を生かし、アテンドとそれ以外の人たちが持っている文化が合わさることで、自分たちがまだ知りえていないような作品とこれからも出会えるのだろうと思います。

川端さん:
ダイアログでアテンドをしていると、「人の感覚の可能性はこんなに素晴らしく、人とやり取りをすることはこれほど豊かで楽しいのだ」と思える体験が、暗闇の中でたくさん起こります。

障害をネガティブなだけのものとして捉えるのではなく、見えない状態だからこその感覚や、その感覚を通して感じる伝統工芸の可能性と日本の文化の良さなどを、これからもたくさん伝えていけたらと思っています。


(「会津漆器・イン・ザ・ダーク」会場の様子)

 

今回のプログラムの中で「めぐる」に触れた経験を通して、私自身が視覚優位で情報を採り入れ、説明を聞いて頭で分かったような気になっている状態では、物事の魅力のほんの一部分しか捉えられていないことに気づくことができました。

今後も、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を介した日本の文化と出会うプログラムは続いていく予定です。次回のテーマは、陶器の唐津焼。漆器から陶器の世界へ、漆器とはまた異なる手ざわりを通してどんな日本文化が垣間見えるのか、とても楽しみですね。

《関連情報》
ダイアログ・イン・ザ・ダーク
「日本と出会う、旅に出よう。もっと日本を深めよう。」プログラム特設ページ
https://japan.dialogue.or.jp/

会津漆器「めぐる」公式WEBサイト
https://meguru-urushi.com/

取材・文: 鈴木陽子
Reporting and Statement: yokosuzuki

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