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Apr.

2024

interview
16 Dec. 2021

若き司令塔が目指す、パラスポーツ発展の道~車いすバスケットボール・古澤拓也選手~

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」第2回目。車いすバスケットボール日本代表として銀メダル獲得に貢献した若き司令塔・古澤拓也選手に聞きました。

 


車いすバスケットボール 古澤拓也選手

神奈川県横浜市出身/東京2020大会でパラリンピックに初出場し、銀メダルを獲得。中学1年から車いすバスケットボールを始める。2017年にはU23日本代表キャプテンも務め、同年初めて日本代表に選ばれる。WOWOW所属、パラ神奈川SCでプレー。

 

 

■車いすバスケットボールとの出会いとその魅力

 

「車いすバスケ」は激しいスポーツだけど、

健常者とともにコートに立てるインクルーシブな競技

僕は車いすユーザーになる前は野球をやっていて、チームスポーツがすごく好きでした。車いすバスケもチームとして戦っていくものですし、今回の東京2020大会の日本代表メンバーのうち6人は、10代のころから一緒にやっているメンバーなんです。色々なスポーツをやる中で、若い時からずっと一緒に「パラリンピックで活躍しよう」と言ってきた仲間たちがいたというのが、車いすバスケを選んだ理由です。

 

 

車いすバスケの魅力は、パラスポーツの中でも特に激しいスポーツであること。スピード感があって、シンプルに「スポーツ」として見てもらえる競技だと思っています。

 

一方で、車いすバスケは障がいがある人もない人も一緒にプレーできるスポーツなんです。障がいの有無や性別など関係なく一緒にコートに立てるというのは、車いすバスケならではの魅力です。一般的な車いすバスケのクラブチームだと、年齢層が高い方、僕にとっておじいちゃんぐらいの方とも一緒にプレーしたり、12歳くらいの子どもたちとも一緒にプレーできる、インクルーシブなスポーツだと思います。

 

 

■東京2020大会を振り返って

 

応援してくれる、日本中の想いがあってとれた銀メダル 

車いすバスケ日本代表は、ずっとメダルをとることを目標にしてきましたが、今まで世界選手権でも結果が出なかった。東京2020大会は、自分たちのことを信じて一戦一戦戦っていく中で、テレビを見て応援してくれている方々もさらにチームに加わって戦ってくれて、車いすバスケが日本全体でスポーツとして認知され、全員の思いがあって銀メダルをとれたのかなと改めて感じました。

 

たとえば、SNSのフォロワー数が増えて、街に出かけると声をかけてもらえたり、いままでは、車いすバスケをパラスポーツという形で応援してくれている人たちだけだったのが、熱狂的なファンができたり、一人のアスリートとして見てもらっている感じが増えてきたなと思っています。

 

車いすバスケは2つの側面があって、ひとつは、今回の東京2020大会で頑張った“競技”としてのスポーツ。もうひとつは、誰でも一緒にできる“レクリエーション”としてのスポーツ。競技としての側面がメダルを獲れたことで強まった分、認知が広まって、“レクリエーション”の部分もこれから増えていくのではないでしょうか。

 

また、東京2020大会が決まってからは、対談や取材で通常のバスケットボールの選手と顔を会わせる機会が増えたり、自分たちの合宿にバスケットボールのヘッドコーチなどが来てくれたりと、いろいろなつながりやお互いを応援する関係が生まれてきたのも嬉しい変化でしたね。

 

©フォート・キシモト

 

 

いきなり次のパラリンピックを目指すのではなく、

1回1回の試合でチームに貢献し、世界一を目指す 

東京2020大会で掲げた「世界で1番のポイントガードになる」という目標については、僕自身もっと成長できる部分が沢山あると思っていますし、僕がもっとできるようになればチームが金メダルに近づくという自負もあります。世界一の選手になりたいと思うなら、他の選手に対して圧倒的でないといけないので、シュート、パス、ドリブルなど全体的にスキルアップしたいなと思っています。

 

パリパラリンピックに向けては、まずはチームを世界一にしたいですね。そのためには、ポイントガードとしての自分がもっといい選手に成長していかなければならない。

 

いきなり次のパラリンピックを目指すのではなくて、しっかり1回1回の選考に残って、きちんとチームに貢献できる選手でいられるように、そして最終的にはパリパラリンピックで中心選手になれるように、頑張りたいと思います。

 

 

パラスポーツ全体の盛り上げのために

東京2020大会があったことで、元々知名度が高かった車いすバスケなどのいくつかの競技は、より知られたり、注目をされるようになりました。ただ、その他のパラスポーツもすごく魅力がある中で、これからパラスポーツ全体を盛り上げるために、他の競技ももっと広まっていってほしいという気持ちがあります。

 

車いすバスケの選手としてできることは、まず自分たちの競技が先頭に立ってどんどん認知され、パラスポーツ全体の牽引役としての役割を果たしていくこと。そうすることで、他のパラスポーツの認知を広めたり、ファンを増やしていけるようにしたい。そのために、選手たち一人ひとりもSNSなどを積極的に活用するなど、行動できることがあるのかなと思います。

 

 

■アスリートの育成・強化に必要なこと

 

競技のレベルアップには、まず次世代の育成が必要

今回、メダルをとった車いすバスケ日本代表チームは、半分がU23世代でした。東京2020大会の招致が決まった頃から、ジュニア世代も一貫したトレーニングができるようになったという変化が大きかったと思います。

 

環境が整っていないと、車いすスポーツは場所を転々として練習することになってしまうので、計画的なトレーニングスケジュールが組みづらい。僕の場合は大学で毎朝3時間、昼にジムで1時間、夜はクラブチームでトレーニングというサイクルを繰り返せる場所ができたのがよかったですね。

 

東京2020大会までのここ3〜4年間で感じたのは、パラスポーツを取り巻く環境がすごく良くなったので、この環境を失いたくないということパラスポーツ専用体育館である日本財団パラアリーナが解体されるという話が、今回延期になったのも、僕たちにとっては嬉しいことです。まずは、いまある環境を絶対に崩さず向上させていきたいというのが心境です。

 

 

パラスポーツを「スポーツ」として見てもらう意識づくり

パラスポーツや障がい者を取り巻く環境を整えるには、まず、パラスポーツを1つのスポーツとして見てもらえるようになっていくことが大きいと思っています。

 

たとえば最近だと、CMでパラアスリートが出たりすると、それだけでも「アスリート」として認知される。そうした機会がどんどん増えていくといいのかなと。僕たち選手がやるべきことは、競技を頑張ることはもちろん、SNSを活用して自分たちのスポーツを普及・発展させるということ。あとは積極的にメディアにでるということも大事だと思います。今回の記事を読んだ方からも、たとえば、天皇杯とかの大会に、サッカーのJリーグを見に行く感覚で「今週も見に行こうよ」というような会話が出てきたら嬉しいですね。

 

また、企業側からの支援を受ける際には、僕たちだけが車いすバスケを広めたいということではなくて、僕たちの普及テーマと企業側が行っている活動がマッチングしていく、お互いの理念をすり合わせながら、日本全体が盛り上がるようにしていくことが重要だと思っています。

 

僕が所属しているWOWOWでは、エンターテインメントと車いすバスケや車いす選手をマッチングさせたりしていました。会社からは、僕たちはエンターテイナーだから、競技をただ頑張るだけではなく、人々を楽しませるプレーや感動を与えるプレーで、人の心を動かすような活動をしていこうと言われている。東京2020大会で、多くの選手はそれができていたのではないかと思います。

 

 

■これからの目標

 

幅広い世代の人にファンになってほしい

僕は、10代の子どもたちから、若い世代の男女、僕の両親や祖父母の世代まで、「アスリート」としてファンになってほしい。そのためにはシンプルに「すごい!」と思わせることが大事と思っていて。本当に、ワンプレー、ワンプレーで幅広い世代の方々が好きになってくれればいいなと思いますし、そうなっていくことを目標にしています。

 

 

また、プレーだけでなく普及活動をすることまで含めて、選手としてちゃんと活動していきたいです。僕自身、車いすユーザーになった時に、車いすテニスの国枝慎吾選手を見てそのかっこよさに憧れて、パラリンピックでメダルをとるという夢ができた。その夢が具体的な目標となり、僕自身の成長につながりました。自分の経験から、目標ができると行動が変わるので、行動することで成長できるということを伝えていきたいと思っています。

 

具体的には、車いすバスケの体験教室、育成教室をつくって、10代前半の子どもたちに毎週教えられるような活動をしたいなと。

 

車いすバスケは13歳から大人のクラブチームに入れるのですが、日本にはそれより前にやってみる機会がないんです。小さいうちに基礎を教えておくと、将来、体が大きくなるとどんどんできることが増えていく。日常生活でも、友だちと遊べる範囲が広がっていくことを教えたいですね。

 

車いすバスケやパラスポーツを普及・発展させることは、選手を引退した後も生涯やっていきたい。そして、性別も関係なく、障がいのある方もない方も、みんなが過ごしやすい社会をつくることに参加していきたいと思っています。

 

――――――

今回のインタビューでは、車いすバスケットボールの魅力と課題を多方面から紹介してくれた古澤選手。客観的でバランスの取れた視点が、古澤選手の進化を支えているのではないかとお話を伺いながら感じました。

古澤選手の魅せるプレーや普及活動での活躍に、今後も大注目です!

 

 

《参考情報》

・古澤拓也選手 公式SNS

Twitter:https://twitter.com/takuyafurusawa7

Instagram:https://www.instagram.com/takuyafurusawa7/

・大会情報

天皇杯 第28回日本車いすバスケットボール選手権大会
大会期間:2022年1月21日~2022年1月23日
会場:武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:鈴木陽子

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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